<ナノドライブ>

2006・6・17

 「ナノドライブ」は、第6回スクウェア・エニックスマンガ大賞で特別大賞を受賞した松本トモキによる短期集中連載です。ヤングガンガンで2006年のNo.11〜No.13の3号に渡って掲載されました。


・松本トモキ応援企画(笑)。
 しかし、この松本トモキさん、マンガ大賞で「特別大賞」という高い賞を受賞したにもかかわらず、その受賞作「犯機 the Anbivalent」は、どこの雑誌にも掲載されなかったのです。通例、これほど高いランクの賞を受賞した作品は、スクエニ系のいずれかの雑誌に掲載されるのが常なのですが、このマンガはなぜかどこにも掲載されませんでした。この作品よりもランクの低い準大賞、あるいは入選の受賞作もほとんどが掲載されているにもかかわらず、最も高い賞を受賞した作品の方が掲載されなかった。これは、かなり不可解な決定であり、作者にとっては非常に不満の残る扱いだったのではないでしょうか。

 実は、この「第6回スクウェア・エニックスマンガ大賞、他にも色々と疑問点が多く、雑誌に掲載された特別大賞受賞作(この「犯機 the Anbivalent」の他にもうひとつ特別大賞を受賞した作品があり、そちらの方は雑誌に掲載されました)よりも、準大賞、それよりも入選受賞作の方が明らかに面白いと思える出来であったり、かと思えば入選にあの堀田和哉が入り、到底入選レベルとは思えない稚拙な作品を見せられるなど、とにかく不可解な点が多すぎたのです。最近のスクウェア・エニックスマンガ大賞は、毎回毎回選考の基準が非常に疑問だったのですが、この第6回は最たるものだったと思います。


 そして、この「犯機 the Anbivalent」の未掲載もまた、それら不可解な疑問点のひとつでありました。この受賞作、絵を見た限りの印象では、他の受賞作とは明らかに毛色が異なり、今のガンガンの方向性とは合いそうもなかったので、その点で意図的に掲載されなかったのではないかと邪推していまうほどでした。もしそれが事実ならば、そのまま受賞者の松本さんが抹消されてしまうのではないかと大いに心配したのですが(笑)、幸いにもヤングガンガンで短期集中連載という形で新作が掲載され、ついに彼の作品が日の目を見ることになりました。それがこの「ナノドライブ」です。
 そして、わたしは、この「ナノドライブ」掲載をよい機会として、かつて不遇な扱いをされた松本さんを大いに応援したいと考え、この記事を立ち上げました。この作品は、正直なところ新人らしく荒さが残るもので、完璧ではなかったのですが、それでも随所に作者独特の個性が感じられ、中々に印象深いものになっています。


・諦観したキャラクター心理。
 さて、このマンガは「SFサイコアクション」らしいのですが、SFとは言え、未来や宇宙が舞台のマンガではなく、現代の日本を舞台にしながら、そこにちょっとしたオーバーテクノロジーの要素が入り、キャラクターがそんな特殊能力を駆使してアクションバトルを行うという、まあ設定自体は全然珍しくなさそうなマンガです(笑)。
 主人公は、とある「組織」に裏切り者の掃除屋(殺し屋)として使われている女子高生の三木麗子。彼女は、かつて両親とともに事故に遭い、死にかけたところを組織に命を延命させられ、延命措置を盾に取られて組織のために汚れ仕事を請け負うことになります。彼女は人殺しとして生きる自分の運命に諦念を感じつつ、日々をなんとなく生きているのですが、ある日、組織で同じような境遇にある同級生・菅田恭弥と出会い、ふたりでともに仕事をすることになります。

 主人公の麗子とその相棒である恭弥は、ともに「ドライバー」という特殊能力者という設定で、強固な身体能力と手を変形させて武器として闘う能力を持ち合わせています。このあたりの設定には、既存のいくつものマンガに似たような設定が見られるもので、今ひとつどこかで見たようなマンガになってしまっているのが残念なところです。アクションの設定に関しては、さほど特筆すべきものはないかもしれません。
 ただ、「組織に延命措置を盾に取られて、無理矢理闘いを強制される(汚れ役の殺し屋をさせられる)」というのは、どういうわけか最近の一部のマンガ(それもスクエニ系のマンガ)で頻繁に見られる設定で、これは注目に値します。まず、このマンガの「組織に医療的な延命措置を握られており、殺しを強制される」という設定は、ゼロサムに連載の「DAWN〜冷たい手」(上田信舟)そのままであり、若干の誤差こそあれ、Gファンタジーの「ZOMBIE-LOAN」(PEACH-PIT)、ガンガンの「屍姫」(赤人義一)などともほぼ同一の設定だと見てよいでしょう。なぜ今、このようなマンガがスクエニで頻繁に見られるようになったのか、非常に謎でもあるのですが、これは最近の流行りなのでしょうか?

 この手のマンガでは、どれも「主人公になんら落ち度がないのに、無理矢理非道な行為を強制される」という点で、極めて理不尽であり、非人道的とさえ言える扱いですが、このような状況に陥った主人公の行動には、作品によってかなりの違いがあります。
 「ZOMBIE-LOAN」や「屍姫」の場合、主人公は積極的な意志でその状況から脱出しようと奮闘します。「DAWN」の場合、やや消極的で戸惑いも見られますが、それでもなんとかその状況を抜けようとあがいています。
 ところが、この「ナノドライブ」の場合、主人公の三木麗子は、自分の状況がもうどうにも抜けられないものだと半ばあきらめており、完全に諦観して日々を過ごしているのです。 このどこか倦怠感に満ちた雰囲気には、かなり惹かれるものがあり、従来の同系のマンガとは違う面白さを感じられました。この「なんとなく」日々を生きて、まるで当たり前の日常の行為のように仕事(殺し)を重ねていく。まだ若い女子高生にして、この諦念に満ちた生き方は実に印象深いものでした。この独特の心理を突き詰めて連載を重ねていけば、大いに重厚な作品になったかもしれませんが、実際にはたった3話での短期連載で、そこまでの掘り下げが見られないうちに終了してしまったのが残念なところです。


・アクションシーンでは構図の取り方が魅力。
 そして、このマンガの最大の売りである「特殊能力を駆使したバトルアクション」ですが、こちらでも新人らしくまだまだ未熟な点は残るものの、それでも随所にこの作者らしさが感じられるものとなっています。
 最も印象的なのは、独特の構図ですね。戦闘シーンでのアングルや瞬間の構図の取り方に工夫が感じられ、はっとするような場面が多いのが特長です。そして、それら独特の構図が連続するコマ割りにも工夫が見られ、このあたりに作者のこだわりが感じられますね。最も見栄えのするシーンかもしれません。

 ただ、それでもまだ欠点も多く、個々の絵の構図はいいものの、アクションの「動き」があまり感じられないのは不満です。アクションの連続性に欠けているというか、コマごとに延々と静止画を見せられているような感覚があり、いまひとつ爽快感に欠ける嫌いがあります。このあたり、まだまだ改善の余地が多いと言えるでしょう。
 一部に非常にわかりにくいシーン、あるいは描画レベル自体が低いシーンがあるのも気がかりです。うまいシーンは非常にうまいのですが、それが全体に安定しておらず、場面場面で作画レベルにかなりのばらつきがある。これも改善すべきポイントでしょう。


・やはり萌えは最大のポイントか。
 このように、登場人物の心理やアクションシーンなどでも見るべきところのある本作ですが、やはりこの作者の最大のポイントは、やはり萌えでしょう。そもそも、この作者のマンガ賞受賞作である「犯機 the Anbivalent」の受賞決定時のイラストを見た時に、「なんて萌える絵を書くんだ」と本気で感動した記憶があり、それがどの雑誌にも掲載されないことに本気で憤ったものです(笑)。なんであのマンガだけが掲載されなかったのか・・・それはあまりにも理不尽な決定でした。
 しかし、この本作において、ようやく作者のマンガを読むことができ、やはりあのイラストの萌えレベルは偶然ではなかったのだと改めて確認しました。この人の書く女の子はやたら眼が萌えるんですが、本作では主人公の麗子が素晴らしい。すべてにおいて冷めた感覚で、淡々とバトルをこなしていくその姿は、ヤングガンガンの他のバトルアクション系美少女と比べてもひけをとりません。

 そして、おそらくは作者のデフォルトでのこだわりだと思われるのですが、服装に対する妙なこだわりがたまりません。特に、第2話以降で見られる、黒ずくめの服装で黒オーバーニーとは何事ですか? バトルシーンとかで絶対領域を強調するコマがやたら多いんですけど、この絶妙な微エロへのこだわりは、今後磨けばさらに光るのではないでしょうか?

 しかし、この「ナノドライブ」といい、なんだってヤングガンガンはここまで美少女バトルにこだわるのでしょうか? すもも・黒神・セキレイ・ドラゴンズヘブン、そしてBAMBOO BLADEも(スポーツものですが)ニュアンスはそれに近いものがあります。しかも、これらのうち多くが雑誌内で人気を得ているところを見ると、この「ナノドライブ」もきっちりと完成させて連載化すれば面白いかもしれません。なんにせよ、今のヤングガンガンには、本家のガンガンがあまり載せないような萌えをやたら投入したがる傾向がありますね。


・実はそんなに大したマンガでもないんですが(笑)。
 以上のように、部分部分で中々に見せるところの多い作品でしたが、全体的にはまだまだ新人らしくこなれていないところも多く、今のところそこまですごい作品でもありません。特に、ストーリーに関しては、3回で終わる短期連載だったこともあってか、ラストの終わり方がとってつけたように味気ないもので、かなり物足りなさが残りました。元々、主人公の諦観した心理を丹念に描くことが最大の魅力とも言えるマンガなので、たった3回で終わるのでは不十分でしょう。もっと長い連載で、じっくりと主人公の心理の足跡を辿る必要があるマンガでした。

 しかし、随所に光るところもある作品であったことも間違いなく、やはり今後に期待できる作家であると思います。特に、この美少女バトルに特化した今作の内容は、今のヤングガンガンの新たなる戦力となりうる可能性もあります。今のヤングガンガンは、創刊当時に比べれば内容は大幅に充実してきたとはいえ、まだまだ無駄に思える連載も多く、過渡期の印象もあります。ここは、下手に外部から作家を呼び込むよりも、この松本トモキさんのような有望な新人に、雑誌のカラーに合った連載をさせる方が有意義ではないでしょうか?
 いずれにせよ、彼(彼女?)は、貴重な特別大賞受賞作者であるわけですし、今回の短期連載に終わらず、今後も読み切りなり連載なりをコンスタントにやらせて、じっくりと育てていただきたいものです。


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