<ネクロマンシア>

2007・11・10
一部改訂・画像追加2009・1・25

 「ネクロマンシア」は、ガンガンWINGで2007年3月号より始まった連載で、2006年を通して行われた「1年間連続新連載」の後、さらに追加する形で始まった新連載です。そして、この当時の新連載の中ではかろうじて雑誌に定着を果たし、約2年の連載期間を経て2009年3月号で終了を迎えました。作者は、イラストレーターとしての活動が知られ、過去のガンガンWINGでも何度か読み切りを残してきたはましん
 さて、この2006年の「1年間連続新連載」ですが、大々的な企画だったにもかかわらず、あまり大きな成果を挙げることが出来ず、一応3作品程度の成功作は出たものの、次々に最終回を迎える長期連載の穴を埋めるには足りませんでした。そこで、ガンガンWINGでは、2007年に入ってもいくつかの新連載を立ち上げることになります。そのひとつがこの「ネクロマンシア」で、過去1、2年の間に読み切りを重ねてきた新人作家を、ここで起用する形となりました。

 作者のはましんさんは、元はイラストレーターとしての活動が中心だったようですが、2005年7月号のガンガンWINGで「サナとルイン」という読み切りを残し、これが中々の良作で、これをきっかけにWINGで定期的に読み切りを載せるようになります。具体的には、2006年5月号に「NIGHT★KNIGHT」、同11月号に「ネクロマンシア」を掲載しますが、このふたつの読み切りは、この連載版「ネクロマンシア」と同一の設定の下に描かれた作品であり、のちの連載に繋がる作品となっています。特に、後者の「ネクロマンシア」が、連載版と同じタイトル・設定・キャラクターによる物語で、これが連載化の決定した作品だと思われます。

 内容的には、最近では珍しいタイプの正統派ファンタジーで、主人公の姫君と従者が、死者の能力を駆使して暴れる悪人たちを懲らしめる旅を続けるという、スタンダードな異世界ものファンタジー作品です。元がイラストレーターだけあって、設定やビジュアル面では独創的な要素がよく出ており、いかにもファンタジー的な世界観で、見た目の印象は悪くありません。しかし、肝心のストーリーがいまひとつ平凡の域を出ず、展開的にも今一歩盛り上がりに欠けるところがあり、突出した作品にはならなかったようです。それでも中盤以降はクオリティがかなり底上げされ、決して悪い作品にはならなかったようですが、しかし今ひとつ物足りない作品に留まってしまったことも確かであり、残念ながら最後までブレイクしきれずに終わってしまったようです。


・最近のWING、スクエニでは珍しい王道バトル系ファンタジー。
 作者のはましんさんは、イラストレーター時代から萌え系の絵が特徴で、この「ネクロマンシア」でも、女の子のキャラクターの方が前面に出ており、その中性的な作画を見ると、他のWING作品と比較的近い印象を受けます。しかし、その内容は、これ以前のWINGでは比較的珍しい、一昔前の異世界ファンタジーを思わせるものでした。そしてこれ以降、雑誌の中ではこのような王道、バトル系とも言えるファンタジー作品を積極的に投入することになり、雑誌のカラーが次第に変化していきます。この「ネクロマンシア」はその先駆けとも言える作品となり、かつその中でも比較的うまくいった作品となったようです。

 かつての「エニックスお家騒動」でほとんどの主要作家が抜け、大きな被害を受けたWINGは、数少ない人気作品である「まほらば」や「わたしの狼さん。(dear)」「天正やおよろず」などを中核に、なんとか雑誌を運営していくことになります。そして、これらの作品の多くが、日常のほのぼのとした出来事を中心にした「癒し系ゆる萌え作品」だったことが大きく、以後のWINGは、そのような作風が中心の雑誌となります。もちろん、異世界のファンタジーを舞台にした作品もあるのですが、それらのほとんどは日常描写中心の癒し系萌え作品であり、かつてのファンタジーでは定番だった「剣と魔法のバトルファンタジー」といった呈の作品は、ほとんど見られなくなります。

 しかし、この「ネクロマンシア」は、まさにその「剣と魔法のバトルファンタジー」を地で行くようなところがあり、WINGではかなり珍しいタイプの作品になりました。かつて、80年代や90年代前半以前のゲームやライトノベルでは主流だったような、旧世代の作品であるとも言えます。はましんさんは、連載に先行する読み切り作品や、ウェブサイトに掲載された作品でも、このようなファンタジー作品が多く、こういったタイプの王道ファンタジーに対する愛着が感じられます。

 それらの作品の中には、かつての定番と言える王道ジャンルでありながらも、その上でさらに個性的な設定・世界観とビジュアルが見られるものが多く、自分独自の世界観に対する非常に強いこだわりも感じられます。この「ネクロマンシア」と読み切り版「ネクロマンシア(NecromanciA)」もその代表で、一つ前の読み切り「NIGHT★KNIGHT」も、ほぼ同じネクロマンサー(死霊使い)をモチーフにした同一の世界観での作品であることから、この設定にもかなりの思い入れがあるのでしょう。


・独特のビジュアル、世界観は確かに魅力。
 さて、以上のように、大枠ではオーソドックスなバトルファンタジーである本作ですが、見た目的には、オーソドックスなファンタジーの光景も見られる一方で、極めて個性的とも言える独特のビジュアルデザインも目立ちます。これは、読み切り時代から一貫して見られた作者最大の持ち味で、今回もそれは健在でした。

 典型的なのが、連載第2話で見られた「魔電力の国・オール」の光景でしょうか。電力で支配された街という設定で、街の至るところに信号やネオンが輝いているという光景には、いかにもこのような世界観に対する作者のこだわりが顕著に見られます。国や街やごとにまったく異なる光景が繰り広げられるという作品は、過去にもいくつか人気作で見ることが出来ますが、この作品もそのようなファンタジー作品のひとつに当たるかもしれません。剣と魔法のバトルファンタジーとはいえ、オーソドックスに中世風の城や街ばかりでなく、まったく異なる光景が世界のあちこちで見られるという設定は、最近の同系ファンタジーでは定番となった感があります。理由としては、かつてほど中世風ファンタジーに傾倒する人が少なくなったことと、さらには、この手の世界観を持つ人気作、とりわけ「キノの旅」や「王ドロボウJING」などの作品の影響がも見られるのではないかと思われます。

 加えて、この作品では、個々のキャラクターのビジュアルや、剣や鎧や各種アイテムの個性的な外見、あるいは戦闘アクションでのエフェクトまで、それぞれに独創的なデザインがなされており、作品の細かい部分にまで、作者のこだわりの設定が色濃く出た作品となっています。これは、作者の他の作品においても顕著です。ただ、今回の作品では、過去作に比べてやや作画レベルが見劣りするような気がするため(後述)、やや見づらい画面の中で、今ひとつ独特のデザインの印象が薄く感じられるのが残念なところです。


・ストーリーが今ひとつの状態に留まっているのが難点。
 ただ、このようなこだわりのビジュアルや設定はかなりの魅力なのですが、肝心のストーリーに関しては、まだ今ひとつではないかと言わざるを得ません。
 このマンガの大まかなストーリーは、「ネクロマンサー(死霊使い)の国の姫とその従者が、国から奪われた魔の宝珠である『ネクロマンシア』を取り戻すために旅をする」というもの。奪われたネクロマンシアには、死者を使役する力があり、その力を使って悪事を働く悪人たちを、自らもネクロマンシアの力を駆使して倒していくことになります。登場する悪人たちは、ほとんどが分かりやすい「悪い奴」として描かれているのが特徴で、そんな見るからに悪い悪人たちを正義の戦士が退治するという、シンプルで王道的な「勧善懲悪」の要素が強く出ています。

 このような王道展開そのものが決して悪いというわけではなく、これはこれで王道ファンタジーとしての魅力はあります。しかし、この作品の場合、ストーリー展開がごく素直で捻りがなさすぎ、今ひとつ面白みに欠ける感は否めません。特に、連載の序盤でそれが顕著で、読み始めの頃の盛り上がりに欠けていた感が否めず、作品に対する最初の印象が芳しくありません。ある程度連載が進んだところで、少しずつ面白い展開も見られるようになりますが、そこまでが少々退屈です。このような王道的ファンタジーが好きな人ならば、これでも十分楽しめるでしょうが、そういった好みを持たない読者まで、強く惹きつける魅力には欠けてしまったようです。

 加えて、今回の連載は、過去作に比べて作画レベルが微妙に劣るように思えるのも、少々気になるところです。前述のように、独特の世界観やビジュアルのセンスは魅力なのですが、今回はいまいち作画が雑でおおざっぱに感じられるところが多いのです。作者の最初の読み切りである「サナとルイン」は、もっと綺麗で読みやすい画面を実現していて、ひどく好評価だったのですが、この「ネクロマンシア」シリーズの作画は、それに比べると若干劣っているように思えます。特に連載化以後は、読み切り時代よりもさらに(ほんの少し)劣っているようにも感じられました。肝心の戦闘シーンを中心に、全体的に緻密さが今ひとつで、描き込みが一見して見づらく感じられるのが最大の難点です。


・作者の過去の読み切りの方が良かったのではないか。
 さらには、このはましんさんの作品では、この「ネクロマンシア」よりも、過去の読み切りである「サナとルイン」や「NIGHT★KNIGHT」の方が面白かったように思えるのです。
 最初の読み切りである「サナとルイン」は、同じ正統派ファンタジーな作品ではありますが、ストーリーや設定が十分面白いもので、非常に読める作品でした。王道バトルの要素もありましたが、決してそれだけではなく、主人公の少女である「サナ」と相棒のユニコーンである「ルイン」による探索の旅が中心の物語となっており、、テーマ的にも読み応えのある話でした。
 次の読み切り「NIGHT★KNIGHT」も、これは基本となる世界観・設定は「ネクロマンシア」と同じ話なのですが、こちらの方がストーリーや作画レベルが上だったように思えました。やはり、こちらの方がストーリーに捻りがあって面白かったのです。

 わたしとしては、こちらの優れた2作の読み切りのいずれかを、連載化して欲しかったのですが、実際に連載化されたのは、三番目の読み切りである「ネクロマンシア」でした。これはこれで決して悪い読み切りではなかったと思いますが、前2作に比べるとストーリーが王道的すぎて今ひとつ魅力に欠け、作画的にも今ひとつだったように思えました。
 なぜこの「ネクロマンシア」が連載化されることになったのか。その決定は、個人的に大いに疑問でした。もちろん、編集部には編集部なりの考えがあって決定したのでしょうし、もしかすると読者アンケートの結果が良かったのかもしれません。しかし、連載開始後の今ひとつの内容を目にした後では、やはりその連載化の決定は、どうしても疑問に思ってしまうのです。


・この時期のガンガンWINGの連載では、まだそこそこの成功を収めたが、やはりそれ以上の作品にはなれなかった。
 以上のように、この「ネクロマンシア」、このはましんさんの作品の中では今ひとつのところがあり、雑誌内での位置づけも微妙なままで終始してしまいました。1年間連続新連載の後を受け、さらに始まった連載の中では、まだかなり読める作品であり、昨今の決して戦力が揃っているとは言えないWINGの誌面の中では、貴重な連載作品のひとつであることは間違いありませんでした。しかし、他の人気作品、特に1年間連続新連載での成功作である「ちょこっとヒメ」「東京★イノセント」「夏のあらし!」などと比べると、同じ新連載でもやはり見劣りがしてしまいます。新連載として連載ラインナップの増加に貢献している点では、貴重な作品のひとつではあったのですが、雑誌を支えるほどの人気作品にはなりきれずに終わってしまったようです。

 ただ、それでも本質的には決して悪い作品ではなく、独特のファンタジー設定やビジュアル、あえて王道的ファンタジーへのこだわる姿勢からは、作者の実力の片鱗を感じることは出来ました。それまでのWINGの特徴だった「ゆる萌え」系の作品とは異なる、旧世代のファンタジー作品とはいえ、絵柄やキャラクターなどはWING的で中性的な作風でもあり、雑誌の方向性に合っているところも大きかったようです。少々キャラクター描写でやや男性的な描き方が見られるところは気になりますが、そのあたりも雑誌の雰囲気に合わせてかうまく抑えられており、バランスの取れた作風を確立していました。

 連載がある程度進んだ後は、ようやくストーリーに動きが出て、主人公たち以外の新キャラクターも登場し、展開に幅が出て楽しめるようになったのも好材料でした。結果として2年という比較的長い期間連載を定着させることが出来たようで、一定の成功を収めた作品として評価することが出来るでしょう。2007年に入ってからのWINGは、この後にも「イグナイト」や「磨道」など、いずれも正統派に近いファンタジー作品が新連載として登場しましたが、その中では、この「ネクロマンシア」が最も成功を収めたような気がします。

 しかし、それでもあくまで比較的よくやったというレベルであり、雑誌を引っ張っていくような連載には最後までなれなかったのも事実でした。結局のところ、最後まで王道的なストーリーにとどまってしまい、今の読者を満足させるには物足りなかったと思います。この手の正統派ファンタジーが盛んだった10年、20年前ならば、もっと支持されたのでしょうか・・・? しかし、今のWINGにおいて、このような作品でこれ以上の人気と支持を得るのは難しかったようです。これは、「ネクロマンシア」以降に続く同系の正統派ファンタジー作品にも同じことが言えており、今のところ思ったほど芳しい成果を挙げていないようです。WINGのこの王道バトル系ファンタジー路線が、本当にうまくいくのかどうかはかなり疑問であり、今のWINGの不振の原因のひとつとなっているようにも思えます。

 そして連載を終えたはましんさんですが、個人的には、いまだ出来の良かった過去の読み切りをなんとか連載化してほしいところです。特に「サナとルイン」歯、絵的にも内容的にもこの「ネクロマンシア」より格段に優れていたと思いますし、こういった作品を見る限りでは、まだまだ高い実力を有しているとも思えるのです。今後、このようなさらに優れた作品で再登場することを期待したいと思います。。


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