<ナイトメア☆チルドレン>

全面的に改訂2005・6・12
一部改訂・画像追加2006・9・23

 藤野もやむのエニックスにおける代表作にして、エニックスコミックの歴史の中でも珠玉の作品のひとつです。

 「まいんどりーむ」において鮮烈なデビューを果たした藤野もやむさんですが、その連載終了後まもなくして、同じガンガンWING誌上で、今度は本格連載に着手します。これがその「ナイトメア☆チルドレン」です。連載開始は1999年5月号。当時のガンガンWINGは隔月刊で、連載ペースはやや遅いものでしたが、のちに月刊化され、この連載も通常の速さにペースアップします。ペースアップしても作品のクオリティは変わりませんでした。

 連載開始当時、デビュー作の短期連載(「まいんどりーむ」)を終えたばかりで、まだまだ新人とも言えた藤野さんですが、この作品の出来は素晴らしいもので、瞬く間にWINGの中でも最も優秀な人気作品となりました。当時のWINGは、エニックスでも実力派の作家の連載が集まり、誌面は非常に充実していましたが、その中でもこれは屈指の作品であったことは間違いありません。そして、エニックスマンガの全歴史の中で見ても、その全盛期を象徴する珠玉の作品となります。


・完全に完成された魅力的な絵柄。
 デビュー作だった「まいんどりーむ」の時代には、まだ絵に拙い部分が多く、しかも先行する人気作家(夜麻みゆきさん)の影響が顕著に窺える点もありました。しかし、この「ナイトメア☆チルドレン」になって、ついに藤野さんは自身の絵柄を確立し、バランスの取れた実に魅力的な絵を見せてくれるようになりました。

 彼女の絵は、実にかわいらしく優しい絵であると同時に、人物の暗い心情を表すかのような絶妙な不安定さ、はかなさをも合わせ持っており、この絵がそのまま作品のイメージと結びついています。背景や効果も雰囲気があり、特にカラーイラストは絶品で、ほんわかとした優しさとやるせないはかなさに満ちています。


・極めて内面的で暗いストーリー。
 前作「まいんどりーむ」も、人間の弱い心を丹念に描いた、極めて内面的な話でしたが、この「ナイトメア☆チルドレン」では、その方向性がさらに進んでいき、非常に重く厳しいストーリーになっています。かわいらしい絵柄から受けるイメージとはかなりのギャップがあり、人間の弱い面、醜い面を徹底的に描き出したそのストーリーは、あまりにもつらく厳しい描写であったために、読者の間でもひどく好みが分かれました。「まいんどりーむ」も、人間のネガティブな心理を描いたという点では同じですが、短編の読みきりで気軽に読め、毎回ほぼハッピーエンドで救われる終わり方であった点が大きく、決して明るい話とは言えないものの、比較的抵抗は少なく読めるものでした。

 しかし、「ナイトメア☆チルドレン」は、長期の本格連載でシビアな展開が多く、人間の醜い行動がむき出しで描写されており、さらに暗い内容になっています。人間の暗い心理描写が多く含まれるその内容は、決して派手さはないものの、重厚で内面的な人間ドラマとして非常に読み応えのある作品に仕上がっています。特に、一応のハッピーエンドでありながら(?)悲劇的とも言えるラストシーンは、多くの読者に激しい衝撃を与え、この作品を珠玉の一品に押し上げる素晴らしいものとなっています。

 そして、このような人間の暗い側面を描いたマンガを、まだ10代半ば(連載開始当時16歳)の新人作家が描いたという点が実に衝撃的でした。このような若い年代において、すでにこのような内面的で本格的な物語に着手する作家がいたという点が非常に大きい。当時のエニックスの新人の中でもその実力は際立った存在であり、また、このようなマンガを載せることの出来た当時のエニックス雑誌の度量の深さをも感じることが出来ました。


・「夢」を絡めた幻想的な世界、イメージ。
 そして、このマンガは、近世的なヨーロッパの街並みと、夢の世界を絡めた幻想的な世界観が魅力的です。ちょうど「世界名作劇場」に見られるような雰囲気に満ちた街並みと、そこからはちょっと離れた自然の光景、そしてそこに夢と現実の狭間が曖昧な幻想的な世界が入り込んでくる。物語自体は非常に暗いものでありながら、その世界からは実に居心地のいい、優しさと幻想感に溢れた雰囲気が感じられます。そのため、これだけ重いストーリーでありながらも、必ずしも暗さばかりが強調されたイメージではなく、藤野さんの優しくはかなげな絵柄も手伝って、幻想的で魅惑的なイメージの作品に昇華されています。


ロンカカ(笑) ・キャラクターの魅力が大きすぎる。
 さらに、このマンガは、なんといってもキャラ萌えが素晴らしい(笑)。特に、主人公のカカオ(クレームドゥ=カカオ)は、このマンガの萌えを一手に引きつける素晴らしい萌えキャラで、藤野もやむ作品では「まいんどりーむ」のミリートと並ぶ2大最萌えキャラクターであることは間違いありません。8歳という幼い外見と、チーズブレッドケーキをかいがいしく作るその姿に萌えまくりです。このカカオさん、物語の最初で長い髪をばっさり切っちゃうんですが、その最初だけ登場したレアなロングヘアの姿に一部のコアなファンが付き(おいおい)、ロンカカ(ロングヘアカカオ)と呼ばれてコアな萌えの対象となりました(笑)。

 男性キャラクターでは、カカオの依頼を受けて助けるナイトメアハンターのベルスタシオ=イブル(ベイル)、そして最大の敵役である「ナイトメア」の男の子に女性読者の人気が集まりました。藤野さんの絵は、男女を問わず萌えることの出来る中性的な絵柄で、これは当時のエニックスマンガのイメージを代表するものであり、エニックス読者の間で大変な人気を博しました。


・エニックスの最盛期を象徴する素晴らしい一作。
 このように、「ナイトメア☆チルドレン」は、藤野もやむさん初の本格連載にして、10代半ばにしてその実力を余すことなく発揮した最大の傑作と言えます。そして、このような非常に若い作家が、ここまでの優れた作品を描いたと言う点で非常に大きな意味がありました。

 当時のエニックスは、この藤野さんのような独創性の高い作家が集まっており、新人作家の活躍も盛んで、まさに最盛期の感がありました。そしてまた「ナイトメア☆チルドレン」掲載誌のガンガンWINGも、この当時は非常に充実していました。「ナイトメア☆チルドレン」は、99年の5月に連載が始まり、2001年11月号で完結を迎えますが、この直後にエニックスの一部編集者と作家の大量離脱事件が起き(いわゆる「エニックスお家騒動」)、特にWINGは主要な作品の多くが連載を中断し、その作家達がみなエニックスを離脱してしまいます。藤野さんもこの時にエニックスを離れてしまいますが、幸いなことに、直前で「ナイトメア☆チルドレン」だけは完結するという幸運に見舞われました。連載を中断した他の作品の多くが、移転先で連載を再開して以降も本来の調子を取り戻せていないことを考えると、この作品が騒動の直前で完結できたことは本当に幸運だったのです。

 その点において、このマンガは、まさに藤野さんの「置き土産」のような存在であり、エニックス最盛期の象徴とも言える作品です。もはや短くないエニックスコミックの歴史の中でも、珠玉の一品として、これからも長く語り継がれることでしょう。個人的には、この作品が、アニメ化の話がまるで聞かれずに終わってしまったのが残念です。エニックスには、このような「本当にアニメ化されるべき」だった名作がたくさんあるのですが・・・。


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