<王様の耳はオコノミミ>

2006・3・29
一部修正2008・1・21

 「王様の耳はオコノミミ」は、少年ガンガン連載の「料理マンガ」です。「オコノミミ」のタイトルからも推察できるように、お好み焼きを扱った料理マンガとして、少年ガンガン2005年5月号よりスタートしました。作者は新人の夏海ケイ


・不可解な連載経緯。
 しかし、このマンガは、連載開始にあたってかなり複雑で不可解な経緯を辿っています。
 前述のように、このマンガがスタートしたのは2005年5月号からなのですが、実は、その半年以上前に、3回に渡るシリーズ連載として、少年ガンガン2004年8月号〜10月号で連載されているのです。そして、このシリーズ連載の評判を読者アンケートで取り、その結果が良ければ連載という運びとなっていました。
 シリーズ連載の内容としては、可もなく不可もなくの典型的な料理マンガとなっていて、取り立てて特筆すべきことも無かったため、「これで連載に漕ぎ着けるのは難しいだろう」と思っていたのですが、これが意外にもあっさりと早期に連載が決まってしまうのです。そして、あっさりと連載が決まったにもかかわらず、すぐには連載が開始されず、本誌やガンガンパワードで読み切りを何回か重ねたのち、ようやく約半年後に本連載が開始されました。

 早期にあっさりと連載が決まったのに、その後約半年もの間本連載が始まらないあたり、ガンガン編集部の真意を測りかねるのですが、やはり本連載までに色々な連載準備の必要があったのでしょうか。しかし、同じようにアンケートで連載が決まった「悪魔事典」や「ながされて藍蘭島」、火村正紀のギャグマンガなどは、連載決定後すぐに始まっているのですが・・・。


・最初から連載が決まっていたのか?
 しかし、この「オコノミミ」の場合、実はアンケートの結果以前から、半ば連載が決まっていたような節があるのです。
 このマンガ、本連載が決まって以降の読み切り、あるいは本連載ではそれなりに面白い点も出てきたのですが、最初の3回のシリーズ連載ではさほど特筆すべき点が見られなかったのです。にもかかわらず、実にあっさりと連載が決まってしまいました。これを見る限り、最初からある程度連載を始める方向性で企画が進んでいたと思われるのです。おそらくは、アンケートの結果がよほど悪いものでもない限り、最初から連載することが決まっていたのではないでしょうか。

 その根拠として、まずは、「編集部のメジャー化路線を進めるために絶対に必要な存在だったため」という理由が考えられます。編集長の松崎氏自身、毎日新聞のインタビューで、「スポーツや料理など一般的なジャンルを増やそうと模索中です。」と答えていますし、実際に最近のガンガンでは、そのような一般向けメジャー化を意識した連載が非常に多くなっています。「オコノミミ」もその路線を推し進めるために必須の存在だったのではないかと思えます。
 それに加えて、「この連載が、最近の数少ない新連載のひとつであり、絶対に外せないものだった」という理由も考えられます。実は、ここ最近のガンガンでは、新連載の本数自体が非常に少なくなっており、「編集部が特に推し進める企画のみを、厳選して連載化しよう」という意図が顕著に感じられるのです。実際に、ここ2年(2004年・2005年)のガンガンには、たったの6本しか新連載がありません。しかもそのうち半分の3本はゲームマンガです。純粋なオリジナルの新連載に限って見れば、たったの3本しかないのです。そして、そのうちの1本が、この「王様の耳はオコノミミ」です。となると、この「オコノミミ」は、最初から編集部によって厳選された数少ない新連載のひとつであると考えられ、これを連載しないという決定自体、むしろ非常に考えにくいと言えます。最初から連載自体は半ば決まっており、その準備期間としてシリーズ連載と読み切りの掲載が行われた、と考えるのがむしろ自然ではないでしょうか。


・スタンダードな料理マンガではあるが・・・。
 さて、そのように編集部によって強く進められた感の強いこの作品ですが、肝心の内容はどうでしょうか。
 そもそもこの連載は、「スポーツや料理など一般的なジャンルを増やす」という編集部の目的のために企画された側面が強く、そのためか、メジャーな一般誌で連載されていたような王道的な料理マンガをそのまま踏襲した点が目立ちます。
 主人公とそのライバルたちの「お好み焼き」による料理対決がメインであり、そんな対決の全国大会が開かれ、そしてお好み焼きの調理に人智を超えた必殺技が炸裂し(笑)、そんなお好み焼きを食べた人々も人智を超えたありえないリアクションを見せる点など、いわゆる「少年マンガ的」な料理マンガのスタンダードを完全に押さえている内容になっています。はっきりいって、これだけならばあまりにも平凡で見慣れたマンガであり、最近になってこのような料理マンガが半ば飽きられて見られなくなっている中で、あえて特筆すべき点も無いように見えます。

 しかし、基本が平凡でありがちな内容とはいえ、個々の部分部分ではそれなりに斬新な部分も散見され、かならずしもすべてが平凡というわけではありません。
 まず、作品で扱う料理に「お好み焼き」を採用した点は、中々目の付け所が良いと言えるかもしれません。ここ10年ほどで、かつてはあまり知られていなかった広島風のお好み焼きが完全にメジャーなものとなり、もうひとつの本場である大阪のお好み焼きも幅広く人気を集め、東京ではお好み焼き近縁種である「もんじゃ焼き」もかなりの人気で、そのような地域の特色が出たお好み焼きを食べることも近年多くなりました。実際、ここ10年でお好み焼きが人気料理として完全に定着した感もあり、多くの人がお好み焼きを楽しんで食べていると思われる状況です。そんなお好み焼きならば、今になって料理マンガのネタとして採用するにふさわしいものと言えるかもしれません。

 主人公の住んでいる場所を「新潟」とした設定も面白い点です。お好み焼きの本場である広島でも大阪でもなく、日本の中心である東京でもなく、あえてお好み焼きとはあまり縁のなさそうな田舎である新潟にしたという点は興味深い選択です。ここで新潟という「米どころ」を持ってきた点はあなどれません。この設定のおかげで、お好み焼きに縁の薄い土地で生まれた主人公が、あえてお好み焼きにこだわり、しかも「米どころ」であるという利点を活かして新潟独自のオリジナリティ溢れるお好み焼きを創り出そう、という物語の方向性が生まれ、これが中々に新鮮で面白いものとなっています。実際に創り出されるお好み焼きも、米のうまさを活かした「お好み焼き丼」というような斬新なものが見られ、これはビジュアル的にも映えるポイントです。

 本連載開始前の読み切りにおいて、あえて対決ものにしない回があったのも良かったですね。主人公が東京に出てもんじゃ焼きを味わう、という話だったのですが、そこでのもんじゃ焼きの料理人と対決になると思いきや、お互いが相手の料理のいいところを認め合って交流し、さらに自分たちのスキルアップを目指す、という話になっており、これは実にすがすがしい読後感を得られました。ありがちな料理対決よりも、こういった方向で話を作った方が面白いのではないかとすら思ってしまいました。


・全体的には平凡な感は否めない。
 しかし、このように部分部分で新鮮に思える点もあるものの、実際にはまだまだ平凡な料理マンガに留まっている感は否定できません。
 そもそも、料理対決で全国大会、というだけであまりにも平凡でありがちな設定ですし、しかも各県代表のお好み焼きの料理人が全国大会で対決、という設定にもあまりにもリアリティのなさが感じられます(少年マンガだからいいと言えばそれまでですが)。
 そして、少年マンガ系の料理マンガにありがちな、調理シーンでのありえないような必殺技や、お好み焼きを食べた人によるオーバーすぎるうまさの表現なども頻繁に見られ、これは人によってかなり好みが別れるかも知れません。なにしろ、お好み焼きのうまさのあまり人が空を飛ぶようなマンガなので、このあたりの過度の表現にはバカバカしさを感じてしまう人も少なからずいると思われるため、むしろ逆効果なのではないかとも考えられます。

 内容だけでなく、絵的にも特に見栄えのするところがないのも平凡さに拍車をかけています。確かにお好み焼きの絵にはそれなりにおいしそうな描写も一部に見られるのですが、それ以外には取り立ててぱっとしたところがなく、見た目からして平凡なマンガにしか見えない点もマイナスです。
 そもそも、作者の夏海ケイさんは、そこまでビジュアル的に見栄えのする絵を描く人ではありません。むしろ、作者の投稿受賞作で、少年マンガであえて政治を扱った「I’m あ 総理」に代表されるように、斬新な設定やアイデア、ストーリーで勝負するタイプの作家だと思われるのです。そんな作家に、王道的でありがちな料理マンガを描かせても、絵的に見栄えがしないばかりか、内容的にも作者の斬新な創作精神が失われてしまっているような気がするのです。


・この内容では成功は難しい。もっとオリジナリティを高めるべきだった。
 はっきりいって、これだけ王道的で少年マンガ的な路線を踏襲するだけの料理マンガでは、さして成功することは難しいでしょう。一部に斬新な設定こそ見られるものの、全体的には極めて平凡な「料理マンガ」に終始している感があります。
 実際の人気、売り上げも最後まで芳しくありませんでした。コミックスの売り上げもまったく振るわず、わたしの見た限り、書店への入荷冊数もかなり低いレベル(数冊程度)でしかなかったように見えました。ガンガン編集部は、このマンガの連載初期に大々的に盛り上げようとして、コミックス1巻発売時にはお好み焼きをかたどったストラップまで作ってプレゼントする企画もしたのですが、すぐにその勢いは見る影も無い状態にまで落ち込んでしまいました。

 個人的には、王道的な料理マンガにこだわるだけでなく、同じ料理マンガでももっと別の方向性を打ち出しても良かったと思うのです。先ほどもちょっと言及しましたが、このマンガの本連載開始前の読み切りで、「あえて料理対決をせずに、お互いが相手の料理のいいところを認め合って交流する」という話が見られ、これが新鮮ですがすがしい読後感を得られました。あえてこのような方向性で、このマンガを描いても面白かったのではないでしょうか。「主人公が新潟発のお好み焼きを引っさげて全国を行脚し、行く先々でご当地の料理人と交流を行う」というような話ならば、各地の観光名所や風光明媚な場所のシーンも織り交ぜることが出来ますし、そのほうがオリジナリティもあってより注目されたのではないでしょうか。

 実は、このマンガのラスト、最終対決シーンだけは、久々にそのような描写が見られ、すがすがしいエンディングで終わることができました。対決する主人公とそのライバルたちが、それぞれが極めるお好み焼きの形を見せ、お互いにそれを認め合い、観客たちもみんな集まってお好み焼きを楽しむ、という素晴らしいシーンでした。最後の最後でそのようなシーンを見ることが出来たのだから、それをもっと作品全体で見てみたかったものです。

 このマンガが、ガンガン編集部による「スポーツや料理などの一般的なジャンル」を増やすための企画に終始してしまった点が実に残念です。


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