<突撃!パッパラ隊>

2008・11・20

 「突撃!パッパラ隊」は、少年ガンガンの創刊号である1991年4月号から開始された連載で、以後2000年8月号まで10年近い長期連載となった作品です。当初から非常に面白いギャグマンガとして、雑誌での人気、存在感は確かなものがあり、初期の頃から熱心な読者に長く愛される作品となりました。さらに、同じく創刊号からの人気ギャグマンガ「南国少年パプワくん」と合わせて、ガンガンに質の高いギャグマンガを根付かせる契機となりました。のちにガンガンは「ギャグマンガが面白い雑誌」という定評を得ますが、それは定番ギャグとして長らく連載を重ねたこの「パッパラ隊」の功績なくしてあり得なかったでしょう。

 作者は松沢夏樹。このガンガンの創刊に先駆けて開催された「エニックスファンタジーコミック大賞」において、奨励賞を受賞し、それを契機にガンガン創刊号から連載を開始することになりました。同マンガ賞の受賞者には、他にも渡辺道明や西川秀明がおり、彼らとこの賞の受賞を契機に非常に仲が良くなったようで、以後足並みを揃えてガンガンを支えていくことになります。
 彼の作風は、ハチャメチャなノリのギャグを中心に、自分の趣味であるミリタリーや映画、アニメ、美少女などの要素も渾然と入り込んでくる賑やかなもので、この「パッパラ隊」は、まさにその作風がストレートに出た彼の代表作となりました。一方で、少数ではあるがシリアスな要素の強い話も手がけており、実に幅広い数々の創作をエニックスで残すことになりました。

 その内容は、「軍隊を舞台にしたハチャメチャギャグ」と言ったところでしょうか。史上最強のお笑い部隊と呼ばれる「パッパラ隊」のバカバカしい活躍を描く、といったもので、特に前半はミリタリーの要素がかなり強く、毎回ギャグの舞台に軍事要素が入ってくるのが、最大のオリジナリティとなっていました。「軍隊」と「ギャグ」というアンバランスな要素が見事に一体となり、実に爆笑できるギャグマンガになっていました。パッパラ隊の隊員を中心に、多数の個性的なキャラクターが次々と登場してくるのも魅力で、これほどの数のキャラクターが出てくるギャグマンガもそう多くはないでしょう。キャラクターに合わせて、ギャグのネタも多彩になり、軍事要素にとどまらない様々な方向へ作品は発展していきました。

 しかし、連載の中盤からややクオリティが微妙となり、とりわけ最後の2年ほどの連載は、お世辞にも決して面白いとは言えない状態に落ち込んでしまいました。そして、連載10周年を目前にして無念の打ち切り。全体的には文句なく面白い名作と言えますが、一方でこの中盤、終盤のクオリティの低下が少々惜しまれる作品となったように思えるのが残念なところです。


・エニックス雑誌にとって最大の功労者・松沢夏樹
 さて、この松沢夏樹という作者は、この「パッパラ隊」だけでなく、他にも実に多くの連載・読み切り作品をエニックスで執筆しています。ガンガンの創刊が91年、その後93年にガンガンファンタジー(のちにGファンタジーと雑誌名変更)、94年にギャグ王が創刊されましたが、そのすべての雑誌で創刊当時から連載しています。一時期は3つの連載を同時にこなし、その上読み切りマンガまで精力的にこなすという、大車輪の活躍でした。
 ここで松沢夏樹の過去の作品を列挙してみると、
  • 突撃!パッパラ隊(ガンガン・1991年〜2000年)
  • 勇者はツライよ(ガンガンファンタジー・1993年〜1994年)
  • 宇宙海賊だばだば一家(ギャグ王・1994年〜1995年)
  • 魔女っ子戦隊パステリオン(Gファンタジー・1995年〜1998年)
  • おねえさんと学ぼっ! グレグリ探検隊(ギャグ王・1999年)
  • 無敵戦艦ワルキューレ(Gファンタジー・1999年〜2000年)
  • 爆裂機甲天使クロスレンジャー(ガンガン・2000年〜2001年)
  • 華の神剣組(Gファンタジー・2000年〜2004年)
  • 他、読み切り作品多数。
 このように、10年以上にわたって常にエニックス雑誌で連載を続けており、しかも複数連載の掛け持ちも珍しくありません。そして、非常に重要なのは、これだけ精力的に連載をこなしながら、どの作品も雑誌の看板というわけではなく、むしろ雑誌の中堅としての地位に甘んじていることです。
 これは、この「突撃!パッパラ隊」ですら例外ではありません。このマンガは、確かにガンガン創刊号からの人気連載ではありましたが、他の看板クラスの人気連載、例えば「ロトの紋章」や前述の「南国少年パプワくん」、あるいは「ハーメルンのバイオリン弾き」「魔法陣グルグル」などと比べると、一歩下がった「中堅作品」クラスの扱いが多かったと思うのです。当時の読者にガンガンの作品を聞いても、まずこれらの看板作品が先に来て、「パッパラ隊」はその次くらいに思い出す人が多いのではないでしょうか。
 しかし、彼の描くマンガが、決してこれらのマンガに劣っていたとは思えません。むしろ、確かなクオリティでしっかりと雑誌を後ろから支えていました。そう、彼の連載はまさにエニックス雑誌の縁の下の力持ち的存在であって、松沢氏のエニックスへの貢献度は非常に大きなものがあるのです。


・「軍隊」と「ギャグ」のアンバランスなコラボレーション。
 その設定面での最大の特徴が「作品の舞台が軍隊であること」。軍隊という場所は本来厳しい世界のはず。その厳しいはずの軍隊で、あえて過激なギャグをやるというアンバランスさが面白かったと思うのです。戦車で街に買い物に行って大暴れしたり、敵巨大空母に殴り込みをかけたり、基地に侵入してきた敵部隊とバカ騒ぎを繰り広げたりと、とにかくミリタリー関連の設定が必ず入ってくる。松沢夏樹御大がミリタリーや映画観賞が趣味らしく、そのあたりの趣味がモロにマンガに取り入れられている。これがパッパラ隊最大のオリジナリティであり、このあたりの独特のノリが実に面白かったのです。

 主人公の水島一純が、不死身と呼ばれた生粋の軍人であるという設定も良かったと思います。強烈な個性派キャラクターばかりの中で、彼が唯一の真面目なツッコミ役なのですが、こういう真面目な軍人(?)が真ん中に一人立って話をまとめる役をこなしているため、どんなハチャメチャなギャグ展開になっても、軍隊の持つ雰囲気を失わずに最後まで話を進めることが出来たと思うのです。これが、中心にいるのがふざけた悪ノリキャラクターだったら、かなり雰囲気の変わったマンガになってしまったのではないでしょうか。むちゃくちゃなギャグ全開とも言える展開でも、要所要所で軍隊・軍人のシビアな描写やかっこいいシーンも挿入される。そんな風に「軍隊」と「ギャグ」の間でバランスが取れていたのが、このマンガの最大の持ち味ではなかったかと思います。

 特に連載開始直後の序盤の頃が、そんな軍事要素を採り入れたストーリーがかなり多く、この時期が最もミリタリー色が強かったと思います。とりわけ、敵巨大空母に潜入する話(第8話)や、敵に奪取された戦略爆撃機を奪回する話(第11・12話)あたりが、そんな話のピークだったかもしれません。このあたりの連載が一番好きだったという熱心な読者もいるようです。


・強烈な変人キャラクターたち。
 そして、「パッパラ隊」と言えば、なんといっても超がつくほど個性的なキャラクターたちに尽きます。長い連載の中で登場したキャラクター総数は200人以上とも言われ、その中には強烈な印象で一斉を風靡し、風のように去っていった(笑)キャラクターも数多く見られました。

 その中でも、やはり(名ばかりの)地獄の最前線部隊「パッパラ隊」の個性的な隊員たちが最高に笑えました。メインキャラクターであるランコやとびかげ&轟天号、そして宮本をはじめとするふざけたノリの隊員たちと、彼らをまとめる少女マンガ家志望の隊長・白鳥沢愛の強烈な個性は、文字通り「パッパラ隊」の主役といっても過言ではないでしょう。隊長の少女マンガ関連の話は、パッパラ隊の長い連載の中でも最高に面白かったネタのひとつです。また、宮本隊員を中心にパッパラ隊員から派生した変態キャラクター「しっとマスク」(「しっと団」)は、嫉妬に狂うもてない男たちがカップルを襲撃しまくるというとんでもないネタキャラクターで、これは一部の読者の間で大いに受けまくり、実際にしっと団が結成されたという話を何度か聞くことになりました(笑)。

 パッパラ隊以外のキャラクターも、凄まじいインパクトを残した者が数多く見られました。アブノーマルなレズ趣味を持つ大尉・江口夏海、パッパラ隊と敵対する軍事帝国シュバルツ・ラントの戦闘家老マーテル、そのマーテルの味方となったはちゃめちゃ天才可学者・シルヴィーなどは特に印象深い。特に、あのマーテルというキャラクターは、連載中盤付近において完全ないじられキャラとなり、毎回のごとく徹底的にいじめられ、もはや「マーテルいじめ」が当時の連載の名物にまでなってしまいました。

 また、そんな変人キャラとは別に、松沢夏樹の趣味である美少女系の女の子キャラクターが随所に見られたのも大きな特徴です。パッパラ隊のハチャメチャヒロインにしてもうひとりの主役とも言えるランコ、天然ボケが魅力の軍医兼カウンセラー・牧野マイ、かわいいロボットキャラの桜花などは、特に大きな人気を集めました。連載の後半になると、桜花の姉妹キャラが増えていき、より賑やかになりました。このような女性キャラクターへのこだわりは、松沢夏樹のほかの作品でも存分に見ることが出来ます。

 さらには、作者自身も、スイカをかぶった独特の自画像で登場することも忘れてはいけません。毎回毎回妙なノリのボケを繰り返しツッコミを食らいまくる、まさに作者のサービス精神の権化とも言える軽妙なキャラ性を見せてくれました。


・しかし、連載の後半は決して面白いとは言えない。
 ただ、このように軍隊を絡めた爆笑ギャグと個性的なキャラクターが完全に生きていたのは、連載の前半、具体的には95〜96年までであって、それ以降の後半では次第に質の不安定化が目立ち始めます。今ひとつ独自的な濃さが失われ、やがてはギャグの質そのものも落ちてくるようになります。

 まず、作品から軍隊の要素が消えたのがあまりにも大きい。作者自身、当時のインタビューで「軍隊をネタにマンガを描くのがしんどくなってやめた」と公言しています。これで、「軍隊」というパッパラ隊最大のオリジナリティが消え、ハチャメチャなギャグと変人キャラクターのみが全面に出た作風となり、比較的普通に近いギャグマンガとなってしまい、かつての作品が持っていた独特の濃さが大きく失われてしまいました。肝心のギャグも、ひたすらマーテルをいじめるようなキャラのみをいじるようなネタが増え、少々幅が狭くなってしまいました。

 そして、連載の最後の2〜3年になると、そのギャグまでまったくと言っていいほど面白くなくなってしまいます。具体的には、連載終盤で「恐怖の大王」なる存在が出てきた後が問題で、その「恐怖の大王編」と言える一連のエピソードは、ただひたすらに勢いだけでストーリーを進めるような話が連続し、まったくギャグが笑えなくなってしまったのです。一時期同時に掲載された番外編の方がはるかに面白いくらいで、本編の質の低下は明らかでした。

 さらには、この時期の98年に「突撃!パッパラ隊」は晴れてアニメ化を果たすのですが、このアニメの出来がまったく芳しくなかったのも、連載の評判を落とす一因になってしまったかもしれません。この当時のエニックスのアニメ作品は、あまり原作ファンの評価を得られたものは多くなかったのですが、このマンガのアニメは内容も作画も特に問題が多く、ほとんどめぼしい成果を挙げることが出来ませんでした。

 この当時は、ガンガンの新機軸の連載が隆盛を迎えた全盛期とも言える時代であり、雑誌全体が盛り上がっていたので、この「突撃!パッパラ隊」の質の低下もなんとなく見過ごされていた感があるのですが、やはり読者の評判は悪かったようで、ついに連載10周年を目前にして打ち切りを余儀なくされてしまいます。連載の後半で毎年恒例になっていた、作者の怪談趣味が全面に出た名物企画「百物語」も、残念ながら百話完結することは出来ませんでした。これも非常に残念な結果であり、実に悔いの残る終わり方になってしまったようです。


・それでも松沢夏樹最大の代表作であることは間違いない。
 しかし、このような終盤における失速は非常に残念でしたが、それでもやはり非常に優秀かつガンガンに長らく貢献し続けた長期連載であることに変わりなく、やはりその評価は非常に高いものがあります。特に、序盤〜中盤までは極めてコンスタントに質を維持し続けていました。看板作品から一歩下がった扱いながら、常に高い読者人気を獲得し、初期ガンガンにおける定番ラインナップの一角としての功績は、非常に大きなものがありました。そして、ガンガンにギャグマンガを根付かせる布石となった点がさらに大きい。のちに、「ガンガン=ギャグマンガが面白い雑誌」という定評が広まりますが、それはこの「突撃!パッパラ隊」が道を切り開かなければ絶対に成しえなかったでしょう。

 そして、作者である松沢夏樹にとっても、やはりこのマンガが代表作となりました。彼は、これ以外にも数多くの連載をエニックスの雑誌で手がけますが、その中でも、この「突撃!パッパラ隊」の知名度と人気は突出したものがあります。はるかのちに、続編である「逆襲!パッパラ隊」を他誌(「Comic Rex」)で開始することになりますが、この時にもかなりの話題を呼び、コミックスも相当売れたようで、やはりこのマンガの根強い人気は侮れないものがあると思いました。

 それにしても、今思えばこのマンガ、変人・変態的なキャラが大量に登場し、かなりアブノーマルで危険なネタも多かったと思いますし、作者の趣味である映画や特撮、アニメのパロディネタまで頻繁に投入された、あまりにもフリーダムすぎる作風だったと思いますが(笑)、そんなマンガでも平然と載せてしまえるおおらかさが、当時のガンガンにはあったと思います。そのため、本来の想定されたであろう低年齢層の読者だけでなく、マニアックなネタに惹かれた高年齢の読者も数多く獲得し、一方でこれほど過激なマンガながら女性読者にも人気があったりと、実に幅広く支持されたマンガになりました。そして、こんな独特のノリは、「逆襲!パッパラ隊」にもそのまま受け継がれており、松沢夏樹はいまだ健在であることをアピールしています。のちのちまで続くこの面白さを、これからも忘れるべきではないガンガン屈指の怪作にして名作であったと言えそうです。


「連載終了・移転作品」にもどります
トップにもどります