<女神異聞録ペルソナ>

2008・7・26

 「女神異聞録ペルソナ」は、同名のPSゲームのコミック化作品で、Gファンタジーで1996年から11月号から2000年3月号まで連載されました。原作ゲームの発売が1996年9月でしたから、ほぼ発売の直後からコミック連載が始まり、その後3年以上に及ぶ長期連載となりました。原作ゲームも非常な人気ソフトでしたが、このコミック版の評判も高く、当時のGファンタジーの主力作品のひとつとして、長い間人気連載であり続けました。

 作者は上田信舟。Gファンタジーの初期の頃から読み切りや連載、アンソロジーの執筆などを重ねてきた作家で、特にゲームコミックでの活躍が顕著であり、とりわけアトラスの「女神転生(メガテン)」シリーズのコミック化では非常に定評のある作家です。この「女神異聞録ペルソナ」も、その女神転生シリーズのひとつであり、そしてこれが上田さんの作品の中でも最大の人気を誇る最長連載となりました。

 この連載の直前までも、同じくメガテンシリーズのひとつ「魔神転生」のコミック化作品を長期連載しており、こちらの方の評価も非常に高く、初期Gファンタジーの中でも主要連載のひとつでした。しかし、この「女神異聞録ペルソナ」のコミック化作品は、それをもはるかに凌ぐ高い人気を獲得し、当時のGファンタジーの中でも中心的な人気連載となりました。これには、まず原作ゲームの人気・知名度の高さがまず大きく、かつ作者の二番目の長期連載ということで、前作よりも明らかに絵や内容のレベルが上がっており、コミック版ならではの面白さも読者に支持されたことが大きいと思われます。

 この上田さんのゲームコミックは、この作者ならではの巧みなアレンジ、オリジナル要素がふんだんに見られ、一方で原作のイメージを大切に守りながらも、独自のストーリー構築で見せる優れた作品になっています。この「女神異聞録ペルソナ」もそのひとつで、原作のストーリーラインはうまく守りつつ、原作の人気キャラクターのほぼすべてをうまく登場させ、かつオリジナルのエピソードやキャラクターまでもが巧みに導入された、このマンガならではの優れたストーリー構築は、大いに見るべきものがありました。


・ペルソナ、メガテンと上田信舟。
 上記でも多少触れましたが、作者の上田信舟さんは、初期の頃からゲームコミックでの活躍が顕著な人で、その中でも女神転生(メガテン)シリーズに関しては、特に何度も好んで執筆していました。

 その活躍がGファンタジー編集者の目に留まったのか、創刊1年後の1994年から、メガテンシリーズのゲームのひとつである「魔神転生」の連載を開始します(*「魔神転生」は、厳密には「女神転生」とは異なるシリーズの扱いらしいですが、共通点は非常に多く、女神転生シリーズのひとつとして扱ってもかまわないでしょう。これは「ペルソナ」シリーズも同じです)。この作品、ゲームコミックとしての出来が非常に良く、特にゲームを知らない初心者に対する配慮が行き届いていました。マンガを読み進めるだけで、メガテンシリーズの基本知識、例えば基本的な世界観・設定、シリーズの肝となる「悪魔」の特徴や「悪魔合体」の概念などが、自然に理解できるようになっていて、実に読者に優しい丁寧な作品作りが光りました。ストーリーの構築能力にも見るべきところがあり、原作ゲームのそっけないストーリーイベントを大きく膨らませ、巧みにオリジナル要素を採り入れ非常に優秀なコミック化作品に仕上げていました。かつ、この作者は、10代の少年少女の心理を描くのがうまく、キャラクターの心理描写にも見るべきものがありました。

 そんな優秀な連載だった「魔神転生」ですが、意外にも作品の出来ほどには高い知名度を得ることが出来ませんでした。これは、Gファンタジーという雑誌が当時からマイナーだったことに加えて、原作ゲームである「魔神転生」も、決して評価の高いゲームではなく(続編の「II」は評価が高いんですが)、あまり多くのプレイヤーに知られていなかったことが大きな原因でした。

 しかし、その「魔神転生」の連載終了直後、今度はこの「女神異聞録ペルソナ」のコミック化連載を行うことが決まります。個人的には、今度は「魔神転生」の続編である「II」の連載を期待していたのですが、それは実現せず、当時のメガテンの最新作で、新作としての人気も期待できる「ペルソナ」の連載を行うことになったようです。
 そして、この決定が実は大成功だったのです。マイナーだった前作とは打って変わって、圧倒的に高い知名度と人気を獲得することになります。やはり、原作ゲームの人気の高さが光りました。この「女神異聞録ペルソナ」の原作ゲームは、発売当初から大人気で、発売直後から始まったこのコミック版にも、非常に高い注目が寄せられることになったのです。加えて、当時のGファンタジー(あるいはエニックス)が最盛期であり、熱心な読者が多かったことも人気の大きな要因でしょう。

 この「女神異聞録ペルソナ」の連載終了後も、上田さんは多数の連載を行い、「バロック」のようなゲームコミックや、「鳩の戦記」というメガテンシリーズの世界観を使ったオリジナルストーリーなどを手がけますが、やはり人気・知名度の上ではこの「女神異聞録ペルソナ」が最高でした。


・巧みなストーリー作りが光る。
 この「女神異聞録ペルソナ」は、原作のゲームからそのストーリーに定評がありましたが、このコミック版では、元の作品からさらに発展・深化した巧みなストーリー作りが光ります。オリジナルの要素もふんだんに採り入れており、しかしそれが原作のイメージを壊すことなく、新たな面白さを生み出しているのです。

 基本的なあらすじこそゲームのそれを踏襲していますが、個々のエピソードについてはオリジナルのものがかなり見られ、特にキャラクターたちの学校生活がよく描けています。そして、そんなエピソードがどれも面白く、原作のキャラクターの持ち味がよく出ており、実に好印象でした。
 主人公たちが使うことになる特殊能力「ペルソナ」の描き方、特に戦闘シーンもよい。上田さんの描く戦闘シーンは、多少雑に感じられるところはあるものの、独特の緊迫感と高揚感があり、時にはホラー的な怖さも良く出た優れたものになっています。

 さらに、原作ゲームでは、主人公と共に行動する仲間が選択性で、数人の固定キャラクター以外は、パーティーに参加することなく出番が大幅に少なくなってしまうのですが、このコミック版ではそんなことはなく、すべてのキャラクターに満遍なく活躍の機会が与えられています。(本編の)固定キャラクターである主人公、マキ(園村麻希)、南条くん(南条圭)、マーク(稲葉正男)の4人は当然として、選択キャラクターであるブラウン(上杉秀彦)、エリー(桐島英理子)、アヤセ(綾瀬優香)も、それぞれ最初からふんだんに出番が用意されています。本編では(初期の一瞬しか)仲間にならないゆきのさん(黛ゆきの)も、このコミック版では出番が多く、活躍が光ります。原作ゲームでは隠しキャラクターだったレイジ(城戸玲司)も、最初からかなりの存在感を見せるキャラクターとして存分に描かれています。

 そしてもうひとつ、原作ゲームでは隠しシナリオ的な扱いだった「雪の女王編」も、このコミック版では、本編の途中に自然に付随する形で、しっかりと描かれています。これは、原作からのファンにも非常に好評で、原作ゲームの要素を出来る限りあますことなく積極的に採り入れようとする創作姿勢には、大いに好感を持つことができました。

 そして、このように原作の持つキャラクターやイベントを出来る限り積極的に採り入れ、原作をさらに膨らませたエピソードを毎回のように見せてくれる。特に重要なのが、少年少女のキャラクターたちの心理描写であり、10代の少年少女の持つ心理を描くのがとにかくうまい。学校で出会う生徒たちには、このコミック版のオリジナルキャラクターも多く、主人公たちのみならず、時に彼らの見せる繊細な心理にも見るべきものがありました。


・上田信舟の絵ならではの親しみやすいキャラクター。
 また、上田さんの絵ならではの独特の魅力もあります。上田さんの絵は、原作とは少し異なるキャラクターの魅力がありました。

 原作のキャラクターデザインを担当しているのは、メガテンシリーズではおなじみのアートディレクター・金子一馬ですが、彼の絵は、非常に硬質で濃い作画が印象的で、メガテンシリーズのアクの強いキャラクターや悪魔たちを描くにはなくてはならない存在となっています。金子さんの絵はそれはそれで十分素晴らしい絵なのですが、しかしこのコミック版の上田さんの絵は、それとはちょっと異なる印象があり、こちらはこちらで非常に好印象なのです。

 具体的には、原作のキャラクターデザインよりも全体的に「柔らかさ」が目立ち、より優しいイメージのキャラクターになっているように思えます。特に女性キャラクターにはそれが強く感じられ、金子氏の濃いデザインとは異なる親しみやすさがあります。ヒロインのマキ(園村麻希)や帰国子女のエリー(桐島英理子)などは、原作では非常にきつい感じの美人だったのですが、上田さんの絵では、美人であると同時に優しくかわいい見た目になっており、中々に印象が異なります。そして、この作画の親しみやすいキャラクターは、読者の間でも大好評で、原作を知らない読者の間でも新たなファン層を獲得しました。その一方で、原作のイメージをも決して崩してはおらず、原作プレイヤーの間でも評判のよい優秀なバランスのキャラクターになっていたように思えます。

 もちろん、男性キャラクターもみな魅力的に描けています。原作では一番人気だったメガネの財閥御曹司・南条くんなどは、このコミック版でもやはり大人気でした。
 主人公の藤堂尚也にもそれは言えており、原作では名前もなくほとんどしゃべらないRPGならではのキャラクターだったのですが、このマンガでは、親しみやすいイメージのバランスの取れた外見になっています(外見のみならず性格もよく出来ていましたが)。


・主人公の双子の兄とのエピソードが深い。
 その藤堂尚也ですが、彼には和也という双子の兄がおり、幼い頃に自動車事故で死亡しています。その死んだはずの和也がたびたび尚也の前に姿を表し、非常な悪意を持って尚也を精神的に攻撃し、彼と成り代わろうと試みてきます。この、尚也と和也という双子の重苦しい邂逅と、最終的にそれを乗り越える主人公の行動が、作中でも非常に重要なテーマとなっています。

 そして、これはこのコミック版でも最大のオリジナル要素でもあります。原作には、このようなキャラクターは一切登場しません。上田さんならではのオリジナルエピソードであり、この作者の作品の持ち味である重苦しいテーマを全面的に打ち出しています。原作では、主人公がそもそも名前もなくセリフもない存在なので、それに対するエピソードはあまり多くありませんでした。それが、このコミック版では、「主人公の前に立ちふさがる精神的な試練」という、新しいテーマを追加しているわけで、さらに奥の深い物語になっています。

 主人公の尚也は、かつて確かに和也という双子の兄がいたのですが、彼のことは長い間思い出さないように避けていました。実は、尚也と和也は、かつて幼い頃に、和也の死に直接関わる深刻な出来事を体験していたのです。そのことを長い間封印し、極力触れないように努めていた尚也の元に、なぜかもう死んだはずの和也が表れ、何度も彼に執拗な悪意を投げかけ、自分が尚也に成り代わろうと攻撃してきます。この邂逅は、中盤以降要所要所でたびたび起こることになり、ストーリーの中心を成していきます。時に挿入される過去の回想シーンも効果的に織り込まれ、過去の忌まわしき出来事が次第に明らかになる流れも巧みに描かれています。

 悪意に満ちた和也というキャラクターもよく描けており、その純然たる悪意と暴力性、主人公を翻弄する圧倒的な戦闘能力と、これはこれで非常に魅力的なキャラクターになっていました。


・Gファンタジー最盛期を彩る、ゲームコミックの名作のひとつ。
 このように、この「女神異聞録ペルソナ」のコミックは、作者の上田さんによる巧みな作品作りが随所に感じられる、非常に優秀な作品になっています。原作のキャラクターやエピソードをあますことなくふんだんに採り入れ、それに加えて優れたオリジナルエピソードも作品にさらなる深みを与えており、実によく描けていることは間違いありません。上田さんならではのバランスの取れた作画も良く、原作よりも親しみやすいキャラクターのイメージも、非常に好印象なものとなっていました。エニックスの数あるゲームコミックの中でも、名作とするにふさわしい作品のひとつだったと思います。

 唯一の欠点としては、終盤になって連載期間が足りなくなってしまったのか、ストーリーの展開がかなり駆け足気味となり、雑誌の連載は少々物足りない終わり方になっていることでしょうか。そのため、コミックスでは大幅な描き足しがなされ、最終8巻はほとんど描き下ろしに近いものとなっています。おそらくは、ゲーム原作コミックとしては長くなりすぎた連載期間に対する配慮だったのでしょうが、そのために最後がややドタバタしてしまったのは残念でした。

 とはいえ、全体としては大変優秀な作品だったことは間違いありません。このマンガの連載当時のGファンタジーは、最盛期の趣きがあり、この「ペルソナ」の連載の間に、非常に優秀な連載がたくさん登場することになりました。女性読者に圧倒的な人気を誇った「最遊記」を筆頭に、「E'S」「クレセントノイズ」「東京鬼攻兵団TOGS」「神さまのつくりかた。」「破天荒遊戯」「レガリヤ」などの連載は、どれも大人気の作品群となりました。そんな中で連載を続けたこの「女神異聞録ペルソナ」も、非常に優秀な連載のひとつであり、全盛期のGファンタジーの中でも、「最遊記」や「E'S」「クレセントノイズ」と並ぶ主力人気連載として、3年以上の長い連載期間をもって駆け抜けました。

 原作ゲームのコミック化作品としても優秀で、ゲームプレイヤーの間でも評価が高かった点も見逃せません。上田さんならではのオリジナル要素を多数盛り込みながらも、原作の魅力をも忠実に再現しており、誰もが満足できるバランスの取れた作品になっていたように思います。この当時のエニックスのゲームコミックには、本当によく出来たものが多かったのですが、その中でも屈指の作品だと言えます。

 そして、これは作者の上田さんにとっても最大の成功作品となりました。現在の上田さんは、スクエニを離れ、他社で細々と活動していますが、いまだにこの「ペルソナ」が代表作品となっているようです。現在も原作ゲームのペルソナシリーズは健在ですし、今一度上田さんの描くペルソナやメガテンのコミックを読んでみたいものだと思います。


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