<PHANTOM:DEAD OR ALIVE>

2007・3・13

 「PHANTOM:DEAD OR ALIVE(ファントム デッドオアアライブ)」は、少年ガンガン2002年3月号より始まった連載で、2004年2月号にて終了するまで、約2年間ほど掲載されました。タイトルの「ファントム」は、あの有名な戦闘機の機体名で、そのタイトルどおり内容は軍事もの、それも戦闘機ものの少年マンガとなっています。作者はあの「ハーメルンのバイオリン弾き」で非常に有名な渡辺道明で、これが当時大きな話題を呼びました。

 このマンガの連載開始当時のガンガンは、あの「エニックスお家騒動」の直後であり、残ったガンガンの編集者たちが、自分たちの目指す「少年マンガ」的な連載を盛んに求めていた時期でした。この「PHANTOM:DEAD OR ALIVE」も、まさにその路線を忠実に求めたマンガであり、極めて王道少年マンガ的要素の強い作品となっています。
 また、作者の渡辺道明についても、「かつてのガンガンを支えた作家を呼び戻し、少年マンガ路線だった初期のガンガンの方向性を取り戻そう」と考えての起用だったことも明白でした。これ以外でも、藤原カムイ・柴田亜美・増田晴彦らの初期作家が、この時期に招聘され連載を開始しています。

 しかし、このマンガは、確かに戦闘機ものの少年マンガとして一定のクオリティこそ確立しているものの、それ以上の独創性には欠ける部分があり、結局「ハーメルン」の渡辺道明を超えることは出来なかったように思えます。しかも、随所に作者の悪いくせというか、様々な欠点が見られる内容に終始しており、決して手放しで褒められる出来ではありませんでした。最後には人気の低迷からか完全な打ち切りで終了し、なんの解決を見ないままでストーリーが終わってしまったのも、この内容ならばやむを得ないものがあったかもしれません。


・戦争もの、戦闘機ものの描写には一定以上のクオリティがある。
 とはいえ、少年マンガの題材として、戦争もの、それも戦闘機ものを採り上げたのは、中々に目の付け所がよい判断だったかもしれません。
 このところの少年誌を見渡しても、戦争ものを扱ったものは少なく、しかも戦闘機ものとなると、かつての名作「エリア88」以降、これといったマンガが思いつきません。あるにはあると思いますが、大きな人気を得たものはあまりないでしょう。そんな中で、今の時代にあえて戦争もの、戦闘機ものを題材に選んで少年マンガを作ろうとした判断は、オリジナリティの観点からかなりの好感が持てます。なんでも、週刊少年ジャンプなどでは「政治、戦争、宗教を扱ったマンガはご法度」という暗黙の了解まであるらしく、そういった大手少年誌とは異なるマンガを打ち出そうとした企画は大いに評価したいところです。

 戦闘機のメカニックの描写や、最大の見せ場である戦闘シーン(ドッグファイト)の描写にも、一定以上のクオリティがあり、中々よく描けていると思います。渡辺道明の作風から、若干描き込みが過ぎるのと絵が勢いにまかせて荒っぽいのとで、読みづらいのは少々残念ですが、それ以上に人目を惹くところがあります。最低これだけのビジュアルが出来ていれば、つかみとしては十分で、新連載当時はかなり期待できるレベルにありました。わたし個人も、「ハーメルン」の渡辺道明の新作で、しかも最近にない戦闘機もので、絵の出来も十分合格レベルと、ひどく好印象で新連載を迎えた記憶があります。


・主人公の成長が遅いのが最大の難点か。
 しかし、いざ連載が始まってみると、確かに最初のうちは面白かったのですが、次第に各所で不備が目立つようになりました。
 最大の問題は、主人公の成長の遅さと、その原因とも言えるストーリーの遅さでしょう。

 このマンガの大まかなストーリーは、飛行機事故でアフリカの海に投げ出された少年・鷹志(タカシ)が、戦闘機乗りたちが暮らす空母に拾われ、そこで戦闘機乗りとして訓練を積み、悲惨な戦争の現実を目の当たりにしながらも、次第に成長していくというものです。この時、鷹志の相棒として成長を助ける男が、タイトルにもなったファントムです。鷹志は、日本にいる時は内向的で体も弱い少年で、戦闘機乗りとなっても最初のうちは恐怖におびえることの連続で、戦争で人を殺すことにも大きなためらいを感じる、典型的な弱い少年・弱い主人公として描かれています。分かりやすい今時の表現を使えば、「ヘタレ」系の主人公を地で行くようなところがあります。
 そして、そんな主人公が、戦闘機乗りとしてのシビアな訓練と戦場の経験を通して、次第に成長していくわけなのです・・・が、この成長がとにかく遅い。かなり後になってもいじけて泣くシーンが多く、それが何度も繰り返される印象です。設定年齢が低く、いきなり戦場に投げ出されたという境遇を考えれば、こうなることも仕方ないとも言えますが、それにしてもこうまで長期に渡って何度も弱いシーンを見せられ、中々成長していかない様を見るのは、読者としてイライラが募ります。

 ここまで主人公の成長が遅いのは、ストーリーそのものの遅さにも原因があります。この物語、最初のうちの戦争はあくまでゲーム的な模擬戦闘で、後半になってようやく本当の(生死を賭けた)戦争へと突入していくのですが、まずそこまでの到達が遅い。しかも、何度も同じようなシーン、似たようなエピソードが繰り返された印象があり、2年も連載し、単行本が8巻まで出たにしては、驚くほどストーリーが進んでいません。
 実は、作者の前作である「ハーメルンのバイオリン弾き」でも、後半になるとこのような状況が長く見られ、似たようなエピソード、似たような感情表現の繰り返しで、面白さが大きく損なわれていました。その欠点が、この作品でもまた出てきてしまったように思えるのです。そのため、最初のうちは「今時珍しい戦闘機もの」として、中々に楽しんで読めていたのが、連載が進むにつれ、次第に読もうとする意欲に欠けていった感は否定できません。


・あまりにも非現実的な戦闘描写。
 さらなる欠点として、あまりにもリアリティに欠ける戦闘描写があります。
 前述のように、このマンガは確かに戦闘機のビジュアルや、戦闘シーンのビジュアル(絵)には一定のクオリティがあるのですが、肝心の戦闘の駆け引きや展開には、あまりにも無理がある非現実的なシーンが多いのです。まあ、「少年マンガ」だからある程度の破天荒な展開が許されると言えばそれまでですし、これまでの戦闘機マンガでもそこまでリアリティを追求したものがあったかと言えばそれも疑問なのですが、それにしてもこのマンガは破天荒に過ぎたところがあります。

 中でも、多くの読者に指摘された最大の問題シーンとして、飛んでくるミサイルを44マグナムで撃ち壊すシーンがあります。これはさすがに大問題となりました。実際には、それ以前にもかなり非現実的なシーンが多用されており、しかしまあ少年マンガだからこの程度はどうにか許容範囲か、となんとか許されていたところがあるのですが、さすがにこのシーンだけはほとんどの読者に受け入れられず、そのあまりのリアリティのなさが大いに話題にのぼりました。

 もともと、作者の渡辺道明さんは、細かい設定や緻密なストーリー展開で作品を構築する作家ではありません。むしろ、(「ハーメルン」でも散々見られたとおり)勢いと熱意で突き進んで執筆を続ける作家です。しかし、それはこのような細かい軍事的考証が必要な軍事ものとは相性が合いません。思えば「ハーメルン」では、ファンタジーが舞台の話ですから、かなり破天荒な設定や展開でも、さほど抵抗なく受け入れることが出来ました。しかし、現代の世界が舞台の軍事もの、戦闘機ものでは、さすがにそうはいかなかったのです。


・ギャグが面白いと言えるかも疑問。
 そしてもうひとつ、渡辺道明独特の狂騒的なギャグシーンも、このマンガのクオリティを下げる一因となっています。
 もともと、「ハーメルン」の序盤では、この狂騒的なギャグこそが渡辺道明最大の持ち味でした。圧倒的な面白さのギャグシーンこそが、「ハーメルン」の中心だったと言っても過言ではありません。しかし、それが中盤、終盤になって作品にシリアスな要素が増えるにつれ、合間に入る狂騒的なギャグシーンの違和感ばかりが目立つようになり、むしろ邪魔な存在になってしまったのです。

 そして、それはこの「PHANTOM:DEAD OR ALIVE」にもそのまま言えます。とにかく、狂騒的なギャグが、シリアスでシビアな戦闘、戦争描写とまるで相性が合わず、作品の腰を折る役目しか果たせなくなりました。このようなギャグシーンは、確かに渡辺道明最大の持ち味なのですが、それが単に作品をかき回し、緊張感を大幅に削いでしまうという、マイナス面の効果しか持ちえませんでした。

 結局のところ、「ハーメルン」中盤・終盤の欠点を、この作品でもう一度繰り返してしまった印象です。作品の中で、狂騒的なギャグが完全な蛇足になってしまい、作品のクオリティをさらに下げる要因となってしまったのです。


・渡辺道明の欠点が大きく出てしまった作品。
 総じて、全体を通してマンガ家・渡辺道明の持つ欠点部分だけが露骨に出てしまった印象でした。似たようなエピソードの連続で進まないストーリー、勢いに任せた破天荒で無理のある展開、作品の緊張感を削ぐマイナス面ばかりが出てしまった狂騒的なギャグと、不幸にも悪い面ばかりが目立ってしまったと言えます。これでは成功するのは難しく、残念ながら2年ほどの連載で打ち切りとなってしまいました。

 打ち切りの終わり方もいいとは言えません。最後は、強くなった主人公のタカシが勇ましくコクピットに搭乗するシーンで終わっていますが、これでは単純な戦争の肯定につながる可能性もあります。
 いや、さすがにこのシーンだけで即戦争の肯定にはなりませんが、少なくとも「ためらいなく戦闘機に乗って戦争に出かける」生き方を肯定した描写には映ります。本編では、最後まで戦闘機で戦争を行うことへの疑問、人を殺すことへの疑問を持ちつつも、なおも目の前の戦闘に立ち向かうために努力するというのが主人公のスタンスでした。それが、あっさりと打ち切りでこのような終わり方を迎えたために、そういったテーマまでも中途半端に語られずに終わってしまい、後に禍根を残す結果になったように思います。

 結果として、少年マンガ路線を進めるために、初期ガンガンからの作家である渡辺道明を招聘して、戦闘機もので王道少年マンガを開始したものの、それは見事に失敗に終わってしまったと言えます。同時期の初期ガンガンからの復活組である、藤原カムイや柴田亜美の連載は成功しましたが、渡辺道明は残念ながら「失敗組」に入ってしまったと言えそうです。
 そして、この連載だけでなく、お家騒動以降に開始された少年マンガ志向の新連載も、全般的にふるわず、あるいは良作であるにもかかわらず打ち切りの憂き目にあうなどして、ほとんど成功作は出ず、ガンガン自体のクオリティも大きく下がる結果となります。この「PHANTOM:DEAD OR ALIVE」の打ち切り終了は、そんな当時のガンガンの状況をそのまま反映したものだったと言えるでしょう。


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