<プラナス・ガール>

2009・9・21
全面的に改訂2013・11・16

 「プラナス・ガール」は、ガンガンJOKERで創刊号となる2009年5月号から開始された連載で、2013年4月号で終了しました。創刊号からの連載としては約4年にわたる長期連載となり、かなりの人気を得た成功作のひとつと見てよいと思います。コミックスは6巻で完結しています。

 作者は松本トモキ。スクウェア・エニックスマンガ大賞出身の作家で、過去にはヤングガンガンで何度か読み切りを掲載したことがあります。そちらの作品は、どれもハードでシリアスな作品の印象があり、絵柄も今とは少し違っていたように思います。しかし、その後まずガンガンパワードで、この「プラナス・ガール」の読み切りを2度に渡って掲載し、さらには新創刊されたガンガンJOKERに移って、創刊号からこの「プラナス・ガール」の連載を開始。ヤングガンガン時代からは一気に変わってポップでコミカルな作風となっていて、これは随分と意外に思った記憶があります。

 その「プラナス・ガール」、学園を舞台にしたコメディ作品ですが、なんといってもヒロインが男の娘であることが、最大の特徴となつています。この当時、スクエニはこうした萌え要素を取り入れた作品に力を入れていて、特に「男の娘」あるいは「女装少年」と呼ばれるキャラクターをメインに据えた作品もいくつか見られました。ヤングガンガンの「フダンシズム」(もりしげ)がもうひとつの代表作とも言え、あるいはずばり「女装少年アンソロジー」という、男の娘や女装少年が主役のアンソロジーコミックも出しており、これにはこの「プラナス・ガール」の外伝となる1.5話が掲載されています。

 しかし、この「プラナス・ガール」は、アンソロジーに掲載されたほかの作品や、あるいはこの頃から他社からも多数出されるようになった男の娘・女装少年作品とは、大きく異なる心地よいさわやかさを感じる作風となっていて、これが何よりも評価できる良作になっています。


・エロではないさわやかな学園コメディ。
 上記の女装少年アンソロジー、あるいは他社から出てきた男の娘作品、特に2010年に出版された専門の雑誌「わぁい!」や「おと☆娘」掲載の作品は、男の娘の「エロ」を強調したものが目立っていたと思います。男の娘や女装少年という萌えの形が、とりわけフェチ要素の強いものとも言えるため、こうした作風が増えるのも自然でやむを得ないところもあったかもしれません。

 しかし、この「プラナス・ガール」は、最初からまったく違っていました。男の娘ヒロインである藍川絆(きずな)は、小悪魔的な性格で時に主人公のくんに対してちょっとエッチな誘惑(?)をすることがあるものの、それも総じて明るくからっとした行動で、淫靡で露骨なエロが目立つほかの作品とはまったく印象は異なっていました。むしろ、この絆ちゃんの純真なかわいらしさが、作中ずっと全面に出ていて、キュートでポップな雰囲気の明るいコメディになっていたのです。これは、個人的にも非常に好印象で、エロが前面に出た男の娘作品よりもずっと気に入ってしまいました。またJOKERは他にもこのような明るいコメディ作品が多く、読者の好みにもよく合っていると思いました。

 とにかく、メインヒロインである絆ちゃんのかわいさ、それが最大の魅力でした。自分は男だと自称していますが見た目は女の子そのもので、女子の制服がよく似合っています。性格も屈託なく明るく社交的で、男女問わず生徒たちに絶大な人気を誇り、校内にファンクラブまで存在するのも分かるというものです(笑)。

 その絆ちゃんのパートナーと言える槙くんは、成績もよくスポーツも出来る優秀な生徒ですが、それを気にかけることはまったくない気さくな性格で、そして絆といつも共に過ごすようになった後は、その絆の小悪魔的な性格に振り回されつつも、よく気遣ってとっぴな行動をいさめたり他の暴走しがちな生徒から守ったりと、実にいい主人公ぶりを発揮しています。このふたりの気持ちのいい性格が、そのまま作品の明るさを象徴していると思います。


・「男の子か女の子か分からない」男の娘・女装少年ものとして斬新な設定。
 さらには、今「男の娘ヒロイン」として紹介したヒロインの絆ちゃん、他の男の娘、もしくは女装少年が登場する作品とは、少し変わった新しい魅力を持っていました。それは、「本当に男の子か女の子か最後まで分からない」という点です。

 そもそも、男の娘・女装少年とひとまとめにして描きましたが、実際には「男の娘」と「女装少年」では、そのキャラクター性に微妙な違いがあるようです。これについて、上記で取り上げたヤングガンガンの連載「フダンシズム─腐男子主義─」の巻末講座において、興味深い分類がなされています。これによると、「男の娘」のポイントは、「男の子だとわかっているけど、女の子以上に萌えてしまうところにある」と書かれています。逆に、最初から女の子だと思われている(男の子だと気づかれない)タイプの女装少年は、しいて言えば「女装っ娘」であり、多少ニュアンスの違いがあり、萌えのポイントも異なってくるというのです。

 では、この「プラナス・ガール」のヒロイン、藍川絆は、果たして男の娘なのかそれとも女装少年なのか。これは中々面白いところで、彼(彼女?)は、一応自分では男の子だと言ってはいるものの、実際には本当に男の子かどうかはっきりさせず、「実は女の子かもしれない」とも思わせるような微妙な描かれ方をしているのです。このスタンスは、連載の最後まで変わらず、結局最終回まで性別が明かされることはありませんでした。終盤では、絆ファンクラブの男子生徒たちが、男の子派と女の子派、中間派に別れて抗争を繰り広げるという(笑)、ひどく笑えるエピソードまで用意されています。

 これは、基本的には男の子として扱い、しかし女の子以上とも言えるかわいい容姿で「男の娘」としての萌え要素を存分に発揮しつつ、その上で「実は本当は女の子?」とも思わせることで、さらに読者を強く惹きつける、これまでにない絶妙な魅力を生み出すことに成功していると思うのです。これは、「男の娘」と「女装少年」、さらには「本当の女の子」のボーダーラインに分類される新たなる女装少年ものとして、大変に興味深いのではないでしょうか。


・周囲を固める生徒たちも好印象。いい距離感も保っている。
 さらには、ヒロインの絆ちゃんや主人公の槙くん以外にも、魅力的なキャラクターが数多くいます。ふたりの周囲の学校の生徒たちも、それぞれ個性的でいい味を出しているのです。ちょっと間の抜けたキャラクター、おバカだけど人のいい奴、明らかな変人だけど実はいい人、ふたりを優しく見守る好人物など、全体的にいい生徒たちに囲まれていて、わきあいあいとした学園生活がよく描かれています。

 まず、槙くんのクラスメートで友人、もとい悪友である門山と笹木野。門山は、明るく軽い性格のバスケ部員で、絆ちゃんに惚れて槙を敵視して様々な挑戦をしかけてきますが、しかしアホと呼ばれるほどおバカな生徒で、常にバカな行動をして笑わせる楽しいキャラクターとなっています。この門山の底抜けに明るい行動が、作品の明るさをさらに増しています。一方で笹木野は、真面目な常識人で頭も切れ、要所で門山の暴走を止めるツッコミ役を演じています。門山と対照的な性格がいいアクセントとなっています。

 一方で女子生徒では、常に楽しく賑やかなムードメーカーで仲良し3人組のあさみ・のん・恵、眼鏡をかけ腐女子然とした行動で周囲を引かせる春子、無表情で一見して堅物のように見えて、その実えらく積極的で槙にも好意を寄せるクラス委員長の塔子(とうこ)と、クラスメートだけを見渡してもひとりひとり印象的なキャラクターが多い。さらには、連載途中で学校に転校してくる紫苑(花坂紫苑)は、かつて中学時代の槙の同級生ですが、以前から百合の気があることが槙にも知られていて、しかも初登校時にいきなりそのことを告白、さらには同じく中学時代の同級生で後を追って転校してきた佳奈(若草佳奈)とは相思相愛の仲で、学内でも知られた百合カップルとなってしまいます。槙くんと絆ちゃんという、作品のメインカップルとは別に、こうした百合カップルがいるという点は特徴的で、作品後半では4人で仲良く行動するエピソードもよく見られるようになりました。

 クラスの外に目を向けると、妙な姿と言動で面白い変人キャラとなっている生徒会長のクリス、その会長の切れ者の補佐役となっている副会長のしずや、そして絆ちゃんの「非公認ファンクラブ」なるものを結成し、バカバカしいアプローチや争いを繰り返している男子生徒たちと、上は生徒会から学校全体まで楽しい雰囲気で満ちているような設定になっています。

 それともうひとつ、この中で槙くんと絆ちゃんのいずれかに好意を寄せるキャラクターは何人もいて、時に告白したりという展開も見られるのですが、しかし恋敵として争うような殺伐とした展開はほとんどなく、あくまで仲の良い同級生として描かれているのも特徴的です。作中の生徒たちがそれぞれ実にいい距離感を保っている作品だと思うのです。

 


・広々とした学校という設定も心地よい読後感を生む。
 そしてもうひとつ、この「プラナス・ガール」の設定で特筆すべきものがあります。それは、主人公たちが通う緑乃丘高等学校の設定です。

 この高校、とても自由で開放的な校風らしく、それは何よりも学校の施設によく表れています。コミックス1巻巻末おまけページ掲載の資料によると、「とにかく広い」「やたら木々が多い」「春には桜が咲き誇る」などと書いてあり、実際に作中で描かれる校内の風景も、広々として気持ちいいシーンが多く、これが作品のさわやかな印象をさらに増しているように思えます。まるで緑のすがすがしい風が常に吹き渡っているような、気持ちのよいキャンパスになっているようです。

 校舎内の各施設もかなり余裕を持って作られているようで、廊下や教室もいちいち大きくて広い。教室などは、横に長い4人がけの机での授業となっているようで、これなど大学の講義室のような印象まで受けます。さらには、校舎も間に中庭を挟んで巨大なエントランスホールから入る構造になっていたり、校舎の周囲に講堂や体育館だけでなく、図書館やカフェテリア、文化部棟や温室、時計塔まであるなど建物が多く、ここでもまるで大学並みの設備。寮も完備していてしかも全個室1LDKという贅沢な構成とまで書かれています。まさに理想的な環境だと言えるでしょう。

 こうした学園を舞台にした各シーンの中で、もっとも印象に残っているのは、時折ふたりが訪れる屋上です。屋上の敷き詰められた芝生の上にごろんと横になってしばしのんびりと過ごすシーンは、本当にゆったりした時間が流れているようです。総じて、舞台設定からして明るく楽しい学園生活をよく強調したマンガになっていると思います。


・このマンガが6巻で終了してしまったのは本当に惜しい。
 以上のようにこの「プラナス・ガール」、エロ要素をあえて抑えた明るくさわやかな作風、ヒロインの絆ちゃんのかわいらしさ、個性的かつ魅力的な多数の生徒たち、優れた環境を生む学園設備など、全面的に学園生活の楽しさを強く打ち出した設定となっていて、明るく楽しい学園コメディとなっています。他の男の娘ものの作品とは、大きく一線を画する印象のマンガとなっていて、エロが苦手な読者にも、このままの形でおすすめしたい良作になっていると思います。

 連載中も、一時期かなりの話題にもなったようで、男の娘もののマンガとして、あるいは学園コメディとしてかなりの人気を博したようです。ガンガンJOKER創刊時からの新連載で、かつ新人の作品としては、こちらはアニメ化もされた「黄昏乙女×アムネジア」(めいびい)と並ぶ成功作ではないかと思います。創刊時のJOKERは、移籍元のWINGやパワードからの継続連載や、あるいはそちらの人気作家の新連載がまず雑誌の看板として表に出ていましたが、その一方でこうした新人による良作も見られたことを、大変うれしく思ったものです。

 しかし、このマンガ、結局のところアニメ化などはされることなく、コミックスも6巻という人気作としてはやや短めの連載で終了してしまいました。作者のインタビューでは、もともと5巻で終わる予定だったとのことで、それで6巻まで続いたのはむしろ僥倖だったとも考えられますが、しかし欲を言えば、やはりこのマンガはもっと長く続いて、あるいはアニメ化などのメディアミックスを通して、もっと多くの人に知ってほしかったと思います。

 「男の娘」というフェチ要素の強い設定でありながら、明るく開放的でさわやかな雰囲気を持つ学園コメディとなっているこの作品ならば、幅広く多くの人に受け入れられ楽しまれたのではないか。まさに男の娘作品の決定版にまでなっていたのではないかと期待していました。それが達成されなかったことが、唯一心残りだったなと思っています。


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