<ラジアータストーリーズ>
(「The Epic of JACK」「The Song of RIDLEY」)

2007・12・12

 「ラジアータストーリーズ」は、同名のスクウェア・エニックス(制作・トライエース)のゲームを原作とするゲームコミックで、異なるふたつの雑誌において、連動的な企画として同時に連載されました。Gファンタジーで2005年4月号から、原作ゲームの主人公であるジャックをそのまま主人公とした「The Epic of JACK」、ガンガンWINGで2005年4月号から、こちらは原作ではヒロインであるリドリーを主役に置いた「The Song of RIDLEY」が同時に連載を開始。そのまままったく同じペースで連載を重ね、コミックスも完全に同時期に発売され、そしてそれぞれGファンタジー07年4月号、ガンガンWING2007年5月号において、ほぼ同時に終了しました。作者は、「The Epic of JACK」が藤川祐華、「The Song of RIDLEY」は宮条カルナが担当しています。藤川さんは、ほぼ新人に近い作家で、対する宮条さんは、かつて2002年にガンガンWINGで連載したことがありますが、今ひとつ奮わず短期連載で終了した後、ここで久々の登場となりました。

 原作ゲームが、これまでもガンガン系雑誌で何度となくコミック化されてきたトライエースの作品ということで、この作品もかなり大きな告知と共に始まり、しかも今回は複数雑誌での同時連載ということで、さらにそのことを全面的に押し出した展開ともなっていました。連載期間は約2年とさほど長くはないものの、双方でコミックスは5巻ずつを数え、ふたつ合わせれば10巻ということで、双方で考えればかなりの規模の作品となりました。

 しかし、内容的には今ひとつのところもあり、大きな人気・評価が得られたとは言い難く、トライエース系ゲームのコミック化作品としては地味な展開に陥り、さほど大きな成功を果たすことはできなかったようです。これは、コミック化を担当した作者の力量がやや物足りなかったことに加え、原作ゲームもさほど芳しい評価を受けていなかったことが、その大きな理由であると考えられます。この当時から、スクエニ系雑誌ではゲームコミックが前よりも多くなり、このような連動企画が他にも見られるようになりますが、その先鞭を切ったと言えるこの作品に関しては、やや残念な結果に終わってしまったと言えます。


・雑誌をまたいだ連動企画。
 前述のように、このコミック化作品は、「Gファンタジー」と「ガンガンWING」のふたつの雑誌で同時に連載されました。これまでのトライエースのゲームは、「スターオーシャン」にしろ「ヴァルキリープロファイル」にしろ、主にガンガンでコミック化されることが多かったのですが、この作品に関しては、珍しくスクエニでもマイナー系と言える雑誌での連載となりました。今回は、マイナー誌の方でメジャーなスクエニゲームの連載を連動企画で行うことで、普段目立たないそちらの雑誌にも注目を集めたかったのではないかとも思われました。

 加えて、「Gファンタジー」での連載が主人公のジャック、「ガンガンWING」での連載がヒロインのリドリーを主役に置いている構成ですが、これは掲載元雑誌での読者層を多少考慮したところがあるのかもしれません。つまり、女性向けのイメージの作品が多く、実際に女性読者も多いGファンタジーでは男の子のジャック、萌え系の作品が目立ち、男性読者が多い(らしい)ガンガンWINGで女の子のリドリーを表に出した作品にした方が、それぞれの読者に人気を得やすいだろうという配慮があったのかとも推測できます。しかし、実際に描かれたマンガは、ストーリーの構成も絵から受けるイメージも比較的近いものがあり、とりたてて男性向け、女性向けという感じはしませんでした。どちらもごくオーソドックスなRPGのコミック化作品といったところで、特に掲載誌特有の作風は見られないようです。

 そして、ひとつのゲームを2作品でコミック化という点が、この企画最大の売りだったのですが、これは原作ゲームの構成が大きく関係しています。原作ゲームは、後半のストーリーに大きな分岐点があり、その後の展開が正反対の流れを辿り、エンディングもふたつあるということが、大きくフィーチャーされていました。このような構成のゲームをコミック化するには、やはり2つの作品でそれぞれの分岐を追っていくのが妥当だと考えたのでしょう。加えて、共通するストーリーである序盤〜中盤の部分(分岐点より前)でも、主人公のジャックとヒロインのリドリーと、双方で異なるキャラクターを主役に置くことで、同じストーリーを異なる視点から見る楽しみを読者に提供し、内容を差別化することに成功しています。


・それぞれの作家が持ち味を出してはいるが・・・。
 肝心の内容ですが、それぞれの作家が全力で取り組んだ姿勢は確かに感じられました。作品間の連携体制にも確かなものがあり、序盤〜中盤の共通ストーリー部分でも、双方が打ち合わせた上であえて細部の展開を変えてみたり、コミックスに双方が入れ替えでおまけページに参入したりといった意欲的な取り組みも見られました。

 個々の作品を見ますと、まず「The Epic of JACK」の方は、こちらの方が絵が達者な印象があります。キャラクターの見た目はこちらの方が描き込まれており、かつ動的な作画でアクションシーンも躍動感があり、突出したものではないものの中々の完成度を有していたと思います。主人公のジャックが活発な少年ということで、少年マンガ的な明るさ、元気さがよく出ている作風です。
 対して、「The Song of RIDLEY」の方は、やや作画に固いところがあり、アクションシーンも今ひとつ描き慣れていない部分が散見されます。キャラクターの描き方もシンプルで、「JACK」ほど描き込まれたところは見られないようです。しかし、こちらの方はキャラクターの心理描写が落ち着いてよく描かれており、内面の描写では一歩上かもしれません。特に、ヒロインのリドリーは、原作でもジャック以上にストーリーの中核に位置し、世界と自分の運命の前に苦悩するシーンが何度も見られるのですが、そのようなストーリーの核心部分の描写では、こちらの方が読めるものがあるかもしれません。

「The Epic of JACK」 「The Song of RIDLEY」

 ただ、このようにそれぞれの作家が持ち味を出してはいるものの、全体を通してみれば大きく異なる印象がなく、かつ、どちらの作者も突出して上手さを感じられるほどの技量が見られず、RPGコミックとしてはやや平凡な作風に終始している点はやはり否定できません。どちらの作者も全力で健闘していることは確かですが、それでも他の優秀なゲームコミックほどではなく、平均的なRPGコミックにとどまってしまった感があります。そのため、連載開始当初こそ、連動企画の同時連載という話題性で盛り上がった部分はありましたが、連載を続けるうちに、それ以上さほど大きな盛り上がりを得られず、雑誌内でも比較的地味な連載作品となってしまいました。


・原作ゲームの低評価も盛り上がりに欠けた一因か。
 そして、マンガそのものの内容と並んで、盛り上がりに欠けたもうひとつの一因として、原作ゲームの方も評価が芳しくなかったことがあるかもしれません。
 原作ゲームの「ラジアータストーリーズ」は、トライエース制作のゲームの中では、評価は今ひとつで、同社の人気シリーズである「スターオーシャン」や「ヴァルキリープロファイル」ほどの話題性を得ることができませんでした。シリーズものではない完全な新作で、意欲的なゲームデザインも見られる作品ではあるのですが、肝心のゲームの出来は決して良いとは言えず、比較的早い時期にプレイヤーの話題から消えてしまいました。

 このゲームの最大の売りは、ゲーム内で流れる時間に合わせて、数百人のキャラクターたちがそれぞれ独自の行動を行うというデザインで、箱庭的な世界で見せるキャラクターの個性が大きな見ものでした。かつ、その中で仲間に出来るキャラクターが150人以上いるというのも最大のポイントで、仲間集めの楽しみを追求したゲームとなっていました。そして、これらの要素については、確かに見るべきところがあったのですが、しかしそれ以外の部分があまりにぱっとしませんでした。

 まず、せっかく150人以上ものキャラクターを仲間に出来るのに、肝心の戦闘で使えるキャラクターがごく少数で、それ以外の大多数に魅力が乏しかったのが、最もいけませんでした。序盤のうちに仲間に出来るのは弱いキャラクターのみですが、彼らをいくら育てたところで、終盤で仲間になる強いキャラクターには絶対にかないません。キャラクター間に厳然とした格差が存在しており、どうしてもそれをひっくり返すことができなかったのです。しかも、このゲームは、トライエースのRPGにしてはボリュームがあまりにも少なく、その気になればあっという間に中盤、終盤へと到達してしまいます。これでは、序盤の弱い仲間をあえて使う機会など、ほとんどなかったと言ってもよいでしょう。

 また、その戦闘についても、トライエースの他のゲームほどには面白くありませんでした。結局のところ強い技を連発でごり押しするだけの戦闘となっており、リンクシステムや命令システム、ボルティブロー(必殺技)などのこのゲーム独自のシステムが、ほとんど意味のないものとなっています。

 そして、システムだけでなく、ストーリーについてもいまいちな評価しか得られませんでした。ストーリーの骨格自体は悪いとは思いませんでしたが、全体的に一本道で、かつボリュームが少なく、物足りなさが残ります。序盤のうちは完全に一本道で、それがかなり長く退屈です。中盤になって一時期自由度が増し、各種サブエピソードを楽しめるあたりが一番面白いのですが、それも束の間のことで、ゲームはじきに終盤へと進んでしまいます。
 そして、終盤での最大のポイントである、ストーリーが2つに分岐した後の展開も、さほど面白いとは言えませんでした。どちらに進んでもボリュームの少なさ、イベントの少なさが致命的で、あまり深く語られないうちにエンディングまで到達してしまいます。エンディングの内容も、必ずしも満足できるものではなく、まだ何か語り足りていないような物足りなさがあります。あまりに物足りない終わり方だったので、2つのエンディングを両方とも見た後に、真のストーリーが始まるのではないかと考えたプレイヤーも大勢いましたが(わたしもそのひとりです)、そんなものは影も形もありませんでした。


・終盤からラストにかけてのオリジナル展開は評価できる。
 そして、このような内容だったがために、多くのプレイヤーにとって満足できるものではなく、ほとんどのプレイヤーが早期にこのゲームをやめてしまいました。特に致命的だったのが、やはりゲームのボリュームの少なさで、早い人なら20〜30時間程度で終了してしまいます。その上で、何度も再プレイしたくなるようなやりこみ要素にも乏しく、せいぜい2つのルートでそれぞれのエンディングを見てしまえば、それ以上やる気になれずに、誰もがゲームから離れてしまいました。

 そして、ゲームがこのような状態だったがために、コミック化作品自体も最初から話題性に乏しく、連載開始時点でさほど大きな関心を持たれていなかった点は否定できません。しかも、連載が進んでゲームの発売日から離れるにつれて、さらに注目度は低くなり、それ以上人気を回復することは最後まで出来ませんでした。トライエースの他のゲームシリーズ、とりわけ「スターオーシャン」や「ヴァルキリープロファイル」が、発売以降長い間根強い人気を誇り、そのコミック化作品もゲームとの相乗効果でさらに人気を高める展開に至ったのとは、完全に正反対の状況で、連載を続ければ続けるほど話題性を失い地味な連載へと陥ってしまったのです。

 しかし、そんなコミック化作品ではありましたが、それでも終盤からラストにかけての展開、それも原作ゲームを大幅に補完するオリジナル要素が多数含まれる展開には、見るべきものがありました。

「The Song of RIDLEY」

 後半の分岐点以後、ふたつのストーリーに分かれてからの内容には、双方の連載共にかなりの力が入っていました。原作ではどちらもかなりの点で物足りなさが残ったのですが、コミック版では、様々な部分で大幅にエピソードが追加されており、一気に読み応えが増しています。ストーリー展開もオリジナル部分が多数盛り込まれており、原作ゲームの悪役で主人公にあっさりと倒されたクロスというキャラクターが、コミック版ではラストの戦闘(ラスボス戦)まで生き残って存在感を示すなど、原作ではあまり重視されなかったキャラクターの活躍も見られるようになりました。そのラスボス戦の展開も、原作とは大幅に変わっています。
 さらに、「The Epic of JACK」の方では、エンディングの内容まで大きく変わっています。原作では非常に物足りない、主人公がその後どうなったか分からないような中途半端なエンディングでしたが、さすがにコミック版では、きっちりと主人公のその後まで語り尽くした、明るい希望の持てるハッピーエンドとなっていました。対する「The Song of RIDLEY」の方は、基本的には原作に近いエンディングでしたが、それでもかなりの部分で改変が加えられており、元々は非常に暗澹とした終わり方だったのが、その後の明るい展望まできっちりと語られ、こちらも希望の持てる終わり方となっています。

「The Epic of JACK」 「The Song of RIDLEY」

 これらのラストの頃の連載は、前述のようにもうあまり話題性のない状態での掲載でしたが、それでも終盤のここに来てひどく読ませる展開を見せてくれたことは、やはり評価すべきところでした。全体的には今ひとつの感が拭えない連載でしたが、最後まで奮闘した努力はきっちりと考慮するべきでしょう。


「The Epic of JACK」 ・連動企画自体のコンセプトは良かったと思うが・・・。
 ただ、このように一部で作者の健闘こそ見られるものの、全体的な人気・評価ではやはり今ひとつで、連載を通して地味な展開に終始してしまったことは間違いありません。ガンガン系でのトライエース原作コミックは、多かれ少なかれいずれもがかなりの話題性を有し、成功して大きな人気を得た作品も見られる中で、この作品だけは、決して成功したとは言えない作品となってしまいました。

 加えて、雑誌をまたいだ連動企画としての成否も芳しくありませんでした。GファンタジーとガンガンWINGの双方で連載を行いましたが、とりたてて双方の雑誌で 連動するような企画ページは少なく、コミックスの発売に際してもやはり大きな企画は見られませんでした。これでは、さほど双方の雑誌に貢献したとは言えず、雑誌連動で企画を行った意味もさほど感じられませんでした。

 他の連動企画と比べても劣る部分が目立ちます。この「ラジアータストーリーズ」の同時連載が始まってまもなく(2カ月後)、今度はガンガンパワードも交えて3誌で(最終的にはガンガンも加えて4誌で)、あの「ひぐらしのなく頃に」のコミック化作品の同時連載が始まります。
 そして、こちらの方は大人気を獲得し、すべての作品がことごとく高評価を得るという、最高に近い形での成功を収めます。それに比べれば、この「ラジアータストーリーズ」のコミックは、さして話題になることもなく、人気も評価もいまいちと、対照的に最後まで地味な内容で終わってしまいました。

 ゲームコミックとしてもいまいちで、前述の「ひぐらしのなく頃に」との比較だけでなく、Gファンタジーでこの「ラジアータストーリーズ」と同じ号に連載が開始された「To Heart2」のコミックと比べても、やはり大幅に見劣りがします。これらの人気ゲームコミックの影に隠れ、最後まであまり存在感を示せなかったというのが、正直なところでしょう。

 連動企画自体のコンセプトは、決して悪かったとは思えません。原作ゲームの分岐ストーリーを再現するために、あえて2つの作品を別雑誌で同時に連載させ、2つの雑誌双方での盛り上がりを狙うというコンセプトは、十分に理に適ったものがありました。それで、実力のある作品をきっちり作りだせれば、盛り上がることも十分に可能だったはずです。

 しかし、実際には、作者の健闘こそ感じられるものの技量的にはいまひとつの内容で、原作ゲームもさほど人気・話題性を得られなかったことも大きく、地味な連載に終始してしまいました。のちの「ひぐらしのなく頃に」の連動企画が大成功した一方で、先んじて始まったこちらの方は成功できなかった。企画自体は決して筋の悪いものではなかっただけに、これは少々残念な結果に終わってしまったと言えます。

「The Song of RIDLEY」


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