<妖怪人間ベムRETURNS>

2012・1・18

 「妖怪人間ベムRETURNS」は、少年ガンガンで1993年12月号から開始された連載で、1995年7月号まで約1年半ほど連載されました。全20回の連載で、コミックスは5巻まで出ています。短期とは言えないものの、そこそこの長さで終わってしまった作品で、創刊以来の人気マンガが多かった当時のガンガンの誌面では、あまり印象には残らなかったようです。

 このマンガ、タイトルどおり、最近では実写ドラマにもなった名作アニメ「妖怪人間ベム」のコミカライズで、原作の基本設定やスタンスを踏襲しつつも、オリジナルの設定も多く盛り込まれた、一種のリメイク作品となっています。とりわけ、近未来が舞台となっているのが最大の特色で、特に連載後半はSF色がかなり強くなっています。「RETURNS」というタイトルは、そんな未来世界に妖怪人間たちが帰ってきたという意味なのかもしれません。

 作画は津島直人が担当。のちに講談社のコミックボンボンや角川のコミックエースで連載を行っており、そちらの方で知っている方が多いかもしれません。そちらでは、子供向けのマンガや、あるいはロボットものを多く描いています。しかし、この当時はエニックスで盛んに活動を行っており、このガンガンの連載以外にも、Gファンタジーの方でSF作品を一時連載していたこともありました。しかし、そちらも比較的短期で終わっており、ほどなくしてこのエニックスからは消えてしまいました。個人的にはかなり気に入っていた作家だけに、他社へ行ってしまったのは惜しかったなと思います。
 絵はかなりうまく、この原作ならではの独特のホラーシーン、アクションシーンもよく描けていて好印象でした。今見るとさすがに絵が古い感は否めませんが、それでもさらにずっと古い原作アニメのビジュアルを、うまくマンガの絵に落とし込んでいたと思います。今となっては古すぎて違和感の多いアニメのビジュアルよりも、こちらの方が自然に見えるかもしれません。

 内容においても、原作の路線である妖怪人間たちの妖怪・悪霊退治の話が面白く、妖怪人間らしさが出ていて好印象でした。ただ、作品の中盤から大きく路線が変わり、「神帝シキ」という強大な敵を相手に戦う連続ストーリーとなり、これは前半とは好みが割れるかもしれません。


・なぜガンガンで「ベム」なのか。
 それにしても、なぜガンガンでよりによって「妖怪人間ベム」なのでしょうか。当時のガンガンは、今でも知っている人は多いように、「ロトの紋章」を始めとするオリジナルの人気マンガを多数抱えていて、それらだけで十分すぎるほどの誌面が出来上がっていました。そんな中で、なぜあえて外部の作品である「妖怪人間ベム」のコミカライズを行うことになったのか。

 Wikipediaの記述によると、「小学生の怪談ブームを背景に企画され、1997年春のテレビアニメ化やゲーム化などメディアミックス展開の予定もあった」ようで、実は随分と壮大な展開も考えていたようです。実は、当時のガンガンは、このような外部からの企画、あるいは他社出身の作家の起用を積極的に行っており、様々な作品を取り入れようと模索していた節があるのです。

 その最たるものが、何人も起用されたジャンプ出身作家による連載、もしくは読み切りです。ゆでたまごが連載し、車田正美が読み切りを執筆し、さらには江川達也まで連載を行いました。しかし、そのいずれもが成功したとはいえず、この試みはやがて立ち消えとなってしまいます。
 さらには、青年誌出身作家の起用も多かった。こちらからは、いがらしみきお(「忍ペンまん丸」)、くぼたまこと(「GOGO!ぷりん帝国」「天体戦士サンレッド」)などの成功した作家が生まれています。逆に、ジョージ秋山(「ドブゲロサマ」)のような一世を風靡した怪作で終わったものもあり、明暗を分けています。ただ、後のガンガンでは、このような青年誌作家の起用は行われなくなり、結局のところこの流れも収まってしまいます。

 そして、この「妖怪人間ベムRETURNS」もまた、そういった外部からの起用作のひとつと見てよさそうです。当時のガンガンには、このような外部に企画や作家を求める傾向が確かにありました。「ロトの紋章」や「ハーメルンのバイオリン弾き」「魔法陣グルグル」などの人気作の影に隠れて見逃されがちですが、一方でこのような動きがあったことは覚えておくべきでしょう。


・妖怪人間のコンセプトをしっかりと再現。
 「妖怪人間ベム」といえば、醜い姿で生まれてしまった主人公たちが、「早く人間になりたい」と願いつつ、人間にあだなす妖怪たちや、あるいは悪い人間たちを退治するというストーリーで、そこに見られる「人間離れした醜い妖怪が、誰よりも人間らしい心を持っていて、人間たちを助ける」という重厚なテーマ性こそが、最大の持ち味でした。このコミック版も、基本設定は若干違えどもこのコンセプトは健在で、骨太で読ませる話になってたと思います。

 このマンガ独自の設定としては、まず妖怪人間たちの生みの親が、「ベリメリ共和国なる国家のゼウス博士」となっていて、彼に生み出された人工生物ということになっています。さらには、三人を軍事利用しようとする共和国に対してゼウス博士が抵抗し、彼ら妖怪人間が解放されたというくだりとなっています。原作アニメでも、ある科学者の実験により生まれたという点では共通していますが、ここまで具体的な固有名詞と誕生の経緯が出てくるのは、このマンガだけでしょう。

 さらには、前述のように作品の舞台は近未来で、「獣人(キメラ)」という差別・迫害される人種が存在し、迫害に苦しむ彼らを助けるというコンセプトも盛り込まれています。また、人間を襲う妖怪や悪霊を退治するという点は共通ですが、その正体は「妖獣」という怪奇生物となっているなど、全体的にSF的な本格設定が加えられていることが分かります。

 そして、妖怪人間たちが、この「妖獣」たちを退治するストーリーが面白い。原作同様、1話完結形式のストーリーとなっていますが、毎回プロットがよく練られて読ませる話になっていました。また、話が面白いだけでなく、津島さんの手で描かれるホラー描写がひどく本格的で、極めてグロテスクな描写もよく見られました。今のガンガンではちょっと考えられませんが、この当時のガンガンは、こういったグロい描写・濃い描写は珍しくありませんでした。また、津島さんの描くメインキャラクター、特にベムがかっこよかったのもポイント。原作よりもさらにゆったりとしたコートを着て(全身を覆うマントのようなイメージ)、重厚さを漂わせる言動と妖怪たちを打ち倒すアクションシーンの力強さに惹かれました。キャラクターについては原作よりもこっちの方が好きですね。

 総じて、人間の心を持つ妖怪人間たちが妖獣たちを倒すという原作譲りのコンセプトと、本格的なSF設定やホラー描写で、決して悪い作品ではなかったと思います。残念ながら、このマンガを語る人はあまり見かけないのですが、実はこれも当時のガンガンの良作のひとつではなかったかと思っています。


・ただ、後半の神帝シキ編はオーソドックスなマンガになってしまった。
 しかし、そうした1話完結形式の妖獣退治が続くのは、連載の中盤まで。それ以降は、「神帝シキ編」という連続ストーリーに突入してしまい、作品のスタイルが大きく変わってしまいます。

 設定によると、この世界はメリゴ連邦(アメリカ大陸)・ユーロニア共和国(ヨーロッパ)・タキオン帝国(ユーラシア大陸)の三大国が支配しているらしく、その中でもタキオン帝国の「神帝」シキが暴君として君臨、人間たちをひどく苦しめるようになり、妖怪人間たちがこのシキを最大の敵として倒すというストーリーになるのです。シキの君臨する帝国の首都も、巨大な未来都市といったビジュアルで、これまで以上にSF的な要素が強くなり、何よりも「巨大な敵を倒す」という少年マンガ・バトルファンタジー的な要素のひどく強いストーリーになります。

 これはこれで、確かに一定の面白さはあったかもしれませんが、しかし今までの妖怪人間ならではのコンセプトからはかなり外れ、ごくオーソドックスなマンガになってしまったという趣きで、個人的にはかなり微妙に感じてしまいました。これまでの妖獣退治の1話1話が面白くて気に入っていただけに、余計にそう感じてしまったのかもしれません。
 巨大帝国の帝王を倒すということで、最後には極めて壮大なストーリーとなり、盛り上がりという点では悪くなかったと思います。が、それでも意外に早く終わってしまったところをみると、さほど読者の反響は得られなかったのかもしれません。前述のように、このマンガは、のちのテレビアニメ化やゲーム化などメディアミックス展開まで考えていたらしいですが、肝心のマンガが早期に終わったところを見ると、やはり失敗だったのだと思います。


・これもまた、当時のガンガンを象徴する一作だった。
 あるいは、逆に、前半の1話完結形式の人気がさほどでもなく、伸び悩んだ末のテコ入れのために、このような本格ストーリーを持ってきたのかもしれません。この推測が正しければ、そもそもこのマンガ自体、最初からさほど成功していなかったことになります。

 実際のところ、その可能性はかなり高いと思います。当時のガンガンを読んでいた読者の間でも、このマンガが話題に出てくることはごくまれ、というかほとんどありません。あの頃のガンガンは、創刊初期の頃からの人気マンガ「ロトの紋章」「南国少年パプワくん」「ハーメルンのバイオリン弾き」「ZMAN」「突撃!パッパラ隊」「魔法陣グルグル」「TWIN SIGNAL」等がこぞって健在で、ほとんどの読者はそれ目当てに雑誌を読んでいました。逆に、それ以外のマンガ、とりわけ93〜94年頃に出たマンガで、成功したマンガは多くなく、ほとんどの読者の記憶には残らなかったのではないかと思われます。

 とりわけ、この「妖怪人間ベムRETURNS」は、ガンガンオリジナルの作品でもないですし、あくまで原作ははるか昔に放映されたアニメ。熱心な読者の興味をさほど引かなかったことは十分に考えられます。他の原作付き作品、あるいは外部作家の作品も、多くがあまり成功しなかったことから、これもそんなマンガのひとつになってしまったと見ていいでしょう。

 しかし、今振り返ると、このマンガは決して悪い連載ではありませんでした。新たに近未来に設定し直した本格的なSF設定もよかったですし、何より妖怪人間のコンセプト(誰よりも人間らしい心を持っている妖怪人間が、人間を害する妖怪を倒す)を忠実に守っていたのがよかった。津島さんの絵によるグロテスクなホラー描写もインパクト充分。今読んでも楽しめるマンガだと思います。
 それゆえに、このマンガが、当時ガンガンを読んでいた読者の間ですら、ほとんど話題に上ることなく、完全に忘れられているのは残念ですね。当時のガンガンが行っていた外部からの起用で、そして今のガンガンでは見られない濃いグロテスクなホラー描写。これもまた、当時のガンガンを象徴する一作だったと思うのです。


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