<浪漫倶楽部>

2002・3・23

 このマンガは(わたしにとっては)エニックスコミックの10余年の歴史の中でもベスト1です。単純にクオリティのみを見れば、これよりも優れたマンガは他にもあると思うんですが、しかし一番印象に残っているのはこの「浪漫倶楽部」なのです。世間的には決して知名度の高くない「知る人ぞ知る」マンガになっていることが残念ですが・・・。連載開始が1995年の6月と、もはやはるか昔日の作品となりましたが、今からでもこの作品の魅力について自分なりに紹介してみようと思います。


 この作品についてまず言っておきたいのは作者が自分の描きたいものを、楽しんで描いていることです。「自分の作りたいものを作る」というのはすべてのクリエイターにとって理想ですが、必ずしもそれが実現されないのが世の中の哀しいところ。マンガひとつとっても、編集側の都合によって強制的に別のマンガを描かされたり、あるいは一応は自分のマンガであっても、連載を重ねるにつれ惰性が入ってきて「ただルーチンワークをこなすかのように」マンガを描いているという例は少なくありません。
 しかし、この「浪漫倶楽部」は作者の天野こずえさんが本当に自分の描きたいものを、楽しんで描いていることが読んでいて伝わってきます。天野さんは当時新人で、このマンガが初連載作品ですが、その新人らしい元気のよさが伝わってきます。しかも連載の最後までその勢いが途切れることはありませんでした。わたしはまず何よりも、マンガの内容以前にこのことを言っておきたいのです。

 さて、肝心の作品内容についてですが、テーマがストレートに伝わってくることが最大の魅力です。とにかく作者の言いたいことが直接的に伝わってきて、じつに明快で分かりやすい。
 内容について触れます。このマンガは、夢が丘中学校の名物クラブ「浪漫倶楽部」のメンバーが、学校の周りで起こるちょっと不思議な事件を解決していく、という一話完結形式の作品です。
 日常の中のファンタジーということで、そういった幻想的な世界観も魅力的ですが、しかしテーマ的にはわりとシビアです。「自分ではどうにもできない願いを持っている弱い存在」が夢が丘の霊的な力を借りて不思議な事件を起こしていて、その願いをかなえるために浪漫倶楽部のメンバーが奔走するわけですが、「弱い存在が常に物語の主役」ということがこのマンガの最大の特徴です。

 そもそも少年マンガというのは、常に強い存在が主役です。最初から主役が強い場合もありますし、はじめのうちは弱くても、闘いや試練や障害を乗り越えて強くなっていくストーリーも多い。
 いかにも少年マンガらしい力強いストーリーで、それはそれで結構なことでしょうね。しかし、世の中の仕組みというのは必ずしもそんな単純なものではありません。世の中には、自分では何もできない、小さくて弱くてどうしようもない存在というものが確かにいるのです。いや、むしろそのような存在のほうが多いでしょう。そのような存在にスポットを当てて、テーマ性の強いメッセージを発していることがこのマンガの最大の魅力だと思うのです。

 ところでこういった弱い存在が主役の物語の場合、往々にして感傷的になりすぎて、いわばお涙頂戴の感動させるだけのストーリーに陥ってしまいがちですが(ギャルゲー系のビジュアルノベルにそういうのが多い)、このマンガの場合は作品全体をとりまく明るい雰囲気、とくに浪漫倶楽部のメンバーの明るい前向きな性格によって救われている部分が多く、読後感は非常にさわやかです。このあたりのバランスのよさもまた魅力ではないかと思います。

 さらにこのマンガの特筆すべきポイントとして楽しい学園生活を存分に描いている点があります。このマンガのテーマを作者の天野さんは「終わらない放課後」といっておられますが、これはまさにその通りです。
 そもそも学生時代というのは、時間的な制約が少なく、立場的にも割と自由で、気の合う友達も多く、おそらく人生で最も楽しい時間になると思います。しかし実際には、受験勉強や部活でひどく忙しかったり、友人との関係に悩んだり、今の自分の存在や将来に対する不安にさいなまれたりと、必ずしもすべてのひとが楽しい学園生活を送れるわけではないようです。そして学生時代が終わったあとになって「もっとあの学園生活を楽しんでおけばよかった」と後悔するようになるのですね。いや、経験者が言うのだから間違いありません(笑)。
 天野さんもどうもわたしと近い存在のようで、かつて失われた「楽しい学園生活、気の合う仲間たちとの楽しい放課後」を存分に描いています。マンガやゲーム、小説や映画などあらゆるジャンルで学校が舞台の作品は存在しますが、これほどまでにストレートに魅力的な学園生活を描いた作品は他にないでしょう。かつて学生だったひとは楽しかった、あるいは楽しく過ごすはずだった時代を思い出しつつ、いま学生のひとはまさに自分の生活と重ね合わせて楽しむことが出来ます。
 非日常、ファンタジーの要素が入っているというのもいい。こういった学園もの+ファンタジーなんてのはマンガやゲームでは枚挙にいとまがありませんが、この「浪漫倶楽部」はその中でも最高の作品のひとつです。


 この作品は必ずしも完璧な作品ではなさそうです。計算され尽くしたストーリー展開とか、完璧に構築された世界観とか、そういったクオリティ面だけならこれよりも優れたマンガはいくらでもあるでしょう。「浪漫倶楽部」はとにかく作者が描きたいものを素直に描いた、テーマ第一ともいえる作品で、ストーリーはあとからつけたという印象が強く、さらにまだ天野さんが新人で成長段階だったこともあって、まだまだ荒い点も多いのです。
 しかし、そんな点を完全にカバーしてなお余りあるほど、このマンガは絶対に面白い。やはりマンガは自分の描きたいものを描いてこそでしょう。これほど作者の想いがストレートに伝わってくる作品は多くはないと思います。


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