<最遊記>

2001・11・12

 いまやGファンタジーの看板どころか、エニックスの看板にもなりつつある、「最遊記」について今さらながら検討してみます。

 この作品が始まったのは97年初頭ですが、開始当初はここまで発展するとは誰も思いませんでした。最初からキャラクターを中心に女性人気は高かったんですが、それでもマイナー系の雑誌連載ということでさほど大きな話題にはならず、徐々に口コミで人気が広がると言う程度でした。
 しかし、連載を何年も続けるうちに次第に人気が高まり、まずエニックス自身の手でOVA化。そして2000年の春にテレビアニメ化されることで信じられないほどの大ブレイクをします。アニメ化するやいなやGファンタジーが店頭から消えた事態は記憶に新しい。いや、アニメの恐ろしさをまざまざと見せ付けられましたよ(笑)。だが、一方でアニメ化する以前から相当な人気を確立していたことを忘れてはいけません。アニメ化でブレイクするのは必然といえるほどの人気が既に存在していたのです。

(余談)
 それにしてもエニックスのようなマイナーな存在だとどうしてもテレビアニメの影響をもろに受けてしまいますねえ。いくら頑張っていい作品を描いてもアニメ化しない限りまるで知名度が上がらないというジレンマがある。かといってアニメ化してヒットすれば今度は外部の人間(*注1)がどばっと入ってきちゃって雑音(*注2)が激しくなっちゃったりするんですよねえ。難しいところです。

(*注1)外部の人間
 わたしは普段エニックスを読まない人をこう表現します(笑)。
(*注2)雑音
 ろくでもないファンが入ってきて作品のイメージが歪むことをこう表現します。「ろくでもないファン」って具体的にどういう人かって? それは各自でご判断ください。

 話がそれましたね。さて、このように「最遊記」の発展の経緯をたどってきましたが、実際のところ内容面ではどうなのか。
 もともとキャラクターの女性人気が高く、さらにアニメ化で飛躍的に女性ファンが増大したこともあって「女性向け」のイメージが先行していますが、別に内容まで女性向きではありません。ストーリー自体は「西遊記」をモチーフにした旅・冒険・バトルものといった感じで大筋は全然難しくない。作者の峰倉かずやさんはもともとは女性向け同人作家だそうですが、この作品に関してはそのような要素は全くなく、ほぼ万人向け・・・それもかなりの低年齢層でも楽しめるであろう、懐の深さがあります。(実際アニメ化で知名度が上がって以来、男子小中学生の新規ファンが急増したそうです。)
 まあ、主要キャラクターが美形の男性4人ということで、そういう見方をすれば「女性向け」なのかも知れませんが、わたしはそのような考え方はあまり好きではありません。(注3) 内容とか、コンセプトとかをちゃんと見るべきでしょう。

(*注3)
 そもそもわたしは、かわいい女の子が出てくれば男性人気が上がり、逆にかっこいい(かわいい)男の子が出てくれば女性人気が上がるという今の傾向が好きではありません。まあ「最遊記」に関しては内容面(ストーリー)も充実しているから別に構わないんですが、それにしてもキャラクター主導で人気が出てきたのは明らかなところ。このあたりの風潮はなんとかならないものでしょうか。

・実はストーリーの大筋自体は単純明快。
 さきほど「低年齢層でも楽しめるであろう」などと書きましたが、その言葉が示すとおり、このマンガのストーリーはそんなに難しいものではありません。「西遊記」のメンバー4人が妖怪や悪人を退治しながら旅を続けるというもので、大筋だけなら単純な「悪者退治」です。マニアックな内容の多いGファンタジーの連載陣の中でも、比較的とっつきやすいマンガといえるでしょう。さらにバトルアクションのシーンもあり、ビジュアル的にも見るだけで単純に楽しめるものになっています。
 この点がまずこのマンガを評価できる第一の点です。難しいことを考えなくても、単なるバトルアクション・冒険ものとしてストーリーを追うだけで充分楽しめるわけです。主人公4人のキャラクターも痛快だし、アニメ化で低年齢層のファンが急増したのもわかります。

・深いテーマがあり、考えて読めばより楽しめる。
 まあ、単純なバトル・冒険ファンタジーだけならそれなりの評価しか与えられませんが、それに加えてこの「最遊記」にはストーリーごとに非常に深いテーマが与えられています。敵対する側のキャラクターにも、あるいは主人公側にも何らかの事情とか信念とかいうものがあり、単純に勝った負けたでは済まない深いテーマが与えられている。
 ずばり、これが「最遊記」の最大の魅力です。単純なバトル・冒険ものとしても充分楽しめるけど、これらのテーマを追求して深く読み込めば読み込むほどさらに面白くなる。浅い読み方も、深い読み方も可能な懐の深さがある。ただのマニア向けのマンガにはとどまらない「柔軟性」があると思います。

・作りこまれたビジュアルと世界観も魅力。
 さらにこのストーリーをバックアップする絵と世界設定もレベルが高い。絵に関してはかなり「濃い」感じのする絵で、人によっては好みが割れそうですが、物語の雰囲気は良く出ています。さらに特筆すべきは世界観で、中国古典「西遊記」をベースに、ファンタジー・SF・現代ものなどの要素がふんだんに取り入れられ、新しいイメージの「西遊記」を見事に確立しています。このあたりはいかにもマニアックで、さすがにGファンタジーの連載といったところでしょうか。


・まとめ。
 さて、結局何が言いたいかというと、この「最遊記」は女性向けのイメージが先行してはいるが、実際の内容はそのようなことはなく、むしろ低年齢層ですら楽しめるような明快なバトル・冒険ものといった感じで、非常に懐が深い。それに加えて各ストーリーに深いテーマがあり、深く読み込めば読み込むほどより楽しめる柔軟性も持ち合わせている。ビジュアル・世界観的にも問題なく、誰が読んでも楽しめる作品といえるだろう。これが結論です。
 とはいえ、女性が描く男のストーリーということで、そのあたりのビジュアルや設定に抵抗を感じる人は内容以前にだめでしょうね。さらには最初に女の子のキャラクターから入ってくるようなキャラクター主導の人とか。まあ、どちらも内容うんぬん以前の問題ですが。


2002・2・10

<移転にあたって追記>
 作品自体はほぼそのままで別雑誌(「ZERO−SUM」)に移籍してしまいました。これは作る側の事情なので一読者としては何とも言えませんが・・・新天地でも頑張ってほしいものです。まあ峰倉さんならどこでも大丈夫でしょう。


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