<スターオーシャン そして時の彼方へ>

2010・2・27

 「スターオーシャン そして時の彼方へ」は、エニックスから96年に発売されたRPG「スターオーシャン」のコミック化作品で、少年ガンガンで1998年4月号から始まり、同年の10月に終了した作品です。約半年、全7回という短期連載で終了しており、コミックスも全1巻で完結しています。

 このマンガが開始されたときのガンガンは、月2回刊行時代から月刊へと移行しており、再月刊化の際に多数打ち出された新連載の一角となっています。これと同時に開始された新連載としては、「GET!」(東まゆみ)や「Noesis〜ノエシス〜」(喜名朝飛)、「ワルサースルー」(たかなし霧香)など多数あり、あるいはこの前の号(月2回刊最終号)でも新連載を何本も打ち出しており、再月刊化のリニューアルに際して新しい連載を多数打ち出した形となっています。
 しかし、これらの連載のほとんどは、最初から短期での連載が予定されていたらしく、唯一人気を得て長期連載となった「ワルサースルー」をのぞいては、半年前後の連載期間を経てすべて終了しています。ゲームコミックであるこの「スターオーシャン」ですら例外ではなく、RPGという長編ストーリーの原作があるにもかかわらず、最初から半年の連載と決まっていたようです。

 そして、そのコミック化を担当したのがかぢばあたる。エニックスでは主にGファンタジーで何度か連載、読み切りを執筆を続けてきた作家で、他社での連載も含めてゲームのコミカライズ作品をよく手がけています。一方で、オリジナルのファンタジーものでも個性的な作品を残しており、実直な仕事ぶりが光る実力派の作家だったと思います。しかし、エニックスでの仕事は、この「スターオーシャン」が最後となり、これ以後は見られなくなってしまいました。このマンガ自体も、最初から半年という短期連載と決まっていたため、あまり盛り上がることなく、今となって覚えている人もそう多くはないと思います。

 しかし、内容的には手堅くまとまった良作となっており、決して悪い作品ではありません。半年という制約の中で、うまくゲームのストーリーをまとめており、様々な要素が大幅に省略された点は否めないとしても、それでも中々に読める作品になっていると思います。


・かぢばあたるとは?
 かぢばあたるは、1992年にエニックスのマンガ賞で佳作を取ったことが記録に残っていますが、当初はエニックスでの仕事はなく、当時新声社から出されていた「コミックゲーメスト」に、アーケードゲーム「戦国エース」のコミカライズを連載したのが、初めての連載ではないかと思われます。

 その後、今度こそエニックスのGファンタジーで、「ゼルダの伝説 夢を見る島」の連載を開始。これもゲームコミックで、任天堂の同名のゲームボーイソフトのコミック化作品でした。さらに、連載終了後、今度はSFCソフトの「ゼルダの伝説 神々のトライフォース」の連載も行います。ゲームの発売順では「神々のトライフォース」の方が先なのですが、当時発売が近かった「夢を見る島」がコミック化され、好評を受けて前作の方もコミック化したという流れでした。この2作では、先に連載された「夢を見る島」の方が優れており、作者のオリジナル要素がほどよくミックスされた良作となっていました。逆に、「神々のトライフォース」の方は、原作にない作者のオリジナルキャラクターが最後まで登場するなど、アレンジが過ぎた感があり、いまひとつだったと思います。

 こうして、ゲーム原作の連載を何度も続けたため、ゲームコミックの方で有名になってしまいましたが、オリジナルでも色々と暖めていた作品はあったようで、96年から「エラガバルス」という待望のオリジナル連載を開始。真面目で硬派なファンタジー作品となっていて、かなりの意欲作だったと思うのですが、しかし人気の上ではいまひとつだったのか、それとも他に理由があったのか、比較的短期の連載で終了してしまいました。

 彼の作風は、一昔前の純粋なファンタジー、もしくは少年マンガ的な要素が色濃く残っていることが最大の特徴です。特にバトルシーンでの格闘戦には非常にこだわりがあるようで、巧みな体術を駆使した接近戦でのバトル描写にうまさを感じます。その一方で、キャラクターの萌え要素を出したマンガには抵抗を覚える向きもあったようで、「昔はキャラクター中心のゲームコミックを描くことに抵抗があった」「最近のエニックスの萌え寄りの方向性はどうかと思う」といった発言をしていたことを覚えています。

 そんな風に、旧時代の硬派なファンタジー作品への志向の強いかぢばさんですが、それはこの「スターオーシャン」でも顕著に感じられ、力強い少年マンガらしいストーリーと、迫力のバトルシーンに大きな力が入っているようです。短い作品ながら、作者らしさは存分に出ていたとみてよいでしょう。


・主人公の熱血ぶりが光る、SF+ファンタジーバトル作品。
 原作ゲームの「スターオーシャン」は、SF的な設定とストーリーが大きな特徴で、この作品でもそれは存分に活きています。ゲーム冒頭の頃は特にSF的な雰囲気が強く、宇宙船に乗ったキャラクターが未開の惑星に降下し、その惑星に住む主人公たちと接触、その星を蝕む巨大な悪と立ち向かうというストーリーは、王道ながら壮大なスペースオペラを感じさせるもので、導入部の印象は大変良好です。その後、原作ゲームでは、未開惑星上でのファンタジー的な世界での冒険に移り、大きく雰囲気がファンタジーにシフトするのですが、このコミック版は1巻という短い量でまとめられているためか、原作のストーリーの骨子の部分であるSF的なストーリー部分の比率が高くなっており、最後までSF的なストーリーが前面に出ていたと思います。これはむしろ原作よりも好印象でした。

 主人公たちの住む惑星を巻き込む大きな陰謀に立ち向かうストーリーも、主人公であるラティの強い正義感に満ちた熱い行動を軸に、それを周囲の仲間たちがしっかりとサポートして進んでいくもので、これも王道ながら気持ちのいいものに仕上がっています。主人公の冒険に参加する幼馴染のヒロインのミリー、彼らを強力にサポートする地球連邦の大佐・ロニキスと彼の副官のイリアら、メインキャラクターたちの個性はどれもうまく描かれていて、見た目でもかぢばさん独自の絵柄は入ってはいるものの、中々にうまく原作のイメージも再現していると思います。

 そして、かぢばさん最大の持ち味である、巧みな格闘戦の描写が最も見ごたえがあります。SF的なストーリーなので、銃兵器やロボットなどの現代的・未来的な要素も多分に出てきますし、一方でファンタジー世界らしい強大な力を持つ魔王のようなモンスターも登場しますが、そんな強大な敵に対しても、主人公たちが持ち前の剣術や体術で果敢に挑み倒していく。中でも、原作でも格闘術の心得があるとされるイリアは、このコミック版でも活躍がめざましく、格闘バトル好きの作者によって存分に愛されたキャラクターとなっているようです。


・わずか1巻でうまくまとめているとも言えるし、致命的に分量が足りなかったとも言える。
 しかし、このように原作のSF的なストーリーをうまく構成し、キャラクターやバトル面での描写も十分合格点で、実際よく描けていると思うのですが、それでもこのわずか半年の連載期間、コミックス1巻でRPGのストーリーすべてを描くのは、到底無理がありすぎました。

 原作では、主人公が行く先々の街や村、ダンジョンで、幾多のエピソードがあるのですが、このマンガで描かれるのはあくまでストーリーの主要な部分のみ、ラティの惑星での旅のほとんどが省略されてしまっています。第1話と第2話で主人公たちの出会いと冒険への旅立ちが描かれるまでは、ペースも妥当でちょうどよかったのですが、第3話以降は急速にストーリーが進んでしまいます。第3話で物語のメイン舞台である300年前の惑星へとタイムワープし、ここまでの展開は原作と同じですが、それ以降の惑星での冒険のほとんどが省略され、第4話の時点でこの物語の謎の多くが明かされ、第5話でその惑星のクライマックスである魔王との戦いに突入し、第6話では早々と現代に戻って最終決戦となり、第7話の最終回でラスボス戦と、物語の中心を占める惑星での冒険が大きく省略され、本当に骨子のみとなっています。はっきりいって、この内容ならば、原作のストーリーのダイジェストと言ってもいいくらいでしょう。これではまさに「スターオーシャン ダイジェストコミック」です(笑)。

 そのため、原作に登場したメインキャラクターの多くがまったく登場しません。原作では合計で12名ものパーティーキャラクターが登場するのですが、コミック版ではラティ・ミリー・ロニキス・イリアのメインキャラクター4名だけで、それ以外のキャラクターはひとりも出てきません。もっとも、この4名が最も重要なストーリーの中心人物ですし、ダイジェストとも言えるこれだけの短い連載ならば、この4名に絞るのが妥当だと思いますが、それにしても原作で序盤から登場してきたシウスらがまったく出てこないのは寂しい。ちなみに、原作では、この4名のうち何人かがパーティーから一時離脱し、後半になって再合流するという展開になっているのですが、コミック版では尺の短さからそのような展開は一切なく、最初から最後まで4人一緒に行動しています。

 このように、短い連載ながらストーリーの骨子をうまくまとめている点は、作者の努力も感じられて大いに好感が持てるのですが、一方で原作のエピソードやキャラクターの多くが完全に省略されているこの内容では、やはりゲームコミックとしては物足りないものがあったと思います。


・最初から短い連載だったことが残念でならない。
 しかし、なぜ長いストーリーを持つRPGのゲームコミックなのに、ここまで短い連載となったのか。しかも、「スターオーシャン」はエニックスでもSFC末期の名作RPGとして人気も高く、続編の「2」や「3」はさらに人気を集めることになりました。そして、この2や3のコミックもガンガンで連載され、こちらの方はいずれも長期連載となっています。
 実はこの「スターオーシャン」のコミック、その「2」のコミックとの兼ね合いに原因があったようです。ガンガンが再月刊化した当時、すでに続編の「2(セカンドストーリー)」が発売されることが決まっていて、しかも発売も間近でした。そして、その発売の直後から、コミック版も連載する予定になったようなのです。そこで、「2」の連載を始める前に、前作である「1」の連載をやっておこうと、そんな企画だったようです。しかし、「2」の原作ゲームの発売後、コミック版連載予定時期までに、約半年しかない。そのために、その半年で終わるような非常に短い連載となってしまったのです。つまりは、本命である「2」の連載の前に企画された、前座的な扱いだったことは否定できません。

 加えて、ガンガンが月2回刊行から月刊に戻った時期に始まったというのも、大きな理由になりそうです。この時期に始まった連載の多くが、短期で終了したのは、最初からリニューアルした誌面を整えるための、一時的な連載に過ぎなかったということでしょう。あるいは、新人作家を試しに短期連載させたという理由もありそうです。例えば、この時にやはり半年の短期連載を持った東まゆみさんは、のちにその「スターオーシャン セカンドストーリー」の連載を担当しています。最初に半年の連載で短期調子を整えて、その後の長期連載に備えたのではないか。そう推測していいと思います。

 しかし、そのような雑誌側の理由で、この「スターオーシャン」の連載が、あまりにも短いダイジェストのようなコミック化に終わってしまい、ほとんどの読者の印象に残らなかったのは、ひどく残念だったと思います。のちに東まゆみさんが担当した「スターオーシャン セカンドストーリー」の連載が、長期連載となり大人気を獲得したのを見ても、このかぢば版「スターオーシャン」の不遇ぶりが際立ちます。もし、このマンガが、もっと早い時期に、96年に原作ゲームが発売されてからすぐに連載を開始し、まとまった期間を取って連載を続け、「スターオーシャン セカンドストーリー」の連載につなげられれば、それが最良だったのではないか。1巻という短さでも、作者の努力が顕著に感じられる良作となっているのを見ても、そう思わずにはいられません。


「連載終了・移転作品」にもどります
トップにもどります