<スターオーシャン Till the End of Time>

2008・2・3

 「スターオーシャン Till the End of Time」は、少年ガンガンで2003年6月号から2005年11月号まで掲載された連載作品で、(タイトルに3こそ付かないものの)スクウェア・エニックスのゲーム「スターオーシャン3 Till the End of Time」を原作とするゲームコミックです。これまでのスターオーシャンシリーズも、すべてガンガンでコミック化されており、このゲームも発売後しばらくして当然のごとくコミック化されました。ガンガンでは定番のゲームコミック企画と言えるかもしれません。作者は、この作品の前にガンガンで「パンツァークライン」というオリジナルのバトルアクションものを連載していた神田晶で、これが作者初のゲームコミックとなりました。神田さんは、この連載の終了後も、また別のゲームコミックの連載を担当することになります。

 ガンガンでは定番のスターオーシャンシリーズのコミック、しかも原作ゲームもかなりの人気を集めていた作品ということで、このマンガも大々的な告知と編集部の推進を受けて始まりました。しかし、その内容は今ひとつで、平凡なゲームコミックの域を出ませんでした。極めて平坦な面白みのない展開、そして絵的にもいまいちで、原作ゲームのイメージをあまり体現していません。そのため、かつての大人気コミック「スターオーシャン セカンドストーリー」とは比較にならぬほど劣った作品となり、同時期に連載を行っていた「スターオーシャン ブルースフィア」のコミック化作品と比べても、こちらの方が明らかに劣ることになりました。「ブルースフィア」のコミック化作品も、決して出来のいいものではありませんでしたが、このマンガはそれにすら及ばず、特に中盤以降はまるで盛り上がりませんでした。

 ラストも打ち切りに近いような、強引に速い展開であっさりと終了してしまい、これには原作ゲームのファンからも強い不満の声が聞かれることになりました。お家騒動後のガンガンは、ゲームコミックも決してふるわず、平凡なコミック化作品ばかりが軒を連ねるようになってしまいましたが、このマンガはその代表的な作品と言ってよいでしょう。


・なぜ神田晶なのか。
 まず、なぜこのコミック化の担当に神田さんが抜擢されたのか、それがよく分かりません。絵的には決して上手い作家とは言えず、比較的大雑把な描き方が目立ち、このマンガでも原作ゲームの絵を再現できていません。ゲームコミックならば、まず第一に原作のイメージ、雰囲気を再現できる絵師を採用してほしいものですが、神田さんの絵は、一目見るだけでも決してその要素を満たしているとは思えない。なぜこの作家を採用するのか、まるで分かりませんでした。のちに、神田さんは別のゲームコミックも担当することになりますが、こちらでも決して原作の絵を再現しているとは思えない。ゲームコミック向けの作家ではないように思えます。

 神田さんは、1999年に「ぼくらのポストマン」という読み切りでデビューしています。これは、マンガ賞で入選を受賞した作品で、同期の大賞にはあの荒川弘がおり、その受賞作(「STRAY DOG」)と同じ号のガンガンで、「ぼくらのポストマン」も掲載されました。内容は、さすがに荒川弘の「STRAY DOG」には及ばなかったかもしれませんが、それでも十分すぎるほど面白いギャグマンガとなっており、今後を期待させるには十分な新人だと思われました。

 しかし、その後長い間連載デビューはなく、お家騒動直前の2001年になってようやく、前述の「パンツァークライン」の連載を開始。しかし、この連載がまるでぱっとしなかったのです。デビュー作のギャグマンガとは打って変わって、極めて平凡なバトル系少年マンガとなっており、ストーリーの出来もいまいちで、伏線もまるで回収できずに矛盾だらけで連載を終了してしまいます。

 そして、その後しばらくして、この「スターオーシャン3」のコミック化作品を担当することになりますが、これも極めて平凡な作品となりました。はっきりいって、あの面白かったデビュー作の鮮烈なギャグマンガとはまるで異なる作品ばかりで、なぜこんな作品ばかりを連載することになったのかよく分かりません。デビュー作のギャグマンガがあれほど面白かったのだから、当然ギャグマンガでの連載を期待していたのですが・・・。単にガンガン編集部が求めていたマンガ(バトル系少年マンガ・定番のゲームコミック)ばかりを任され、作者本来の作品作りをさせてもらえなかったようにも思えるのです。


・絵があまりにもいまいち。
 まず、このゲームコミックが評価できない点は、さきほどからも散々書いている通り、絵のレベルの低さにあります。キャラクターの絵が雑に感じられるレベルで、作画全体を見ても決していいレベルではありません。原作の雰囲気を再現することが求められるゲームコミックの絵柄としては、いかにも弱い。

 特に、キャラクターの魅力が本当に弱いです。キャラクターの造形が弱く不安定で、一目見て魅力を感じられません。同じスターオーシャンのコミックでも、「スターオーシャン セカンドストーリー」(東まゆみ)は、そのキャラクターの絵の魅力は凄まじいものがありましたし、「スターオーシャン ブルースフィア」(水城葵)においても、東まゆみのセカンドストーリーには劣るものの、かわいらしいキャラクターの絵には一定の魅力がありました。要するに、どちらも萌え系の絵柄なわけで、キャラクター偏重の作品だからそうなのだと言われるかもしれませんが、ではこの「スターオーシャン3」のコミックはどうなのか。神田さんの前作「パンツァークライン」は、バトル系の少年マンガ的作品でした。そしてこの作品も、それと同系の絵になっているわけですが、どうにもこれが粗雑な作画であまり綺麗とは言えない。これは、ガンガンのほかの少年マンガ(的作品)にも共通する要素であり、その大雑把な絵にはどうしても魅力を感じることが出来ないのです。

 では、少年マンガ的作画の長所とも言える、「力強さ」は見られるのではないか? 実は、こちらでもいまいちなのです。勢いのある作画ではありますが、そこまで力強さを感じられない。特に問題なのは戦闘シーンで、あまり凝ったアクションの描写が見られず、魅力に欠けます。とりあえず必殺技や魔法を撃って派手な衝撃・爆発が走って敵が吹っ飛ぶといった、派手なエフェクトでごまかしただけの面白みに欠けるシーンが多い。これは、エニックスでも低レベルのマンガではよく見られる傾向で、実力派のベテラン作家(藤原カムイや堤抄子)の持つような戦闘アクションのうまさがほとんど見られません。これでは、バトル系のマンガとしても物足りなく感じます。


・ストーリーもアレンジの内容、ギャグが厳しく、面白いとは言い難い。
 肝心のストーリーも、決して面白いとは言い切れません。
 基本的には原作のストーリーの流れに沿って、そこに作者独自の解釈によるアレンジが加わるという構成なのですが、このアレンジの部分が決して面白くありません。
 まず、キャラクターの描き方の比重が原作と異なります。どうも主人公であるフェイトが目立たず、仲間キャラクターであるクリフとネル(特にクリフ)が目立つ内容になっています。まあ、元々原作でもこのふたりの方が人気はあったのですが、それにしても少々偏りすぎの感がありました。それ以外のキャラクターを見ても、重視されるキャラクターとそうでないキャラクターとでギャップが激しく、読者によって好みが割れる結果になりました。

 ストーリーのアレンジもいまいちです。割と重要だと思われるシーンが、ページの都合なのかひどく省略してあることが多く、これはひどく物足りない。それが作中で何度も繰り返された結果、いまいち面白みの無いストーリーになってしまいました。名作だった「スターオーシャン セカンドストーリー」が、アレンジが巧みで各エピソードをじっくりと描いて存分に楽しませてくれたのとは対照的で、なんとも味気ない内容となってしまいました。

 そしてもうひとつ、随所で挿入されるギャグが、ストーリーのシリアスな雰囲気を大きく壊しています。これは、作者の前作「パンツァークライン」でも散々見られた欠点なのですが、今作でももう一度繰り返されることになりました。本来ならば深刻なはずのシーンにまで、キャラクターがバカ騒ぎをするようなギャグが採り入れられているため、ストーリーそのものまで軽く見えてしまいました。これが、このマンガ最大の欠点かもしれません。
 また、このマンガは、姉妹誌のガンガンパワードにおいてたびたび外伝が掲載されましたが、このときもこのような狂騒的なギャグ中心の内容で、面白いと言える話はさほど多くありませんでした。外伝を何度も掲載するあたり、編集部はこのマンガをかなり推進しようとしていたようですが、肝心の内容がここまでいまいちでは、何度外伝を掲載しても盛り上がりませんでした。


・最後の打ち切り的な展開の速さが最も評価を低くした。
 そして、終盤に入ってからのストーリーの異様な速さが、このマンガの評価を致命的に下げることになりました。
 序盤のうちで少々進みが遅かったのを取り戻すためなのか、後半になってからの展開はひどく速くなり、個々のエピソードもはしょり気味になって面白さに欠けてきます。そして、最もいただけなかったのがストーリーの最終盤、原作では主人公たちが異世界に入ってからのストーリーです。この終盤のストーリーは、原作でもかなり破天荒なところがあり、賛否が大きく割れるところではあるのですが、マンガではさらにこの箇所が超速とも言えるスピードで消化されていき、エピソードの多くをすっ飛ばしてあっという間に連載終了してしまいました。ラスボス戦でさえ1話もかけずにあっという間に倒してしまう有り様で、何の重みもありませんでした。もう、ほとんど打ち切りに近い形とも見えましたし、これはここまで読んできた原作ファンの間でも不満が殺到したようです。

 おそらくは、決して評判のよくなかった本作を、後半以降早期に打ち切ることが決まっていたのではないかと推測できますが、それにしてもこれは少々ひどすぎました。同時期の連載だった「スターオーシャン ブルースフィア」の方が、終盤になって作品のクオリティが上がり、随分と盛り上がりを見せたのとは対照的な状態で、これでふたつの作品の優劣も決まったように思います。「ブルースフィア」の連載は、終盤でのレベルアップは大いに評価でき、全体的にも悪くない連載に収まったと言えますが、対してこの「スターオーシャン3」の連載は、完全な失敗作に終わったと言ってよいでしょう。


・お家騒動後ガンガンのゲームコミックの典型的な存在。
 このように、この「スターオーシャン Till the End of Time」、ガンガンでは定番と言えるスターオーシャンシリーズのコミック化作品でありながら、ひどく低レベルな作品に終始し、完全な失敗作に終わった感がありました。連載中もさして人気はなく、一部原作ファンの読者は付きましたが、決して評価はされませんでした。連載中にドラマCD化や小説化もされましたが、そこまでマンガに人気があるとは思えず、おそらくは原作ゲームの人気を見越した上での発売だと思われました。

 このマンガに関しては、まず神田さんをコミック化担当に起用したことが、第一の疑問でした。原作ゲームのイメージを再現するにふさわしいような画力を持っているとは到底思えない上に、作者本来の作風を無視してまでゲームコミックを描かせることに意味があるとは思えなかったのです。その後も、神田さんは別のゲームコミックの執筆に当たることになりますが(「シャイニングティアーズ」)、こちらでも到底原作のイメージを再現しているとは思えない粗雑な作画に終始しており、このような作者になぜ何度もゲームコミックの執筆をさせるのか、本当に疑問は尽きません。

 そして、肝心の連載経過もまるでぱっとせず、当初からストーリーのアレンジや未熟さや雰囲気を壊すギャグの挿入に違和感を覚え、後半以降は打ち切り的な展開の速さでまるで楽しめることなく終わってしまいました。連載期間は2年半、コミックスも7巻を数えていますが、それだけの中身のある連載だったとは思えません。この連載期間とコミックスの巻数は、奇しくも「スターオーシャン セカンドストーリー」や「スターオーシャン ブルースフィア」のそれとほぼ一致していますが、「セカンドストーリー」が紛れも無い名作、「ブルースフィア」も悪くない連載に収まったことを考えると、このマンガの失敗ぶりが際立ちます。

 そして、このゲームコミックの失敗は、お家騒動で路線変更を行ったガンガンで、この後も幾度と無く見られるようになります。騒動後のガンガンは、ゲームコミックでもふるわず、かつてのような良作・名作が影を潜め、このような粗雑で平凡な作品がほとんどを占めるようになり、これも誌面の低レベル化の一因となってしまいました。その代表的な作品にして、騒動前の名作「スターオーシャン セカンドストーリー」とまったく対照的に失敗した作品として、この「スターオーシャン Till the End of Time」の存在は、ひどく重要なものであると思われます。


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