<壮太君のアキハバラ奮闘記>

2004・3・16
全面的に改訂・画像追加2007・6・3

 「壮太くんのアキハバラ奮闘記」は、月刊Gファンタジーで2002年10月号から始まった連載です。連載の前に、何度か読み切り版が掲載されており、その好評も受けての連載開始となりました。作者は、元峰倉かずやのアシスタントとしても知られていた鈴木次郎。ペンネームに反して女性作家であり、これはマンガの内容と照らし合わせてもかなり意外な実像です。

 マンガの内容は、典型的なオタクネタマンガであり、主人公・壮太たちのディープなオタク趣味をネタにしたマンガとして、一部ではかなり有名です。最近では、この手のオタクネタマンガが一世を風靡しており、一部に非常に高い人気を得た作品も見られますが、この「アキハバラ奮闘記」も、中々の人気作品となっており、そんなオタクネタマンガの一角を占める重要な存在となっています。

 しかし、連載中期以降、作者が、同じGファンタジーの誌面上で、「ひぐらしのなく頃に」のコミック化作品を連載し始めたため、こちらの連載ペースが大幅に遅くなり、最終的には不定期連載となり、連載の勢いがかなり削がれてしまいました。内容的にも、作者のノリの趣くままにあまりにも妙な方向に暴走しまくってしまい、一時的に少々迷走した感があります。
 さらに最近では、ようやく連載ペースは元に戻ったと思いきや、なぜか主人公の壮太の出番はほとんどなく、彼女のエリの方にスポットが当たる内容となっていたり、しまいには、作中内で設定されたアニメ作品である「呂布子ちゃん」の方に作者がやたら入れ込んでしまい、そちらの方の外伝が優先的に掲載され、ついには「壮太君」本編が終了するという事態にまで発展してしまいました(2007年7月号で終了)。アニメ化もかなり前に発表されましたが、いつまでたっても実際にアニメ化されず、ようやく決まったと思いきや実はOVA化であり、しかも「呂布子ちゃん」メインで本編はほとんどなくなると告知されており、今後の展開にはかなりの不安があります。


・オタクネタマンガの隆盛。
 それにしても、昨今、この「アキハバラ奮闘記」のようなオタクネタマンガが、かなり数多く出るようになりました。いずれも、ディープなオタクネタを楽しめる真性オタクの間でかなりの人気を博しており、今や一つのジャンルとなった感すらあります。

 この手のマンガがいつ登場し始めたのか、詳しいことはよく分からないのですが、その原点のひとつとして、90年代後半の平野耕太のマンガが存在することは、ほぼ間違いないでしょう。この作者の描くマンガは、どれもとにかくオタク趣味が強く、アクの強い絵柄と毒のあるキャラクター、セリフが特徴ですが、そんな彼が描いた初期の名作「大同人物語」「進め!聖学電脳研究部」のふたつは、今のオタクネタマンガの先駆けとなった感があります。

 そして、その後アキバ系オタクの隆盛に合わせるように、この手のマンガが数多く現れてくるようになります。そんな中で、とりわけ非常に高い人気作品となり、この手のオタクネタマンガの代表作となったのが、「げんしけん」(木尾士目)です。この作品では、大学のオタクサークルの日常を自然体で描いた作風が特徴で、それがオタクの間で大きな共感を呼び、長期連載の大人気作品となります。
 そしてもうひとつ、この「げんしけん」と並ぶオタクネタマンガの代表的作品として、「NHKにようこそ!」(滝本竜彦/大岩ケンヂ)があります。この作品では、オタクの中でも特にネガティブな、引きこもりのニートの駄目すぎる日常を描いた自虐的な作風が大いに受け、これまたオタクの凄まじい共感を呼び、爆発的な大人気作品となります。

 そして、このふたつの人気作品の影響は大きく、以後オタクをネタにしたマンガはさらに増加していき、様々な広がりを見せるようになります。4コママンガでエロ同人創作をネタにした「ドージンワーク」、ネット上のWebマンガから雑誌に採用されヒットした「おたくの娘さん」、女性オタク、とりわけ腐女子を扱った「妄想少女オタク系」など、多種多様なオタクネタマンガが出版されるようになりました。
 今では、この手のマンガが、ひとつのまとまったジャンルを形成していると考えてもよいくらい、大きな広がりを見せています。いずれも、オタクにありがちな笑える生態をネタとしてうまく描いており、自分たちの存在を自虐的に捉える真性オタクの間で、あるいはそんなオタクに興味を持つ一般読者の間でも、かなりの人気を獲得しています。



・「壮太君のアキハバラ奮闘記」は、他のオタクネタマンガとはどう違うのか?
 さて、この「壮太くんのアキハバラ奮闘記」ですが、これも紛れもなくオタクネタマンガですが、他の代表的な人気作品とは、若干異なるニュアンスの作風が見られます。
 まず、他のオタクネタマンガに比べれば、ディープはオタクネタは軽めであり、その分ギャグマンガとしての要素が強いことが挙げられます。もちろん、オタクによく見られる行動を露骨に扱った箇所も多く、その点で他のオタクネタマンガと共通する部分もかなり見られます。しかし、「げんしけん」や「NHKにようこそ!」のように、オタクの生態を徹底的にリアルに描く作風とは一線を画しており、むしろ、オタクの笑える行動の数々が、明るく賑やかなギャグに昇華されており、ライト感覚で笑える作品になっているのが最大の特徴です。
 その点で、ディープなオタクネタマンガの中では、比較的オタクに縁の薄い一般層でも、ひとつのギャグマンガとして素直に笑って楽しめる作品になっていると言えます。逆に、よりディープでマニアックなネタを求める深いオタク読者には、若干物足りない部分もあるかもしれません。

 そして、この点で、他のオタクネタマンガとの差別化にも成功しています。オタクの生態をリアルに描く面もある一方で、とにかく純粋に爆笑できるギャグマンガとして読める。これが最大のポイントでしょう。
 そして、この作風は、Gファンタジーの連載としても成功しています。Gファンタジーは、スクエニ系雑誌の中でも女性読者の比率が高く、アキバ系のオタク読者とは購買層にズレがあり、多くの読者がオタクというわけではありません。そんな雑誌において、オタク的な趣味が薄くとも、純粋に爆笑ギャグマンガとして読めるこの作品の方向性は、この雑誌に連載するにふさわしいのではないでしょうか。そして、実際に雑誌読者の間でもかなりの人気で、幅広い読者に読まれている点が大きな特長であると言えます。


・「隠れオタク」の生態を描いた点がポイント高し。
 そして、もうひとつの大きな特徴として、主人公の彼女持ちの高校生である壮太が、彼女や友達に自分のオタク趣味を隠して生きている、いわゆる隠れオタクである点が挙げられます。周りに対してオタクであることを隠したいために、見つからないように一人で秋葉原に出かけ、オタクな紙袋を隠すために専用の手提げ袋を持ち歩き、部屋に友人を呼ぶ時にはオタクアイテムをすべて隠して平静を装うなど、「隠れオタク」ならば誰もがやってしまうような行動、そのすべてがいちいち強調して描かれています。しかも、そんな隠れオタクとしての生き様を、隠れオタクを嫌うオタク系ショップ(「御宅堂本舗」)の店長・真野宅朗に見破られ、隠れオタクを矯正するためにひどい目に遭わされるというそのシーンが、とにかく笑えます。

 自分がオタクな趣味を持っているのに、他人に対してそれを言えないという、オタクなら誰でも持っているであろう深刻な悩み──このマンガは、それを徹底的に描いている点が実に評価が高い。このオタクのカミングアウトという、オタクにとっての最大難事を赤裸々に描いた点は、オタクたちの大いなる共感を呼ぶことでしょう。

 そして、そんなオタクたちが放つ、魂の叫びとも言うべき名言の数々がとにかく面白い。作品最大のキャッチフレーズとも言える「二次元大好き オタク万歳」に代表される、「オタクなら二次元の女を愛さんかあああ!!」「二次元か三次元か、それが問題だ」などの含蓄ある言葉の数々は、オタクの精神を心ゆくまで表したものとして、オタク史に残る金言となるでしょう。

 ところで、あまり関係のない話ですが、なぜこの壮太といい、オタクネタマンガの主人公は、揃いも揃って顔のいいイケメンが多いのでしょうか? 「げんしけん」や「NHKにようこそ!」の主人公も、いたって顔はいいような気がしますし、なぜここまでイケメンが多いのか気になります。これは、オタクの持つイメージ、実像からはかけ離れているのではないか。それとも、これはオタク読者の持つ願望をストレートに投影したものなのでしょうか? これは、オタクネタマンガに特有の、謎の設定であると言えます。


・連載中盤から、作者の暴走が始まる。
 しかし、このマンガ、最初のうちはオタクネタマンガの基本をよく踏襲していたのですが、中盤以降、本来持っていた暴走しがちなギャグがどんどん強調されていき、しかも主人公の壮太がとんでもない転落人生を歩んでいき、ついにはオタクとはかなりかけ離れた異様なノリのギャグへと変調していきます。

 まず、オタク趣味からどうしても離れられず、勉強にほとんど手に付かなかった壮太が、一人だけ大学受験に落ちるという悲惨な結果に陥り、そのことで徹底的に落ち込んで部屋に引きこもりと化してしまい、見かねた母親によってオタグッズを放り出されて家から追い出され、家出した先でホームレスとして生きるようになり、その後意外な導きで真仁明書店というオタク系会社の豪邸で働くようになったのはいいものの、なぜかそこで下半身がスワンのコスチュームで働くことを強制され、挙句の果てにスワンの羽ばたきで空を飛ぶという、あまりにも異様にバカバカしい境遇が次々と壮太に襲い掛かります。

 そして、ようやく最後にはその豪邸から逃げ出し、御宅堂本舗に駆け込んで、店長に頼み込んで住み込みで働くようになり、ようやく元のオタクネタマンガに戻ってきたかと思いきや、今度はその壮太の出番がほとんどなくなり、彼女のエリが大学のオタクサークルに入って奮闘するという「エリちゃんの奮闘記」のような話になってしまいます。さらに、それと時期を前後して、このマンガ内作品である萌えアニメ「天下無双 突きさせ!! 呂布子ちゃん」なるものに作者自身がはまってしまい、それを絡めた話ばかりが続くようになります。まあ、これはこれでどちらの展開も面白かったので、この時点ではまだ良かったのですが、この後、暴走はさらに進むことになります。


・ついには呂布子の方が連載に。アニメ化の行方も心配される。
 そして、その後、ついに作者の欲望が行くところまで行ってしまい、呂布子ちゃんをひとつのスピンオフ作品として、壮太を押しのけて連載化、「まじかる無双天使 突き刺せ!! 呂布子ちゃん」として、短期予定ではあるものの、連載が始まってしまいました。
 そしてこのマンガ、「アキハバラ奮闘記」内で見られた呂布子作品(「天下無双 突きさせ!!〜」)とはかなり設定が異なっており、さほど面白みがなくなってしまったのが大きな問題です。元々の作品は、三国志のパロディものであり、実際の三国志の世界で、個性的な変人武将たちが、バカバカしい行為を繰り返すのが面白かったのです。しかし、この「まじかる無双天使」では、もう三国志の世界ではなくなり、「三国天使界」なる天界のような世界と、そこから降りてくる現代日本が舞台となってしまい、著しく面白さに欠ける設定となってしまいました。ギャグそのものはそれなりのクオリティがありますが、「三国志の世界で変人武将がバカバカしい行為をしまくる」という、本来の作品にあったギャップの面白さがなくなってしまいました。

 しかも、かなり前から告知されていたアニメ化企画も、実際にはOVAであり、しかもそれがこの「呂布子ちゃん」メインの作品になることが判明し、主人公の壮太も出るかどうか分からないことが告知され、著しく不安に満ちたものになってしまいました。これは、本来の「壮太君のアキハバラ奮闘記」のアニメ化を期待していた読者を、著しく落胆させるものでした。せっかくのオタクネタマンガの秀作が、このような企画に変質してしまったのは、実に残念だと言わざるを得ません。

 以上のように、現在では、作者が「呂布子ちゃん」関連の企画に没頭してしまい、ついには「壮太君」本編が連載終了してしまいました。元がいい作品だっただけに、できれば本編に戻り、本来の面白さを取り戻して連載を継続すべきだったのではないかと悔やまれます。


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