<STRAY KEYS(ストレイキーズ)>

2008・5・13
一部改訂・画像追加2009・3・15

 「STRAY KEYS(ストレイキーズ)」は、少年ガンガンで2008年4月号に始まった連載で、同誌が2008年より始めた新連載攻勢、その中核作品のひとつとなりました。作者は柚木タロウで、かつてスクウェアエニックスマンガ大賞で特別大賞を受賞した、ガンガンの有力新人のひとりと言えます。大賞受賞後、ガンガン誌上で「欲憑(ヨクツキ)」という読み切りを何度か執筆しますが、これがこの「STRAYKEYS(ストレイキーズ)」の原案に当たっており、このマンガの設定をいくらか変更して連載化しています。

 読み切り時代の「欲憑(ヨクツキ)」も、ある程度少年マンガ的要素のある作品でしたが、連載化するに際して、さらに少年マンガ的要素が色濃くなり、絵柄が大きく変化し、キャラクターもいかにも昨今の少年マンガ的なデザインとなっています。特に、同じ新連載攻勢の新人作品である「トライピース」とイメージがかなり似通っており、どちらもガンガン編集部が求める少年マンガに適合するようなイメージの作品として、新連載攻勢の中でも中心的な存在として企画されていたようです。

 しかし、「トライピース」の方は、元々作者がそういう絵柄だったので違和感はないのですが、この「ストレイキーズ」に関しては、元々の作者の絵柄とは異なるイメージとなっており、少々違和感が残る出来となっています。キャラクターの造形にも少々デフォルメ的な要素が強くなったところもあり、元の絵とはかなり変わってしまったようです。その上、読み切り時代とは内容面でもかなりの設定変更が加えられ、かつ昔は見られなかった少年誌的なエロ要素(?)が加わるなど、様々な点で異なったアレンジが加えられている点が、非常に気がかりなところでした。

 その後、残念ながら不安は現実のものとなり、当初の推進ぶりとは反して人気は振るわなかったようで、2009年1月号をもって短期間で終了することになりました。最後は典型的な打ち切り的な終わり方で、ストーリーの途中から一気にラストエピソードへと流れ込み、そのまま終了してしまいました。最後のエピソードは中々に読めるものでしたが、しかしこのような終わり方では大きく消化不良が残った感は否めません。新人作品として悪くない出来に終始しており、かつ毎回のページ数も多いなど、作者の努力の跡が顕著に窺える作品だっただけに、あまりにも惜しい打ち切りでした。それも、編集部による少年マンガ的な作風への方針の転換が、悪い方向へと働いたようで、大いに禍根を残す打ち切りになったと思います。


・明らかにイメージの異なる絵柄。
 この柚木さんの作画は、かつてのマンガ大賞受賞作や、その後の「欲憑(ヨクツキ)」などの読み切りを見る限り、元々は繊細な描線が特徴の作画でした。これは、作者がウェブ上で公開している絵でも共通しており、女性作家らしい線の細いキャラクターの作画が顕著でした。

 しかし、この「ストレイキーズ」の連載予告時のイラストを見た時には、そのあまりのイメージの違いに戸惑いました。とにかく、極端なまでに線が太くなっており、より少年マンガ的な力強いイメージを全面に押し出した絵になっていたからです。それでも、主人公の女の子の絵にはまだかつての面影は残っているのですが、彼女のパートナーとなる少年の方が、いかにもジャンプ的な少年マンガ的キャラクターとなっていて、これはあまりに意外に映りました。そして、この告知絵は、もうひとつの新連載「トライピース」とひどく共通したイメージを持ち、しかもこのふたつの作品が特に雑誌に推されていたことから、このような作画のイメージをガンガンは全面に押し出したいのだと感じてしまいました。このようなイメージのマンガこそが、今のガンガンが求めている作品なのかもしれません。

 しかし、最初からそのような絵柄を描く作家、得意とする作家に描かせるのなら分かりますが、元々は異なるタイプの絵を自分のものにしていた作家に対して、ここまで極端に絵柄を変更させてまで描かせるというのは、正直どうなのか疑問です。実際、元々の作者の持ち味だった、繊細なキャラクターや背景の表現が、このマンガではほとんど見られなくなっています。もっとも、作者の努力でこの作品もうまく絵をまとめてはおり、作画レベルとしては合格レベルには達していますが、それでも極端にデフォルメされ、頭がひどく大きめで体の線(特に足)が細すぎるなど、少々バランスが崩れてしまったようです。そして、これが作者本来の作風とは思えなかったのが最も気になるところでした。


・悪くは無い作品だが・・・。
 次に内容面を見てみますと、設定的にはややありきたりに感じられるところもありますが、ストーリーは中々にうまくまとめていて好感が持てます。

 欲に取り付かれた人間が「欲塊」という化け物になるという世界。そこで、主人公で女子高生の女の子・雛形杏(あんず)が、人が取り込まれる欲望空間という異次元に入り込み、かつて失われた大切な人を取り戻すために奮闘するという物語です。このとき、主人公のパートナーとなるのが、欲望空間に住む少年で、「欲憑(ヨクツキ)」と名付けられることになります(読み切り時代のタイトルと同じ名前で、そこからの繋がりを連想させます)。

 欲に取り付かれた人間は、いずれも何らかの深い事情を抱えた人間ばかり。そんな彼らのために、主人公が持ち前の明るさと積極性をもって、なんとかで欲から救おうと試みます。この時の欲に支配されたキャラクターの掘り下げは、シリアスで考えさせるもので、中々に読ませるものになっています。
 主人公とパートナーが欲望空間で見せるアクションシーンもかなりよく描けていて、やはり絵に関しては新人ながら十分な力を持っています。アクションシーンに関しては、少年マンガ的な力強いこの作画の方が合っているかもしれません。総じてストーリーやアクションの双方で一通り以上の完成度を有しているようで、2008年の新連載攻勢の新人作品の中でも、相当に安定した作品だったと言えたかもしれません。

 ただ、このように一定の完成度を有している作品ではありますが、それでもいまいち物足りないところも否定できません。設定的に平凡で、今ひとつ引きつけられるところに欠けているのが原因かもしれませんし、あるいは、見た目のイメージも他の少年マンガに近いものになってしまったことで、ビジュアル的にもぱっと見て引きつけられるところがないのも大きく響いているようです。連載開始以後の読者の感想を見渡しても、可もなく不可もなくといった微妙なものが多かったようで、最後までそれは変わりませんでした。


・読み切りからのアレンジが気になる。
 また、この内容に関して、読み切り時代からかなりアレンジが加わっているのが気になります。

 読み切り版の「欲憑」では、主人公は女の子ではなく、三宅草太という名前の少年でした。そして、彼を助けるパートナー役として女の子が登場していたのです。名前は雛形杏で今回の主人公と同じですが、キャラクター性は大きく異なっており、名前だけが受け継がれて性格設定などは大幅に変わっています。
 欲につかれた人間が欲塊となり、欲望空間に取り込まれるという設定は同じですが、今回の少年のような欲望空間に住むパートナーなどは登場しませんでした。また、主人公が他の人を救うだけでなく、主人公自身も欲望に取り憑かれ、その誘惑に全力で抗って打ち勝つというストーリーになっていました。このとき、主人公を強力に手助けするのが雛形杏で、欲に対抗する「欲塊管理局」なる部署の役職についているという設定でした。そのクールで人を食ったような性格は、底抜けに明るく楽天的な「ストレイキーズ」の雛形杏とはまったく異なっており、これはこれで魅力的なキャラクターだったと思うのですが、今回の変更で180度キャラクター性が変わることになりました。

 はっきりいって、読み切り版からは、「欲塊」「欲望空間」などの基本的な設定こそ受け継がれたものの、それ以外の設定・ストーリーは完全に変更されたと見てよいでしょう。なぜ女の子が主人公になったのか、そのあたりがよく分かりません。読み切り時代の、欲塊管理局に勤めるクールな女の子も良かったと思うのですが・・・。まあ、今回の主人公もいいキャラクターなので、これはこれでいいのですが、しかし、単純に女の子を主役にすることで、少年マンガ読者の男性の人気を得ようとする意図も感じられ、あるいは逆にガンガンに多い女性読者にもとっつきやすく読ませようとした配慮も感じます。幸いにも悪い設定にはなっていないようですが、読み切り時代の設定も中々良かったですし、ここまでのアレンジを加える必要があったのでしょうか。単にヒロインの女の子を強調したかっただけではないかとも思えました。


・今までになかった少年誌的エロ要素も引っ掛かる。
 そしてもうひとつ、そのヒロインに関係する今回の追加要素として、少年誌的なお色気・エロ要素があります。

 まず、なんというか、主人公の杏のスカートが短すぎです。なんでパンチラしないのか不思議なくらい。これも、今のガンガンの少年マンガを目指す方向性の一環なのでしょうか。スカートのすそをギリギリで見せるコマも何度も見られ、かなり露骨にエロ・お色気的な狙いが加わっていることは明白です。しかも、実際にパンチラするシーンもあって、それがストーリーにもかかわっているというのもちょっとどうかなと思いました。あとは、単純にお風呂のシーンもあるし、つまり少年誌における少年・男性読者向けのサービスシーンが存在するわけです。これには、他の変更要素以上に、最も強い違和感を覚えました。

 元々の作者の作品では、作者自身が女性作家であることも大きく、このような要素はほとんど見られませんでした。いや、実は読み切り版での雛形杏も、やたらスカートが短かったんですが(笑)、しかしこのようなサービスシーン的な場面はさほど見られませんでした。むしろ、少女マンガ的なイメージも感じさせる繊細な絵柄だったのです。

 それが、今回の連載版では、そもそもの絵柄からして太い描線の少年誌的な作画になってしまうし、その上でこのような露骨に少年マンガ的なエロ要素まで加わるなど、明らかに作品の方針が変わっています。これは、個人的にはかなりの衝撃で、この作者さんのかつての読み切りや、ウェブ上で公開されている作品のイメージからは、随分と離れたものになってしまったことに、大きな戸惑いを覚えました。

 これは、明らかにガンガン編集部の要請による変更要素だと思われますが、果たしてそこまで作者本来の作風を変更していいものかどうか、はなはだ疑問です。これは、お家騒動以後のガンガンで常に継続してきた方針ではありますが、特にこの最近は、少年マンガ的要素を求めすぎている嫌いがあります。


・編集部の方針によって本来の力を発揮できなかった惜しむべき作品。
 この「ストレイキーズ」、同時期に始まったほかの新連載作品、特に同じ新人による作品の中では、作画面を中心に作者の安定した実力が感じられ、その点では好感が持てました。内容的にもうまくまとまっていて、読ませる作品になっていると感じます。

 しかし、その一方で、あまりにも少年誌的にアレンジされた諸要素の数々は、ひどく違和感の強いもので、本来の作者の作風とはかなり離れたものになっていたことは間違いないでしょう。しかも、それがうまくいっているとも感じられません。あまりにも太くなってしまった描線は、本来の繊細な描線の持つ綺麗さには欠けてしまったところがあり、かつ少々構図面でも派手なシーンが多く読みづらくなった印象があります。
 キャラクターの作画にもそれは感じられ、いかにもジャンプ系の少年マンガに見られるような絵のキャラクターになってしまったことで、独創性に欠けた平凡な見た目のマンガになってしまったようにも思えます。その上で、不自然なまでに頭が大きく体が細い造形になり、バランスが大きく崩れてしまい、これは多くの読者にとって相当抵抗が強かったのではないか。今ひとつ見た目の印象でぱっとしないのは、このような平凡かつバランスの微妙な作画から来る影響も大きいでしょう。

 そして、露骨なエロ・お色気要素もさらに違和感が強いものでした。女の子のキャラクターにはまだ繊細な部分が残っていますが、それにこのような少年誌的サービスシーンが付加されたのではやりきれません。このような要素を好む読者もいるでしょうが、この作者の作品には求めるべきではないと思います。
 このような、露骨な少年マンガ的なアレンジは、ここ最近のガンガンではさらに強くなっており、編集部が求める少年マンガを、より多くの新人作家に描かせるようになってきたと感じます。この「ストレイキーズ」は、その際たるものであり、元の作者の作風からは最も違和感の強い一作となったようです。

 そして、そのような要素が重なった上での無念の打ち切りの後、作者の柚木さんは、ガンガンでの次回作の予定はもうないようですが、その代わりに、ウェブ雑誌であるガンガンONLINEにおいて、「キグルミライフ」という新作読み切りを掲載しました。しかし、この作品は、もう完全に少年向けの萌え・エロ中心のラブコメ(エロコメ)となっており、内容的にも平凡すぎるありがちなストーリーで、「ストレイキーズ」以上に評価の難しい作品になっていました。これもまた、編集部の求める路線であることは明白で、このような作者の元の作風とは異なる作品を描かせ続けることに、どれだけの意味があるのか大いに疑問に思わざるを得ませんでした。

 このような経緯を見ると、この柚木タロウさんは、ガンガンの求める強引な路線の最大の犠牲者と言えるのではないかと思うのです。重ねて言いますが、今後、ガンガンでの掲載はもうないようで、一度の失敗、それも編集部の求める路線での不自然な作風による失敗で、この結果ではあまりにも報われません。「鋼の錬金術師」を始めとする人気マンガが強く表に出ている今のガンガンで、このような残念な終わり方をしてしまった作家もいるということを、しっかりと覚えておくべきだと思うのです。


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