<すもももももも 〜地上最強のヨメ〜>

2006・1・3
全面的に改訂・画像追加2010・3・5

 「すもももももも 〜地上最強のヨメ〜」は、ヤングガンガンの創刊号である2004年No.1から開始された連載で、連載開始当初から高い人気を獲得し、創刊されたばかりのヤングガンガンの看板のひとつ、それもトップクラスの看板作品となりました。ヤングガンガンは、他にも創刊からの新連載で人気を獲得し、長期連載となった作品が数多くありますが、その中でも頭一つ抜けていており、事実上の雑誌のトップだったと見てよいでしょう。ヤングガンガンの連載で真っ先にアニメ化されたのも記憶に新しいところで、それも他の作品よりずっと早くアニメ化されたところを見ても、その大きな扱いがよく分かります。

 作者は、大高忍。第2回エニックスマンガ大賞において、「芥町(あくたまち)」という投稿作で大賞を受賞した新人作家で、これが初連載作品となりました。この受賞作である「芥町」の出来が素晴らしく、バイオレンスバトル全開でありながらも同時にシビアなテーマを強く打ち出し、極めて骨太な作品を作り上げていました。そんな受賞作の出来もあって、この新人作家には期待するところも大きかったのですが、それがヤングガンガンの創刊で一気に花開くことになりました。

 肝心の内容ですが、格闘もの+ラブコメといったスタイルの作品で、特に連載開始当初は、主人公とヒロインを中心とするラブコメ・ギャグの要素が前面に出ていて、まずはそれで一気に人気を獲得しました。全編を通してシビアだった「芥町」を知っていたわたしは、当初そのギャップに少々戸惑いました。しかし、この作品も、シビアなテーマはやはり健在であり、中盤以降一気にストーリーはシリアスな方向へととシフトし、骨太な展開を見せてくれることになりました。とりわけ、弱かった主人公が、自分の殻を打ち破って成長する姿が非常に印象的で、これは他のキャラクターにおいても同様の描写が幾度も見られました。「自分の殻からの脱却・成長」。これが、この作品の最大のテーマになっています。

 最後は2009年まで続く長期連載となり、最後まで主人公の成長を軸とした骨太なストーリー作りは衰えることなく、良作であり続けました。ただ、最終回間際において、やや唐突に終わったと思えるところもあり、ここだけはやや違和感を覚える向きもあったようです。連載終了後に作者が他社へと移籍したという事実もあり、ちょっとすると何かしら早期に終了する事情があったのかもしれません。


・主人公とヒロインを中心としたラブコメギャグが本当に面白い。
 上記の通り、この「すもももももも」は、シリアスなストーリーも物語の中心ではあるものの、しかし初期の頃はギャグ満載のラブコメとして始まり、ライト感覚で楽しく読めるマンガとしてまず高い人気を獲得しました。

 武術家の家に生まれながらも、武術嫌いの秀才肌で検事を目指すごく普通の高校生・犬塚孝士の元にやってきた、押しかけ女房である超強い武術家・九頭竜もも子。この、主人公にして常識人の孝士と、ヒロインにして天然系でしかしとっても強い武術家であるもも子との、バカバカしい掛け合いが、まず最高に面白かったのです。もも子の目的は孝士と結婚して最強の子を作ること。同じ年とは思えないちんちくりんな姿で、「考士殿、私とセックスしてください!」とか言って枕を抱きかかえて寝室に忍び込んでくるもも子の姿が最高に笑えます。このような展開でも、いわゆるエロの描写は薄く、あくまで明るいギャグテイストでライト感覚に描かれているのがポイントです。

 そして、孝士ともも子の結婚を阻もうとする、武術家の刺客たちとのバトルがまた面白かった。超強い武術家であるもも子が、刺客たちを倒していくのですが、その一方で、理不尽なバトルに巻き込まれる常識人の孝士のいじられぶりが、これまたとても笑えるのです。サッカー好きの武術家・虎金井天下(のちに仲間になる)と命を賭けたPK対決をさせられたり、海上で杭に縛られて海蛇に食われそうになったり、あげくの果てに実家が全焼するなど、その理不尽な扱いに気の毒だとは思いつつもついつい笑ってしまいます。

 しかし、面白いのは孝士ともも子だけではありません。脇を固めるキャラクターも皆個性的で、ヒロインであるもも子以上に人気を得たキャラクターもたくさんいました。

 まず、孝士を殺しにきた刺客の一人で、のちに仲間になる巳屋本いろは。15歳という設定で、貧乳で幼い容姿でしかし極道の娘という独特の設定で、その「デレ」な行動が読者に大いに人気を博し、一時はヒロインのもも子をも凌ぐ圧倒的な人気を獲得しました。このいろはたんの圧倒的な萌え描写が、初期の「すもももももも」のひとつの見所ですらありました。
 孝士と同級生の委員長も一時期非常に人気を得ました。彼女は眼鏡っ娘の典型的な委員長キャラなのですが、実は武術家であり、そのことを孝士に隠すためにウマ仮面に変身、特殊な胴着を着ることで圧倒的な力を発揮して孝士を守るという役柄で、露出度を上げれば上げるほど強くなるという凄まじい設定の胴着で羞恥全開バトルを繰り広げるという驚きの展開を見せてくれました。

 このように、いろはと委員長のふたりのキャラクターの人気は圧倒的で、一時はヒロインのもも子の存在感が薄くなってしまうほどでした。そして、初期の頃は、こういった明るいギャグ要素満載のエロコメ・ラブコメの面白さが顕著で、そこから一気に人気を獲得したマンガとなったのです。


・中盤以降のシリアスな展開こそが真骨頂ではないか。
 このように、容赦ないギャグと萌えでまず圧倒的な人気を獲得した本作品ですが、しかしそれだけで終わるマンガではありませんでした。中盤以降、主人公の成長を中心とするシリアスなストーリーに一気にシフトし、さらには本格的な格闘バトルの描写にも十分な力が入ってきて、真の意味で骨太な格闘バトルマンガへと進化を遂げるのです。

 幼い頃のトラウマで武術嫌いになり、武術と関わりになりたくない主人公の孝士ですが、しかし武術家の家系というだけで理不尽なバトルに巻き込まれ、少しずつではあるが考え方を変えて前向きに立ち向かっていこうとする意志が、ひとつの大きなテーマとなっています。

 孝士は、武術こそ弱いが決して頭は悪くなく、検事という目標に向けて学業の方は順調で、顔も良くて女の子にもてるという長所まで持っています。しかし、そんな彼でも、目の前に押し寄せてくる武術家同士の命を失いかねないバトル、それにはめっぽう弱く、逃げ回ってばかりいました。「自分には検事という目標がある」というのが彼の言い分でしたが、しかし、最後には自分の弱さを認め、トラウマとなった武術に正面から敢然と立ち向かうようになるのです。
 この「自分の弱さを認める」というのが、主人公の成長における大きなキーポイントになっています。武術家としての弱さを隠してきた孝士でしたが、それをついに周囲に打ち明け、修行に力を貸してくれと頭を下げて謙虚に頼むことになります。このシーンには本当に胸を打つものがありました。また、その時、あるキャラクターからは武術を使えないことを大いに笑われます。しかし、その行為を非難し、孝士をかばったキャラクターもいました。「男なら男が弱みをさらすつらさをわかれ」。この言葉には、まったくその通りだと共感してしまいました。

 このように、中盤以降一気にシリアスで骨太な物語へと移行した本作でしたが、しかしラブコメやギャグの要素も失われたわけではありません。中盤以降も、随所でそのような話は見られ、シリアスとコメディ・ギャグの要素がバランスよく配分されながら、最後まで連載を続けていったのです。むしろ、中盤・終盤でのコメディシーンでも、面白い箇所は本当に多かった。この「硬軟取り混ぜた面白さ」こそが、この「すもももももも」の最大の持ち味ではなかったかと思っています。


・最後まで勢いの途切れることのない良作だったが、終わり方はやや唐突だったかもしれない。
 そんな骨太なシリアスと楽しいコメディからなるストーリーは、連載の最後まで続き、その面白さが途切れることはありませんでした。最後には2009年まで続く長期連載となり、ヤングガンガンを創刊から支えた最大の功労者のひとつとなったと見て間違いないでしょう。

 ただ、その2009年に迎えた最終回間際の展開は、やや唐突な終了と思えるところもあり、一部の読者にはやや不可解に感じられるところもあったようです。一応、物語は完結を見ており、決して中途半端に終わっているわけではないのですが、しかし最後に主人公の孝士が一気にパワーアップ、それまでの弱いながらも少しずつ強くなっていた展開から一変、超越的な能力で人間離れしたバトルを繰り広げるエンディングとなっています。また、それまでの展開からも一気に最終回に収束してしまったようなところがあり、見方によっては唐突と思えなくもない、やや違和感の残る終わり方になっているかもしれません。

 また、作者の大高さんが、連載直後にスクエニを離れ、小学館の週刊少年サンデーの方で連載を始めてしまったことも、やや意外でした。しかも、この移籍は、どうも大高さんの担当編集者の移籍が関わっているらしく、サンデーに移籍した編集者についていく形で移籍したという話を聞きました。しかも、これはかなり確かな情報のようです。となると、この担当編集者の移籍の話に合わせて、ヤングガンガンでの連載を終了させたという事情があったのかもしれません。もちろん、これはあくまでわたしの推測でしかありませんが、もしかしたらそういった事情も考えられなくはない終わり方だったかなと思います。

 このように、最終回においてやや違和感を覚える向きはあったものの、それもあくまでほんの少しの瑕疵にすぎず、全体を通して非常に優秀なマンガだったことは間違いないでしょう。スクエニでも最も有力だった新人作家が、ヤングガンガンの創刊を機に大成功を収め、アニメ化も達成して長らく雑誌を引っ張る長期連載を成しえた。これは、ヤングガンガンの果たした最初の大きな成果だったのではないでしょうか。それゆえに、終了後の大高さんが他社への移籍がわずかに悔やまれます。出来れば、もう一度ヤングガンガンで、あるいはスクエニで次回作を描いてほしかったと思っています。




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