<スサノオ>

2007・9・16

 「スサノオ」は、かつての少年ガンガンの連載で、2000年11月号から2001年8月号まで連載されました。1年に満たない連載期間ですが、最後は完全な打ち切りであり、誰が見ても一目でそれと分かるような中途半端な箇所で突然終了しています。

 この作品が開始された当時のガンガンは、それまでの路線を突然のごとく変更し、全く新しい誌面へと急激な変革を行っていた時期でありました。この「スサノオ」は、そんな路線変更を象徴する中心的な作品であり、それまでの誌面とはあまりにも異なるイメージの作風に、多くの読者が戸惑い、かなりの抵抗が見られました。作品の内容もひどくアクの強いもので、特にストーリーについては支持者の間でも賛否両論の状態で、決して優れた作品にはなりえませんでした。そんな不安定な状態でしばらく連載を続けていましたが、人気は全く得られず、非常な早期に打ち切りとなりました。

 内容的には、日本神話をモチーフにしたファンタジーストーリーで、かつ王道少年マンガといった風の作品でしたが、作者独特のアクの強すぎる怪物キャラのビジュアルや、いかんせん感情移入の難しい主人公の粗暴な行動には、多くの読者がかなりの抵抗を覚えており、人気が出なかった理由も明らかでした。ガンガン編集部は、このマンガをこれ以上ないほど強力に推進して、雑誌の新たなイメージにしようと躍起になっている感もありましたが、さすがにこの内容では無理がありすぎたと言えます。

 作者は増田晴彦で、かつて初期ガンガンで「輝竜戦記ナーガス」や「風の騎士団」などの少年マンガを手がけ、かなりの人気を獲得した作家です。また、ガンガン連載時代以前から、その迫力溢れるモンスターの造形がコアなファン層の支持を集め、「怪物絵師」と呼ばれ、マニアの評価も高い作家でもありました。実力的にはかなりのポテンシャルを持つベテラン作家と言えますが、この「スサノオ」については、今ひとつ方向性が定まらない不安定な完成度に終始し、この作者にとっては失敗作となってしまった感があります。


・なぜこの作者の作品が連載されたのか。
 このマンガに関しては、「初期ガンガンを支えた作家による作品」という点が、非常に重要です。
 当時のガンガンは、創刊当時の王道系少年マンガが人気を得ていた誌面からはかなりの変化が見られ、そういった作品はごく少数になっており、代わりにエニックス独特とも言える新しい作風のマンガが誌面の中心となっていました。これは、多くの読者に支持されていましたが、一方で、一部に初期ガンガンの頃の誌面をより評価し、少年マンガ中心の誌面に戻してほしいと切望する声が聞かれるようになっていました。これは、ほとんどがインターネットを通じて見られた意見で、それらの意見の中には、「増田晴彦のような、初期ガンガンの人気作家を復活させてほしい」という声まで聞かれるようになっていました。そして、ガンガンの編集部の方も、この声をまともに受けてしまった形跡があり、そんな一部の声をそのまま採用する形で、増田晴彦を再び招聘し、ガンガンで連載させたと考えられるのです。

 それと同時に、ガンガンの編集者の間でも、王道少年マンガ中心の誌面を強く志向する者がいたのではないかと推測されます。そんな編集者の中でも最たる者が、このマンガの担当編集者にして、のちのガンガンで編集長となった松崎武吏(まつざきたけし)です。この松崎氏のこのマンガに対する入れ込みようは凄まじいものがあり、肝心のマンガよりも、編集者によるテコ入れの方が目立つような状態にまで達していました。

 そして、このマンガを皮切りに、多数の「王道少年マンガ」を露骨に志向する新連載陣が、この時期に一気に投入されていきます。この中には、同じく初期ガンガンからの復活組である藤原カムイの「エデンの戦士たち」があり、それ以外の作品も、バトルものやスポーツものなど、極端に王道系に偏った作品が誌面を占めるようになります。

 しかし、これらの作品のほとんどは、まったく成功しませんでした。その証拠に、唯一長期連載化できたのは、前述の「エデンの戦士たち」だけで、それ以外の連載は、ことごとく2年以内に終了しており、1年以内に打ち切りになる作品も多数ありました。この「スサノオ」も、そんな失敗作の中の典型的な存在であり、その異様に濃い絵柄のインパクトのみを、読者の心に鮮烈に残したまま消えてしまいました。


・編集者による異様な煽り文のインパクトが凄まじい。
 インパクトを残したのは絵柄だけではありません。このマンガに入れ込みまくった編集者・松崎武吏による煽り文(雑誌掲載時にマンガに書き加えられる文章)の数々は、読者に対して強烈な印象のみを残しました。

 その煽り文は、従来の煽り文の常識を超えるかのような凄まじいもので、異様に黒く太く巨大なフォントで頻繁に挿入され、ページの半分以上を埋め尽くすようなものまで見られ、肝心のマンガの絵が半ば隠れていて見えないような状態にまで陥っており、これは読者の間で大いに物議を醸しました。いや、読者だけではありません。作者の増田さんも、この煽り文には大いに戸惑ったようで、初回連載を実際に発売された雑誌で見て絶句し(笑)、アシスタントたちと一緒に大笑いしてしまったという様子を、当時の作者のサイトの日記で読むことが出来ました。
 そして、煽り文の文句も凄まじいものばかりで、「世界最強神話昇天」と書いて「ごあいどくありがとう」と読ませる等、通例では考えられない凝りようでした。はっきりいって、マンガ本編よりも煽り文の方が目立っているような感じで、あまりにも不可解な印象を与えてしまった感は否定できません。

 なぜこのような異様な煽り文が生まれてしまったのか。これは、担当編集者の松崎武吏の、少年マンガに対する強すぎるこだわりに原因があったのではないかと考えられます。おそらく、松崎氏は、当時の少年ガンガンの誌面を快く思っておらず、なんとしても王道少年マンガに溢れる初期ガンガンの雰囲気を取り戻したかったのではないでしょうか。そのために、王道少年マンガの「力強さ」を徹底的に強調するような、黒く太く巨大なフォントと、過激な文句の数々で、読者に対するアピールを狙った。そんな編集者の異様なこだわりが、度を越えて全面的に表に出てしまったと言えます。

 しかし、これは、多くの読者にとって、あまりにも異様なバカバカしいものにしか写らないもので、熱心なファンからも、肝心の絵が隠れて見えないことに批判的な声が出る有り様で、ほとんど効果を上げることは出来ませんでした。そのため、編集者の過度のテコ入ればかりが目立つ、いびつな作品になってしまったのです。


・作者独特のフォルムのモンスター描写は健在。
 さて、雑誌掲載時には煽り文ばかりが目立つ作品ではありましたが、肝心の内容はどうだったのか。これは、さすがに実力派のベテラン作家・増田晴彦だけあって、ビジュアル的には確かな完成度を有していました。

 とりわけ、作者の持ち味が存分に出たモンスターの造形は、相変わらず素晴らしいもので、これには文句のつけようがありませんでした。日本神話をモチーフにした作品でしたが、登場する神々のすべてが異様なフォルムのモンスターの姿をとっており、ひとりひとりの個性的なその姿は、グロテスクな雰囲気も強く読者を選びはするものの、やはり作者のデザインセンスの独創性を感じさせるに十分でした。とりわけ、かねてからの作者の熱心なファンには、今回も非常に好評であり、作者の過去の作品や、参考となったであろう怪物もの・怪獣もののマンガやアニメ、特撮作品と比較する考察も多数見られました。

 総じて、主人公であるスサノオや、その同族であるアマツカミ(天神)の上位種族たちは、比較的人間に近い「カッコいい」フォルムで描かれており、それ以外のキャラクター、とりわけ敵役となるクニツカミ(国神)たちは、人間とはかけ離れた異形のフォルムで描かれているのが印象的です。これは、単純に主人公たちと敵役(悪役)のイメージを、そのまま投影させたものと考えられ、いかにも少年マンガ的な設定であるとも言えますが、これ自体は決して悪いとは思いませんし(「輝竜戦記ナーガス」にも同じような設定は見られました)、分かりやすいビジュアルでむしろ好印象でもありました。

 そして、そんなモンスターたちが繰り広げる、大迫力のバトル描写も健在でした。巨大な体躯を誇る神々同士の闘いで、それぞれが個性的の身体能力を駆使して、大地をなぎ払い竜巻を巻き起こすような、大規模な必殺技が多数見られました。

 しかし、全体的に黒く太いビジュアルで描かれたモンスターたちは、雑誌掲載時には、ガンガンの紙質がひどく悪いために、「ほとんど印刷が潰れて見えない」という事態を巻き起こし、これは少々不運でした。作者による落ち度ではなく、ガンガンという雑誌そのものの問題で、作者がせっかく描いた力作が潰れるというのは、不幸としかいいようがありません。前述の過度の煽り文といい、ガンガンという雑誌のあり方が、作品の完成度に影を落とす形となってしまいました。


・しかし、ストーリーはあまりにも評価し難い。
 ただ、ビジュアル的な魅力は大いに評価できても、肝心の内容面、とりわけストーリーやキャラクター描写に関しては、あまりにも疑問を呈せざるを得ないものでした。序盤のうちから方向性が迷走気味で、一体どういうコンセプトの作品なのか理解しがたく、「作者が一体何をしたいのか分からない」という辛辣な声も多数聞かれてしまいました。

 とりわけ、最大の問題だったのが、主人公である「スサノオ」の行動です。戦闘力は凄まじいものの、反面精神的には子供のように未熟で、ただひたすら感情の赴くままに暴れまくるばかりで、まったく感情移入することができませんでした。しかも、そんな未熟な精神が、いつまで経っても成長する様子があまり見られず、最後までひたすら目の前の敵を倒しまくるだけで、まったく魅力に欠ける存在に終始してしまいました。
 それどころか、主人公のライバルで、陰険な策士である「ツクヨミ」の方が、悪辣とはいえその行動には納得性があり、「カッコいい」と感じるくらいでした。主人公にまるで感情移入できず、むしろ陰険なライバルの方がカッコいいと感じてしまうのは、少年マンガとしてはあまりにも問題があると言わざるを得ませんでした。

 それだけではありません。もうひとつ問題なのは、主人公と、彼に襲い掛かる悪役モンスターの描かれ方です。このマンガの悪役モンスターは、スサノオたちアマツカミ(天神)に対抗するクニツカミ(国神)たちですが、かれらを滅ぼす主人公スサノオの姿に納得できかねるのです。
 スサノオは、アマツカミ(天神)たちの中でも最大の戦闘力を持つ者として、地上に国を築くためにクニツカミ(国神)たちと闘うのですが、その姿はどうみても単なる侵略者であって、闘う理由に正当性が感じられないのです。そして、その行為を無理矢理正当化させるために、「クニツカミ(国神)の長たちは他の神々たちを苦しめる悪い支配者である」という設定が作られているのです。しかし、相手が悪いからといって、それを強引に従えてその土地を征服してよいものでしょうか。

 連載がある程度進むと、今度は、8つに分かれた神核(コア)なる結晶の断片を地上に探しに行くというストーリーとなり、そこでも、神核の力を得て横暴の限りを尽くすクニツカミ(国神)を倒していくことになります。しかし、ここでも同じことが言えるのです。相手の土地に入り込み、強引に神核を奪っていくわけですから、いくら相手が悪いからといって、その行為を正当化できるものではありません。ここでも、主人公たちの行動を正当化するために、相手を無理矢理悪者に設定しているのです。これでは、倒される悪役のモンスターたちも、たまったものではありません。はっきりいって、このマンガのストーリーは、「悪いヤツを倒しに行く」というようなものではなく、「主人公たちが向かう行動の先に、たまたま悪いヤツがいる」ような感じで、その違和感は並々ならぬものがあります。はっきりいって、これほどまでに主人公たちの行動に正当性がないのは、あまりにも問題ではないでしょうか。


・路線変更後ガンガンの失敗作の端緒。
 以上のように、とにかくストーリーやキャラクターの描写があまりにも強引で不可解、納得し難いところが多く、ほとんどの読者にとっては、まるで楽しめるものではありませんでした。想定される読者層である少年マンガのファンの間でさえ、このマンガには賛否両論の議論が渦巻き、とりわけ「主人公にまったく感情移入できない」ことに対する批判がかなり見られました。これでは、少年マンガとしても合格とは言えないでしょう。

 唯一、昔からのコアな作者のファンが、相変わらず健在だった独特のモンスターのデザインを評価していましたが、それもあくまでも一部のマニアックな見方に過ぎませんでした。むしろ、ほとんどの読者にとっては、あまりにもグロテスクでアクの強いモンスターのフォルムには抵抗を覚え、それもこのマンガの不人気に拍車を掛けてしまいました。最後には、人気取りのために女性キャラも含めた人間型のキャラクターを何人か投入しましたが、もちろんその程度で人気が回復できるはずもなく、1年も持たないうちにあっさり打ち切りとなりました。最後は、どうでもいいザコ(厳密にはザコではないが、ストーリー上大して重要ではない敵)との激闘中に唐突に打ち切りとなり、しかも「第一部完」となっていましたが、もちろん今に至るまで連載は再開されていません。

 そして、このマンガの場合、編集者の「王道少年マンガに満ちた初期ガンガンを復活させたい」という思惑ばかりが透けて見え、肝心の中身が伴っていなかったのが、最大の問題でした。いびつなまでの過度な煽り文に代表される編集者による異様なテコ入ればかりが目立ち、「なんとしてもこの種のマンガを成功させたい」という企画意図ばかりが全面に押し出される形となりました。これで中身が伴って面白いマンガであったならば、さぞ万々歳であったでしょうが、実際には、あまりにも受け入れ難い内容に終始してしまい、「第一部完」という、編集者の未練ばかりが強く感じられる終わり方で打ち切りになったのが、ひどく印象的でした。

 そして、これは、その後に続く路線変更後ガンガンの少年マンガに共通する特徴でもあります。ガンガンの編集者たちは、何度でも自分たちの求める少年マンガを打ち出し続けますが、そのほとんどは肝心の中身が伴っておらず、ことごとく失敗していきます。そして、そんな編集者たちの強引な思惑ばかりが優先された結果、不自然なまでに少年マンガばかりがテコ入れされる、まったく面白くない雑誌へと転落していきました。そんな路線変更後ガンガンの端緒として、この「スサノオ」の存在は、非常に重要であり、今後も語り継ぐべき作品であると思われます。


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