<がんばれスイートシュガーちゃん>

2007・12・1

 「がんばれスイートシュガーちゃん」は、少年ギャグ王で1998年12月号より1999年4月号(休刊号)まで連載された作品で、ギャグ王の多くの作品の例に漏れず、ページ数の少ないショートコミックの作品となっています。作者は、どちらかと言えば角川・電撃系雑誌での活動が多い霧賀ユキで、この当時もそちらの方の雑誌(ドラゴンジュニア)で並行連載していました。しかし、角川系では主に他の作品のコミック化やアンソロジーを手がけることが多く(代表作は「でじこ★あどべんちゃー」)、この「がんばれスイートシュガーちゃん」が、作者初のオリジナル作品となりました。

 しかし、この作品は、元々ショートコミック風でページ数が少ないことに加え、連載途中の早い時期に掲載誌のギャグ王が廃刊してしまったため、ほとんどその存在を知られることなく、消えることになってしまいました。ページ数の少ないしかもわずか5号の掲載では、さほど深い内容に達することもできず、最後は急遽最終回としてまとめたような有り様で、ひどく消化不良の感があります。この作品もまた、ギャグ王廃刊のあおりを受けて、芽が出る前に消えてしまった連載のひとつとなってしまったのです。
 その後の霧賀さんは、角川系での掲載を続ける一方で、エニックスでもGファンタジーで2002年から「てんしのはねとアクマのシッポ」という連載を開始し、こちらは円満に連載を重ねて終了しました。ギャグ王の廃刊で、エニックスからは完全に離れ、もしくはマンガの執筆そのものが出来なくなった作家が数多くいた中では、この霧賀さんは比較的幸運だったと言えます。

 しかし、のちにそのような作品を残しているとはいえ、最初のオリジナル連載であるこの「がんばれスイートシュガーちゃん」の存在も、また忘れるべきではないと考えます。ギャグ王最末期の連載にして、それまでの落ち込んでいたギャグ王の誌面の中では、かなりの筋の良さが感じられる連載で、ショートコミックながら雑誌の前の方に掲載されることもあり、読者人気もあったことが窺えます。あのまま続けていれば、さらなる人気も見込めた作品だけに、早すぎる終了がひどく惜しまれます。


・ギャグ王末期の状態について。
 この「がんばれスイートシュガーちゃん」が連載されたギャグ王末期は、それまでのひどく落ち込んでいた誌面からの改善の努力が見られ、これまでとは異なるタイプの連載を意欲的に投入していた時期でありました。

 ギャグ王は、1994年に創刊された雑誌で、エニックスの中ではかなりの低年齢層、小学生をメインターゲットとする雑誌として創刊しました。しかし、当初からガンガンと同様の読者層に愛読され、実際には高年齢層の読者も多く、マニアックな作風のマンガも数多く人気を集めていました。ところが、1996年あたりを境にして、編集部が路線変更を始めてしまい、雑誌本来のスタンスである低年齢向けの方向性を強く採り入れようとします。それまでの人気連載、特に高年齢に人気のあったマニア系の作品を次々と終了させ、代わって明らかに低年齢、小学生向けと分かるような、ポケモンや星のカービィなどのゲームコミック、小学生向けアニメのコミック化作品、低年齢向けのギャグマンガなどを投入するようになります。
 しかし、これらの作品は、多くが稚拙でまったく面白くなく、元からの高年齢読者に見放されたばかりか、本来のターゲットである小学生層にも見向きもされず、雑誌の発行部数は極限まで落ち、一気に泡沫雑誌と化してしまいます。当時は、書店への入荷数も見るからに減っている有り様で、傍目にもひどい落ち込み方は明らかでした。

 そこで、1997年以降、ある程度路線を修正したのか、かつてのギャグ王に近い、比較的高年齢層の、エニックスの他雑誌を読む読者でも楽しめるような連載が少しずつ現れるようになります。具体的には、「ドラゴンクエスト天空物語」「ファイアーエムブレム聖戦の系譜」「ハイパーレストラン」などの作品で、以前から残っていた数少ない人気連載である「(続)少年探偵彼方ぼくらの推理ノート」や「御意見無用っ!!」などと共に、ようやくある程度の人気連載を確保します。

 しかし、それでも大勢では雑誌の落ち込みを回復することができず、ついに1998年末期より、最後の努力として、より高年齢向けの誌面へとシフトする大規模な路線変更を行います。そして、1999年の2月号からは、誌面を完全にリニューアルし、雑誌のタイトルも「Gag Oh!」へと変更する大掛かりな刷新も行います。「がんばれスイートシュガーちゃん」も、この当時に投入された新連載のひとつです。同時期の他の新連載としては、「魔法使い養成専門マジック☆スター学院」「アストロベリー」など、のちに他誌へと移行する人気連載や、「お姉さんと学ぼっ! グレグリ探検隊」「逆転イッポン!!」などの個性派の作品があります。

 しかし、結局最後には雑誌は廃刊することとなり、リニューアル後わずか3号で終了。リニューアル直前に連載を開始したこの「がんばれスイートシュガーちゃん」も、そのまま突然の最終回を迎えることになりました。廃刊となる最後の号では、最終回へと連なる話が溜まっていたのか、一挙2話が掲載されています。


・とにかく絵がやたらかわいい。
 霧賀さんのマンガの魅力として、とにかく絵がほんわかしていてかわいいことが挙げられます。一言で言えば萌え系の絵柄なのですが、エロや強い萌えを意識した萌え作品とはかなり異なり、とにかく徹底的にほんわかしていてどこまでも和みます。これは、女性作家特有の絵柄とも言え、どちらかと言えば少女マンガ寄りの傾向もあります(のちのオリジナル連載も、少女誌寄りの作風ですし)。しかし、その一方で、角川系のマニア誌にも継続的に掲載を重ねるなど、萌えマンガ家としての人気も一定以上のものがあります。

 そして、この「がんばれスイートシュガーちゃん」の絵柄も、まったくその通りのほんわかした絵柄で、しかも他の連載と比べても、よりデフォルメ感が強く、とにかくゆったりまったりしたイメージが全面に出ています。作者初期の頃の作品なので、絵の完成度では若干見劣りするところがあり、やや雑に感じられるところが多いのは残念ですが、それでもこのやたらデフォルメが効いて毒気のまったくないかわいらしい絵柄には、ひどく魅力的なものがあります。

 そして、これは、似たようなイメージの作品も多いエニックスの中でも、突出してゆるゆるな萌え作品の趣きがあり、当時のギャグ王の中でも高年齢の萌えマンガを好む読者に特に愛読されました。元々は角川系での連載の方が先ではあるのですが、そちらはアンソロジー的な原作付きコミック作品ばかりを担当しており、ページ数も少なかっただけあってあまり印象に残っておらず、こちらのギャグ王の連載の方が、むしろ注目を集めてもいました。
 そして、このマンガの絵柄は、のちにWINGあたりで顕著な特徴となる「ゆる萌え」作品そのままと言ったところもあります。ギャグ王では、他にもこういったゆるい雰囲気のショートコミック、4コマ作品はかなり見られたと思いますが、最後に現れたこの作品こそが、まさにその究極の形であったと言えそうです。その点で、ギャグ王の誌面のイメージにも合っており、これがそのまま連載を続けていたら、今までのギャグ王作品同様の人気を得られたことは想像に固くありません。


・まるで萌え4コマのようなハートフルコメディマンガ。
 そして、肝心の内容、ストーリーの方ですが、コメディとしては割と定番のもので、目新しさには乏しいかもしれません。主人公の男の子・ジャックの作ったドジなメイドロボット・スイートシュガーちゃんが、主人のために奮闘しまくるというもので、ハートフルコメディ(分かりやすく言えばラブコメ)としては「よくある」設定のマンガでしょう。当時の読者の間でも、ガンガンでの人気マンガだった「守護月天」(「まもって守護月天!」)のようだと言う人もいました。

 しかし、個人的には、このマンガは、守護月天というよりは、むしろ、昨今では定番となった萌え4コマに近いところがあるような気がします。これ自体は4コマではないのですが、ページ数の少ないショートコミックである点で、それに近いスタイルを彷彿とさせますし、内容的にも、ゆったりまったりした日常の和み系エピソードが中心で、その点でも萌え4コマに近いものがあります。

 とにかく、メイドロボットのスイートシュガーちゃんが、やたらかわいいというか面白い。ドジ全開でかいがいしく奮闘する様子が、見ていてとてもほほえましいマンガでした。頭のアホ毛がアンテナになっているという設定も最高です(笑)。見た目的にも、このほんわかとした絵が内容をよく表していて、大変に好感が持てました。毎回のページ数があまりにも少なく、少々物足りなかったのが残念でしたが、それでも他のギャグ王作品の中で、突出した和み・癒し系の萌えマンガとして、その存在には確かなものがありました。末期のギャグ王は、低年齢向けから高年齢向けまで、色々なタイプのマンガが入り乱れていた感の強い誌面でしたが、そんな中でこのようなタイプのマンガが、ひとつの流れとしてページを占めるようになれば、安定して読める雑誌になるかなとも思いました。


・ギャグ王の廃刊で、このようなタイプの作品が掲載される場所が失われた。
 しかし、前述のように、わずか5回の掲載の時点でギャグ王は廃刊してしまい、この作品は完全に立ち消えとなり、以後他の雑誌で掲載されることはありませんでした(作者の同人誌では見られたらしいですが)。廃刊時のギャグ王には、他にも惜しい作品はかなりあったと思われるのですが、掲載誌を移して再開できた作品は一部であり、多くの作品はその場で立ち消えとなり、二度と掲載されることはありませんでした。

 これには、読者の方でも不本意な終了を惜しむ声はかなりありましたし、もっと積極的に移籍再開させてもよかったと思いますが、なぜそこまで移籍されなかったのか。それは、この「がんばれスイートシュガーちゃん」を始めとするギャグ王のマンガに見られる特徴が、他の雑誌に合わなかったことが考えられます。
 この「がんばれスイートシュガーちゃん」は、ページ数のひどく少ないショートコミックです。ある種4コママンガに近い趣もあります。そして、ギャグ王には、他にもこのようなショートコミックや4コママンガが多数掲載されていました。このような、ページ数の少ないタイプのマンガが、多数並べて掲載される雑誌、それがギャグ王だったのです。その点において、この「ギャグ王」という雑誌は、いわゆる「4コマ誌」に比較的近いところがあります。

 そして、このような4コマ誌的な雑誌ならば、ページ数の少ない作品でもたくさん載せられるのですが、しかし他のエニックス雑誌ではそうはいきません。他の雑誌でも、4コマやショートコミックがないわけではありませんが、大抵は1、2作品程度の掲載に限られています。そういう雑誌に対して、ギャグ王から作品を大挙して移籍させるのは難しい。
 ギャグ王から移籍できた数少ない作品としては、「ドラゴンクエスト天空物語」「ファイアーエムブレム聖戦の系譜」「ハイパーレストラン」「御意見無用っ!!」「魔法使い養成専門マジック☆スター学院」あたりがありますが、これらはすべて、ある程度まとまったページ数で連載する作品です。逆に、ページ数の少ない 4コマやショートコミック系の作品が、他に移籍されることはほとんどなかった。他の雑誌の、比較的まとまったページ数の連載で構成される誌面には、このような作品を載せる余地はほとんどなかったのでしょう。

 そう考えると、この「ギャグ王」という雑誌の廃刊は、のちのエニックスにとって非常に痛いものだったと考えられます。これが何らかの形で残っていれば、4コマ誌的な雑誌をひとつ運営できて、他では載せられにくい4コマやショートコミックのようなタイプの作品を、たくさん掲載することができました。これは、エニックスのマンガの幅を広げるために、非常に有益な場となったはずです。マンガ家にとっても、短い作品でも掲載できる場が与えられて幸運ですし、特に新人にとっては、気軽な足がかり的な掲載の場としても非常にありがたかったでしょう。

 そして、この「がんばれスイートシュガーちゃん」は、のちの萌え4コマに近いニュアンスを持つ作品です。そういう作品が、ある程度まとまって掲載されるようになれば、ギャグ王の新しい一面として、のちの萌え4コマ誌のような新たな方向性を見せることもできたのではないか。そう考えると、このギャグ王の廃刊は、あまりにも時期尚早で残念な出来事であったように思えます。


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