<ショショリカ>

2003・10・9
全面的に改訂・画像追加2007・1・29
一部改訂・画像追加2008・11・30

 「ショショリカ」は、ガンガンWINGで2003年1月号から始まった連載で、2007年10月号にて完結した、お家騒動後のWINGを代表する長期連載のひとつです。作者は上杉匠
 このマンガの連載開始当時のガンガンWINGは、あの「エニックスお家騒動」から1年ほどが経過し、ようやく立ち直りを見せていた時期でありました。騒動以前、あるいは直後から続いていた人気連載「まほらば」「わたしの狼さん(dear)」「天正やおよろず」に加え、この時期に「瀬戸の花嫁」「機工魔術士」「天眷御伽草子」「BEHIND MASTER」「がんばらなくっチャ!」等の実力派の新連載が始まり、ラインナップが大きく充実していた時期でした。そんな中で、この「ショショリカ」が最後に加わることで、現在まで続くWINGの誌面がほぼ完成された感がありました。

 ただ、この「ショショリカ」の場合、長期連載として安定した人気を確立してはいたのですが、他のWINGの人気連載と比べるとやや扱いが弱く、影に隠れた存在でもあったと言えます。大人気マンガだった「まほらば」はもとより、「dear」や「天正やおよろず」、「瀬戸の花嫁」「機工魔術士」あたりと比べても、やや知名度で劣る感は否めませんでした。雑誌の表に出ることは少なく、むしろ中堅どころの作品として雑誌を影で支えている作品であったと言えます。

 内容的には、これは一言で説明するのが難しいのですが、料理マンガの要素が入った学園ラブコメ・・・といったところでしょうか。斬新な設定に加え、コメディとシリアスのバランスが取れた作風と、突然入ってくる珍妙なポエムが強烈なインパクトを残す個性派作品であると言えます。

 なお、作者の上杉匠さんは、どうもかつては東まゆみさんのアシスタントだったようですが、東さんがエニックスお家騒動でマッグガーデン(コミックブレイド)へと抜ける一方で、彼女はエニックスに残ってこちらで連載を獲得することになったようです。アシスタント時代から背景を一手に手がけていたらしいですが、本作でもその成果は健在で、建造物の凝った描写にアシスタント時代から共通する作風を感じることができます。


・今までにない食導師養成ラブコメ。
 このマンガは、そもそも一体どういうマンガなのか、それを説明するのが難しいマンガです。一応は料理マンガ的な要素もあるのですが、一般的な料理マンガとはかけ離れています。
 まず、主人公たちは、「食導師」を養成する学校”ステフェンズ”の生徒なのですが、この「食導師」、料理人というよりは、より正確には「栄養士」的な存在です。料理をするシーンもあるにはありますが、それよりもむしろ「『食』とは何か」「『食』でいかに人を幸せにするか」といったテーマが主体で、そのあたりのアプローチが通常の料理マンガとはかなり異なります。

 そして、それ以上に学園を舞台にしたコメディが中心となる作風が特徴的です。かつWING連載マンガの中では比較的少女マンガ的なラブコメに近いとは思いますが、しかし普段は個性的なキャラクターが騒ぎを引き起こすコメディが主体で、あるいは突然なんの前触れもなく珍奇なポエムが入ってくるなど、中々に破天荒な作風です。
 その一方で、実はかなりシリアスな描写も多く、「食」というもののあり方を真剣に考える、このマンガならではのテーマ作りにも、それはそれで大いに見るべきものがありました。やはり、通常の料理マンガとは一歩異なる奥の深さが感じられました。

 そして、このシリアスな描写と賑やかなコメディの両方が面白く、双方でメリハリが利いています。実は根底にはかなり深刻なストーリー、テーマがあるのですが、そういったことを気にかけずに楽しく読んでいける。これがこのマンガの最大の長所でしょう。


・食物などに含まれる化学物質用語が入っている面白さ。
 そして、主人公たちが栄養士的な存在だからなのか、彼らの名前に化学物質の名前が多数付けられているのが面白い。これは、連載開始当時、一部の理系読者にひどく注目を集め(笑)、その元ネタを探して調査する者が複数現れました。

 このマンガの主人公たちは、「ショショリカ」(「食品処理特殊科」の略)という、学園でトップの成績を持つ10人のエリートたちなのですが、彼らの名前は明らかに化学物質そのままの名前が付いており、それがあまりに露骨すぎて一部読者に大いに受けたわけです。具体的には、

クロロフィル=リライト(主人公)エイコ=ペンタエン
アントシアニー=エダ(ヒロイン)ショー=カゼイン
キサン=トーファドコサ=ヘキサエン
フラノイド=ジオゴットヘルフ=リノール
カロ=ヨシヒロサーモンド=イノシン

 の10人です。これ以外のキャラクターも、主要なキャラにはことごとくこれ系統の名前が付けられており、化学や生物、栄養学等に興味のある読者にとってはたまらないものがあるのでしょう。中には、ほぼ完全に元ネタの情報を調べつくした人もいるようです。そんな人の成果を以下に紹介します。

 化学構造からショショリカを見る姫松しぎ制作所

 分からない人はここで思う存分勉強しましょう(笑)。


・突然入るポエムで大爆笑。
 そして、そんな理系的な知識とは対照的に、このマンガは、文系的な感性(?)がほとばしる凄まじいポエムの存在があまりにも衝撃的です。いや、これこそがこのマンガ最大の売りかもしれません。

 主人公のクロロフィル=リライト(フィル)は、「智者の欠片の舌(女神の舌)」という特殊能力を受け継いでおり、「何か料理を口にすると、それを作った者が料理に込めた考えがポエムとなって伝わる」というやっかいな力を持っています。そして、フィルがうっかり料理を口にして、しかもそれを作った料理人がとんでもないことを考えていた場合、極めて珍妙なポエムがフィルに襲い掛かることになります。この時のポエムは、ほとんどの場合なんの前触れもなく突然に、しかも見開き2ページにわたって大々的に披露されるため、読者にとってはまさに究極のサプライズであり(笑)、そのあまりにもバカバカしいポエムの前に大爆笑することは間違いないでしょう。

 作者の上杉さんは、毎回毎回全力でこのポエムを搾り出しているらしく、そんな作者の歪んだ努力を感じながらポエムを味わうのも面白い。このポエムこそが、まさにショショリカ最大の魅力と言っても過言ではありません。


・実は非常に重くてシリアスな作品でもある。
 しかし、このような大いに笑いを取らせるポエムがある一方で、実はストーリーの根底は非常にシリアスな作品でもあり、主人公やヒロインが過去のトラウマから脱出しようと苦しむさまには、ひどく重い描写も感じられます。

 主人公のフィルは、過去の幼いころの出来事で負ったトラウマから、ものが食べられなくなる症状に冒され(いわゆる拒食症)、それから立ち直るべく、ヒロインのシアニーとふたりで乗り越えようと努力を重ねていきます。このあたり、「拒食症」というシビアな状況をいかに乗り越えるか、そのあたりの描写には極めて現実的なテーマが感じられます。
 また、フィルだけでなく、ヒロインのシアニーもまた、過去にやはりひどい目にあい、そのトラウマに日々苦しんでいます。連載の後期に入って、このシアニーに関するシビアなストーリーがひどく長く続くようになり、とりわけラストにかけての展開は、コメディ要素がひどく少なくなり、代わって極めて重苦しくキャラクターの内面を深く描く話が長く続き、実に読み応えのあるストーリーを最後に見せてくれることになりました。ただ、この連載後期の展開は、ひどく地味なイメージになった点は否めず、読者人気の上で今ひとつ停滞してしまい、連載の勢いがやや衰えてしまったのは少々残念でした。

 また、このふたり以外でも、それぞれかなりシビアで現実的な問題を抱えているキャラクターは多く、あるいはそういったキャラクターの言動にも考えさせられるものが多い。ショショリカのメンバーだけでなく、それ以外のキャラクター、特に大人の先生や校長らの言動にも深いものが多く、なんとも含蓄のあるセリフを発したりします。このように深いストーリー、テーマもきっちりと見せてくれるあたり、単にコメディとポエムで賑やかに笑えるばかりの作品ではなく、ひどく本格的な作品でもあったのです。


・WING連載では最後まで知名度に恵まれなかったが、実はとても良質な個性派作品であった。
 このように、この「ショショリカ」というマンガ、賑やかに笑えるコメディとシビアでシリアスなストーリーの双方がバランスよく配分され、その上で普通の料理マンガとは一線を画する斬新なアプローチや、化学的な知識が多数取り入れられた独特の設定、そしてなんといっても珍奇でバカバカしいポエム(笑)などの一風変わった要素がふんだんに見られ、なんとも個性的な作風となっていました。そして、後半になって大きくクローズアップされた、シリアスなテーマと重苦しいストーリーも読み応えがあり、さらに本格的な作品へと昇華していきました。一見してどんなマンガなのか説明するのが難しいようなマンガなのですが、実はひどく作りこまれていて面白いマンガだったのです。WINGの中でも相当な実力派連載であったことは間違いないでしょう。

 ただ、この作品は、他のWINGの連載に比べればやや知名度が低く、最後まで比較的弱い扱いに終始してしまったのが残念なところです。同時期に始まった「dear」「瀬戸の花嫁」「機工魔術士」などの長期連載と比べても、一歩下がった扱いになっている感は否めませんでした。2007年に入ってようやくドラマCDが発売されますが、主なメディア展開はこれのみ。これも他の長期連載作品に比べればひどく小さなものに終わりました。

 しかし、それにもかかわらず、内容的には他の連載と比べて決して劣ったところは見られず、個性的で良質な連載を維持し続けました。2006年以降大きな連載陣の変化があり、誌面が大きく落ち込んだWINGの中でも、堅実に雑誌を支え続けたマンガの一角として、非常に貴重な連載となりました。このマンガが終了したことで、WINGの落ち込みがさらに鮮明になったことからも、その存在の大きさが分かりました。アニメ化のような大規模な展開は最後まで見られませんでしたが、実は非常に優秀だった長期連載作品として、WINGの歴史に残る一作となったことは間違いありません。


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