<ティルナフロウ>

2005・3・13
全面的に改訂・画像追加2007・7・3

 「ティルナフロウ」は、Gファンタジーで2004年7月号から始まった連載で、極めてスクエニ(エニックス)らしいと言える、中性的でライト感覚なイメージのファンタジー作品で、連載中はかなりの人気を獲得しました。作者は新人の福盛田藍子(ふくもりたあいこ)で、これが初の連載作品にあたります。

 これは、いわゆる剣と魔法の世界が舞台のファンタジー作品ではあるのですが、剣と魔法でモンスターと闘いを繰り返すバトルマンガとはまったく趣が異なる、日常を舞台にしたまったり・ゆるゆる感全開の作品で、のんびりまったりとキャラクターたちの楽しい日常を楽しむマンガです。作中のコピーでも「剣と魔法のゆるる〜んファンタジー」「まったりファンタジー」などと銘打たれており、その内容に偽りはありません。キャラクターの萌え要素もかなり高く、「日常描写で和むまったり系萌えマンガ」としての印象が強い作品です。その点では、スクエニでも同時期にWINGで連載されていた「まほらば」や「dear」などの「日常癒し系」萌えマンガと重なる部分が多く、他社の作品で言えば「萌え系4コマ」のイメージにも近いものがあります。そのため、この手のマンガを好むスクエニ系読者には非常に受けが良く、幅広い読者に多くの支持を集めました。割とシリアスな重いストーリーの作品が多く、かつスクエニの中では女性寄りのイメージの強いGファンタジーの中では、割と少数派の存在で、このマンガを求めてWINGあたりから読者がやってきたほどです。

 あるいは、そもそもWINGあたりの誌面の方向性に近いところもある作品で、某WING専門家の発案したゆる萌えという言葉がぴったりと当てはまる作品とも言えます。そのようなマンガが、Gファンタジーの方で連載した意義は大きい。元々、スクエニ系雑誌は、雑誌ごとのカラーの違いがあまりなく、このような作品が、どこの雑誌に載ってもさほどの違和感はありません。ファンタジー作品ということを考えれば、Gファンタジーで妥当であるとも考えられます。いずれにせよ、このマンガの、かつての一昔前のスクエニ系作品のイメージを体現するような、中性的で男女を問わず楽しめるゆるやかな作風は、多くの読者に自然に受け入れられました。

 しかし、安定した人気を得て連載を続けていたのも束の間、約2年後の2006年5月号をもって連載は終了してしまいます。コミックスも4巻どまりで、意外にも比較的早い時期での連載終了となりました。突出した部分こそないものの、安定した面白さを持つ良作だと思えただけに、これはかなり意外な結果であり、ひどく残念に思ってしまいました。


・ファンタジーで学園もの。
 前述のように、この作品の舞台はスタンダードなファンタジー世界で、いわゆる「剣と魔法の世界」を舞台にしています。そして、その世界の学園で、勇者を目指す少年少女たちの学園生活と、それを通じた成長を描くという「学園もの」でもあります。「ファンタジー」で「学園もの」と、いかにもキャラクター萌えなマニアやオタクに受けそうな設定ですが、まあ実際にその通りで(笑)、連載当初から雑誌読者の間ではかなりの人気を集めました。ファンタジーと言っても、海外のRPGに見られるような重厚な雰囲気のマンガではなく、日本発のライト感覚の、女性にも人気がありそうな日本的RPGのイメージをそのまま具現化したようなマンガだと言えるでしょう。

 加えて、ファンタジー世界の設定に、童話的で幻想的な設定が多数見られるのも特徴です。剣と魔法のファンタジーと言っても、実戦的な剣技や理論的な魔法体系、重厚な城や街の描写に代表されるような、リアリティを重視したファンタジー世界(例を挙げれば「指輪物語」や「D&D」「ウィザードリィ」のようなイメージ)とは全く異なっており、どちらかと言えば、子供向けのファンタジー向け作品に見られるような、素朴で暖かな設定が随所に見られます。一応、剣と魔法でモンスターとバトルを行う、人々をモンスターから守る、といったオーソドックスなファンタジーものに見られるシーンもありますが、総じてシビアでシリアスなシーンは少なく、戦闘シーンでさえ、ドタバタと賑やかなノリで繰り広げられることがほとんどです。まさに、「剣と魔法のゆるる〜んファンタジー」の名に恥じない内容であると言えます。


・まったりと日常を楽しむマンガ。
 このマンガは、勇者を目指す主人公の少年少女たちの成長を辿っていくという、一連のストーリーの流れもあるにはあるのですが、それよりもむしろ「学園生活ののんびりした日常」を楽しむという側面が強いマンガです。
 学園生活における授業や日常風景での、日々起こるちょっとした(?)出来事をのんびり、まったりと楽しむというスタイルで、重厚感や緊張感、悲壮感とは無縁のゆるる〜んなファンタジーなのです。

 そして、その「のんびり感」を大きくサポートしているのが、このどこまでもライト感覚の絵柄でしょう。エニックス系マンガの象徴とも言える「中性的」な絵柄を地で行くようなマンガであり、その意味ではまさにこれこそがエニックス的なマンガと言えます。
 とにかく、福盛田さんの絵が素晴らしい。これほどストレートに萌える絵はあまり見られません(笑)。「女性が描く中性的な萌えマンガ」を強く体現しているようなところがあり、萌え系4コマあたりによく見られるライト感覚の萌え絵にほど近く、まさに「今時の萌え絵」を強く感じるような絵柄でした。Gファンタジーは、スクエニ系雑誌でも、比較的女性寄りの誌面ですが、このマンガにはそのようなイメージは薄く、幅広い読者に受け入れられるバランスのよい絵柄を確立しており、見た目からして安心して読むことができました。

 そしてもうひとつ、とにかくまったり感全開で進むストーリーがたまらない。「勇者を目指す主人公の少年少女たちの修業」という、根底にはシリアスな成長物語の要素があるにもかかわらず、実際にはドタバタ感全開の大騒ぎとなる話がほとんどで、毎回のんびりまったりと笑って楽しめる話ばかりです。脱力感全開の終わり方をする話も多く、最後までゆるゆるなままで話が進むところが、このマンガの最大の魅力であると言えるでしょう。

 ただ、基本的にはまったりした日常を楽しむ要素の強いマンガですが、それと同時に、主人公である少年少女たちの、のんびりとしながらも確実な成長を描いている点も評価できます。ライト感覚のまったりしたストーリーの中にも、ちょっといいなと思える体験をしたり、しんみりとくるシーンがあったりします。このあたりのバランス感覚がいいというか、単にゆるる〜んなエピソードの連続だけではなく、主人公たちに何らかの成長が見られるエピソードも要所要所で確実に見られるのです。そのため、基本的にはのんびりまったりな雰囲気中心のマンガでありながらも、読後に残るものがあり、作品に一本筋が通っています。


・独特のファンタジー設定が面白い。
 そして、このマンガ最大の特徴として、オードドックスなファンタジー世界ながら独特な設定が多数設けられていることでしょう。そして、このような設定を活かしたエピソードが多数見られ、読者に新鮮な楽しさを提供すると共に、他作品とは一線を画するオリジナリティの確保に成功しています。
 人間とモンスターが共存する世界が舞台で、主人公たちのキャラクターひとりひとりにも面白い設定があり、地理的・風土的にも独特の設定があります。本来のファンタジー作品には、このようなビジュアル的な新鮮さを提供する側面があります。しかし、今のマンガやアニメでは、やはりRPG的な世界観の影響があまりにも大きいのか、ファンタジーと言えばオーソドックスな「剣と魔法の世界」がほとんどです。しかし、もともとのファンタジー作品では、もっともっと自由に世界を創造する余地がありました。

 この「ティルナフロウ」の場合、序盤では最もよく印象に残るエピソードとして、「季節のかわりめ」にまつわるエピソードがあります。この「ティルナフロウ」で主人公たちが過ごす学園のある「センターシティ」という地域では、4つの季節は一瞬のうちに入れ変わり、その変化を「かわりめ」と呼ばれるかわいらしいモンスターが運んでくる、という設定になっています。これは、リアルな剣と魔法のRPG的世界観とは一線を画する、むしろひどく幻想的なファンタジー世界を思わせるもので、その不思議な世界観と特徴的なモンスターの姿に、思わず感心してしまいました。以後、このような面白い設定の話が、毎回のように見られるようになり、「ティルナフロウ」の最大の特徴となります。

 スクエニ系のファンタジーものとなると、「ロトの紋章」に代表されるRPGからのコミックス化作品や、「聖戦記エルナサーガ」のようなオーソドックスな剣と魔法の世界を舞台にした作品など、いかにもゲーム的・和製RPG的な作品を思い浮かべる人も多いと思います。しかし、同じ和製RPG的なイメージを持つマンガでも、このような作品も中にはあるのです。むしろ、このような独特の設定に満ちた世界の方が、本来の「ファンタジー」作品であるとも言えるのではないでしょうか。


・そして、なんといっても「萌え」。
 しかし、このマンガの最大の魅力は、なんといっても萌えであることは間違いありません。何度も言いますが、この中性的なキャラクターと絵柄は、エニックスマンガの最大の特徴であり、エニックス的萌えマンガを体現するかのような作品と言えます。しかし、「萌え」と一口に言っても、恋愛やラブコメ・エロ要素等を強調し、露骨に萌えを狙ったマンガではなく、まったりとした雰囲気の中でなんとなく萌えを感じつつ読むという、まさに典型的な「ゆる萌え」作品なのです。つまり、このマンガは、なんとなくまったりと感じる「弱い萌え力」のみで構成されているマンガであり、主に美少女マニアに人気のある、ラブコメやエロ要素中心の「強い萌え力」で構成されたマンガとは一線を画すると思われます。

 さて、このマンガで、具体的にどのキャラクターが萌えるかというと、それは人によって様々でしょうが、個人的にはチコイムノラムを挙げたい。
 まずチコですが、このマンガのヒロインであり、その外見と性格のかわいさから作品中最大の人気を誇ると思われるキャラクターです。このキャラクター、連載前の告知イラストでは、まるでディスガイアのエトナみたいな外見と性格のキャラクターだったんですが、いざ本編が始まると一変、ロングヘアで超天然系のすごいドジっ娘と化してしまい、このマンガの「ゆるる〜ん」な雰囲気を象徴する存在となってしまいました。そのどこまでもほんわかした性格と、それとは正反対になにげに露出度が高いコスチュームがなんとも言えません。

 次にイムノラムですが、これは植物系のモンスター(?)で、そのちんまりとした小動物(植物だけど)的な外見がマニアックな支持を呼び(笑)、一部でコアな人気を獲得しました。あまりに謎の多い生物であり、こちらはこのマンガの独特な設定を象徴する存在となってしまいました。
 いや、イムノラムだけではありません。このマンガ、なんだかやたらかわいらしい小動物的なモンスターが非常に多く、どのモンスターもやたら萌えます。おたまじゃくしのモンスター(?)であるデリケーターおたま「ピルピルちゃん」などは、そのぷにぷにした外見がもう最高です。ひよこにちょんまげが生えているような乗用生物「トノピヨ」のかわいさもポイントが高い。オンラインRPGなどでよく見かける、いわゆる萌え生物が好きな人には、特におすすめしたいマンガです。


・スクエニ的な感性に満ちた良作。早すぎた終了が本当に惜しまれる。
 このように、この「ティルナフロウ」、とにかくのんびりまったりと萌えられるマンガで、その上で独特なファンタジー設定や主人公たちの成長物語の側面もあり、単なる萌えだけでなくきちんと読めるマンガに仕上がっている点でも評価が高いマンガでした。このようなマンガは、かつてのエニックスの雰囲気を体現するような存在で、連載当時のスクエニでは、大変に貴重な作品でもありました。
 昨今のスクエニは、中心雑誌の少年ガンガンが極端な路線を採るあまり、全体のバランスが崩れ、かつて見られていた統一感がなくなっています。そんな中で、このようなかつてのエニックスを象徴するような、エニックスが本当に好きなファン層が求めるであろう中性的なマンガが、いまだそのようなマンガを数多く残しているWINGの誌面ではなく、あえてGファンタジーの誌面でも見られたというのは実に大きな意義がありました。読者の間でもかなりの安定した人気を維持しており、雑誌の中でも確かな存在感があったのです。

 しかし、どういうわけか、これが意外に早い時期に連載が終了してしまいます。連載1年半が過ぎたあたりから(コミックスでは最終4巻に入ったあたりから)、最終回に向けてのシリアスなエピソードが始まり、そのままそのエピソードの終了をもって、連載も終了してしまいました。シリアスな話もそれはそれで面白かったのですが、このマンガの場合、やはりもっともっとのんびりまったりした明るい話を読みたかったというのが本音で、もっと連載が続いてもいいと思いました。
 作者の側でもその意思は強く感じられ、コミックスの最終4巻では、これまで出てこなかった(使われなかった)設定の数々が、巻末のあと書きで紹介されています。これを見る限り、作者はまだまだ連載を継続するつもりだったことが分かりますし、実は中途半端な時期での打ち切り的な終了だったとも思われるのです。もしかすると、長期の連載と続けるにはまだ力が足りなかったと判断されたのかもしれません。

 だが、これはかなり残念な決定でした。いくらなんでも、コミックス4巻で終了というのは短すぎますし、4巻がほぼまるまるシリアスなエピソードで占められていることを考えると、「ティルナフロウ」らしいのんびりまったりな話が楽しめるのは、実質3巻までしかないということになります。これは、あまりにも物足りない展開でした。この手のマンガは、どれだけ長くのんびりしたした日常に浸れるかが重要だと思いますが、この「ティルナフロウ」の場合、それに反するかのように、あまりにも性急に最終回を迎えた気がしてなりませんでした。

 その後のGファンタジーが、他にも連載が次々と最終回を迎え、連載本数が少なくなってしまったことを考えても、そのまま連載させてもよかったのではないかと思えました。作者の福盛田さんも、しばらくの間雑誌から消えてしまい、かなり長く再登場できなかったのも、新人作家のためにはならなかったと思います。新人の作品としては十分すぎる良作だっただけに、そのまま新人の感性の趣くままに、心ゆくまで連載を続けさせたかったものです。




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