<刻の大地>

2001・11・12

 これは素晴らしい。個人的にはGファンタジーはもちろん、エニックス全体の中でも最も評価しているマンガです。もともとはガンガンで連載されていた作品で、96年の連載開始から考えるともはや長編といっていいでしょう。

 わたしはマンガを読む上で、まずなによりも「気軽に読んでいて楽しいかどうか。」ということを最重要視します。とっつき易くないとダメなのです。したがって、読む前に大量の設定を把握しないといけない、マニア向けのマンガというのはあまり読みません。いかに気軽に読んで面白いかというのが個人的なキーポイントなのです。
 この点がこの「刻の大地」はいい。このマンガは独特な雰囲気のファンタジー世界といい、多くを謎として残している設定といい、マニアックな作品であることは確かです。しかし、だからといって読みにくいわけではなく、ただストーリーを追ってページをめくって、ギャグシーンで笑って、お気に入りのキャラクターの言動を見るだけでも楽しめる。これが最大の利点なのです。まあ、これはエニックスのマンガ全体にいえる特徴なのですが、「刻の大地」はまさにその代表的な作品といえるでしょう。
 そう、「刻の大地」は気軽に読めるポイントから深く読めば読むほど面白くなるポイントまで、楽しめるポイントが非常に多い柔軟な作品なのです。それを今からひとつひとつ解説していきましょう。

(1)ストーリー。
 まずストーリーが面白い。展開がとても面白く、純粋に「次のページはどうなるのか。」「次号の展開はどうなるのか。」といった楽しみがある。一旦はまればこれほど次号が楽しみなマンガというのもあまりない。これがまずマンガの基本ですね。「この次がどうなるのかわくわくする。」というのは。
 実はこのマンガの連載当初はガンガンが月2回刊で、コンスタントに続きが読めるのがとても嬉しかった記憶があります。その意味でガンガンが月刊に戻ったのはショックだったんですが・・・。

(2)ギャグ。
 「刻の大地」はストーリーマンガですが、しかしギャグを抜きにこの作品を語ることはできません。
 とにかく笑えます。シリアスな展開の中に要所で織り込まれるギャグが非常にいい感じです。ストーリーの中に突然ギャグが入ってくるにも関わらず、読んでいてあまり違和感がありません。素直にギャグで笑え、ギャグシーンが終わればスムーズにストーリーに復帰できます。ギャグ部分とストーリー部分のつながりがスムーズで、読んでいてその間にギャップがないんですね。
 さらに、決して明るいとはいえないストーリーをギャグシーンが緩和する役目を果たしているところもポイントです。ストーリーとギャグのバランスがいい。

(3)キャラクター。
 わたしはストーリー派のまんが読みでして、あまりキャラクターには執着しないんですが、それでもこのマンガのキャラクターについては語らねばなるまい。
 各キャラクターが実に個性的です。それぞれ役割分担がきちっとしていて、ストーリーの上でいい役割を果たしている。各キャラクターの動向を追うだけで楽しめます。
 メインキャラクターだけでなく、脇役キャラクターも素晴らしい。どの脇役も脇役にしておくのが惜しいくらいの存在感があります。脇役に女の子とオヤジが多いのは夜麻先生の趣味ですよね(笑)。

(4)絵。
 なんとも独特の絵を描かれます。ストレートに「妙な絵」と表現する人もいます。わたしもそれなりにマンガを読んできましたが、これと近い絵は見たことがありません。
 何といってもラインの引き方が独特です。一見して無駄な線があるように見えて、ひとつひとつの線が生きている。この独特のラインは誰も真似できないんじゃないかな。
 絵そのものだけでなく、コマ割りなどのマンガ的表現にも独特のスタイルが見られます。全体的に独特の感性をお持ちのようです。ストーリーだけでなく、絵の感性でも見るべき点は多い。

(5)世界設定。
 このマンガの設定は非常にマニアックです。世界の神話・伝説からさまざまなモチーフを取り入れ、なんとも細かいところまで厳密な設定が与えられています。各モチーフの元ネタを探すだけで楽しめるくらいです。
 そして、これらの諸設定がビジュアル的にも生きており、実にいい雰囲気のファンタジー世界を作り上げています。実際にこの世界に行きたいと思わせるぐらいの力があるんです。

(6)謎。
 このマンガは基本的に謎だらけです。メインキャラクターの詳細ですらほとんどが謎のままで伏せられていて、敵役のキャラクターや今後のストーリーの先となると完全に謎だらけといえます。
 とにかくあらゆる設定が謎のままにされ、そのままの状態でストーリーが進んでいく。実に想像の余地がありますね。謎についてあれこれ考えるだけで楽しい。一旦追求し始めると終わらないでしょうね。

(7)テーマ。
 実はこれが一番重要。「人と魔物の共存」すなわち「異なるものとの共存」をメインテーマにすえたことが独特で、ステロタイプのファンタジーとは一線を画しています。従来のファンタジーにおいてゴブリンは冒険者に倒される存在でしかなかった。どんなストーリーにも倒される敵役というものがいて、単純な闘いという要素がどうしても入ってしまう。この不動ともいえる点を変えたところがいい。これが「刻の大地」最大のオリジナリティですね。

 ・・・と、こんな感じかな。実際にはこれらの要素が一度に提供されるわけだから、いかに読み応えのある作品か分かるでしょう。まさにどこをとっても楽しめる。単純にストーリーやキャラクターを追っかけてもよし、絵や世界設定に浸るもよし、謎やテーマについてあれこれ考えるもよし。まず気軽に楽しむこともできて、そして深く追求すればとことんまで楽しめる。わたしにとってはもっとも好きなタイプのマンガです。


 さて、ここまで長々と述べたように、このマンガは基本的に非常にいいマンガです。しかし、ここ最近は以前ほどの勢いがありません。わたしはこの作品は初期のガンガン隔週時と、98年にOVAがリリースされたあたりが一番盛り上がったと思うのですが、しかし最近は以前ほど勢いがないのが現状です。うーん、別に何が変わっているわけでもないと思うんですが。最近は小説もドラマCDも出なくなったし。とくにGファンタジーに移転してからがきつい。一体何が原因ななのか


2005・4・17

<連載終了に当たって>
 長い間連載中断した後で、ついに連載終了(実質的な打ち切り)が決まりました。非常に残念です。元々、ガンガン編集部の都合で強制的に掲載誌を移転させられて以降、かなり調子を落としたと感じていましたが、それにしてもこれはあまりにもひどい結末ですね。この作品は、ガンガン編集部の改革の最大の被害者だと言えるでしょう。


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