<ひぐらしのなく頃に解 罪滅し編>

2008・5・3

 「ひぐらしのなく頃に解 罪滅し編」は、ガンガンパワードで2006年No.1(新装第1号)から始まった連載で、2008年6月号をもって完結しました。タイトルからも分かる通り、あの大ヒットした同人ゲーム「ひぐらしのなく頃に」のコミック化作品のひとつであり、直前まで連載されていた「鬼隠し編」の続編的な内容となっています。コミック化の作者は、「鬼隠し編」から引き続いて鈴羅木かりんが担当しています。原作者はもちろん原作ゲームの執筆者である竜騎士07

 原作となるゲームは、全部で8つのシリーズ、具体的には「鬼隠し編」「綿流し編」「祟殺し編」「暇潰し編」「目明し編」「罪滅し編」「皆殺し編」「祭囃し編」からなっていますが、このうち前半の4つが「出題編」と呼ばれ、なんらかの謎を読者に提示するコンセプトとなっており、そして後半の4つが「解答編」と呼ばれ、前半のひとつひとつに個別に対応する謎解きが明かされる、という構成になっています。そして、この「罪滅し編」は「鬼隠し編」に対応する解答編であり、シリーズ最初の話である「鬼隠し編」に続くストーリーということで、極めて重要な意味を持っています。

 「鬼隠し編」以外の出題各編「綿流し編」「祟殺し編」「暇潰し編」も、すべてスクエニの雑誌でコミック化され、どれも非常に高いクオリティを維持しており、高い人気と評価を獲得しました。それに続く解答編であるこの「罪滅し編」も、出題編より引き続き担当する作家の実力には確かなものがあり、やはり高いクオリティを維持しています。いや、それどころか、前作よりも顕著なレベルアップが感じられる作品ともなっており、一個の作品としても非常に優秀なマンガとなっているようです。

 かつ「鬼隠し編」よりも明らかに量的なボリュームでも増大しており、2倍以上の分量となっています。パワードでの連載中も、毎回100ページ前後という極めて高い連載ペースを維持しており、かつ毎回のごとく表紙に採用されるなど、雑誌の看板的な人気作品として2006年に新装したパワードの中核作品となりました。現在、連載は無事終了を迎えましたが、作者の鈴羅木さんは、この後に「祭囃し編」のコミック化担当になることも決まっており、この作品で著しくレベルアップした作者の面目躍如となっています。


・「鬼隠し編」から「罪滅し編」に至る流れ。
 元々、原作の出題編である「鬼隠し編」「綿流し編」「祟殺し編」が連載化されたのは、2005年の6月です。この3つの作品は、スクエニの3つの雑誌(パワード・WING・Gファンタジー)で完全にペースを合わせて連載され、半年後にはコミックスの1巻が同時に発売されます。このコミックスが大人気で、どこでも売り切れるほどの盛況となり、以後スクエニでも最大の人気作品として、各雑誌を引っ張っていくことになりました。さらに半年後には完結となるコミックス2巻が発売され、これも高い評価を得て終了を迎えます。それと前後してガンガンで、出題編最後の一編である「暇潰し編」も連載されます。

 そして、出題編の連載が終わった直後から、対応する解答編の連載が始まります。始まったのは、「鬼隠し編」に対応する「罪滅し編」、及び「綿流し編」に対応する「目明し編」のふたつです。残りのふたつの解答編は、ストーリー上の都合ですぐには連載化することが出来ず、この2つのみが直後から連載することができました。

 そして、パワードで連載が始まったこの「罪滅し編」ですが、実はこの連載が始まった第一回目のパワードは、新装して季刊から隔月刊へとリニューアルした第1号であり、新連載が数多く立ち上がる中で、この「罪滅し編」もその中の新連載のひとつとして始まりました。しかし、他の新連載が全体的にぱっとしない中で、この「罪滅し編」だけは、前作「鬼隠し編」同様に、あるいはそれ以上に高いクオリティを確保し、新装でドタバタした雑誌の数少ない安定作品として、そのまま看板的な作品となりました。

 しかも、隔月刊へとリニューアルした後も掲載ページ数は変わらず、いやそれどころか毎号100ページ前後という非常なハイペースで連載されました。連載期間も前作(1年)の約2倍の2年となり、そのため作品のボリュームはこちらの解答編の方がはるかに大きくなっており、「鬼隠し編」が2巻で完結なのに対し、この「罪滅し編」は4巻完結でかつ各巻の容量も大きく、2倍以上の長さの大作になっています。


・作者の絵のレベルアップが非常に顕著に感じられる。
 前作「鬼隠し編」から担当作家が変わらず、かつストーリーも続編的な関連作ということで、基本的な内容は前作のそれを踏襲していますが、しかし作品全体に渡って作者の上達が顕著であり、秀作だった前にもまして質の高い作品となっています。

 まず真っ先に感じられるのが、絵が明らかにうまくなったことでしょう。具体的には、絵がシャープになり、迫力・凄みが増したと言えます。どんな新人作家でも上達は見られますが、これほどまでのレベルアップが短期間の連載で見られることはあまり多くありません。

 「鬼隠し編」開始当時の絵柄は、仕上がりの丁寧な中性的でくせの少ない絵は好印象で、最初から十分なクオリティを有していました。ただ、若干ながら絵にシャープさが欠けているところがあり、あやふやな描線をたまに感じることがありました。そのため、同時連載の他の2編に比べると、やや絵柄では劣るかな、と思えるところがありました。

 しかし、それが「鬼隠し編」の連載を通じてこの「罪滅し編」に入ってくると、そんなあやふやな描線がなくなり、非常にシャープな絵柄になりました。各描線が太く硬質なものとなったため、絵柄の迫力が増し、特にキャラクターの凄みがひどく増しました。そのため、シリアスなシーン、特に残虐なシーンや恐怖シーンの迫力が凄まじいものとなっています。
 中でも、この「罪滅し編」のメインヒロインである竜宮レナの絵にものすごい力が入っており、レナの作画に対する意気込みを感じることが出来ます。特に怒りのシーンや残虐なシーンでの迫力には見るべきものがあります。

 また、一枚絵のカラーイラストやカラーページの作画もレベルが高く、コミックスに収録されているカラーページも見事なものがあります。最終的には、この鈴羅木さんの絵が、「ひぐらし」コミックの中で最も高いレベルに達したような気がします。


・残虐シーン・恐怖シーンの描写も健在。
 そしてもうひとつ、そのレナが引き起こす、残虐シーンや恐怖シーンの描写にも、前作以上に非常な力が入っています。前作でも恐怖シーンの怖さには定評があったのですが、今回は残虐な暴力・殺戮シーンまで加わり、かつ絵柄に凄みが増した事で、極めて鮮烈な画面を作り出しています。カラーページに割り当てられたシーンも多く、今回もコミックスにその多くが収録されています。

 まず、今回の最大の見せ場とも言える、レナが父親に近づく美人局のリナを鉄棒で撲殺するシーンと、直後に相棒のヤクザの鉄平を斧で叩き殺すシーン。これは、血まみれの死体が露骨に描かれた鮮烈なシーンで、真っ黒いベタで描かれた流血と、ぱっくりと割られた顔面が凄まじいインパクトをもたらしています。しかも、後者のそれは鮮烈なカラーページでも描かれており、その美しい原色で描かれた夜の情景は、殺戮シーンにもかかわらず息を呑む美しさがあります。

 そして、それ以上に衝撃的なのは、レナがふたりの死体をバラバラにしようとするシーン。これは、おそらくは「ひぐらし」シリーズ全作品の中でも、トップクラスにショッキングなシーンだと思われますし、その過激なシーンが見開きでページいっぱいに描かれている様は、強く読者の心に衝撃を残します。

 加えて、前作から続く恐怖シーンも健在です。レナが雛見沢症候群を発症し、傷口から無数の蛆虫が這い出てくると妄想するシーンや、血まみれの無数の手が周りから押し寄せてくると一瞬錯覚するシーンなどは、どれも「ひぐらし」特有の優れた恐怖シーンであり、ここでもまた鮮烈な黒い作画が活きています。前作でも十分に怖いシーンを味わえましたが、今作ではそれをも一回り以上上回るシーンの連続で、同じく衝撃的なシーンの多い「目明し編」と並んで、シリーズでも最大の衝撃に満ちた一作となったようです。


・圭一の言動こそが物語の肝。
 しかし、ヒロインのレナの描写にも見るべきものがありますが、ストーリー面でもうひとつ見るべきなのは、前作「鬼隠し編」での主人公だった圭一の言動です。今回の「罪滅し編」の主人公はレナですが、しかしこの圭一の言動は、物語の上でも非常に重要なものであり、かつ読者の心を打つ真剣さが伝わってきます。実質的に「鬼隠し編」から引き続くもうひとりの主人公と考えてもよいでしょう。

 まず、この物語でも最大のポイントと言える、圭一を中心に部活のメンバーが力を合わせてレナに協力を約束するシーンですね。ここでは、レナが友人たちを信じられず、ひとりで凶行に走ったことを知り、圭一が力強くレナを助けることを誓い、部活のメンバー全員で一致団結して協力することを誓うのです。この「友人たちが互いを信じて協力を誓う」シーンは、ひぐらし全シリーズにおいても、ひとつのターニングポイントとなる重要なシーンであり、そのシーンを迫力の作画できっちりと描いたことは、大いに評価できるものでした。

 そしてもうひとつ重要なシーンとして、圭一がかつて犯した罪を告白し、それでも仲間に暖かく受け入れられ涙を流すシーンと、その直後に圭一が別の世界(「鬼隠し編」)で起こした凶行を突然思い出し、そのことを激しく悔いて反省し、凶行を働いてしまったレナと魅音に対して、涙を流して謝罪するシーンです。ここでは、涙を流して謝罪する圭一の心情が非常によく描かれていて、真に感動できるものとなっています。また、「鬼隠し編」と「罪滅し編」は、同一の設定での別のストーリー(パラレルストーリー)であり、直接的な続編ストーリーというわけではないのですが、ここで圭一の心を通じて繋がりを見ることができるのです。

 そして、最後に、この世界で凶行に走ることになるレナを、圭一が身体を張って止めようとするクライマックスのシーン。ここもまた最高に盛り上がるシーンであり、アクションシーンでの作画の迫力もあいまって、ふたりの心情が非常に強く描かれています。

 このように、とにかくこの「罪滅し編」では、圭一の優れた言動がクローズアップされるシーンが多く、まさに鬼隠し編から続く主人公の面目躍如となっています。また、キャラクター同士の「友情」が描かれているのも最大の特徴と言え、恋愛・愛情表現中心とも言える「目明し編」とは好対照を成しています。


・「ひぐらし」シリーズのコミック化作品の中でも白眉と言える一作。
 以上のように、この「ひぐらしのなく頃に 罪滅し編」、前作「鬼隠し編」よりも格段にアップした作者の画力、より衝撃的となって読者の心に残る残虐・恐怖シーンの数々、そしてシリーズのターニングポイントとも言える圭一の胸を打つ数々の言動と、どこを取っても非常にハイレベルで優秀な作品となっています。「鬼隠し編」の時点で十分すぎるほどの良作だったのですが、今回はそれをも一回り以上上回る面白さが見られ、「ひぐらし」コミックの全シリーズの中でも屈指の作品に昇華されています。コミックスも4巻を数え、量的にも前作をはるかに超え、他のシリーズの上に立つ読み応えのある作品となりました。個人的には、この作品が現時点では最も優秀にも思えます。

 そして、パワードという雑誌の連載としても非常に優秀でした。毎回100ページ前後に及ぶ連載ページ数を確保し、これまた毎回のごとく表紙を飾り続け、まさに新装後のパワードを先頭に立って引っ張る形となりました。新装時のパワードは、数々のゲームコミックを打ち出しますが、成功したものは多くなく、数少ない良作もマイナーな扱いに終始しています。そんな中で、この「ひぐらし 罪滅し編」のみが、完全な成功作としてひとり雑誌を支えることになりました。前作「鬼隠し編」の良作ぶりからして、この結果はある程度予想できることではありましたが、実際にはそれ以上の優秀な作品となっており、これは新装後の数々の新連載で混沌とした雑誌にとって、ひどく大きな支えとなりました。

 そして、無事に連載を終了した今、作者の鈴羅木さんは、「ひぐらし」最後の一編である「祭囃し編」の担当を任されることが決まっています。この作品の出来具合からして、最も重要な最後の一編の担当に抜擢されたのも妥当な決定と言えるかもしれません。これで、鈴羅木さんは、シリーズ最初の作品である「鬼隠し編」、シリーズの転回点であるこの「罪滅し編」、シリーズの完結編となる「祭囃し編」と、「ひぐらし」全シリーズの中でもとりわけ重要と言える3つもの編を任されることになりました。まさに、この「ひぐらし」コミックにおいて、最もめざましい成果を挙げた作家になったと言えそうです。


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