<うたた日和>

2007・5・29

 「うたた日和」は、Gファンタジーで2005年7月号〜12月号の半年間ほど、短期連載されていた4コママンガの連載です。作者は水谷ゆたか。この短期連載の終了後、しばらくして本連載が始まる予定だったのですが、いかなる事情かいつまで経っても再開されることはなく、今に至っています。現在では、短期連載が終了してからかなりの時間が経過しており、再開の可能性はひどく低くなってしまいました。この記事では、連載終了作品として扱っておきます。

 作者の水谷さんは、元はイラストレーターとしての仕事の方が有名な人だったのですが、この時期(2005年)において、エニックスの雑誌で活動するようになり、この「うたた日和」の他に、ガンガンパワードの方で「座敷童ちゃんDreamin'」「魔法少女>みこと☆」というふたつの読み切りを残しています。そして、これらの作品のいずれもが良質で、今後も大いに活躍が期待できると思っていた矢先、どういうわけか活動がばったりと途絶えてしまい、完全に立ち消えの作家となってしまいました。これはあまりにも惜しいことだったと言わざるを得ません。

 そして、この「うたた日和」が、4コママンガでの良作だったことも、非常に残念でした。ネット上の作者のサイトで見られる4コママンガも面白いことから、4コマ作家としての実力はかなりあると思われました。このところのスクエニでは、4コママンガの良作が何本も見られますが、もしこの「うたた日和」が今でも連載を継続していれば、間違いなくこれらの良作に匹敵する作品になっていたと思われるのです。しかし、これが立ち消えになったことで、スクエニは、4コママンガの貴重な戦力のひとつを失ってしまったと言えます。


・このやわらかな優しい絵柄が最大のツボ。
 まず、水谷ゆたかさんの特徴として、とにかくひたすらにやわらかいイメージの絵柄があります。
 描線の描き方がふわふわとしていて、そこにシャープさや力強さとは無縁の作画です。特にキャラクターの髪の毛の描き方が顕著で、ここまでへろへろした描線は、まず他のマンガでは見ることができません。これは、イラストの方の仕事でも顕著で、このやわらかなイラストには、ツボにはまったファンがたくさんいるようです。

 それと、キャラクターによっては、黒いベタで塗られた黒髪の表現に強く惹かれます。基本的にやわらかいへろへろな描線で構成された絵の中で、時折この黒髪のつややかな表現が入ることで、絵が引き締まって見えます。これは、作者のパワードでの読み切り「座敷童ちゃんDreamin'」の方では特に目立っていた要素で、「やはり黒髪はいいですな」(謎)と強く感じてしまいます。

 そして、短い連載でときたま見られたカラーイラストも絶品で、これまた水彩画のようにやわらかい背景が素晴らしい。青や緑を多用した色彩感覚にも癒されます。短期連載であまりこういったイラストが見られないうちに、連載終了したことが残念でなりません。


・変なキャラクターが繰り広げる日常描写が最高。
 内容面では、これはのんびりした日常の描写が中心の、癒し系4コマ作品に入ると思います。「スローテンポ4コマ」とも銘打たれていますし、そんなゆるい雰囲気が魅力のマンガです。が、その一方で、とにかくひとりひとりのキャラクターがやたら個性的で、誰も彼もが変人といって差し支えないような妙な個性を持ち、そんな個性を全面にさらけ出した4コマのネタが、とにかく笑えるのです。

 作品の中心となるのが、間瀬谷家の3人の兄妹とその母親ですが、そのいずれもがなんとも言えないほどずれた感覚の持ち主で、特に兄と母のふたりは、完全に変人と言っても差し支えありません(笑)。

 まず、一応の主人公である長女の水美(みなみ)。彼女は、「一生懸命やってはいるが、そのやり方がどこかずれている」ところがあり、本人は真面目にやっているつもりでも、はたから見るとツッコミどころ全開で、そのギャップがとにかく笑えるのです。筆箱を忘れないように、いつも筆箱を二個カバンにいれていたり、時間割の変更を忘れて、念のために全教科をカバンに入れて持ってきたりと、「こんな調子で生きていけるのか」という友人のツッコミがまさに的を射ているような女の子です。
 そして、水美の兄で長男の知水(ともみ)ですが、彼は超がつくほどの甘党であり、ポケットから羊かんを丸ごと取り出しておもむろに食い始めるほどの甘いもの好きです。ダイエットに挑戦する母に、「今後我が家では一切甘いものは買わないし口にしない」と宣言された時には、あまりのショックに部屋から出てこなくなってしまいました。見た目はいいし勉強もスポーツも出来るのに、そのギャップがなんとも言えません。この知水のキャラクターは、「座敷童ちゃんDreamin'」に出てきたホラービデオ好きの変人青年(道生)を彷彿とさせるものがあります。
 次に、次女の水城(みずき)は、まだ幼稚園児なのですが、妙に思い込みが激しいところがあり、ひとつのことにやたらこだわります。昔話の桃太郎で、桃の方にやたらこだわったり、サンタクロースの存在をかたくなに信じ込んでいたり、その様子がなんとも微笑ましい。そして、そんなに思い込みが激しいばかりに、母親(後述)にいいように言いくるめられ、ありえないことを信じ込まされる姿がなんとも言えません。

 そして、彼ら3人兄妹以上に強烈な個性を放っているのが、母親の智水(さとみ)です。10年以上前からまったく変わらない外見を持つ超若作りの母さんですが、そんなかわいらしい童顔の外見とは裏腹の黒い性格で(笑)、とんでもなく腹黒いセリフをさらっと言い放ちます。特に、まだ幼い水城に対しては、答えにくい質問に対して好き勝手な作り話で適当に答え、しかも思い込みの激しい水城がそれをすっかり信じ込んでしまうという、最高に面白い会話の様子が楽しめます。この母親のえげつない性格こそが、「うたた日和」の変人キャラクターの真骨頂と言えるかもしれません。


・サブキャラクターたちも変人揃い。
 そして、間瀬谷家の人々だけでなく、脇を固めるサブキャラクターたちも、明らかにずれた性格ばかりの個性派揃いです。
 まず、水美の高校の親友である尾久保直ちゃん。彼女は、一見するとおとなしい黒髪の美人さんですが、やはりどこか抜けたところがあり、教科書に平然と笑える落書きをしていたり、学校の美術部に入って、そこでの変人部長(後述)のすすめにあっさりと乗ってしまい、魔法少女の研究になんら疑問もなく取り組んでしまうなど、外見とは裏腹に明らかな変人として描かれています。

 そして、そこの変人部長がまたなんとも言えません。突然魔法少女に凝り始め、部員全員に「魔法少女☆愛好会」への入会を強制し、イラスト入りの腕章(手作り)をつけるように強制し、萌え絵を平然と描きまくり、魔法少女の等身大パネルをどこかからもらってくるというダメッぷり。こんな活動に大真面目な顔で取り組むあたり、その感性は徹底的にズレまくっています。

 そして、これは単発のネタでの登場ですが、「帰宅部」や「登山部」などの活動の様子がまたおかしい。特に帰宅部は、一目散に帰宅するために汗だくで走りこみを行うなど、「なにか違うんじゃないか」という内容の活動に平然と取り組んでいます。こんな妙なキャラクターたちがいたるところに登場する「うたた日和」、見た目のかわいらしさとは対照的に、なんとも笑える個性に満ちた作品であると言えます。


・これほどの4コマが立ち消えになったのは本当に痛い!
 このように、やわらかい絵柄と和む日常描写、それとは対照的に個性的でズレた感性のキャラクターたちの言動が面白いこのマンガ、4コマとしては本当に面白い良作で、誰もが和んで笑って楽しめる、なんとも優れたマンガに仕上がっています。連載中もかなりの人気があり、その後も長く連載できていれば、それ以上の人気マンガになったことは間違いないくらいの快作でした。

 しかし、ほどなく短期連載が終了し、その後「すぐに帰ってきます」という告知とは裏腹に、いつまで経っても連載は再開されず、そのまま立ち消えになり現在に至っています。正直、これほどのマ4コママンガがなくなってしまったのは、本当に痛い。これは、今のスクエニで貴重な戦力になったはずなのです。
 ここ最近のスクエニ系雑誌では、4コママンガに良作が多く生まれており、それぞれの雑誌で高い人気を確保しています。具体的には、ヤングガンガンの「WORKING!!」、ガンガンパワードの「勤しめ!!仁岡先生」、そしてガンガンWINGの「ちょこっとヒメ」ですが、これにGファンタジーの「うたた日和」が加わっていれば、(ガンガン以外の)スクエニ系雑誌すべてで、4コマの良作が揃って連載されることになり、今以上に非常に充実した4コマのラインナップが出来ていたはずなのです。

 しかし、その期待はあっさりとかなわなくなりました。なぜか、2006年に入ってから、作者の水谷さんの活躍が鈍ってきて、「うたた日和」だけでなく、他のスクエニ系雑誌での掲載がなくなってしまい、スクエニ系以外の仕事も次第になくなっていき、作者のサイトも更新されなくなり、ついにはどこでも見かけなくなってしまったのです。スクエニ系以外でも見かけなくなったことから、スクエニ側との事情で掲載が消えたのではなく、作者自身の事情で仕事が出来なくなったのではないかとも推測されましたが、詳しいことはよく分かりません。いずれにせよ、貴重な作家をあっさりとひとり失ってしまったことは確かで、これほど残念なことは他にありませんでした。

 今では、短期連載でわずかに残した「うたた日和」のページが、作者の4コマ連載のすべてとなってしまいました。作者のサイトに掲載してある4コマ作品も面白いものばかりで、4コママンガの実力は確かにあると思われた作家だけに、非常に残念な結果に陥ってしまっていると言えます。わたし自身は、まだ再開の望みを捨てていませんし、今からでも遅くはないのでなんとしてでも再開してほしいものです。


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