<ヴァンパイア十字界>

2005・4・30
一部改訂・画像追加2006・12・12

 「ヴァンパイア十字界」は、少年ガンガンで2003年9月号から開始された連載です。作者は、原作に城平京、作画に木村有理。原作担当の城平京は、もちろんガンガンでの人気連載「スパイラル」の原作者であり、その「スパイラル」の連載の真っ最中に、もうひとつの原作を受け持つ形でこの連載が始まりました。一方で作画担当の木村有理は、新人の女性作家で、このマンガがデビュー作にあたります。この「原作:城平京+作画:新人の女性作家」という形態は、その「スパイラル」と同一のものであり、作品の方向性、雰囲気には近いものもあります。
 しかし、「スパイラル」の方がガンガンの看板とも言える超人気連載として成功したのに対して、この「ヴァンパイア十字界」は、ガンガンの中でもかなり微妙な作品に終始してしまいました。確かに、城平京作品独特の個性は認められるのですが、一方で中々突き抜けた人気を得られてはおらず、その点でいまひとつの感は拭えません。

 ただ、このマンガと同時期(2003年)に始まったガンガンの新連載が、どれも極端な王道、もしくは低年齢向けを意図した少年マンガ路線の作品ばかりで、しかもそのいずれもが平凡な作風に終始したのに対し、この「ヴァンパイア十字界」が、王道系とは一線を画する、かなりの個性派作品だったことは評価できるかもしれません。この「十字界」連載時のガンガンは、全体的に平坦で似たイメージの作品が多い中で、この「城平京原作作品」のみがかなりの異彩を放っているように感じられます。


・城平京の意外な新作。
 上記の通り、このマンガは、「スパイラル」の原作で名を馳せた作家・城平京を、再び原作者に迎えた企画物の作品であり、連載が始まった時にはかなり意外な心境でした。まず、同じガンガンの誌面で、「スパイラル」の連載が今だ続いている状態での新作であること。そして、「ミステリー作家」として知られていた原作者の作品でありながら、ミステリーや推理の要素がメインでない「ファンタジーもの」、それもファンタジーでは定番とも言える「ヴァンパイア(吸血鬼)もの」として始まったこと。このふたつが大いに意外でした。

 極めて個性的な作風で知られる城平氏の原作ですから、このマンガも一筋縄ではありません。ファンタジーでは定番の「ヴァンパイア(吸血鬼)」を物語の中心に据えながらも、今までの吸血鬼ものとは一味も二味も違う独特の設定と物語に挑戦しています。そのあたりは非常に個性的で、評価されるべき作品なのかも知れませんが、しかし実際には今ひとつ突出した面白さを感じるまでには至っていません。以下にその理由を述べます。


・絵の魅力が乏しいのが難点。
 まず、絵の魅力が低い点が大きい。今回の作画担当は、新人の女性作家である木村有理さんですが、彼女の絵は非常に凝ってはいるものの、今ひとつ突出した魅力がないのです。新人の女性作家という点では、「スパイラル」の作画である水野英多嬢と同じですが、水野さんの絵が驚くほど人気が高いのに対して、木村さんの絵は今ひとつの印象で、特に連載序盤の頃はかなり劣っていました。
 まず、絵が凝っているのはいいものの、微妙に見づらい点が多かったのが気がかりでした。描き込みが過ぎるのか、あるいは背景とキャラクターが同化しているのか、致命的ではないものの少々読みづらい。これはかなり残念な点でした。
 そして、絵そのものがやや安定性を欠いているのも気がかりです。キャラクターの造形がきっちりと安定していないので、読んでいて落ち着かないことがありました。

 とはいえ、連載を重ねるごとに作画レベルは安定し、今ではこれらの点はかなり改善されています。・・・が、しかし、実は彼女の絵には、それ以上に大きな問題があるのです。それは一体何なのか?
 一言で言えば、萌えない(おい)。彼女の絵は、男女共に抵抗の少ない、エニックス独特の「中性的」な絵柄で、その意味では非常に好感が持てます。しかし、エニックスの他の中性的作品群が、どれも少なからぬ萌え要素を持っているのに対して、彼女の絵はどういうわけかあまり萌えが感じられないのです。例えば、同じ城平京原作の「スパイラル」の作画担当・水野英多さんの絵などは、エニックス史上最萌えと言えるほどの素晴らしい萌えを感じるのに対し、木村さんの絵はあまりにもそのあたりの魅力に乏しい。そして、これこそが「ヴァンパイア十字界」が今ひとつブレイクできなかった最大の要因であると考えられるのです。


・「城平京」のストーリーはどうか。
 そして、肝心の「原作:城平京」によるストーリーも微妙なところです。千年前のヴァンパイアの王国時代から現代日本まで、千年以上の時を生きるヴァンパイアの王・ストラウスが、愛するヴァンパイアの女王を取り戻すべく、対立する敵対勢力と闘いながら、各地の女王の封印を壊していくという、「現代を舞台にしたバトル+ファンタジー」といった感じの作品ですが、基本となるストーリー自体は決して悪いものではありません。過去の吸血鬼もの作品とは一線を画する設定が数多く見られ、独自色を打ち出そうとする努力が顕著に窺えます。

 しかし、実はこのストーリーが、序盤のうちに二転三転し、基本設定からして全く違った様相を見せるのが大きな特徴であり、同時にかなりの問題でもあるのです。第一話で仇敵だったはずの敵対勢力が、次の話ではいきなり和解して共同戦線を張ったり、実はストラウスが女王を愛しておらず、むしろ封印を暴いて殺したいと思っていたりと、連載初回の設定からは考えられないようなストーリー展開を見せます。しまいには、ファンタジーものから一転して、宇宙人がやって来て地球を侵略しようとするという、とんでもない展開まで見せます(笑)。
 これらの激動する展開の数々は、ひとつひとつを見る限りは決して悪くなく、状況が二転三転するごとに新たな駆け引きが生まれるという、「スパイラル」でも見せた原作者の持ち味も大いに感じられます。しかし、このように全く方向性の異なる展開がここまで繋がっていくとなると、やはり読者としてはかなり混乱することも事実。これはこれで面白いことは面白いですし、この破天荒ぶりが城平京の持ち味であることも確かですが、一方でひとつの作品として評価しにくいこともまた事実でしょう。

 さらには、あまりにもストーリーの展開、意外性に凝りすぎて、テーマ性やメッセージ性が乏しく思われるのも寂しい点です。もちろん、単純に娯楽作品としてみればよいのですが、同じ城平京作品の「スパイラル」が実に現代的なテーマを見せており、重厚な読みごたえがあるのに対して、「十字界」の方は少々物足りない点は否定できないと思います。


・確かに「力作」ではあるのだが・・・。
 このマンガは、原作者と作画担当者の双方が相当な力を入れていることが感じられる作品です。博識な城平氏の作品だけあって、個々の設定には相当に凝った点が窺えますし、ミステリー作家らしい、謎と意外性、駆け引きの面白さで引っ張っていくストーリー展開も優れた特長です(個人的には、千年前のヴァンパイア王国時代の回想編がかなり面白いと感じました)。作画の方も細部まで凝った絵柄で、連載が進むにつれて作画レベルが上がるなど、作画担当者の木村さんの努力の跡が顕著に見られます。
 しかし、このような「力作」であるにも関わらず、今ひとつ突出した面白さを感じるまでには至っていないと思われるのです。わたし自身も、連載を毎回読むたびに、「確かにこれは面白いな」とは感じるものの、2回も3回も夢中になって読みたいとまで思うほどではない。あくまで冷静に「悪くないな」と感じる程度であって、作品に熱中するまでには至らないのです。「力作」であることは間違いなく、面白い要素も随所に感じられるものの、それ以上にはハマれない。それは一体なぜなのか。

 結局のところ、この作品は「ケレン味」が足りないのではないか。先ほどの「萌え要素」もそうなんですが、とにかく読者を強引に引きずり込む魅力に乏しい。全体的に「真面目すぎる」ところがあるかもしれません。確かにこのマンガのストーリーはとんでもない展開も見せますが、個々のエピソードの作り自体は非常に真面目で、あまりに上付いた受け狙いの要素はあまり見られないのです。キャラクターに関してもそうで、一部に「GM御前」のような意味不明のキャラクターが存在するものの(謎)、露骨に「萌え」を感じさせるキャラクターがほとんど見られない。「スパイラル」の爆裂ロリータ竹内理緒嬢のような凄まじい萌えキャラがいないのです(笑)。

 そう考えると、このマンガは少々残念な作品かもしれません。実際、このマンガは、「原作:城平京」という大きな売りがある割には、同原作者のヒット作である「スパイラル」に比べて圧倒的に知名度は低く、ガンガンの中でもかなり地味な存在に終始し続けました。


・独創的な佳作に留まった作品か。
 ただ、それでもこのような独創的な作品が、この時期のガンガンで連載されたのは貴重かもしれません。確かに地味な印象こそ否めませんが、中盤から終盤にかけての展開、ことに終盤での物語の真相の暴露には驚かされるものがあり、連載を重ねるにつれてかなり読めるようになってきたのも事実です。個々のキャラクター、特に主人公であるストラウスの透徹した生き方にも感服するところがあり、そういった深い人間ドラマにも見るべきものがあります。その内容はけして悪いものではありません。

 しかし、その一方で、単純に面白いとは言い切れない作品で、人気を得るほどの魅力に乏しかった点も否めず、多くの読者にとってさほど注目すべき作品ではなかったことも事実でしょう。この時期のガンガンのラインナップの一角としては、むしろ平凡な部類にさえ属するのではないでしょうか。城平京の前作「スパイラル」は大成功を収めましたが、さすがに今回ももう一度成功というわけにはいかなかったようです。

 もっとも、この時期のガンガンでは、城平京作品は特別扱いなのか、メジャーな一般向け作品が大半を占めていく中で、この作品と「スパイラル」が、数少ない個性派の作品のひとつとしてその存在を認められている状態です。そう考えると、このような個性派のマンガが、地味ながらも連載を長く続け、ガンガンの一角を占め続けたことには大きな意義があるのかもしれません。ガンガンの中でも堅実に連載を続けた「佳作」として、一定の存在を示したことは評価すべきポイントでしょう。




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