<湾岸二課>

2008・1・22
一部改訂・画像追加2009・5・4

 「湾岸二課」は、ガンガンWINGで2008年10月号より開始された連載で、同誌の2008年後半の新連載攻勢のひとつにあたります。作者は藤川祐華で、元はGファンタジーで活動していた新人作家で、かつては「ラジアータストーリーズ」のコミックをそちらで連載していた作家だったのですが、このたびガンガンWINGの方に移籍して連載することになりました。あまり例の多くないケースだと思いますが、これには様々な理由が考えられます。

 内容的には、まさに「近未来ポリスストーリー」と言い切れるような作品で、近未来の日本を舞台に、特別な能力(超能力)を持った特務部隊の精鋭が、ウイルスで突然変異した化け物と闘う、といった感のあるストーリーです。このような作品は、どういうわけか過去のスクエニでは、エニックス時代から何度も見られる定番の設定で、もしかするとスクエニ(エニックス)には「近未来ポリスストーリーもの」と言えるような特殊なジャンルが存在するのかもしれません(笑)。なぜこのような作品が定期的に現れるのか、調べてみると面白そうにも見えます。

 さて、作者の藤川さんは、Gファンタジー時代から中々こなれた作風を見せる作家で、今回も確かに卒なくまとまったレベルの作品に達しています。Gファンタジーでの連載で、ゲームコミックだった「ラジアータストーリーズ」でも、アクションシーンの描き方がこなれていましたし、今回も主人公たち特務部隊と化け物とのアクションシーンは、作品最大の見所となっています。ストーリーも定番ではあるものの、こちらも毎回うまく展開しており、当面の完成度では十分合格レベルと見て良いでしょう。
 しかし、その一方で、今ひとつ突出した面白さを持つ作品には至っていないようで、WINGの新連載の中でも、これからさらにブレイクして成功できるかは難しいところでした。これは2007年以降のWINGの新連載の数多くに言えるもので、そこそこの作品にはなっているものの、雑誌を支えるような力のある新連載が中々登場しないというジレンマを抱えていました。特にこの作品の場合、基本となる設定があまりにも定番過ぎて新鮮味に欠けていたため、その兆候がより顕著に表れていたと言えるでしょう。

 そして、残念ながらその予想は現実のものとなり、2009年のWINGの休刊時において、このマンガは打ち切り的な連載終了となり、最終回のみがガンガンONLINEで掲載されるという中途半端な状態での終了となってしまいました。急な終了のためにそのような措置になってしまったのだと思いますが、これではガンガンONLINEでの最終回のみを見逃した読者も多そうですし、打ち切りの上にその最終回すら見てもらえない可能性が高いという、不遇な終わり方になってしまったと思います。

 なお、この作品と同時期に始まった新連載「アホリズム」の作者の宮条カルナさんは、かつて藤川さんと全く同時期にWINGの方で「ラジアータストーリーズ」のコミックを連載しており、二つの作品が連動していました。それが、奇しくもふたりの作者が同じWING誌上で、同時期に新連載を開始することになったのです。しかし、この「アホリズム」の方がまとまった人気を確保し、ガンガンONLINEに移籍しての連載継続が決まったのに対して、この「湾岸二課」は打ち切り終了と、両者の間ではっきりと明暗が分かれることになりました。


・Gファンタジー→WINGという珍しい流れ。
 前述のように、作者の藤川さんは、元々はGファンタジーで採用された新人作家で、当初はそちらで読者参加企画のイラストを担当し、のちに初連載となる「ラジアータストーリーズ」のコミック化作品を手がけるなど、長らくGファンタジーを活動の場にしていました。それが、今回は初めてWINGの方に場所を変えてのオリジナル初連載となり、これはかなり意外にも思える決定でした。
 最近のスクエニは、雑誌ごとのカラーをはっきりと分けてしまおうと意図している節があり、Gファンタジーはかつてよりもさらに女性向けの色が強くなりました。WINGはまだ男女読者の配分が微妙でしたが、それでも「まほらば」や「瀬戸の花嫁」のヒット後は男性読者の比率が大きく増えた感があり、多かれ少なかれ男性読者志向だったことは間違いないでしょう。つまり、大きく異なるカラーの雑誌へと移籍してきたわけで、これはかなり意外です。
 藤川さんが最初に参加した企画は、明らかに女性向けと思えるものでしたし、作品の絵柄も一見して女性的と感じられるものです。そのため、Gファンタジーの雰囲気には合っていたわけですが、それがなぜWINGで連載することになったのか。

 ひとつには、実は女性向けではなく、男性読者向けに描いてもいけるのではないかと判断されたのではないか、と推測しています。「ラジアータストーリーズ」のゲームコミックは、オーソドックスなRPGコミックで、大きく女性向けに傾いた連載ではなかったですし、むしろ女性キャラの描き方が肉感的で男性に好まれるような(いわゆる萌え系に近い)雰囲気も感じられました。加えて、当時からアクションシーンがこなれていたのも評価されたのかもしれません。男性受けする女性キャラにアクションシーンと、WINGで男性読者向けに連載してもやっていけるとの判断があったのではないか? 実は、Gファンタジー出身の作家には、どういうわけか他誌に移って男性向けと言える連載で成功している作家が何人かいます。(「明日のよいち!」の源ゆう「正しい国家の創り方。」の橘あゆんなどはまさにその典型ですし、天野咲哉もそれに加えてよいかもしれません。) それを踏まえれば、今回の決定もさほど不思議なことではないでしょう。

 あるいは、その理由とは別に、当時のWINGが女性向けの作品を増やそうとする路線を採っていることも理由にあったのかもしれません。そのために、女性向けのGファンタジーで活動していた作家を抜擢した。あるいは、ある程度男性向けの要素を満たしつつ、女性読者の確保も狙えるという、ふたつの目的を同時に果たそうとする意図もあったのかもしれません。そのようなWINGの路線、それにぴたりと合っている作家が藤川さんだったのでしょう。


・ここ最近では中々にこなれた完成度の新連載。
 さて、肝心のマンガの出来についてですが、同時期のWINGの新連載の中では、比較的手堅い完成度を保持していた一作だと言えるでしょう。他の新連載が新人による初連載作品が多く、まだまだ内容的に不安定なものが多くを占める中で、さすがに藤川さんはかなり前からGファンタジーで活動し、ゲームコミックの連載も長く手がけてきただけあって、安定した内容が感じられました。

 まず、警察の特殊部隊が化け物と闘う、というストーリーだけあって、アクションシーンの完成度は中々のものです。「ラジアータストーリーズ」の連載でも、同時連載の宮条カルナさんの作品と比べれば、こちらの方がアクションの上手さでは一歩以上上を行くところがあり、伸び伸びとした動的なアクションの構図に長けていました。今回の連載でもそれは健在で、人型の化け物との闘いでの格闘シーンには躍動感が感じられます。

 加えて、ストーリーについても定番ながらそつなくまとまっていました。ウイルスで変異した化け物と戦う特殊部隊の厳しい任務の日々と、新人の主人公が日々の任務で奮闘し成長していく過程、部隊の先輩や上司、頼りになる仲間たちとの信頼の強化、そして化け物を生み出し、背後で操る組織の謎を巡る展開と、一通りの要素がうまく盛り込まれています。作者初のオリジナル連載としては、まず合格と見てよいでしょう。

 また、前述のように、男性向けとも思える女性キャラクターの肉感的な描写、逆に女性向けとも思える整った男性キャラクターの描写と、読者人気を得やすいキャラクターの魅力に関しても一通りのものを持っています。前作のゲームコミックでも、原作のキャラクターをうまく再現していましたが、今回もほぼ同系の作風で、オリジナルのキャラクターでも同等のこなれた描写を達成しています。全体的に、定番の内容で大きなインパクトはないものの、手堅くまとまった完成度を持ち、多くの人に受け入れられる作品になっている点は評価すべきでしょう。


・しかし、あまりにも新鮮味に欠ける感は否めない。
 このように、確かにそれなりに安定した作品にはなっており、WINGの同時期の連載の中では、確かに中々読める作品にはなっています。しかし、その一方で、あまりにも既存の作品の設定を思わせるところが多く、いわば「かつてのエニックス(スクエニ)の『近未来ポリスストーリーもの』作品を強く思い出させる」ような作品になっており、新鮮味に大幅に欠ける感は否めません。

 具体的には、まず、お家騒動以前の作品で非常な人気作品だった「東京鬼攻兵団TOGS」(斉藤カズサ)に設定が非常によく似ており、様々な点で共通した箇所がうかがえます。お家騒動後の作品でも、同じWINGの「英雄のススメ」(宮条カルナ)、「セツリ SINNER'S AMBITION」(浅井蓮次)あたりがやはり「近未来ポリスストーリー」と言える作品で、同じWINGでも既に似た設定の作品がいくつも見受けられるのです。

 この中でも、やはり特に「東京鬼攻兵団TOGS」とは類似点が非常に多く、ウイルスに感染して化け物と化した人間を退治する特務機関という設定、純真な男の子の新人主人公と先輩にあたる女性キャラクターという人物設定が、ちょっとあまりにも似すぎています。もちろん、それ以外のストーリーや設定、絵柄などは異なるので、違う作品にはなっているのですが、それにしてもここまで似た部分が多いとどうしても気になってしまいます。

 また、これら過去の作品と内容面での比較でも、今回の「湾岸二課」は、少々定番過ぎて華がなく、個性にも欠ける面もあります。「東京鬼攻兵団TOGS」は、そもそもこの手の作品のエニックスでの先駆的存在で、絵も内容も極めてレベルの高い名作と言っていい作品でしたし、一方でWINGの「英雄のススメ」「セツリ SINNER'S AMBITION」は、どちらも新人の作品でさほどの完成度ではなかったものの、新人らしい若い感性はよく出た作品で、こちらの方が魅力を感じます(特に「セツリ」は、今思い出しても中々の秀作だったと思います)。これらの作品に比べると、「湾岸二課」は、あまりにも普通でこれといった特徴のない作品になってしまっており、決して人目を引く作品にはなっていないと感じるのです。読者の反応もあまり感じられず、これでは他の新連載同様、今ひとつこれ以上の発展は期待出来ないかもしれません。


・このマンガも、末期のWINGの新連載としては、明らかに力不足だった。
 以上のようにこの「湾岸二課」、比較的こなれた完成度を持ち安定して読める作品になっている反面、あまりにも既存の作品を彷彿とさせるような設定が多く、新鮮味に欠ける感は否めない作品になっていました。かつ、あまりにも定番過ぎて個性に乏しく、ごく普通のアクションものに留まっている印象もあり、当時のWINGの新連載の中でも、とりたてて読者の目を引く作品にはなっていなかったようで、雑誌を引っ張っていくような力に欠けている点は明白でした。絵もそこそこの完成度ではあるものの、こちらも突出して綺麗で見映えのする作画ではなく、ここでも印象に乏しい。連載第一回から100を超えるページ数で大々的に開始された連載で、その後も精力的に執筆を重ねていたのですが、それだけの扱いの割には、読者に心に強い印象を与えることはできませんでした。

 2007年以降のWINGは、少し前までの「まほらば」を筆頭とするいわゆる「ゆる萌え」系の作品の牙城が崩れ、編集部は様々なタイプの作品を模索し始めたように感じられました。その中でも最も特徴的なものが、バトルアクションやファンタジー要素を強く押し出した「王道系作品」(特に王道系ファンタジー)であり、そのような新連載が顕著に見られるようになりました。この「湾岸二課」は、ストレートに王道というのとはちょっと異なるとは思いますが、それにしてもバトルアクション要素に加えて男性向け(あるいは女性向け?)とも取れる絵柄や描写が強く押し出されているあたりで、共通するイメージはかなり強いと思われました。

 そして、それらの王道系作品の多くが、どれも今ひとつの作品に終始しており、WINGのレベルを伸び悩ませている状態は続き、この「湾岸二課」もまたその典型的な存在となってしまったようなのです。過去の作品と比べて、最初からWING編集部の求める作品作りに沿ったものになっている感が強く、そのための作家をGファンタジーの方から呼び寄せてきたのではないかとも思えました。

 しかし、これらの作品のほとんどは成功することができず、この作品も2009年5月号でのWINGの休刊に伴い、打ち切り的な終了を余儀なくされました。他の同系の作品も、ほとんどがこれと同様に打ち切りが早期終了となってしまっています。結局のところ、これらの作品は、WINGの読者層の好みに合っていなかったのではないかと思われるところもあり、最初から成功の望みは乏しかったのかもしれません。

 最後にガンガンONLINEに場所を移して掲載された最終回も、定番過ぎる展開で無理やりまとめて終わらせた感が強く、決していい終わり方とは言えませんでした。末期のWINGの誌面の質の低下を象徴する作品になった感もあり、Gファンタジーで活躍してきた作家の初のオリジナル作品の顛末としては、随分と残念に思ってしまいました。


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