<WARASIBE>

2008・8・2
一部改訂・画像追加2009・4・29

 「WARASIBE」は、ガンガンWINGで2007年11月号より開始された連載で、同誌の当時の新連載の中でも、特に大きな期待作としての扱いを受けていた作品でした。元々は、連載開始の1年ほど前に掲載された同名の読み切りがもとになっており、ほぼそのままの形で連載化されました。

 作者は、松葉サトル。読み切りの時には、「松葉哲」というペンネームでしたが、連載化に際して一部を変えて読みやすくしたようです。ガンガンWINGは、この時期以前よりかつての定番人気連載が相次いで終了、もしくは終了間際となり、それを受けて2006年に大量に打ち出された新連載もぱっとしないものが多く、2007年に入っても新規連載の投入が続いていました。この「WARASIBE」も、その中の一角を担う新連載なのですが、その中でも特に編集部によって強力に推されていた作品らしく、新連載当時から積極的な推進活動が見られました。ガンガンWINGは、この作品を雑誌の主力作品にしたかったようです。

 内容的には、これは少々説明しがたいマンガなのですが、幕末から現代までの文明が入り混じった架空の日本で、それぞれの目的のために旅を続ける男女たちの道中をコミカルに描く・・・といったところでしょうか。一応、バトル系の少年マンガ的な作品と言ってもよいかもしれません。2007年以降のガンガンWINGは、このような王道的なファンタジーバトルものの新連載が数多く見られるようになり、これまでとは異なる路線を模索し始めたようですが、これもそのひとつに数えられます。

 しかし、これらの作品は、全体的にぱっとしないものが多く、この「WARASIBE」もまた例外ではありませんでした。編集部の強力な推進を受けているようですが、その割には面白さには疑問符が付きます。独特すぎる設定やいまいち雑に感じられる絵柄が、作品をとっつきにくくしているようで、今ひとつ面白さが見えてきませんでした。同系の連載である「ネクロマンシア」や「磨道」の方がまだすっきりして読みやすく、優良な作品になっているようにも思えました。この当時のガンガンWINGは、以前にも増して連載ラインナップに大いに陰りが見えた状態で、そんな中でこのレベルの作品を主力として扱わねばならないこと自体が、雑誌の不振をあまりにもよく表していたと言えます。結局最後は2009年の雑誌休刊と共に終わりを迎え、他の人気作品の多くが掲載先を変えて継続していく中で、半ば打ち切り的な終了を余儀なくされました。これは残念ながら妥当な結果だったと言えます。


・キャラクターの魅力が今ひとつ弱いのが第一の難点か。
 このマンガは、謙太(けんた) という少年と鈴音(りんね) という少女のふたりがメインキャラクターで、読み切り版ではこのふたりの出会いと道中を描く話になっていました。謙太は、誰かの助けになりたいと思い、役人になるために江戸までの旅をしているのですが、その道中で傍若無人な少女・鈴音と出会い、彼女にいいようにあしらわれ、そのまま下僕にされてしまいます。鈴音は、「わらしべ長者」を実践したいという壮大かつ理不尽な計画を立てており、一生豪遊できるだけの金を物々交換だけで得るという「わらしべ計画」を実現するべく、下僕である謙太を引き連れ、江戸まで旅をすることになります。

 鈴音は、傍若無人ながら機知や豪胆さを併せ持ち、謙太は下僕としての扱いをいやがりながら、その鈴音の影響を次第に受けていき、成長していく、というのが基本となるストーリーで、このふたりの個性、掛け合いの面白さには、確かに見るべきものがあります。連載版では、鈴音の元に、さらなる下僕である橘(たちばな)、カノンのふたりが加わり、さらに賑やかな掛け合いの作品となっています。

 しかし、このキャラクターたちが、今ひとつぱっとしないようにも感じました。絵的にやや雑で見た目の丁寧さが見劣りすることもあるのですが、それだけでなく、キャラクターの個性に後付けが乏しい点が大きいようにも思えます。主人公の謙太などは、かつて自警団に救われた経緯などから、誰かの助けになりたいという献身的な性格も理解できるのですが、一方で鈴音の方は、なぜ少女とは思えぬような豪胆でアクの強い性格になったのか、そのあたりの経緯が判然としません。これは、作品のひとつの謎として、あえて過去のことを隠しているためでもあるのですが、それにしても最初からアクが強すぎるキャラクターで、しかもその掘り下げが分からないとなると、少々もどかしさが募ります。

 そもそも、鈴音の下僕に対する扱いも中々にひどいものがあり、それでいてそうなった具体的な経緯が分からないとなると、どうしても不快感が先に立ってしまいます。鈴音という傍若無人な主人と、謙太ら下僕という関係は面白いのかもしれませんが、それ以上の掘り下げが連載開始時には不足しており、どうにもキャラクターに親しみづらい点は否めないものでした。最初から、分かりやすくキャラクターの過去を知らせる方法もありだったと思います。


・独特の設定もとっつきにくい原因か。
 そして、さらに読者にとってとっつきにくいと思われる点として、このマンガの独特の設定、特に世界観があります。

 一見して幕末時代の日本に見えて、場所によっては文明が現代レベルにまで到達しているという架空の日本が舞台で、謙太のように、着物を着て刀を指している人々が大勢いる一方で、洋服を着て銃を持っている人たちもおり、所によっては車や高層ビルまである現代レベルの街並みの場所もあるなど、渾然一体となった独特の世界観が最大の特徴となっています。
 謙太などは、刀などは時代遅れだと周りから言われながらも、それでも自分のあり方にこだわって闘いを進めていくくだりなどもみられ、そのような文化のギャップをストーリーに組み込んだエピソードなどは、確かに面白いものがあります。

 しかし、確かに一部面白いなと思えるところはありますが、総じてこの独特の設定にはさほどの魅力を感じられないのです。独特の設定には十分作者ならではの個性を感じるのですが、残念ながらそれが作品の面白さに結びついていないようです。
 理由としては、あまりにも雑多で統一感がなさすぎることが最大の理由でしょうか。これには、作画自体が大雑把で仕上がりが丁寧でないことも大きく関係しています。昔ながらの街並みと近代的なビルが混在する世界観は、うまく描けばその渾然とした魅力が伝わるのかもしれませんが、このマンガではそこまでのレベルには達しておらず、単に雑多で美しさを感じられない、むしろ粗雑な印象を受けるビジュアルに終始しているような気がします。主人公たちが対立する組織の設定でもそうで、一見して現代にありがちなヤクザ的な組織からは、このマンガならではの魅力が感じられないのです。なにか、この独特の世界観ならではの、見た目からして人目を引く敵組織、敵キャラクターを見てみたかったと思いますが・・・。


・絵が雑に感じられるのが最大の難点。
 そして、上でも少し書きましたが、とにかく絵が雑に感じられるのが最大の難点です。これがなければ、この独特の世界観もよく再現され、キャラクターもより魅力的なものになっていたかもしれません。
 このマンガ自体、いわゆる少年マンガ的な要素の強いマンガであり、バトルシーンなどもよく見られます。最近、こういった少年マンガは、姉妹誌のガンガンの方で何度も打ち出していますが、総じて雑に感じられる絵が多く、決して印象はよくありません。それは、この「WARASIBE」にも共通したところがあり、どうにも仕上がりが雑で読みづらく、見た目の印象で大きく損をしているように思えるのです。

 とはいえ、ガンガンの少年マンガに比べれば、まだこちらは作画レベルは高い方であり、決して下手な絵の作品ではありません。新人の初連載作品としては、まず合格を与えられる作品であることは間違いないでしょう。
 しかし、これがWINGの連載となると、正直なところ不満が残ります。WINGの連載作品は、お家騒動以前と以後では内容的な変化はかなりありましたが、どちらも一貫して作画が丁寧で、「綺麗」な印象を与える中性的な絵柄が最大の魅力となっていました。かつての最大の人気作品だった「まほらば」などは、絵のレベルで見ればそこそこかもしれませんが(作者自身も絵がうまくないと言っていましたし)、しかしその丁寧に描かれたくせのない中性的な絵柄は、読者に大きな親しみを持って迎えられました。他の作品も基本的にはそうで、絵のレベル自体はさほど高くない作品でも、その丁寧な作画は大いに評価できるものがありました。

 しかし、この時期以後、WINGが路線を少し変更し、このような王道的なマンガも採り入れ始めて以降、このように作画が雑に思える作品が、少しずつ出始めてしまったのです。このマンガの場合、作画レベル自体はそこまで低いとは思えないのですが、背景がやや雑に描かれているところが多かったり、キャラクターの造形に不安定さを感じさせたり、そういった少しずつの雑な作画の積み重ねで読みづらさが増しており、ぱっと見た時の印象でもあまりいいものがありません。もし、このマンガが、WING的な丁寧な作画でキャラクターもよく描けていたら、随分と印象が変わっていたと思えるのです。


・当初からの雑誌編集部の推進ぶりにも、あまりに違和感を覚えた。
 そして、この程度の平凡な感が否めないレベルの作品であるにもかかわらず、連載開始当時から編集者による過剰な推進ぶりが見られたのも、非常に気になるところでした。
 それも、厳密には連載開始以前からそのような大きな扱いで、「大型新連載開始」のような大々的な予告が見られました。そして実際に連載が開始されたのちには、このマンガの紹介ページをいきなり作り、頻繁に巻頭カラーやセンターカラーを割り当て、「ここまでやるか」というほどの大規模な推進活動ぶりが顕著でした。WINGの編集者は、本当にこのマンガを面白い作品だと思っていたのかもしれません。少なくとも、このマンガの担当編集者はそうだったのでしょう。

 しかし、実際に始まったマンガの内容は、素人のわたしの目から見ても、そこまでの面白さはなく、悪くはないけれどもごく平凡な作品に映りました。他の読者の間でもどうやらそのようだったらしく、このマンガをそこまで評価する読者は多くなく、それ以前にこのマンガに対する話題を聞くこともそう多くはありませんでした。

 のちに、コミックス1巻の発売時に、どこかの書店で特製のてぬぐいを特典として配布したのですが、コミックスの売れ行き自体が芳しくなかったようで、最初から特典を付けるような作品とはどうしても思えませんでした。編集部の推進ぶりに押されるような形で、「これは期待できる作品だろう」という予測で特典の配布に踏み切ったように感じられ、特典が最後まで余って配布し切れなかったところもあったようです。

 このような推進ぶりを見るに、このレベルの作品を推進しなければならなかった当時のWINGの苦境ぶりと共に、編集者の力量にも一定の疑問符が付きます。いくらラインナップに陰りが見えている状態と言っても、このレベルの作品にそこまでの極端に高い評価を下してしまうというのは、この時期の編集者のマンガを見る目にも、少々問題があったと言えるのではないでしょうか。


・雑誌の推進ぶりほどの面白さは最後まで感じられなかった。
 以上のように、この「WARASIBE」、作画的にも内容的にもいろいろと不満な点が多く、さほど面白いと言える作品ではありませんでした。。「傍若無人ながら性根は悪くない少女に下僕として必死に仕えることで、未熟な少年が影響を受け成長していく」という物語のプロットは決して悪くないとも思うのですが、それ以上色々と問題点が多く、誰もが素直にはまれるマンガにはなっておらず、この印象最後まで変わりませんでした。中でも、粗雑に感じられる絵と世界観は、見た目の第一印象を悪くしており、読者が惹きつける力に乏しかった感は否定できません。

 実際の人気でも、さほどのものは感じられませんでした。コミックスの1巻は、原作の開始後のかなり早い時期に発売されましたが、その反応はいまいちでした。前述のように、一部の書店では特典を付けるフェアも行われたようですが、あまり大きな盛り上がりは感じられず、このマンガでフェアを行うこと自体が早まり過ぎではないかとも思えました。WING本誌でも、編集部は必死に推進して大きく扱い続けましたが、最後まで人気が盛り上がったとは思えませんでした。

 編集部は、連載開始時点から、いや開始以前から、いきなりこのマンガを強く推進していたわけですが、果たしてそこまで将来が見込めるマンガだったのでしょうか。連載に先駆けて掲載された読み切りも、私的にはそこまで印象に残るものではありませんでしたし(そこそこ読める作品だとは思いましたが)、どうしてこのマンガがそこまで編集部に評価されたのか、そのあたりがまったく分かりません。他にもっと将来性が見込める新人作品が、当時はまだまだ豊富に存在していたと思うのですが・・・。。

 ただ、今改めて連載を振り返ってみると、物語そのものは決して悪いとは思えませんでしたし、今後キャラクターの掘り下げもある程度は見られ、そこそこの作品にはなっていたように思います。雑に見える絵柄はマイナスでしたが、作画レベル自体が大きく劣っていたわけではありません。しかし、それでも、編集部が期待するような「雑誌の看板」にふさわしい人気を獲得するのは、あまりにも難しい作品だったような気がします。どうも、この「WARASIBE」、この時期のWINGの落ち込みに対して、編集部が焦るあまりに、期待作として持ち上げすぎてしまったのではないでしょうか。そう考えると、このマンガの不成功自体が、当時のWINGの、後に休刊へとつながる不振を象徴する一作品になってしまったのではないか。そう思えてならないのです。


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