<勇者カタストロフ!!>

2007・6・16

 「勇者カタストロフ!!」は、月刊少年ギャグ王で1994年5月号(創刊号)から開始された連載で、初期から中期のギャグ王を支える大人気作品となります。1996年12月号にて終了するまで3年近い長期連載となり、ギャグ王の歴史を語る上では欠かせない連載と言えます。作者は、元はドラクエ4コマの爆笑ギャグで一世を風靡した牧野博幸(まきのひろゆき)

 1994年に創刊されたギャグ王は、「ドラクエ4コマから生まれた雑誌」と言っても過言ではない雑誌で、初期の頃はドラクエ4コマ出身の作家で、多くの連載が固められていました。そして、その中でも安定した面白さを得て見事に人気作品となったマンガはかなりの数に上っており、その中でもこの「勇者カタストロフ!!」は、魚屋勇者による爆笑ギャグと妙に良く出来たストーリーで、雑誌でもトップクラスの人気作品となります。

 元々は、連載前の読み切り版も非常に好評を博していましたが、そのテイストは連載版でもそのまま活きており、誰もが最高に笑える質の高いギャグが面白く、一躍人気作品となります。その後の連載では、ギャグだけでなく、、意外にも考えさせるシリアスなストーリーの魅力も光っており、最後までかなり読ませるマンガであり続けました。作者・牧野博幸の最大にして唯一の人気作品であり、彼が以後これを超える作品を出せずに、最終的にはエニックスから消えてしまったことで、今でもこのマンガを懐かしむ根強いファンは、かなりいるようです。

 なお、この作品以外で、ドラクエ4コマ出身作家によるギャグ王の人気作品としては、「半熟忍法帳」(新山たかし)・「レニフィルの冒険」(石田和明)・「幻想大陸」(夜麻みゆき)など、多数あります。


・魚屋勇者とフグ妖精による爆笑珍道中が熱い。
 このマンガの最大の肝と言えるのは、「ただの魚屋がいきなり勇者に仕立て上げられる」という、RPGの設定をパロったかのようなギャグにありました。これは、あの「魔法陣グルグル」にも近いものがありますが、こちらの作品は、主人公の魚屋の少年(ズック)が、バカな王様のふざけた提案に散々乗せられ、ひどい目にあわされるその悲惨な姿がやたら面白く、その爆笑度は初期の「魔法陣グルグル」にも劣らないものがあります。あの当時のエニックスには、このようなRPGパロ的なマンガは珍しくありませんでしたが、このマンガはその中でも特に目立つ作品でした。

 そして、勢いだけはいい魚屋主人公(そのたびにひどい目に遭う)と並んで、読者の爆笑を誘うキャラクターが、相棒の妖精(?)であるハチです。このハチ、登場時は、小さな女の子の背中に羽が生えたような、ごく一般的なイメージの「妖精」的なキャラクターだったのですが、ズックがモンスターにやられそうになった時に命を賭けて救出を行い、エネルギーを使い果たしてなぜか「変態」し、どう見てもフグにしか見えない空飛ぶデブ妖精に生まれ変わってしまいます。性格も、最初持っていた可憐さはまったくなくなり、なんとも横柄でいい加減なふざけた性格になり、その点でも大いに爆笑を誘いました。

 しかも、このハチが、大魔王との戦いで意外な活躍を見せ、体内から毒液を吹き出すテトロドトキシンアタックで魔王を撃破するという、あまりにもバカバカしい展開へと結びつきます。このような、海の魚をネタにした設定もこの後何度か見られるようになり、これは「勇者カタストロフ!!」のひとつの持ち味になります。


・悪徳デパートオーナー「ダイ・バザール」との決戦が熱い。
 しかし、勇者としての活動は、初期の連載数回で大魔王を倒した時点で終わりを告げ、その後地元の商店街に帰って魚屋家業に復帰した主人公は、今度は新たなる敵、ダイ・バザールと対決することになります。
 このダイ・バザール、空飛ぶ巨大デパートのオーナーで、勇者の地元の商店街を潰すべく、圧倒的な安売り攻勢を行い、商店街の客層を一手に奪い去ります。この場合、デパートというよりは、生鮮食品も売る大型スーパーかショッピングセンターといったところが正しいのでしょうが、そういった大型店舗が、小さな商店街を圧倒するという、まるで現代日本の経済事情を先取りしたかのような、意外な展開に突入します。そして、地元商店街の中心的存在として、魚屋勇者が巨大悪徳店舗に対抗するわけですが、この戦いが本当に熱い。この「魚屋商店街VSダイ・バザール」の話は、「勇者カタストロフ!!」全話の中でも、最も面白かった回で、人気の上でもこの話が最高に盛り上がりました。

 まず、ダイ・バザールの資金力に物を言わせた圧倒的な攻勢を前にして、魚屋勇者が姑息なスパイ活動や嫌がらせを行う、そのバカバカしい抵抗ぶりが面白い。この無意味にして全力の抵抗ぶりの情けなさは、最高に笑えるところがあります。
 そして、そのような爆笑ギャグだけでなく、実はかなり真剣に商売で立ち向かおうとするところも面白い。ダイ・バザールの店舗は、安売りの影で裏で粗悪な流通活動を行っており、それでコストを徹底的に抑えて競争相手を潰した後は、その国・地域の経済活動を独占的に支配するという、まさに侵略行為として描かれています。そんな凶悪な敵に対して、商店街で魚屋を営むズックは、最終的には真剣な商売稼業で対抗し続け、ついには勝利するのです。これは、いわゆる商業主義・利益主義に対して、本来の商売のあり方を見せ付けて勝利するという、テーマ的にも実に優れた話に仕上がっていました。


・環境破壊と商業主義に対する戦いが熱い。
 そして、その戦いは、連載が進むにつれてさらに深化していき、ついには、人間の活動がもたらす環境破壊、そして、ダイ・バザールの店もその傘下だった大型デパートチェーンの総元締めとの戦いに突入していき、人間による行き過ぎた商業活動に対する批判というテーマが、常に作品の根底に存在するようになりました。もちろん、基本的にはギャグマンガで、途中で何度もギャグを交えつつ進んでいき、バカなキャラクターも多い賑やかな作風なので、総じてそんなにシリアスな雰囲気ではないのですが、それでも要所要所でそのようなシリアスなストーリーが垣間見えることで、作品に一本筋が通った感があります。

 今思えば、これは早すぎたテーマだったとも言えます。このようなテーマは、地球規模の環境破壊や格差社会を生む新自由主義が席巻する、今の世の中でこそ大いに引き立つのであって、そう考えれば、このマンガは、それを10年も早く先取りしていることになります。人情のカケラもなく、ただ商業的利益を優先しようとするラスボスに対して、魚屋勇者が、「バカ野郎!俺ン家の売り口上は『安くて新鮮』ってんだ!じっちゃんの代からの家訓を譲れっかよっ!!」と激しく叫ぶシーンなどは、単なるギャグマンガとは思えないものがあります。これは、今の世界を席巻している新自由主義に対する強烈なアンチテーゼとして、今の時代にこそ光り輝く作品であると言えるでしょう。

 また、最後まで主人公のライバルであり続けたダイ・バザールも、実はラスボスの総元締めによって作られた存在であることが発覚し、そんな自分の存在意義をかけて、勇者と最後の決戦を繰り広げるという展開も熱い。このダイ・バザール、勇者同様に基本的にはかなりのギャグキャラとして、バカバカしい言動で散々笑わせる存在なのですが、要所ではこのような熱い生き様を見せる男として、最後までその存在感に光るものがありました。


・担当・倉重との仁義なき攻防が熱い。
 そして、そんな本編とは打って変わって、コミックスの巻末に設けられた作者ページでのギャグが、また最高に面白いのです。
 これは「四季のエッセイ」と題され、作者である牧野博幸の日常生活やマンガ制作状況について書く、いわゆる「楽屋裏」ページなのですが、どういうわけかここで作者の悪ノリが大爆発し、すべてを投げ打ったかのような爆笑ギャグになっているのです。

 とにかく、牧野博幸のバカバカしい言動が最高に面白い。カップ焼きそばを作っているところで、編集者からファックスが来て、いつの間にかお湯が原稿に溢れ出してパーになり、しかもそれを編集者のせいにして逆恨みをしたり、ファックスの際に尿意をもよおして、「牧野ひろゆきはおしっこがでそうです。ちょっとまっててください」などとエニックスに送信し、しかも送信ミスでどっか別のところに送ってしまうなど、あまりにもアホらしい言動の数々に大爆笑できます。
 中でも、牧野さんの当時の編集者であった「担当・倉重」との熱い攻防の数々が描かれるシーンが最高に面白い。何としても原稿を取りたい担当・倉重と、できるだけ仕事をしたくない牧野博幸との間で繰り広げられるいやがらせの数々は、あまりにもバカバカしく最高に笑えるものでした。当時のエニックス、特にギャグ王は、このように編集者がやたら雑誌やコミックスに登場し、作者との間で様々な交流を見せるシーンが多かったのですが、これはその中でも最も人気のあったページでした。今でも、この「四季のエッセイ」の爆笑ぶりを覚えている読者もいるほどです。


・マンガ家・牧野博幸の名を後世に知らしめる、ギャグ王最盛期の名作。
 以上のように、爆笑ギャグとストーリーの双方で最高に楽しめ、作者コラムである「四季のエッセイ」でも読者を爆笑させた「勇者カタストロフ!!」ですが、連載3年足らずでラストの展開を迎え、惜しまれつつもそのまま連載終了となりました。この「勇者カタストロフ!!」連載中のギャグ王は、創刊時から続く全盛期であり、そんな全盛時代を駆け抜けたこの作品は、ギャグ王の中でも屈指の人気作品として、その存在を多くの読者に知らしめました。

 また、この連載が終了した頃のギャグ王は、それまでの誌面から一転して強引な路線変更を図り、読者の低年齢化を推し進めてまったくつまらない誌面と化してしまいましたが、そんな中でこの「勇者カタストロフ!!」の終了もまた、全盛期のギャグ王が失われていく象徴のひとつとなった感もありました。
 また、ギャグ王という雑誌だけでなく、作者である牧野さんも、この後はあまり振るいませんでした。まず、隔週時代のガンガンにも一度だけ読み切りを描いたことがありますが、これもやたら人を食った妙なノリのギャグに終始し、大きな人気は得られませんでした。かなり後の1998年になって、同じギャグ王で、次の連載である「超弩級ほかほか戦士チャブダイン」が始まりましたが、これは「勇者カタストロフ!!」ほどにはふるわず、コミックスもわずか2巻で終了してしまいました。さらに、この連載の終了直後に、連載先のギャグ王が唐突に廃刊してしまい、以後、牧野さんの活躍の場がエニックスからなくなってしまい、完全に消え去ってしまいました。以後は、他出版社でゲーム系4コマを執筆したり、のちにマッグガーデンが創刊した低年齢向け雑誌「プレコミックブンブン」で連載を持ったこともありましたが、これはエニックス読者にはさして興味の持てない、ごく低年齢向けの作品であり、もはやかつての牧野博幸のような作風を見ることはできませんでした。

 上記のような点から、この「勇者カタストロフ!!」のみが、牧野さんの連載の中で唯一の良作となっており、今でも作者の絶頂期の作品として、当時のギャグ王読者や、ドラクエ4コマ時代からの牧野ファンの間では、非常に根強い人気があります。また、全盛期のギャグ王を飾る最大の看板作品だった点でも、この作品は非常に重要であり、エニックスの歴史に残るマンガのひとつとして、作者の名前ともどもこれからも語り継がれるべき作品だと思われます。


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