<アリスのお茶会(読み切り版)>

2008・1・6

 「アリスのお茶会」は、第11回スクウェア・エニックスマンガ大賞で佳作を受賞した作品で、ガンガンWING2008年2月号に掲載されました。作者は大川マキナで、少し前にガンガンWINGの「天の翼賞」で期待賞を受賞した以外は、とりたてて経歴を残していません。完全な新人と見てよいでしょう。

 受賞時の寸評では「可愛い女の子たちの、ほのぼのとした部活動の様子が伝わってきて和む。絵柄は可愛らしく、特に人物の表情がよく描けている」などと書かれていますが、内容的には完全な萌え4コマであり、ここまでストレートなコンセプトの作品が、スクエニのマンガ賞で受賞しているとは思いもよりませんでした。ギャグ部門での受賞ではありますが、激しいネタのギャグを見せるような作品ではなく、ひたすら和み癒されるような作風で一貫しており、キャラクターも女の子以外まったく出てこないなど、昨今の一部4コマ作品のテンプレートを忠実に踏襲しているような作品となっています。

 しかし、そのように既存のジャンルに近い作品ではありますが、内容的には非常にほのぼのとした雰囲気とネタが好印象で、女性作家らしいほんわかした絵柄も可愛らしく、実に和む作品となっています。ここ最近のスクエニのマンガ賞では、少年マンガ的な作品が受賞作の主流を占めるようになり、このような作品はあまり見られません。雑誌として近い方向性を持つ、ガンガンWINGでの掲載となったのもうなづけるような作品で、今回のマンガ賞においてこの雑誌で掲載された受賞作は、この「アリスのお茶会」ひとつだけでした。


・まるい描線が際立つほのぼのとした絵柄。
 まず、この作品は、どこまでもほんわかとした描線で描かれた絵柄が実に印象的です。似たような絵柄は既存の萌え4コマでも見られると思いますが、この作品のそれは特に顕著で、角ばったシャープなところがまったく見られない、まるい描線が実に印象的です。これほど丸い絵を描かれるのは、同じガンガンWINGの連載作家である稀捺かのとさんくらいでしょうか。

 特に、キャラクターである女の子の描き方が顕著で、そのかわいらしいへちゃれたような丸顔(笑)が特に和みます。主人公の女の子・アリスの大きな垂れ目もなんとも言えません。いかにも女性的な作風で、同じ萌えマンガの絵柄でも、男性作家のそれとは一線を画す方向性が見られます。

 作画レベル自体はさほどでもないと思いますが、4コマ作品としては過不足ない出来で、特に絵が雑で見づらいと感じられるようなことはなく、ここでも好感が持てます。ガンガンやガンガンパワードにおけるギャグマンガの投稿コーナー「GGグランプリ」の作品が、おしなべて低レベルで粗雑な作画が多く、気分を害する場合すらあるのとは対照的で、まだ決して技術的には高くないけれども、4コママンガとしてきちんと読める作画になっている点を評価したいところです。4コママンガやギャグマンガでは、ストーリーマンガほどの画力を必要としないケースが多いけれども、それでも最低レベルの読者に見せられるだけの作画は必要だと思うのです。GGグランプリの投稿者や選出者の方々も、この点をよく考えてほしいと思います。


・はじめてのお茶会に臨むアリスの心情がよく描けている。
 肝心の内容ですが、金髪碧眼の高校留学生のアリスが、ドラマで見た茶道に憧れて高校の茶道部に入り、失敗を重ねつつも徐々に茶道の道を体験していくというものです。金髪の外人少女が日本の文化に触れる、という点で、既存の4コマでも近い設定の作品をいくつか見たことがあるような気がしますが、その点でもまさに萌え4コマを思わせるところがあります。

 キャラクターもいかにもそれらしいところがあります。主人公のアリスなどは、金髪碧眼の外人少女で、お人形さんとも言われるような可愛らしい外見をしていて、前述のようにへちゃれた丸顔と大きな垂れ目がとてつもなく和みます(笑)。また、彼女と同じくこの作品を象徴しているのが、小学3年生のお子様先生ですね。茶道の家元の娘さんで、小学生でありながら外部から茶道部の顧問をしているという設定で、ちっこくて可愛いお子様の外見で、小学生とは思えない年寄りじみた言動と取るギャップがなんとも言えません。そののんびりした言葉遣いは、まさにこのマンガのほのぼのゆる萌えな空気を体現するようなキャラクターであると言えます。

 そして、茶道をまったく知らなかった主人公のアリスが、ひとつひとつ茶道の作法を学んでいく様がまたいい。アリスの、茶道を一生懸命学ぼうとする初々しさ、瑞々しさが全面に出ています。時に笑える失敗を重ねつつも、かいがいしく奮闘する様子が実に微笑ましい。そして、そうして奮闘する合間にも、茶道独特の人を癒す空気を感じるシーンがまたいい。これぞ、侘び寂びの精神を目的とする茶道の真理(?)であり、かつこの作品のほのぼの癒し系の雰囲気とも完全にマッチしています。
 茶道についての知識も、何も知らない人でも一通りなるほどと思えることが描かれていました。アリスと一緒に、このマンガで読者も茶道の精神と作法を学べるかもしれません。


・このマンガは、明らかに投稿先と掲載場所を間違えている(笑)。
 しかし、このマンガは、確かに「ゆる萌え」をひとつの特徴とする今のガンガンWINGの雰囲気・方向性にも合っていますが、しかし、もっと適切な掲載場所があるような気もします。

 冒頭でも述べたとおり、このマンガは、どう見ても萌え4コマであり(笑)、あまりにも多くの点でこのジャンルのスタンダードを踏襲しているところがあります。ほのぼの癒し系な雰囲気、女性的な和み系の絵柄、女の子しか出てこないキャラクターたち、金髪少女の主人公と日本文化の組み合わせと、実に萌え4コマの定番をよく突いています。これほどスタンダードな萌え4コマが、スクエニのマンガ賞受賞作品で読めるとは、正直予想しませんでした。

 実際、この内容ならば、スクエニよりも4コマ誌での掲載の方が自然ではないかとも思えます。はっきりいって、このマンガは、今すぐきららかぱれっとに掲載されていてもまったくおかしくはない(笑)。もう完全に誌面になじんでいることでしょう。むしろそちらの方に作品を投稿すべきだったのではないかとすら思えます。なぜこれをスクエニのマンガ賞に投稿したのかは定かではありませんが、あるいはガンガンWINGにもかつて投稿したという作者の経歴から考えると、比較的萌え4コマに近い雰囲気を持つこのWINGに惹かれた上での投稿先決定かもしれません。

 ただ、別の考え方をすれば、この作品があえてスクエニで受賞したことに意義があるかもしれません。萌え4コマ雑誌でこのマンガが登場しても、他に似たような作品がたくさんある中では、いくら良作でもその存在感が薄れてしまうことが十分に考えられます。それならば、むしろスクエニで、それも最近は少年マンガ系の受賞作が多いスクエニのマンガ賞で受賞したからこそ、逆にその存在が際立って良かったのではないでしょうか。これだけ存在感を見せれば、今後スクエニで(おそらくはガンガンWINGで)活躍できることも十分考えられます。


・これならばGGグランプリは必要ないのではないか。
 それにしても、このような良作4コマがマンガ賞で出るところを見ても、ガンガンでの「GGグランプリ」は必要ないのではないかと、さらに思います。
 「GGグランプリ」は、2ページのギャグマンガ投稿作品による競作コーナーで、新人の育成も大きな目的としています。しかし、掲載される作品は一様に低レベルなものばかりで、到底コーナーとして楽しめないばかりか、ここから出てくる新人も数えるほどしかおらず、新人育成の成果も多く出ていません。それよりも、むしろ、この「アリスのお茶会」のようにマンガ賞での受賞作品や、あるいは他方面からの新人の作品が、より大きな成果を挙げていることが多いのです。

 例えば、ガンガンWINGで4コマ作品「ちょこっとヒメ」を連載するカザマアヤミも、元はマンガ賞の受賞者で、その後雑誌で読み切り掲載を重ねた上で連載を獲得しました。ガンガンパワードの4コマ作品「勤しめ!!仁岡先生」を手がける尾高純一も、GGグランプリからの出身ではなく、やはり純粋に雑誌で読み切りを重ねた上での連載獲得です。ヤングガンガンの「WORKING!!」(高津カリノ)に至っては、元はネット上で制作されるウェブコミックからの登用であり、やはりGGグランプリとはまったく関係ありません。
 これらの4コマ作品は、いずれ劣らぬ良作揃いですが、どれもガンガンのGGグランプリからの出身ではなく、独自の掲載履歴から連載デビューを果たしています。そして、今回の大川マキナさんも、マンガ賞受賞からの掲載です。これを見れば、4コマ作家を発掘・育成するために、GGグランプリが必ずしも必要ではなく、従来どおりのマンガ賞受賞・読み切り作品の掲載や、あるいはウェブからの登用からの新人育成でまったく問題ないのではないでしょうか。

 むしろ、このマンガ賞において、4コマやギャグマンガの発掘の試みを強化した方が、より成果が上がるような気がします。例えば、スクウェア・エニックスマンガ大賞で、少年マンガ部門やギャグ部門に加えて、新たに「4コマ部門」を開設し、4コマ作品を積極的に募集すれば効果的なのではないでしょうか。


・大事に育成すればスクエニ4コマの新戦力に。
 そして、この「アリスのお茶会」ですが、今回の受賞作を見る限り、4コマ作品としてかなりの筋の良さを感じます。いかにも萌え4コマ然としたゆる萌えな雰囲気も、ガンガンWINGの誌面に非常に合っていますし、このまま連載してもいいんじゃないかとすら思ってしまいました。今回の投稿作だけで、きっちりとひとつのストーリーが完結していますし、その点でも優秀です。あとは、毎回の連載でネタが続けば言うことはないでしょう。

 作者の大川マキナさんについても、スクエニからの新しい4コマ作家として、これまでの4コマ作家と同様の活躍が出来そうです。このところのスクエニでは、4コマ作品に良作が多く、前述の「ちょこっとヒメ」「勤しめ!!仁岡先生」「WORKING!!」のような優秀な作品が、雑誌ごとにひとつずつあるような状態です。2006年にはこの3つを合わせて「スクエニ4コマ×3フェア」という企画も開催されました。出版社全体でそう多くの4コマ作品があるわけではありませんが、ひとつひとつの粒が揃っている印象で、規模の割によく成果が出ているなと感じます。

 一方で、かつてGファンタジーで一世を風靡した「うたた日和」(水谷ゆたか)が、立ち消えになったまま再開されないなど、少々惜しい作品を失ったところもあります。それならば、この大川マキナさんを、新しい4コマ作家の有力候補として育て、もうひとつスクエニからの4コマの良作を増やすという試みには、大いに意義があるのではないでしょうか。

 ここ最近、どういうわけかスクエニ雑誌(特にWING)と芳文社きらら系雑誌との間で作家の往来がかなり見られ、なにかしら交流でもあるのではないかと推察しているのですが、この大川マキナさんも、その作風からして、いつきらら系の方に行ってしまってもおかしくはありません(笑)。それはそれで作者さんにとってはよいと思いますが、ここは是非4コマ作家の少ないスクエニ系雑誌で活躍してもらって、新しい戦力となってほしいと強く願うのです。


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