<ばらかもん>

2008・4・22

 「ばらかもん」は、ガンガンパワード2008年4月号に掲載された読み切りで、同誌でゲームコミック「聖剣伝説 プリンセスオブマナ」を連載しているヨシノサツキによる作品です。その連載を掲載している一方で、読み切り作品も同時に掲載という形となりました。

 連載作家が、同じ誌面で別に読み切りを描くというケースは結構見かけますが、このマンガの場合、非常にページ数の多い掲載(56ページ)で、編集部の方でも強く特集を組むほど力を入れており、連載を続けながらここまで大規模な読み切りを載せるというケースはあまりないと思われます。しかも、作者のヨシノサツキさんは、このゲームコミックが初連載の新人であり、新人にここまで大きな読み切りを同時に掲載させるというのも珍しいと思います。

 しかも、この読み切りが、連載マンガである「プリンセスオブマナ」よりも明らかに面白く、絵的にも内容的にも抜きん出た優れた作品となっていました。この「プリンセスオブマナ」、後述するように決して面白いとは言い切れない作品であり、そんな作者の描く読み切りも、読む前にはあまり期待していませんでした。しかし、それがここまで面白かったのだから、これはいい意味で裏切られた形となりました。実際、この読み切りの完成度は、ここ最近のスクエニ雑誌での読み切りの中でも群を抜いており、久々に読み切りで秀作に出会えたような気がします。

 なお、このマンガのタイトルは、「ばらかもん」であり、決して「ばからもん」ではありません。非常に間違えやすいと思われるタイトルなので、これには注意する必要があります。


・決して面白いとは言えない同作者の連載作品。
 このヨシノさんの描く連載マンガ「聖剣伝説 プリンセスオブマナ」は、スクエニ(旧スクウェア)の人気ゲームシリーズ「聖剣伝説」を原作に持つゲームコミックなのですが、内容的にはオリジナル色が非常に強く、しかもそれがゲームのイメージを崩すような内容で、かつストーリー的にも面白いとは言い切れない作品となっており、素直に評価することができません。

 とにかく、やたら人をいじるようなギャグが強く、あまりにもどぎつい内容に終始しています。主人公は、世界を救うという二人の巫女とその従者ですが、この巫女が傍若無人の性格で、従者や周りの人間に暴力的なツッコミを入れまくるような有り様で、原作のイメージからはかけ離れていることは明白でした。また、原作ゲームは別にしても、この人を食ったようなギャグはかなりの抵抗があり、不快に感じることも多々ありました。
 ストーリーも決して面白いとは言えず、世界を救う巫女の旅でありながら、上記のギャグのせいか今ひとつ緊張感がない。連載のエピソードの中にはそれなりに考えさせるものもありますが、それ以上にストーリーの展開で面白さを感じられないのが厳しいところです。

 その上、絵の魅力もいまいちと言わざるを得ません。極端にキャラクターの線が細いデッサンで、少女マンガ的とも言えますが、それ以上にくせが強すぎて、男女キャラクターともにあまり魅力を感じられない。もちろん、原作ゲームのイメージを再現しているとも思えません。アクションシーンや背景描写でも、これといって見るべきところがなく、原作ゲームの世界観を再現しているとは言えない。ゲームコミックならば、やはり原作のイメージは大切にしたいところ。これでは、あの「聖剣伝説」のゲームコミックとしては、あまりにも不十分でしょう。


・主人公が田舎の空気に触れて成長するストーリーが素晴らしい。
 この物語の主人公の半田(はんだ)は、書道の家元の息子で、若くしてすでに書道で先生と呼ばれるほどの腕前になっています。しかし、あるコンクールの受賞式で、そこの展示館の館長から思わぬ作品の酷評を受け、そのことでかっとなって大暴れしてしまいます(笑)。そこで、父親から「田舎の島でしばらく頭を冷やせ」と言われ、はるか五島列島の田舎にしばらく滞在することになります。

 最初のうちは、環境の変わった田舎でも、なんの感慨も抱かぬほど心が荒んでいた主人公ですが、そこで暮らしていくうちに、そこの美しい風景や素朴な人々に触れることで、次第に心が安らいでいき、ついには新たな気持ちで書道に打ち込むことが出来るようになり、過去の自分の傲慢な行為も反省し、書道家として新たな一歩を踏み出すことになるのです。

 特に、主人公に無邪気に懐いてくる悪ガキに振り回されるうちに、最初のうちは反発しか覚えなかったものが、次第に打ち解けていき、逆にその無邪気な子供の姿を見て、過去の自分のふるまいがいかに悪かったかを顧みるようになる過程、それがよく描かれています。とりわけ、最後に子供に連れられて海に沈む夕日の絶景を見るシーンは感無量であり、その風景を見てふっきれた主人公は、ついに新しい気持ちで紙に向かい、自分の本当に思うがままに書に取り組みます。その姿は、実に爽快なものがありました。

 このような重厚なストーリーは、連載マンガで見せたギャグ主体の内容からは予想外のもので、実にすがすがしい気持ちで読了することが出来ました。ゲームコミックのようなファンタジーものよりも、このような現実を舞台にした話の方がいいのでは・・・とまで思ってしまいました。


・田舎の美しい風景、素朴な人々の描写が素晴らしい。
 しかし、このマンガは、ストーリー以上に、舞台となる田舎の美しい風景や素朴な人々の描写が、実に素晴らしいのです。ある意味では、ストーリーよりもこちらの方がメインかもしれません。
 この物語の舞台の五島列島は、作者自身の出身地であるらしく、自分のふるさとである田舎の良さを精一杯描き出しています。現実の作者のふるさとでも、おそらく本当にこのような情景が広がっているのでしょう。そんな自身の経験が活きた素晴らしい筆致になっています。

 まず、やはり自然溢れる田舎の風景ですね。島が舞台ということもあり、やはり海の描写はかなりの力が入っています。加えて、空の描きこみにも並々ならぬものが感じられ、クライマックスでの夕日が海に沈むシーンなどは、まさに絶景と言えます。

 そして、風景以上に素晴らしいのは、やはり田舎に住む素朴な住人たちの姿でしょう。冒頭で半田を出迎えてくれる気のいいおじいさんや、半田につきまとう無邪気な少年(こといしなる)、半田が住むことになる空き家の管理人のおじさんなど、誰もが人の良さが溢れています。また、このおじいさんの姿には、今までの作者のマンガではあまり見られなかった、リアルな年配の人の姿が描かれており、その点でも好感が持てました。ただ、個人的には、もう少したくさんの人を描いてほしかったところです。ほぼこの3人くらいしか主人公と関わってこないので、もし次回作があるなら、もっと多くの人々との交流を見てみたいところです。

 もっとも現実には、今の田舎の暮らしは必ずしも良いところばかりではなく、むしろ生活は厳しいところも多いと思います。しかし、このマンガは、素直に田舎の良さを描いており、これはこれで十分に意味はあるのではないでしょうか。「経済格差で田舎はつらい」という話の多い昨今、決してそれだけではない田舎の素晴らしさを描いたこの作品は、大いに勇気づけられるものがありました。


・絵も明らかにこちらの方がよい。
 そして、内容がこれだけ充実している上に、絵についても連載マンガより上回っています。絵の描き方が明らかに変わっており、こちらの方がはるかに強い力を感じます。
 「プリンセスオブマナ」の絵柄は、キャラクターの造形があまりにもくせが強すぎ、しかも背景などもごちゃごちゃと描き込みが過ぎて一見して読みづらさが目立ち、決していい印象は受けませんでした。しかし、この「ばらかもん」では、どういうわけか明らかに絵がうまくなっており、これらの欠点が大幅に改善されています。

 まず、キャラクターの描き方が力強くなっており、描線がくっきりした印象深いキャラクターを生み出しています。しかも、連載マンガであったくせの強さが大幅に減っており、普通に見られる違和感のない人間像になりました。田舎の年配のおじいさん・おばあさんたちもよく描けており、その泥臭いとも言える魅力がよく出ています。主人公ら若者のキャラクターも、よりすっきりした魅力的な顔立ちになりました。

 そして、ごちゃごちゃした印象だった背景描写もすっきりして、非常に読みやすくなりました。反面、背景に何も描いておらず寂しいコマも目立つのですが、まず何はともあれ読みやすさを確保できたのは良いことです。コマごとの寂しさは今後の課題として残りますが、作者最初の読み切り作品の絵としてはさほど気にならず、これはこれで十分なレベルの作画だったと思います。

 とにかく、キャラクター・背景ともに明らかな進歩が見られ、「なんでいきなりこんなに変わってしまったのか」最初に読んだ時は大いに不思議に思ったくらいでした。なお、同時に掲載されている連載マンガの方も、この読み切りに合わせるかのように、かつてよりも大きく読みやすい絵柄になっています。これは大いに評価すべきポイントでしょう。


・スクエニで久々に読めた秀作読み切り。連載化も希望。
 以上のように、この「ばらかもん」、作者のこれまでの連載マンガとは打って変わって、非常にレベルの高い読み切りに仕上がっています。これは完全に予想外の僥倖であり、最近のスクエニ雑誌の読み切りでも、特筆すべき優良作品になったと思われます。これまで、連載マンガで決していい評価を下していなかったヨシノさんですが、この読み切りで完全に評価は覆りました。

 ここまで良作になった背景として、作者のふるさとである五島列島を舞台に、自身の馴染み深い描写をふんだんに採り入れたところがあると思います。自分の得意分野である舞台設定を全面的に採り入れ、その魅力を飾ることなく素直に伝えることが出来た。作者自身、ふるさとではマンガ家として地元の人々に知られ、コミックスまで売れているようですが(笑)、この新作読み切りは、そんな地元の方々への最大の贈り物になったのではないでしょうか。

 そして、ここまでの良作が登場したのだから、是非とも連載化まで希望したいところです。今連載中の「プリンセスオブマナ」が続く限り、それがかなうことは難しいでしょうが、将来的にいつか連載させてもよいのではないか。この作者には、ゲームコミックのようなファンタジー作品よりも、このような現実を舞台にしたリアルな話の方が合っているような気もしますし、そちらの方が優秀な連載が期待できるのではないか。

 なお、今回の読み切りでは、九州の五島列島が舞台であるにもかかわらず、地元のキャラクターたちの会話はかなり標準語に直されていました。これは、五島の方言のなまりがあまりにも極端で、他の地域の人には理解困難である(笑)ことへの配慮からそうしているらしいのです。しかし、今後もし連載化や再度の読み切り掲載が行われるようなら、その時は是非五島の方言を地元の人々にしゃべらせてほしいところです。その時こそ、このマンガは真の姿に完成されるのではないでしょうか。

 おまけ:五島列島リンク集 五島ウェブ


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