<DOME CHILDREN(読み切り版)>

2006・5・4

 「DOME CHILDREN(ドームチルドレン)」は、第一回エニックス新世紀マンガ大賞で大賞を受賞した読み切り作品で、少年ガンガン2000年2月号に掲載されました。作者は山崎風愛(やまざきふうあ)。この読み切りは、大賞受賞作だけあって読者の評判も非常によく、のちにほぼそのままの形で連載化されます。この連載版「DOME CHILDREN」もまた素晴らしい出来栄えなのですが、一方でこちらの読み切り版も、一話できっちりと完結しているだけあって実に完成度が高く、ガンガンの読み切りの中でも名作中の名作として今日まで知れ渡っています。


・核戦争後の未来。
 「DOME CHILDREN」は、核戦争後の未来の地球、世界が荒廃した時代においてたくましく生きていく人々、特に主人公である子供たちの成長を描いた物語です。このような核戦争後の地球を描いた話は、設定的にはさほど珍しいものではなく、むしろひとつの定番とすら言えるかもしれません。そのような作品は、マンガだけでなく、様々なジャンルで幾度となく登場しています。

 しかし、この「DOME CHILDREN」は、そのようなありふれたジャンルの作品でありながら、それでもなお強く人を感動させる優れた作品になっています。しかも、基本的には少年向けに描かれていながら、大人でも心を動かされる重厚で現実味に溢れる作品になっているのが最大の魅力です。特に、主人公である子供たちの行動は、「かつては自分もこんなことをやった、考えた」と思わず頷いてしまうようなもので、そのあたりの描写には非常に感じ入るものがあります。


・核シェルター「ドーム」に残った最後の7人。
 この物語の舞台は、「ドーム」と呼ばれる核シェルターです。核戦争が終わって50年経っているにもかかわらず、ドームの外は汚染がひどく、いまだ外には出られません。そして、戦争直後は50人以上ドーム内に住んでいた人々も、一人減り二人減り、ついには最後の7人になってしまいます。
 まず、この物語の主人公である男の子・しんたと、その2歳年上の女の子のユーリ。しん太とユーリの先生でもあり、次代を担う若者であるケン(ケン兄)と、その妻であるユイ(ユイ姉)。ユイのおなかにはふたりの子供がいます。そして、ユーリの祖母にして核戦争以前からの唯一の生き残りであるカレン博士。そして、しんたの父と母の合計7人です(*読み切り版ではこのふたりの名前が出てきません)。
 前述の通り、主人公はしんたですが、実際にはこの7人すべてがそれぞれ物語に密接に関わっており、極めて多層的で重厚な物語になっています。


・希望の子供たち・しんたとユーリ。
 まず、このマンガの冒頭で、主人公であるしんたとユーリの元気な姿が描かれます。ドームの一番若い世代であるこのふたりは、もちろんドームで生まれてから外へ出たことはなく、ドームの外の本物の空を見たこともありません。しかし、今のドームでの生活を日々元気一杯に送り、その子供らしい活発さでドームの雰囲気を明るくしています。核戦争で世界は荒廃し、狭いドームの中でしか人間が住めなくなっても、ドームで生まれた子供たちは、日々その生活を楽しく元気に送って日々成長しています。彼らこそがドームの希望だと言えるでしょう。

 しんたの趣味は、ドーム内でいろんなものを掘り出して見つけてくること。大抵はガラクタばかりですが、しんたにとっては日々新しい発見の連続なのです。物語の冒頭では、ポリペールのゴミバケツと、巨大な「ヒカリ石」と呼ばれる光る鉱物を見つけてきます。どちらもなんの変哲もないガラクタなのですが、これが作品の最後の最後で、しんたとユーリが思わぬ使い道を見出します。


・ケンとユイの確執。
 しんたとユーリに「ケン兄」「ユイ姉」と慕われる若者夫婦は、このドームの中心となる世代です。ユイのおなかには赤ちゃんもいて、これからの人類を担う役目を意識しています。
 ところが、このふたりが問題を抱えていて、その関係がうまくいきません。特に、ケンの方が日々ユイにつらくあたるようになり、ユイの方もそれに反発するようになります。ケンとしては、決してユイを想っていないわけではないのですが、それ以上に「自分たちふたりが人類を継がないといけない」という重圧を感じており、そのために自然に付き合うことができず、関係がぎくしゃくしてしまうのです。
 そして、ついに、ある出来事がきっかけで、ユイの方が暴発してしまい、重大な事件をも引き起こしてしまいます。このあたりの描写が非常に生々しいというか、「人類を引き継ぐ」という責任感の重圧で人間関係が壊れてしまうという、7人しかいない閉鎖的な社会では致命的な出来事にまで発展してしまうのです。実は、このマンガでは、主人公であるしんたやユーリの姿以上に、このケン・ユイふたりの問題が描かれており、これこそが「DOME CHILDREN」のメインとなるストーリーだと言っても過言ではありません。
 最後には、しんたの母親の懸命の叱咤と、ユイのおなかの赤ちゃんの存在が救いとなって、ふたりとも立ち直るのですが・・・最後にまた別の悲劇が巻き起こります。


・開かれたドームとカレン博士の死。
 物語の中盤で、50年の時を経て地上の放射線レベルがようやく下がったことが報じられ、外界への扉が開かれます。そして、みなが希望に満ちて外へ出たものの、外はまだ荒れ果てており、暗い空で冷たい風が吹く何もない大地でした。このことにショックを受けたカレン博士は、老化現象が一気に進行し、寝たきりとなってしまい、ついに物語の最後で臨終の時を迎えてしまいます。
 この時、しんたとユーリのふたりが持ってきたのが、冒頭で拾ってきたゴミバケツとヒカリ石です。小さな穴をたくさん開けて、中にヒカリ石を入れたゴミバケツは、穴から光が洩れて暗い部屋の中で星空を作り出します。この、ふたりがゴミバケツで作った星空を見て、子供たちの可能性を感じ、地球の未来を託して博士は亡くなるのです。
 このシーンは、ビジュアル的にも大変に印象深いもので、まさに本気で感動するシーンとなっています。この「DOME CHILDREN」が、ガンガンの読み切りの中でも珠玉の名作として語り継がれる最大の理由だと言ってよいでしょう。


・本当に感動する珠玉の一品。
 この「DOME CHILDREN」、タイトルだけを見れば、ドームの子供たちの元気さから希望を見出す話のように見えます。もちろん、その要素も大きいのですが、しかし実際にはそれだけでなく、ドームで残り少ない人類が生きて世代を継承することの難しさ、未だ回復しきっていない地球環境、失われゆく命と、みなの前に立ちふさがる困難さまできっちりと描き出した、非常に重みのある物語となっているのです。単なるご都合主義には陥っていない、現実味溢れる素晴らしい一作であると思います。

 補足になりますが、このマンガは、絵的にもすでに完成されています。シンプルな絵柄で、凝った描き込みが見られるような絵ではないのですが、マンガの絵としては十分に完成されており、デビュー作にして作者の実力を感じさせるものとなっています。充実した内容に加えて、絵的にも申し分ない作品で、これが大賞を受賞したことも納得できます。

 物語の最後では、無くなったカレン博士の遺骸をみながドームの外に埋葬しますが、その時に思いがけず明るい太陽の光が差し込み、未来の明るい希望を予感させる終わり方となっています。そして、この読み切りの内容は、連載版の第一話でもほぼそのままの形で受け継がれています。明るい太陽の希望を見出したしんたたちのその後は、連載版の「DOME CHILDREN」で語られることになります。


「読み切り作品」にもどります
トップにもどります