<妹アンソロジー>

2007・10・26

・「スクエニ最狂兵器降臨」
 「妹アンソロジー」は、2007年10月22日に発売されたコミックスで、タイトルどおり、9人の作家によるアンソロジー形式の単行本となっています。しかも、「妹」をテーマにした、男性向けを強く意識した「萌え」と「エロ」全開の作品群と化しており、かつてのスクエニ作品の方向性からは大きく外れた、極めて異様なイメージのコミックスとなっています。これと同時に、こちらは女性向けの「年の差アンソロジー」というコミックスも発売されました。

 そして、これは、ガンガンパワードの編集部が行った「萌えアンソロジー」という企画から生まれたコミックスです。半年以上前から進められたこの企画、最初から「萌えるマンガを描くこと」を全面に押し出しており、その点であまりにも露骨で不可解な方針でした。読者から大々的に萌えマンガの投稿を募集し、同時に萌え系のプロ作家も幾人か招聘して読み切りを描かせてきました。コミックスに先行する形で、雑誌上やウェブ上で何度か読み切りを掲載してきましたが、それらはことごとく萌えとエロが露骨に出た作風ばかりで、あまりにも偏った企画だと感じてきました。

 わたしは、マンガにおける「萌え」という要素は好きですが、しかし最初から萌えばかりを求めた作品からは、面白い作品が生まれることは少ないと考えており、ひどく懐疑的に見ています。そのため、このような「萌えマンガを作ろう」などというパワードの企画には、最初から相当な不信感がありました。

 加えて、もうひとつ疑問なのは、この企画が、はっきりと「男性向け」(あるいは「女性向け」)を意識した作品作りに終始したことです。かつてのエニックスは、「中性的」という言葉がふさわしい、男女問わずどちらでも抵抗なく読める作品作りにこそ、最大の特徴がありました。しかし、お家騒動で路線が変更されたのちのエニックス(スクエニ)は、それまでの方針を一変、男性向け・女性向けを強く意識した作品作りを行うようになります。特に、男性向けと言える美少女萌え・エロマンガの台頭が顕著で、中心雑誌のガンガンでは美少女系のラブコメ・エロコメが常に誌面の一角を占めるようになり、姉妹誌のガンガンパワードでは少年誌の限界を超えるようなエロマンガが掲載され、新創刊された青年誌のヤングガンガンでも、露骨にエロ描写が見られるマンガが数多く載るようになります。

 そして、この「妹アンソロジー」において、そのようなスクエニの方針は、ついに来るところまで来た感があります。最初から男性向けを露骨にアピールし、内容も美少女の萌えとエロばかりが満載のこのコミックスは、お家騒動後のスクエニの変更路線、その集大成とも言える作品群となっています。


・まずはてぃんくるの表紙&ビジュアルストーリーからスタート。
 このアンソロジーに参加しているのは、「てぃんくる」「巣山真也」「水兵きき」「葉月翼」「佳月玲茅(かづきれち)」「香月アイネ」「大野良空(おおのいそら)」「塒祇岩之助(ねぐらぎいわのすけ)」「山口ミコト」の9名の作家です。このうち、てぃんくる・巣山真也・水兵きき・葉月翼の4名は、これまでスクエニ系で連載を持ったことのあるプロ作家、残りの5名が新人作家ですが、唯一、新人の中で佳月玲茅(かづきれち)さんだけは、過去にパワードで読み切りを掲載したことがあり、そのせいか他の新人よりも頭ひとつ抜けた扱いとなっています。

 しかし、やはりまずは定評のあるプロ作家の方がアンソロジーの前面に出ており、特に、美少女系イラストレーターとしても著名な「てぃんくる」さんは、このアンソロジーの表紙を任され、かつ巻頭カラーで文と絵によるビジュアルストーリーのイラストも担当しており(文章担当はひろえなつき)、このアンソロジーの看板的な存在となっています。
 そして、この巻頭を飾るビジュアルストーリーの内容が非常にバカバカしい萌えとエロ満載のページで、いきなりつかみは十分といった感じの始まりでした。文章担当のひろえなつきさんという方は、わたしはよく知らなかったのですが、調べてみるとエロゲーのシナリオライターで(最新の担当作は「ALICEぱれーど」)、かつて美少女雑誌の「マジキュー」で、てぃんくると組んで「Duel Dolls」というビジュアルストーリーを担当したようです。今回もその流れから担当に抜擢されたのでしょう。いきなりエロゲーのライターを担当に持ってくるあたり、このアンソロジーがどんなものなのかよく分かるというものです。

 たった4ページのストーリーで、内容も無いに等しい話です。一人暮らしの兄の部屋を訪ねた能天気な妹が、いきなり兄に犯されそうになり、窮地に陥ったところをシュモクザメのぬいぐるみで兄をぶっ飛ばして帰るという、あまりにもしょうもない話でした。しかし、妹の萌えとエロを徹底的に妄想させるその内容と、相変わらずエロ全開(特にパンチラ全開)のてぃんくるの萌え絵は、このアンソロジーの本質をあまりにもよく表しています。この巻頭ページを見て拒否反応を起こすような方は、まずこのアンソロジーは絶対に受け入れられないでしょうし、この先を読むべきではないとも言えます。


・相変わらずの巣山真也と水兵きき。
 そして、さらなる連載作家として、かつてガンガンでラブコメ「悪魔事典」を長期連載した巣山真也、ガンガンパワードのあの「みかにハラスメント」で一世を風靡した水兵ききのふたりが続きます。元々、このふたりは、かつての連載の完成度も決して高くなかったのですが、今回も正直かなりいまいちで、さして見映えのしない作品となっています。

 まず、巣山さんの作品「SSS サムライ・ソード・シスターズ」ですが、相変わらず絵のレベルがさほど高くない上、ストーリーもさほど見るべきところがありません。絵的に凡庸でまず萌えづらいですし、エロ描写も中途半端、ストーリーも平凡なドタバタラブコメに終始しています。かつての「悪魔事典」後期の頃から、あまり変わっておらず、さほど作者の上達を感じられない出来となっています。

 もうひとり、水兵ききの「着せかえ☆生徒会長」。こちらは、かつての水兵マンガそのままですが、今回は少々ポテンシャルが低いようです。おとなしい美人の生徒会長が、子供服のファッションデザイナーをしている兄のお願いに従って、モデルとして子供服を着せられまくるという設定で、このような「エロい展開を正当化するための設定作り」には、相変わらず余念がありません。このことに関しては、水兵ききは本当に天才的な才能を見せます(笑)。
 しかし、肝心のエロ描写が今回は少なく、かつての「みかにハラスメント」のようなエロ全開の展開にはほど遠いものでした。さすがに、子供用のスクール水着を着せられて胸のゼッケンに名前を書かれるシーンだけは、この作者らしいエロに満ちていましたが、それ以上のものはありませんでした。ページ数も少なく、かつてと比べてもさほど絵のレベルが上がっていないのもマイナスです(まあ、この作者の場合、これで絵は完成しているのかもしれませんが)。


・久々登場の葉月翼の読み切りはどうか。
 そしてもうひとり、かつてパワードで連載を行った作家として、葉月翼さんがいます。個人的に気に入っていた作家で、わたしがこのアンソロジーを買おうとした大きな原動力となった作家です。かつての連載「BLANの食卓」が、かなり不本意な連載経緯を辿って短期で終了してしまったので、何はともあれ再登場が嬉しい作家でした。

 かつては、あまりにも描き込みが過ぎた絵柄が見づらすぎて、評価を下げざるを得ない作家だったのですが、今回の読み切り「シュヴェスター×」においては、そのあたりが大幅に改善されており、かつてに比べれば、ひどくすっきりした、見やすい絵柄となっています。これは大いに評価されるべきでしょう。画面がすっきりした分、元々色濃かったキャラクターの作画が際立つようになり、存在感が強く出るようになりました。ただ、それでもまだ今一歩画面構成で見づらいところが残っているため、そこはまだ改良の余地はあるかもしれません。
 そして、内容の方もそれなりに読めました。このアンソロジーの中では、さすがに完成度は高いほうです。幼いころに分かれて以来、久々に会ったSな妹に徹底的にいじられる気弱な兄という設定で、ドタバタのラブコメとして面白く、しんみりとした過去の回想シーンも効果的に織り交ぜられ、作品の好感度は高いものがありました。このアンソロジーの中では、まだ露骨な萌え・エロ描写が控えめなのも好印象です。最後の最後で、ギャグで落とす終わり方だけは拍子抜けしましたが・・・。

 しかし、これだけのまとまった作品が描ける作家を、この「妹アンソロジー」の参加で、妹萌えマンガで終わらせるのも本当にもったいない。まだ掲載される場が出来ただけましとも言えますが、しかしもうちょっと他にいい連載なり読み切りなりをさせる編集方針を取るべきではないでしょうか。


・佳月玲茅の萌えレベルは異常。素晴らしい。
 さらにもうひとり、わたしがひどく期待していた作家として、佳月玲茅さんがいます。少し前、読み切り雑誌のフレッシュガンガンで、「ドクサイ某国プリンセス!」という、萌え王女ものの読み切りが中々に面白く、絵柄のかわいさも好印象だったので、久々に期待できる新人だと思って注目していたのです。
 そして、その期待は違わず、佳月さんの作品「弱点王女アリア」は、このアンソロジーの中で最も面白いものとなっていました。新人作家の中で、唯一前の方に掲載され、マンガ以外に裏表紙や扉イラストも手がけていることから、編集部にも別格的に評価されていることが分かります。

 肝心の内容ですが、兄のクリス王子が大好きなアリア王女が、兄の汚らわしい趣味であるハーレムをやめさせようと、毎回のごとく攻撃を繰り返すのですが、ことごとく返り討ちに遭い、しかも兄の妙技で毎回お仕置きされて体中に弱点(感じやすい部分)を作りまくってしまうという、非常にバカバカしいストーリーです。しかし、ドタバタコメディとしてテンポよく楽しく読め、絵柄でも(まださほどのレベルではないとはいえ)それなりにバランスよくかわいく描けており、キャラクターも個性的で会話の応酬が面白いなど、マンガとしてよく出来ていました。

 そして、なんといっても、妹姫の萌え、エロ要素が素晴らしい。ことあるごとに感じまくる妹姫がやたら萌えまくりです。このアンソロジーの中では、これが最もエロ萌えできるマンガであることは間違いないでしょう。はっきりいって、このエロ萌えレベルは尋常ではない。
 中でも、最後に兄によって、へそを徹底的に攻撃されるシーンがありえないほど萌えます。まさか、へそを攻撃されてもだえるシーンがこれほど萌えるとは思わなかった。ある意味では、胸や股間を攻められるよりも、こっちの方が萌えるような気がしますよ。これは、新たなるエロ萌えシチュエーションを開発したと言えるかもしれない。はっきりいって、この萌えレベルの高さは異常。素晴らしい。

 どうでもいい話ですが、このマンガを購入した地元のとらのあな(広島店)では、このエロ萌えシーンの画像(↑)をわざわざポップにしてコミックスの上に設置するという暴挙を展開(しかもやたら高いポップで目立ちまくり)。このポップを設置するシーンを少し離れて見ていたのですが、「一体何を設置したのだろう?」と近づいて確認してみて、あまりの画像に一瞬二の句が告げなくなりました。さすがとらのあなの店員、恐ろしい子。他の店ができないことを平然とやってのける。


・そのほかの新人もエロと萌え全開。
 そして、それ以外の新人たちの作品も、どれもこれも妹に対するエロと萌え描写に集約されており、あまりにも忠実にアンソロジーの路線を踏襲しきっています。いくら妹萌えアンソロジーとはいえ、中にはもう少し捻ったストーリーがあるかとも思っていたのですが、そういった作品はほとんど見られませんでした。あまりにも露骨に妹への妄想がだだ漏れのマンガで満たされています。

 具体的には、大野良空の「Other」が、学校で好きだった少女が、親の再婚で妹となり、無防備にも主人公の風呂に一緒に入ってくる話。香月アイネ「乙姫クライシス!!」が、なぜかご奉仕メイドとなって留学先から帰ってきた妹が、主人公の風呂におしかけて過激なご奉仕をする話。塒祇岩之助「妹×妹」が、ふたりの妹がお兄ちゃんを巡って過激なサービスを行う3Pプレイもの。山口ミコト「もなかどりーむ」が、年の離れた兄の風呂に妹がふたりきりで入ろうとする話。といったところです。なにか風呂シーンがやたら多く、お前らそんなに妹と風呂に入りたいのかと思わず突っ込んでしまうようなラインナップでした。

 これらの話は、どれもストレートに妹のエロを追求したものばかりで、それ以上の内容はさほど見られません。唯一、大野良空の「Other」が、序盤から感傷的な雰囲気が見られるので期待したのですが、最後は結局くだけたコメディで終わってしまいました。まして、それ以外の3人の作品は、まさに妹への妄想発露以外の何者でもありませんでした。

 加えて、どの作家も新人だからか、絵のレベルが決して高くないのも、あまり評価できないポイントです。というか、このアンソロジー自体、全体的に絵のレベルが低いと強く感じます。「萌え」という、絵のうまさが要求される作品群なのですから、もう少し絵のうまい、レベルの高い萌え絵を描ける作家を揃えてほしかったものです。


「ついにスクエニはここまで来た」
 以上のように、この「妹アンソロジー」、全体を通して萌えとエロに特化した内容で、萌えとエロを見せる以上のストーリーは感じられず、絵的にもさほどレベルが高くないなど、純粋に完成度という点では勧め難い作品群となっています。個人的に期待していた葉月翼さんと佳月玲茅さんが、かなりの仕事をしたと言える点は、大きな収穫ではありましたが・・・、それ以外はあまりにも露骨な萌え・エロ描写しか印象に残りませんでした。まあ、最初から萌えを見せることに特化した企画だったわけで、このような内容は当然とも言えますが、それにしても予想以上のすさまじい内容でした。

 これはもう、この企画そのものに、大きな疑念を持たざるを得ません。これは、かつてのエニックス(スクエニ)の最大の特徴であり、現時点でもある程度残っている、男女問わず楽しめる中性的な方向性とは、完全に正反対とも言える企画です。とりわけ、かつては露骨なエロ表現を極力抑え、女性読者でも抵抗なく楽しめる作風を固持していたはずですが、これはもう男性向けのエロ全開であり、まず女性読者が積極的に読むとは思えないような作風に終始しています。かつてこのような企画がスクエニから出ることは、絶対に想像できなかったものです。

 しかし、お家騒動以後のスクエニは、それまでとは一変、このような男性向け萌え・エロマンガを積極的に推進するようになります。まず、中心雑誌のガンガンで、「ながされて藍蘭島」(藤代健)、「悪魔事典」(巣山真也)、「これが私の御主人様」(まっつー・椿あす 連載版はガンガンパワードに掲載)、「円盤皇女ワるきゅーレ」(介錯)など、エロ要素をふんだんに採り入れたラブコメ作品を次々に打ち出し、それまでのガンガン読者に大いに困惑を与えました。
 そして、姉妹誌のガンガンパワードでは、あの「みかにハラスメント」(水兵きき)という、少年誌の限界を超えるかのようなエロマンガを掲載。これがネット上で異様な話題を呼び、局地的に大ヒットを記録します。これで、スクエニマンガの印象は、それまでとはがらりと変わってしまいました。その後に続く「盗んでリ・リ・ス」(てぃんくる)も、すさまじい萌えとエロ全開のマンガとなっています。
 その上、新創刊された青年誌のヤングガンガンも、当初から青年誌的なエロとバイオレンス全開の雑誌となっており、こちらではもう数を数えることも難しいほどの、エロに満ちた連載が多数掲載されました。このヤングガンガンも、スクエニマンガの印象を大きく変えてしまいました。

 そして、ここに「妹アンソロジー」なる萌えアンソロジーの発刊に至って、ついにスクエニは来るところまで来た感があります。この萌えアンソロジーの執筆者には、かつてのガンガンでの連載作家である巣山真也、パワードでの作家である水兵きき・てぃんくるが参加しており、その点でもうこれまでのスクエニ男性向け萌え路線の集大成といった感があります。ここまで来ると、もはやかつてのスクエニ的な方向性からは完全にかけ離れており、正直スクエニから出るようなコミックスとも思えないものとなりました。はっきりいって、このようなコミックスは、むしろ秋田書店の「チャンピオンRED」あたりから出てもおかしくない。むしろその方が自然です。かつてのガンガン読者で、その後ガンガンを離れ、今になってたまたまこの本を手に取った読者ならば、「今のガンガンってこんなものを出しているのか」と驚くのではないでしょうか。

 はっきりいって、このアンソロジーの内容ならば、スクエニから出る必然性がないですね。「チャンピオンRED」のような男性向け少年誌、あるいは、美少女系のマニア誌か成年誌、そういった出版社から出てもおかしくないようなコミックスです。かつての路線を大幅に変更し、一般メジャー志向の男性向け少年誌路線を取り続けた結果、元々あった独創的な作風は大幅に失われてしまい、ついには他の出版社と変わらなくなってしまったのではないでしょうか。


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