<女装少年アンソロジー>

2009・4・27

 今や、スクエニ最大の名物企画(迷物企画)と化した「萌えアンソロジー」、その最新刊がついに出ました。これまでは、男性向けの萌えアンソロジーとして「妹アンソロジー」「先輩アンソロジー」、女性向けの萌えアンソロジーとして「年の差アンソロジー」「王子アンソロジー」がありましたが、ここにきてついに男性向け第三弾にして、これまで以上にマニアックな萌え要素「女装少年」をテーマにしたアンソロジーが登場してしまいました。なお、これまでは男性向け・女性向けのアンソロジーが、セットで同時に刊行されていたのですが、今回は女性向けのそれは出版されず、男性向けのアンソロジーのみとなってしまっています。おそらくは、これまでの売れ行きや反響で男性向けの方が上回っていたのでしょう。これからは、ひょっとすると男性向けのみか、そうでなくとも男性向け優先でこのアンソロジーは出版されるのかもしれません。

 これまでの萌えアンソロジー、それも男性向けのそれにおいては、極端な萌え、いやむしろひたすらエロを追求しまくった内容で、読者を大いに驚愕させてきましたが、今回もそれは健在です。しかも、「女装少年」という、昨今の萌え界隈では一部で大いに流行っている、マニアックな萌え要素を扱ったことで、さらにそのエロの度合いが過激化し、一部にすさまじい内容のものも見られます。

 そして、これは昨今のスクエニの方向性の最先端にあるものではないか、と思われます。このところ、スクエニでは、中心雑誌のガンガンで非常にエロい読み切りが掲載されたり、新創刊ウェブ雑誌のガンガンONLINEで萌え・エロに満ちた連載や読み切りが多数掲載されたり、同じく新創刊雑誌のガンガンJOKERでも、この女装少年アンソロジーにも収録されている女装少年ものの連載が始まったりと、とにかくそのような傾向の作品が頻繁に見られるようになりました。これは、かつてのお家騒動以後のガンガンが次第に進めてきた方針ではあるのですが、このアンソロジーの出版開始時期以降、特に激しく推し進めるようになりました。その中でも、萌えアンソロジー最新刊であるこの「女装少年アンソロジー」は、今のスクエニの男性向け萌え・エロ路線の最先端として、特に注目すべき存在ではないかと思われます。


・まずはTivさんの表紙からスタート。
 これまでの男性向け萌えアンソロジーの表紙は、第一弾の妹ではてぃんくる、第二弾の先輩では椿あすと、いずれもスクエニ(パワード)で連載を持っていた作家に描かせていました(てぃんくるの連載は現在終了しています)。しかし、今回の表紙は、スクエニでの連載経験のある作家ではなく、まったくの外部からの作家・Tivに表紙を担当させています。個人的にこれはかなり意外で、大いに驚いてしまいました。

 このTivさんという方は、韓国の作家・イラストレーターとして著名で、他社の「コミックハイ!」において「アンニョン!」という韓国の女子高生を題材にしたマンガ作品も手がけています。彼女の絵柄は、全般的に濃い絵柄が多い韓国作家(特に男性向け作家)の中では、描線が繊細で涼やかな印象があり、女性作家ならではの中性感も感じる絵柄が特徴的です。

 しかし、先日より、ガンガンONLINEで掲載された小説「犬憑きさん」において、挿絵を担当することになり、これがスクエニでの初仕事となりました。この小説は単行本化もされ、表紙と中身のイラストもすべて担当しています。そして、この仕事でスクエニと縁が出来たようで、今回の女装少年の表紙の担当にも抜擢されたのでしょう。

 しかし、このTivさんを表紙に担当させたことは、個人的に少々抵抗を感じます。確かに、萌え系の作家と言えなくもないのですが、しかしこれまでは露骨にエロ志向の作品を手かげてきたわけではなく、このエロ・萌え全開のアンソロジーの表紙に採用すべき作家なのか、正直疑問でした。表紙の出来自体は非常によく、 涙目の女装少年の半脱ぎのエロい姿が実にすばらしくよく描けているので、その点ではまったく申し分ないのですが(これまでのアンソロジーの表紙では一番の出来でしょう)、心境としては複雑なところです。


・佳月玲茅のマンガがすさまじい。
 そして、表紙をめくった次のページからいきなり始まるのが、このアンソロジーではおなじみの佳月玲茅(かづきれち)の「ボクは妹のメイドさん」というタイトルの作品です。(このコミックス、よく見ると扉ページがない・・・。) 佳月玲茅は、最近ではガンガンONLINEで「ひぐらしのなく頃に 昼壊し編」を連載していますが、スクエニではこれまで主に萌え系の作家として扱われているらしく、この萌えアンソロジーを始め、パワードで美少女ゲーム「キミキス」の連載をこなすなど、そういった作品が非常に目立ちます。特にこのアンソロジーシリーズでは、これまでも巻頭や巻頭に近い位置での掲載が多く、プレビューでのコミックや告知イラストを何度もこなしているところを見ると、ほぼ看板的な主力作家として扱われているように思われます。

 しかも、その掲載内容が毎回凄まじいものが多く、特に第一弾「妹アンソロジー」では、妹が兄に体中に出来た性感帯(のようなもの)をいじられまくるという過激な内容で、そのすさまじさが大いに話題を呼びました。
 しかし、今回の女装少年アンソロジーは、それをもさらに超えるかのようなひどい(褒め言葉)作品となっており、読んだ人を驚愕させるに十分な内容となっています。

 具体的には、財閥の令嬢で超ドSな妹・まゆりに無理矢理メイドにさせられたお兄ちゃんが、妹にひたすらいじられまくるというもの。「妹にダメな兄を生まれ変わらせてもらう」という名目の元、メイド姿でひたすら絶対服従、妹の前で無理矢理服を脱がされおしりをぺんぺんされ、超短いミニスカートをはかされ他のメイドの見世物にされ、最後には水差しで強引に水を飲まされ、そして抱き枕係なる名目で全裸の妹に抱きつかれていじられまくるというありえない展開を見せてくれます。まさかこれほどひどい(褒め言葉)作品だとは、もう想像を絶するすさまじい出来でした。冒頭からまさかここまでの作品を見せてくれるとは、このアンソロジーは本当に侮れません。

 なお、この作品は、コミックスに先駆けてのプレビューという形でガンガンONLINEに掲載されており、そのすさまじい内容を誰もが無料で閲覧することができます。興味のある人はアクセスしてみてはどうでしょうか。

 ボクは妹のメイドさんガンガンONLINE


・今回は控えめな水兵きき、相変わらずエロ全開の香月アイネ、塒木岩之助、柚木涼太。
 トップを飾る佳月玲茅以外も、前回・前々回にも登場したおなじみのメンバーが多いのですが、その中でも特に有名なのは、やはり水兵ききでしょうか。かつての「みかにハラスメント」の衝撃はいまだ記憶に新しいところで、それ以降もエロネタに満ちた作品を多数手がけてきました。しかし、今回の作品は、この作家にしてはエロが控えめ(?)で、意外にも手堅い作風でした。
 「オトコの娘アイドル☆アキラ」というタイトルのこの作品、なぜか男なのにアイドルとしてA○B48みたいなユニットに入らされる男の子の話で、途中で着替えを見られたりスカートがずり落ちるなどハプニングの場面はありましたが、この作家にしてはえらくエロは控えめ(これでも)であり、新人アイドルの奮闘記ものとしてそこそこ読める作品になっていたような気がします。

 しかし、それ以外のおなじみのメンバーの作品は、相変わらずどれもエロの嵐であり、もうここまでやるかというような凄まじいシチュエーションのオンパレードでした。本当にこの作家たちは変わりません。
 まず、柚木涼太の「ミックス*リリィズ」では、双子の弟が罰ゲームで女装して女子高へ通うことになり、そこで百合趣味を持つ先輩に徹底的に迫られ、強引に裸にされて乳首をいじられ吸われまくるという凄まじい展開が見られます。ついには指まで咥えさせられ、男だとばれてもふたなりでもいいと強引に襲われる寸前まで行くというありえない展開を迎えます。

 そして、塒木岩之助の「きせかえっ子」では、姉と妹に着せ替えの対象としていろいろな女装をさせられておもちゃにされた挙句、最後にはぜんぶ脱がされて全裸になるというこれまたひどすぎるラストを迎えています。

 さらに極めつけはやはり香月アイネで、こちらは学校の先輩にいろいろな水着を着せられ、それを憧れの彼女に見られて恥ずかしさのあまりイってしまい、最後にはシャワー室で全裸の先輩に背後から胸を揉まれまくるというエロエロなシーンまで行ってしまいます。この香月アイネ、女性作家でありながらここまでのエロを描きまくり、ついにはあの「エイケン」の松山せいじと結婚したらしく、もはやエロで意気投合した夫婦の前に敵はいない、といった感じの凄まじいマンガになっています。



・比較的まともだった椿あす、松本トモキ。
 このように、もう救いようのないエロ全開の展開を見せる定番のメンバーたちの中で、唯一椿あすの作品「Charmant Boy(シャルマンボーイ)」だけは、エロ要素は低く恋愛ストーリーで読ませる中々に良質な作品となっており、このアンソロジーの中でも数少ない救いとなっています。
 女装が趣味の少年が、クラスメイトの風紀委員の女の子の頼みを聞いて、彼女が好きな男の子のために一役買うといった話で、ひとつの恋愛ものとして面白く、かつ主人公の献身的な努力もよく描かれており、明るくほほえましい話になっていました。他のマンガの多くが、嫌がる男の子が無理やり女装させられて散々にいじりまくられるという、人によってはあまりに抵抗の強い作風になっているのに対して、このマンガの男の子は、自分から女装を楽しんでいるという設定で、いじられたりいじめられたりというひどいシーンがまったく見られなかったのが、実に好印象だと思います。椿あすだけあって作画も安定しているのも高評価です。

 それは、今回ゲストとして呼ばれた松本トモキの「プラナス・ガール1.5」にも言えています。これは、旧パワードで読み切りとして何度か掲載され、新創刊されたガンガンJOKERで連載が開始されたマンガの描き下ろし読み切りであり、こちらも女装を自ら楽しむ男の子が登場し、彼にからかわれもてあそばれる男子生徒の微妙な恋の葛藤を描く、明るくさわやかな作風になっていました。こちらの方も作画レベルは安定して高く、エロに頼らず純粋に女装少年がかわいく描けているところが評価できますね。やはり、連載作家となると他のメンバーとは頭ひとつレベルの違いを感じます。今回は外部からのゲスト作家もおらず、あまり変化のない構成だったので、その中でゲストとして呼ばれ初登場となったこの作家の掲載は、大いに光っていたと思います。


・メンバーも固定化され、もはや方針は定まった感あり。これが今のスクエニの歩く道なのか・・・。
 以上のように、今回の萌えアンソロジーは、これまでの定番の執筆メンバーが多く、ごく一部をのぞいてゲスト作家や新人作家の作品は少なくなっています。前回の御形屋はるかのような、スクエニ外で主に活躍する人気作家は今回招聘されていません。新人の作品は、投稿で佳作を取った作品(野沢綾子「女装少年注意報!?」)が唯一掲載されていますが、あまり印象に残るものではありませんでした。そして、それ以外の作家は、これまでの萌えアンソロジーで執筆してきた固定メンバーがほとんどを占め、第三弾にしてほぼ完全にラインナップが固まってしまったと見てよいでしょう。

 さらには、今回もまた前回、前々回とまるで変わらないエロ全開路線であり、しかも以前にも増してネタが過激化しており(笑)、もはや来るところまで来た感があります。スクエニの男性向けエロ路線のハイエンドモデルとして、この萌えアンソロジーは位置づけられているのではないでしょうか。
 さらに、今回の注目すべき変更点として、冒頭にも述べたとおり、従来これと同時に発売されていた女性向けアンソロジーが、今回は出ませんでした。一応、読者投稿では女性向けの萌えアンソロジー作品も同時に募集していたのですが、コミックスが先に発売されたのはこの男性向け「女装少年」のみ。これまでの萌えアンソロジーも、話題を集めたのはもっぱらエロ全開の男性向けの方で、売れ行きもおそらくはこちらの方が高かったのでしょう。それゆえに、今回はこちらを優先的に発売したのではないか。そして、これからもこの男性向けの萌えアンソロジー中心でやっていくのではないか。そんな風に予想できます。

 そして、この萌えアンソロジーと前後して、スクエニでは様々な男性向けエロ・萌え路線のマンガが各雑誌に見られるようになり、もはやこれがスクエニの既定路線と化した感があります。ガンガンONLINEは、萌え・エロ系の連載・読み切りが非常に多く、いまや雑誌最大の特徴になりつつあります。ガンガンJOKERは、エロ分はまだ控えめではあるものの、男性向けと言える萌え系連載はまとまった数が見られ、中でもこの女装少年アンソロジーにも掲載された「プラナス・ガール」には相当に力が入っているように感じます。そして、先日はガンガンにすらこれまでにないエロ全開のマンガが登場してしまいました。このような状況を見るに、スクエニも変わったな、とうとうここまで来てしまったか・・・と感慨を抱かずにはいられません。これが今後スクエニの歩く道となってしまったのではないでしょうか。


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