<スクウェア・エニックスマンガ大賞考察(1)>

2007・2・2

 スクウェア・エニックスが行っている新人のためのマンガ賞の中で、最も大規模な賞である「スクウェア・エニックスマンガ大賞」。これは、スクエニの新人発掘において中心的な存在で、これまでに数多くの大型新人がここから生まれてきました。この記事では、このマンガ大賞の主な受賞者を列記し、その中でも特筆すべき新人について語ってみたいと思います。

 この「スクウェア・エニックスマンガ大賞」、その原点を辿れば、1995年から開始されています。その当時の名前は、「エニックス21世紀マンガ大賞」。これが、のちに「新世紀マンガ大賞」と改名され、その後さらに「エニックスマンガ大賞」となり、さらにスクウェアとエニックスの合併後は「スクウェア・エニックスマンガ大賞」となり、現在に至っています。これらは、名称こそ違えど基本的にはすべて同一のマンガ賞であり、ここでは、原点である「エニックス21世紀マンガ大賞」から順に逐一見ていきます。

 なお、このページの作成に際して、以下のサイトに大いにお世話になりました。ありがとうございます。

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<第1回エニックス21世紀マンガ大賞>(少年ガンガン1995年7月号発表)

大賞マザードール桜野みねね(21)
風の大盗賊八坂真美子(23)
入選プチSF立木大和(26)
矢織見参!曾我晃生(19)
トラがゆく!山藤ひろみ(18)
佳作竜の骨中島鯛(21)
青い風松葉博(23)
ネコとヒヨコと魔法使いふじいたかし(21)

 作者の後の括弧内の数字は、年齢です。ただし、受賞時の年齢ですので、現在の年齢については計算して求める必要があります。
 受賞ランクでは、「大賞」「入選」「佳作」の下に、「奨励賞」「第二次選考通過作品」(のちに「最終選考通過作品」)も発表されていますが、ここでは省略しています。ただし、これらの受賞者の中で特筆すべき人物については、個別に採り上げます。具体的な「奨励賞」「第二次選考通過作品」の受賞者一覧については、上記のサイトを閲覧してください。

 さて、この記念すべき「第1回エニックス21世紀マンガ大賞」についてですが、のっけからかなりの新人が登場しています。まず、なんといっても桜野みねねですね。「まもって守護月天!」で有名になった作者ですが、この大賞受賞作の「マザードール」も、ひどく印象に残る良作でした。
 一方で、もうひとつの大賞受賞者である八坂真美子の「風の大盗賊」も、今後の飛躍を予感させるような素晴らしい読み切りだったのですが、その後の作者はいまひとつふるわず、最終的には消えてしまったのは対照的な結果であり、これはひどく残念でした。なお、この作品は、当時の受賞作を4つほど集めた単行本である「21世紀マンガ大賞セレクション」に掲載されています。

 そしてもうひとつ、入選作家の曾我晃生(そがあきお)の存在は見逃せません。この方は、のちにギャグ王で連載を持って活躍していたのですが、ギャグ王の廃刊以降まったく見る機会がなくなってしまいました。ところが、これがヤングガンガンにおいて、五十嵐あぐりと改名して「BAMBOO BLADE」の作画担当として大ブレイク。これは本当に驚きでした。
 佳作受賞の松葉博も見逃せません。エニックスで長らく定番の作家として活躍し、以後マッグガーデンに移ってからも未だ健在の数少ない作家のひとりです。

 そのほか、奨励賞では藤森ナッツ、白井寛、坂本太郎、匠龍啓(林ふみの)、祥寺はるかなどの名前が挙がっています。のちにギャグ王で連載を持つ作家が多いですね。この当時のギャグ王は大いに盛り上がっていた絶頂期だったと思うのですが、それがこのあたりにも表れているかもしれません。


<第2回エニックス21世紀マンガ大賞>(少年ガンガン1996年1月号発表)

大賞魔法聖剣サザンクロス神谷ゆうじ(26)
入選囲碁なんていかが?徳田博之(23)
人形師(ドールマスター)みとなせい(23)
佳作燃えもえ黒木祐里(19)
グリーンサイコシス矢島たけき(27)
るんるんるんらんらんらんるうララララン要まさお(14)
ASSASSIN匠龍啓(18)
竜伝児喜名朝飛(23)
日常三半人陶山甲史(21)

 この回は、もう大賞受賞作の神谷ゆうじ「魔法聖剣サザンクロス」に尽きます。新人離れした完成度の作品で、掲載当時も非常な評判を呼び、最高クラスの高い評価されました。そして、この超実力派の新人の活躍に大いに期待がかかったのですが、どういうわけかその後は一切作品を残さずに消えてしまいます。作者個人の事情だったらしいとも聞いていますが、これだけの実力を持つ新人が消えてしまったのは、あまりにも残念でした。新人としては、ほとんど荒川弘クラスの逸材だっただけに、もし本格デビューしていればと悔やまれます。

 一方で、入選の徳田博之「囲碁なんていかが?」も、くだけたギャグがかなり面白かったと記憶しているのですが、こちらの作者も、その後はほとんど作品を残さず消えてしまいます。
 佳作では、匠龍啓(林ふみの)喜名朝飛のふたりが、成功して連載作家として定着します。特に、喜名朝飛は、この受賞からほどなくして、ガンガンで「幕末風来伝 斬郎太」の連載を開始、いきなりの連載ながら終始安定したペースを保ち、ガンガンの中堅作品としていきなりの成果を残しました。ほか、同時期に黒木祐里も連載を残しますが、こちらは定着せずに消えてしまいました。


<第3回エニックス21世紀マンガ大賞>(少年ガンガン1996年No.7発表)

大賞INNOCENT BLADE戸土野正内郎(18)
準大賞ジャングルはいつもハレのちグゥ金田一蓮十郎(16)
入選やしゃおう杉浦正尚(25)
炎の皇子大原珠理(28)
佳作F武内崇(22)
HUNTING KNIGHT望月悟(20)
ハイパーレストラン霧香&聖娜(17)

 この回の受賞者は素晴らしいですね。
 大賞の戸土野正内郎、準大賞の金田一蓮十郎のふたりは、ほどなく雑誌で連載を開始し、その後長きに渡ってエニックス系雑誌の一線級で活躍する作家へと成長します。戸土野さんは、受賞作の「INNOCENT BLADE」は連載せず、新作の「悪魔狩り」を連載しますが、一方で金田一さんは、受賞作の「ジャングルはいつもハレのちグゥ」がほぼそのままの形で連載開始と、その後の受賞作の扱いが異なるのが面白いところです。なお、このふたつの受賞作は、当時の受賞作を4つほど集めた単行本である「21世紀マンガ大賞セレクション」に掲載されます。
 そして、佳作受賞の霧香&聖娜も見逃せません。受賞作の「ハイパーレストラン」は、これまた「ジャングルはいつもハレのちグゥ」同様に受賞作がほぼそのままの形で連載開始。これも長きに渡る人気連載となります。「ジャングルはいつもハレのちグゥ」「ハイパーレストラン」と、ギャグマンガの傑作がふたつもこの賞で生まれたことになります。
(左上)ジャングルはいつもハレのちグゥ/(右上)余剰魔法処理班/(右下)INNOCENT BLADE/(左下)風の大盗賊

 そして、さらにもう一人、この受賞者の中に見逃せない存在があります。

 佳作受賞者の中に、武内崇という名前があります。この人は一体何者でしょうか?(笑)
 ・・・えーと、実は、この人は、最初はマンガ家を目指していたらしいのです。このマンガ賞受賞後に、当時のガンガンWINGで、「勇者部ただいま活動中!!」なる読み切りも掲載しています。しかし、正直マンガ家としては成功しなかったようで、この一本の読み切りのみを残して消えてしまいます。
 その後、紆余曲折を経て、イラストレーターとして活動するようになり、知人と共に出した同人ソフトが口コミで爆発的に大ヒット。一躍有名イラストレーターとして花開くことになるのです。
 なお、このマンガ賞受賞時代に、彼を新人として支援していたのが、のちのGファンタジー編集長にして、現在は一迅社でゼロサム・REXの編集長をしている杉野庸介その人らしいです。つまり、このふたりには当時から個人的なつながりがあった。現在、一迅社が「月姫」や「Fate」のアンソロジーを盛んに出していたり、一迅社系コミックスにたまに武内崇(や奈須きのこ)が寄稿文を載せていたりするのも、遡ればこのあたりのつながりに理由を辿ることが出来ます。まったく、世の中何が起こるか分かりません(笑)。


<第4回エニックス21世紀マンガ大賞>(少年ガンガン1997年No.1発表)

大賞夢の翼いせだいちけん(23)
余剰魔法処理班有楽彰展(20)
入選DEFENDER久我学芽(23)
佳作飛び出せ!中学野郎共!!佐藤慎子(20)
BAN!BAN!BAN!三宅あさみ(16)
ごめんね。渡辺太一(18)
とらべらー。真田ぽーりん(24)
聖緑のティルナライム雷人(24)

 この回は全体的に低調ですね。ただし、大賞の受賞者ふたりには見るべきものがあります。
 まず、やはり有楽彰展は外せません。この受賞から約一年後に、ガンガンで「東京アンダーグラウンド」の連載を開始。ガンガンを支える人気マンガの一角として大いに活躍します。また、受賞作である「余剰魔法処理班」は、当時の受賞作を4つほど集めた単行本である「21世紀マンガ大賞セレクション」に掲載されます。これが、「21世紀マンガ大賞セレクション」の掲載作4つの中では最後の作品となります。これで4つの掲載作品が出揃いました。

 しかし、この成功した有楽さん以上に、もうひとりの大賞受賞者・いせだいちけんは見逃せません。この方は、実際には相当な実力者だと思うのですが、ガンガンWING新装刊初期の頃に短期連載したのみで、後はゲームアンソロジーを手がける程度で、雑誌ではまったく作品を残さなくなってしまいました。なぜ、これだけの作者が立ち消えになってしまったのかは分かりませんし、非常に惜しいことだと思いました。
 その後、いせだいちさんは、あの小島あきらのアシスタントを長く勤めていたのですが、小島さんの主要連載である「まほらば」の連載終了に前後して、再びWINGで読み切りや短期連載を掲載するようになりました(現在は「椀田一」と改名しています)。実力のある作家だと思うので、これからは積極的に連載させてほしいですね。

東京アンダーグラウンド


<第5回エニックス21世紀マンガ大賞>(少年ガンガン1997年No.13発表)

大賞闘え!矢木沼くん袴田俊介(24)
こちら魂取引所きたうみつな(23)
入選鬼切り源氏浅葱たかおみ(19)
イヴ瀬?朱良(23)
V-GET!十端黒(25)
佳作K-9まぐれさとる(22)
FAKE BRAVEエレメンタル+α(20)
天使の言い分神己優(17)

 この回も、全体的に低調だと思いますね。この回の受賞者で成功した人は多くありません。
 唯一、大賞受賞者のきたうみつなが、はるかのちに「まじかる☆アンティーク」「To Heart2」等のリーフ系ゲームコミックで成功したのが、めぼしいところでしょうか。しかし、彼も、連載を開始したのは受賞してから随分と後のことで、この作者がマンガ賞を受賞したこと自体を知らない人が大半でしょう。そして、彼以外の受賞者には、何度か読み切りを残した人はいましたが、残念ながら誰も定着せずに消えていってしまいました。

 しかし、実は、ここに書かれていない人の中に、注目すべき受賞者がいます。
 佳作より下の奨励賞の受賞者に、「茂夜夢未羅」(もやむみら?)という名前があるのです。この人は一体何者でしょうか?(笑)
 この方は、のちに、ガンガンWINGで「すとれんじどりーむ」という読み切りを残します。この時、わずか15歳。その後、その読み切り作品と同様のコンセプトの連載作品「まいんどりーむ」を残し、そしてさらに「ナイトメア・チルドレン」という連載を開始。このふたつがいずれも大人気を得て、エニックスでも屈指の人気作家となります。そう、藤野もやむさんですね。この、奨励賞受賞時の「茂夜夢未羅」というペンネーム、当時からひどく話題となり、「まるで暴走族の落書きのようだ」と言っていた人もいました(笑)。なお、この奨励賞受賞時の藤野さんは、わずかに14歳でした。
 現在、藤野さんは、マッグガーデンのブレイドに移籍しており、現役で活躍し続けています。もうデビューから10年近く経過していますが、デビューが非常に早かったので、まだ25歳です。


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