<スクウェア・エニックスマンガ大賞考察(4)>

2007・2・10

<第1回エニックスマンガ大賞>(少年ガンガン2003年1月号発表)

特別大賞あきんどん岩本ゆきお(24)
おかしなふたり町田真麻(22)
準大賞Wonderful☆Spirit日本橋恵太郎(21)
入選カレーライスの日めぐ(23)
未完セレナーデ鹿上クズハ(17)
Elysian Field片桐柴光(21)
佳作BOLTS〜トンガリ光臨ひのでや三吉(21)
マリア結城マサムネ(18)
BEST PARTNERはやせ瑞穂(23)
911木村一尊(22)

 この回から、賞のタイトルを一新して「エニックスマンガ大賞」となり、賞の中身にも若干の変化が見られます。
 まず、新世紀マンガ大賞であった「編集部推薦賞」がなくなりました。一方で「審査員特別賞」は継続しています。
 さらに、従来の「大賞」「入選」「佳作」に加えて、「特別大賞」という受賞ランクが新たに作られました。これは、大賞よりもほんの少し劣ると見られる作品賞で、「大賞」と「準大賞」の間に位置するランクと考えてよいでしょう。もっとも、実質的には大賞とほぼ同格に扱われることも多いようです。

 さて、今回の賞ですが、特別大賞の岩本ゆきお「あきんどん」は、骨太な少年マンガを全面に押し出した作品で、発表時は華々しく扱われましたが、その後の作者はまるで芳しくなく、結局ほとんど成果を残すことなく消えてしまいます。どうもこのあたりから、このようなガンガン編集部による少年マンガ偏重の選定がかなり顕著になった感があります。 しかし、それが成功するケースは決して多くありませんでした。

 それ以外の受賞者でも、のちに成功した作家はあまり見られません。一応、準大賞の日本橋恵太郎は、いくつかの読み切りを重ねたあと、現在ではWINGで連載を持つまでになりました。入選の鹿上クズハは、たまにGファンタジーで読み切りを描いています。しかし、これらの作家もかなり小粒の印象であり、大きな成果を残しているとは言えない現状です。それ以外の作家に関しても、たまに読み切りで散見された程度で、ここから連載デビューできた人はまったくいませんでした。特別大賞を設定して心機一転したマンガ賞でしたが、ここ数回のマンガ賞以上に、めぼしい成果は出なかったようです。


<第2回エニックスマンガ大賞>(少年ガンガン2003年7月号発表)

大賞芥町大高(19)
準大賞MYSTIC CONNECTION赤人遊(24)
入選阿修羅塩沢天人志(24)
COMIQUEST阿尾久美子(24)
妖怪的活劇咲夜みう(21)
佳作かさぶたさんカザマアヤミ(21)
WINTER FALL伊藤憲一(20)
レオナルドの恩返しいのうえゆう(29)
三本の矢・光沢丘梢(20)

 この回の賞は、久々に素晴らしい成果を出すことに成功します。
 まず、大賞の大高(大高忍)は、この受賞作である「芥町」の出来栄えが素晴らしく、当時最有力の新人として大いに期待される存在となります。そして、その期待に見事に応え、ヤングガンガンでの連載「すもももももも」が大ヒット。ヤングガンガンで最大の看板作品となります。
 準大賞の赤人遊(赤人義一)も、負けず劣らずの素晴らしい受賞者です。のちに、ガンガンでの「屍姫」の連載で名を馳せますが、この受賞作の 「MYSTIC CONNECTION」も、のちの連載の萌芽を感じることができる読み切りでした。
 さらに、佳作受賞者のカザマアヤミも、上記ふたりに匹敵する受賞者でした。受賞作の「かさぶたさん」は、佳作という低いランクの受賞でしたが、しかし掲載されたWINGでは多くの読者の支持を集め、当初から高い人気を獲得しました。のちに、同誌で「ちょこっとヒメ」の連載で大人気を獲得、雑誌の中心的存在となります。

 このように、この受賞者3人は、それぞれのちにヤングガンガン・ガンガン・ガンガンWINGの中核となる連載作家となっており、その点でこのマンガ賞がのちのスクエニに与えた貢献度は非常に高いものがあります。今のガンガン系雑誌の一角を作った賞だと言ってもよいかもしれません。これ以後、これ以上の成果を残すマンガ賞は、未だ登場していません。

 そのほか、入選の塩沢天人志、阿尾久美子らも、中々の実力があり、のちに読み切り作品をいくつか残しているようですが、それ以上には成果を残せず、連載を獲得することは出来ませんでした。
 奨励賞では、のちにガンガン、ガンガンパワードで連載を獲得する夏海ケイ・小林真尋の名前が挙がっています。


<第3回スクウェア・エニックスマンガ大賞>(少年ガンガン2004年1月号発表)

大賞99+1(つくも)みもり(22)
準大賞I'm あ 総理夏海ケイ(22)
入選太陽の在処日丘円(25)
独中毒渦庭夕貴(20)
GO MY WAY!望月淳(18)
佳作プロパガンダ遥緒ジョウ(21)
忍-雨月-生田修三(25)
HARD COOKING澤岡梢(20)

 スクウェアとエニックスが合併し、「スクウェア・エニックスマンガ大賞」とタイトルが変わったこの回。前回ほどではありませんが、今回もかなり多くの有望な受賞者を生み出しています。
 まず、大賞のみもり「99+1(つくも)」は、作者の実力を十分に感じさせる繊細な雰囲気のファンタジーで、やはり期待の新人として名を馳せました。のちにGファンタジーで読み切りを重ね、現在では同誌で「ひぐらしのなく頃に 宵越し編」の連載を受け持ちます。当初から少女マンガ的な作風で、Gファンタジー向きの作家であり、他出版社でも主に少女誌で活躍しているようです。

 そして、準大賞の夏海ケイ「I'm あ 総理」もまた素晴らしい読みきりでした。少年マンガであえて政治をモチーフに扱ったところが斬新で、骨太なテーマも強く感じられる快作でした。荒川弘が審査員特別賞を与えているのも分かるというものです。のちに、夏海さんは、ガンガンで「王様の耳はオコノミミ」という料理マンガの連載を受け持ちますが、斬新さという点では受賞作の方が大きく上回っているように思います。

 入選では、日丘円の名があります。のちに、ガンガンパワードで「仕立屋工房」の連載を開始。堅実な少年マンガ的作風で、雑誌の中堅どころの作品として、安定した活躍を見せます。
 佳作でも望月淳の名前が挙がっています。のちにGファンタジーで「Crimson-Shell」という短期連載を行い、これが読者の間で高い人気を得ます。そして、人気に応えて今度は長期連載である「Pandora Hearts」の連載を開始。これが、今ではGファンタジーの中核とも言える連載に成長しています。

 このように、今回もまたのちの連載につながる受賞者が多く、しかも雑誌の中堅どころで下から雑誌を支える良作を多く連載しているのもポイントです。前回のマンガ賞に続き、今のガンガン系雑誌を支える一角を作り出した賞と見てよいでしょう。

 なお、最終選考通過作品(奨励賞のさらに下のランク)で、あの水兵ききの「魔法少女るかなー」が入っています。このマンガは割と普通のコメディで、ガンガンパワードに掲載された時もさほどの印象はなかったのですが、のちに同作者が描いた「かすみ♂」「みかにハラスメント」の異常な内容がネット上のオタクに補足され、異様な盛り上がりと売り上げを記録してしまいます。まさにスクエニ史上最大の負の受賞作家であると言えます。


<第4回スクウェア・エニックスマンガ大賞>(少年ガンガン2004年7月号発表)

特別大賞エレボス山本佳奈(21)
大地の足坂ノ睦(19)
準大賞まじかるきんぐごおるとリューホー火村正紀(24)
入選剣土重来田井野光(22)
SHIKIGAMITATSUBON(24)
DISGUISE柩やな(20)
佳作アイアンブレット機巧貴宏(21)
BUGS Sprit國分総司(21)

 前回に比べると、今回はかなり低調です。このあたりから、次第にマンガ賞の選定そのものに疑問が現れ始めます。ただ、それでも、今回は、連載を獲得する新人が数人出ています。
 低調だった最大の原因は、特別大賞受賞者である山本佳奈・坂ノ睦の両名が、成果を残せずに消えてしまったことでしょう。これ以後、特別大賞のような高い賞でも、成果を残せない受賞者が多くなってきます。

 むしろ、成果を残したのは、まず準大賞の火村正紀です。好感度の高い絵柄とくだけたギャグが好印象で、久々にギャグマンガで有望な新人が登場します。のちに、ガンガンで「はじめての甲子園」の連載を開始。新鋭のギャグマンガとして、雑誌内で一定の地位を確立しています。
 入選の柩やな(とぼそやな)も成功者でしょう。Gファンタジーで最初に行った短期連載「RustBlaster」は成功しませんでしたが、その後の連載第二作「黒執事」が大いに受けまくり、今では雑誌内でも最大の話題作となっています。前回の受賞者・望月淳の連載「Pandora Hearts」と並んで、今のGファンタジーを牽引する連載となっていると見てよいでしょう。

 奨励賞では、敷誠一の「はと塾」が挙がっています。オタクをネタにしたマニアックな爆笑ギャグが面白く、のちにガンガンWINGで読み切り数度と短期連載を行い、カルト的な人気を獲得します。


<第5回スクウェア・エニックスマンガ大賞>(少年ガンガン2005年1月号発表)

特別大賞鬼組外海良基(22)
いじめ当番蜷川ヤエコ(24)
準大賞NOCTURNE桑原草太(19)
入選告白げえむ佐倉諒(25)
鳥取ゴニンピック2004上原一樹(22)
マサナの徒佐々木裕輔(19)
佳作くもみのりことぶきさと(21)
Planet Eyes風真みのる(15)

 前回とは打って変わって、特別大賞の受賞者から成功者が出ます。ただ、今回はそれ以外がいただけません。また、その特別大賞の選定でも、かなりの疑問があります。
 まず、特別大賞の外海良基(とのがいよしき)ですが、この受賞作の「鬼組」、ごくオーソドックスな少年マンガで、しかも内容的にも絵的にも極めて平凡であり、とても特別大賞受賞とは思えない作品でした。なぜこれが特別大賞なのか、非常に疑問でした。実は、ガンガンがお家騒動以後に路線変更して以来、このような平凡な少年マンガが、なぜか高い賞を受賞するケースが増えており、この「鬼組」の受賞もその最たるものでした。
 もっとも、受賞者の外海さんは、のちにガンガンで「ひぐらしのなく頃に 暇潰し編」の連載を受け持ち、これが成功したのは幸いでした。ただ、それでも絵的にはかなり不安定で、決して高いレベルではありませんでした。

 一方で、もうひとりの特別大賞である蜷川ヤエコの「いじめ当番」は、実に素晴らしい読みきりでした。タイトルどおり「いじめ」をテーマにしたシビアな作風が強い衝撃を与える社会派の一作で、絵のレベルも高く、これは特別大賞でも納得の作品でした。のちに、蜷川さんは、ヤングガンガンで「天保異聞 妖奇士」のコミック化を受け持ちますが、こちらのも原作(アニメ)の雰囲気をよく再現した良作となっています。

 そして、準大賞以下の受賞者からは、いまだこれといった成果がほとんど出ていません。準大賞の桑原草太が、中々の読み切りを残している程度で、それ以外ではほとんどいい作品を残せていません。このあたりから、マンガ賞の成果の乏しさが顕著になってきます。


<第6回スクウェア・エニックスマンガ大賞>(少年ガンガン2005年7月号発表)

特別大賞No Face, But柚木タロウ(26)
犯機 the Anbivalent松本トモキ(19)
準大賞天上レストラン宍戸道子(19)
入選蜘蛛の城石川泉(?)
シェイクハンズ小島瑛由(19)
お空の仲間たち堀田和哉(19)
佳作異境極地研究所茶鳥木明代(22)
シスタードラグーン赤星治人(25)
HEROタムラフクシ(23)

 この回のマンガ賞は、あまりにも不可解極まりない選定で、その結果はあまりにも疑問でした。これほど不可解なマンガ賞は他にありません。昨今の編集部によるマンガ賞選定の疑問が、一気に噴き出した賞だったと言えます。

 まず、特別大賞の柚木タロウ「No Face, But」ですが、これが前回の特別大賞同様に少年マンガで、悪くない出来ではあるものの、やはり特別大賞を受賞するレベルの作品とは思えませんでした。前回に引き続き、少年マンガを強引に受賞させようというガンガン編集部の意図を感じざるを得ませんでした。
 同じことは、準大賞の宍戸道子「天上レストラン」にも言えます。ただ、こちらも平凡な作風とは言え、特別大賞の「No Face, But」より優れていると感じたため、こちらの方が準大賞というのはかなり疑問でした。
 そして、入選の石川泉「蜘蛛の城」。実は、これは素晴らしい読み切りだったのです。濃い絵柄のホラー作品で、かなり人を選ぶところはあるとはいえ、それでも素晴らしい作品で、こちらの方が入選というのがあまりにも疑問でした。明らかに特別大賞や準大賞よりも上回っているため、これが入選どまりというのは不可解極まりない選定でした。この3つを比較した場合、実際の面白さは、「蜘蛛の城」>「天上レストラン」>「No Face, But」であったことは明白で、実際の受賞ランクとはまったく逆に思えることがあまりにも印象的です。

 さらに、もうひとつの特別大賞受賞作である松本トモキの「犯機 the Anbivalent」。何とこのマンガ、特別大賞であるにもかかわらず、雑誌に掲載されませんでした。準大賞や入選の作品が掲載されているのに、こちらの方がなぜ掲載されないのか。過去のマンガ賞と比べても異例の扱いで、この点でも不可解でした。受賞時の掲載絵を見る限り、明らかに萌え系の要素が入っていたため、ガンガン編集部に敬遠されたのではないかとさえ思ってしまいました。

 しかし、何といっても最高に疑問なのは、入選の堀田和哉に尽きます。受賞作の「お空の仲間たち」は、絵も内容も低レベル極まりない不快なギャグマンガで、これが入選というのは到底信じ難いことでした。のちに、この堀田和哉は、同様の低劣な読み切りを幾度もガンガンに掲載し、読者の顰蹙を買うことに成功します。これは、スクエニのマンガ賞の歴史の中でも、最大の暗黒面であると言えるでしょう。

 そして、このマンガ賞以降、受賞作の選定の不可解さは決定的なものとなり、ほとんど成果を残せなくなります。その意味でも、まさに昨今のマンガ賞の不振を象徴するような、致命的な回だったと言えるでしょう。


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