<魔法少女>みこと☆>

2007・5・26

 「魔法少女>みこと☆」は、ガンガンパワード2005年秋季号に掲載された読み切りです。作者は水谷ゆたかで、彼女は、少し前のガンガンパワードで、「座敷童ちゃんDreamin'」なる読み切りを掲載しており、その好評を受けて再登場という形となりました。加えて、このマンガが掲載された同時期に、Gファンタジー誌上で、「うたた日和」という4コママンガを短期連載しており、その連載中の読み切り掲載という形となりました。当時の水谷さんは、このような連載や読み切りと合わせて、本業とも言えるイラストレーターとしての仕事もいくつかこなしており、かなり色々な場所で活躍を見ることができました。

 内容的には、いわゆる魔法少女ものをネタにしたようなギャグコメディで、痛々しくも微笑ましい主人公の様子がやたら面白く、しかしそれだけでもなく、最後にはダメダメだった主人公の成長が見られることで、意外にもさわやかな読後感を得られる良作読み切りでした。掲載されたガンガンパワードの中でも、これが一番面白かったように思います。また、とにかく繊細すぎる描線(後述)で描かれる優しい絵柄も魅力でした。

 しかし、これほどの作品を残した水谷さんでしたが、以後読み切りが掲載されることはなく、かつGファンタジーでの「うたた日和」の連載も、短期連載が終了したあと、「すぐ戻ってくる」という告知があったにもかかわらず復帰することはなく、以後次回作のマンガが登場することはなくなってしまいました。その後、イラストの活動の方も見られなくなってしまい、活動休止して音沙汰なくなって以来、随分と経っています。しかし、こういう良作が描ける作者が、立ち消えのような形でいなくなっていまったのは、ひどく惜しいことだと思いました。


・へろへろな描線で描かれる優しい絵柄。
 まず、このマンガを読んで最初に目に付くのは、なんといってもその独特の絵柄でしょう。
 とにかく、ひとつひとつの描線が非常に繊細で、線が細い上に筋がやわらかな描き方であり、なんともへろへろな描線で描かれているのが、なんとも特徴的です(笑)。これは、水谷さんのマンガやイラスト全般に見られる特徴ではあるのですが、しかし、パワードの前作である「座敷童ちゃんDreamin'」では、そこまでへろへろ感を感じる絵柄ではなく、加えてかなり黒いベタの描写が目立つ作品だったため、ある程度の落ち着いた雰囲気も感じられました。しかし、この「魔法少女>みこと☆」では、前作よりもはるかにへろへろな描線の頻度が上がり、かつ黒いベタがほとんどなくなり、全体的にライト感覚の白い画面となったため、ますますへろへろな描線が際立つようになってしまったのです。

 そして、ここまでへろへろだと、今にも絵そのものが崩れそうな印象まで与えるため、「このマンガは本当に大丈夫なのか?」とまで思うこともあったのですが、しかし、ある一定の作画ラインは保っており、しかもそれが大きな味となっているため、読み終えてみるとむしろ非常に好印象でした。
 しかも、このやわらかく繊細な描線で描かれた絵柄は、とにかく中性的な優しさに満ちています。シャープさ、力強さ、どぎつさとはまったく無縁のビジュアルで、どこまでもふわふわとして優しいこの絵柄は、まさにエニックスのマンガならではの魅力であり、しかしここ最近のガンガン系では少数派となりつつある絵柄です。そんなマンガが、久々にガンガンパワードで読めたことは大きな収穫であり、今後の活躍も期待できると思っていたのですが・・・。


・「デスノート」ならぬ「駄目ノート」。
 次に、内容ですが、前述のように、「魔法少女ものをネタにしたギャグコメディ」といった感じの作品です。
 主人公は、タイトルにもあるように、みことという名の小学生。彼女は、とにかく何をやっても失敗ばかりする少女で、あまりにも失敗ばかりするので、その失敗した出来事をいちいち記録する「駄目ノート」なるものを持ち歩いており、日々それに失敗談を書きまくる毎日です。あまりにも書き込む量が多すぎて、自宅には過去の駄目ノートが本棚を対象に占拠している状態で(笑)、もはやここまで来ると、ドジッ娘というよりも、「ダメッ娘」といった方がよいくらいの超ヘタレ少女で、そんな日々の痛々しくも微笑ましい様子が、最高に笑えるのです。もはや、このマンガは、ダメッ娘萌えという新鮮な面白さを提供してくれました(別に新鮮でもないか・・・)。

 とにかく、何かあるたびにいちいち駄目ノートにせっせと書き込むみことの様子が面白すぎます。自信のないダメダメな表情もよく描けており、そんな表情豊かなリアクションがまた笑えます。そして、このへろへろな描線が、そんな主人公のダメダメぶりを強調しているような効果も生んでいます。シャープさ、力強さのまったくない、弱弱しいへろへろな描線だからこそ、この主人公のダメなキャラクター性が際立っているような気がするのです。まさに、「この絵柄にしてこのキャラクターあり」といったところで、絵柄と内容が完全に一致しているのです(笑)。


・「パンプル ラブリン パラポラ パステル〜☆ キュン!!」
 そして、そんなダメダメ少女であるみことが、あろうことか、異世界から来た猫に目を付けられ、「災厄を鎮めるため」という名目で、いきなり魔法少女に変身させられてしまいます。その魔法少女のラブリーで派手派手なコスチュームは、失敗ばかりで極度の恥ずかしがりやになってしまったみことには、到底耐えられないようなものでした。

 しかも、魔法少女に変身すると、自動的に語尾に「キュン」が付くとか、魔法を使う時に必要なゼリフが「パンプル ラブリン パラポラ パステル〜☆」とか、いちいち恥ずかしい設定が付けられており、そんな魔法少女を無理矢理やらされるみことの恥ずかしがる様子が、またやたら面白いのです。これは、もはや羞恥プレイも極度に極まった描写で、それがやたら萌えまくりです。
 そして、そんな魔女ッ娘のコスチュームで、しかも迫り来る災厄の前でピンチに陥っている状態でさえも、失敗するたびになおも駄目ノートに書き込もうとするみことが、また笑えます。最後まで笑いに事欠くことなく、ギャグマンガとしても非常に面白い作品であると言えるでしょう。

 そして最後には、そんなみことも、なんとかかんとか自分を奮い立たせて無事に呪文を唱えることに成功し、災厄を鎮めることが出来ますが、その時に見られる主人公の勇気・ちょっとした成長が、作品最後のアクセントとなって、ストーリーに一本の筋を通しています。このマンガは、基本的にはギャグ全開のコメディですが、ほんの少しこのような描写が見られることで、良質の読後感を生むことに成功しているのです。
 とはいえ、最後の最後のオチの部分では、もうひとつ情けなくもしょうもないギャグが入り、みことの将来に一抹の不安を抱えつつ(笑)、エンディングを迎えます。このあたり、やはりギャグコメディとして最後まで飽きさせないのが、このマンガ最大の魅力だと言えるでしょう。


・このような良作を描く作家がいなくなったのは惜しい。
 以上のように、良質のギャグコメディとして出色だったこのマンガ、掲載されたガンガンパワードでも読者の評判はかなり良く、今後の作者のマンガに期待を持たせるに十分でした。また、これとまったく同時期にGファンタジーで掲載されていた4コマ「うたた日和」も非常に面白く、毎回の掲載を楽しみにしている状態でした。これは期待の新人さんが現れたなと、当時は嬉しく思っていたのです。

 しかし、これがしばらくして、「うたた日和」の連載が終了、告知していた再開もなされず、パワードでも次回の読み切りもなく、以後水谷さんの姿は見られなくなってしまったのです。これはかなりのショックで、個人的にはひどく落胆してしまいました。
 なにしろ、このような中性的でエニックス的な絵柄のマンガを描く人も、最近ではかなり少なくなっていた矢先、これほどまでにやわらかい優しい絵柄の作家が現れたわけですから、それに対する期待も非常に大きかったのです。しかも、絵柄だけでなく、内容的にも卒なく充実していたわけで、これは、確実にスクエニ系読者に好まれる、新たな人気作家になると思っていたのです。現にGファンタジーの4コマ連載の方も、かなりの人気を集めていたようですし、そちらの方で、貴重な4コマ作家としての活躍も予想できました。あるいは、この絵柄ならば、パワードやWINGで連載しても十分に受け入れられたでしょう。

 しかし、その願いは、いきなりかなわなくなりました。突然のごとく、スクエニ系雑誌での登場はピタリと止んでしまったのです。それ以外の場所での作者の活動もじきになくなり、やがて作者のサイト更新も行われなくなり、完全に足跡は途絶えてしまいました。今となっては、最後にスクエニ系雑誌に登場してから一年半以上が過ぎ去ってしまっており、作者の再登場の可能性は、非常に少なくなってしまいました。

 他所での仕事もなくなり、サイトの更新もなくなったところを見るに、スクエニでの掲載事情ではなく、作者個人の事情ではないかとも推察できますが、いずれにせよいなくなってしまったのは本当に痛い。この号のパワードでは、あの石川泉さんの読みきりも掲載されていますが、こちらの作家も今では消えてしまっています。なぜこれほど良質な作家が成功できずに消えるのか、今のスクエニは、本当に不可解であると言わざるを得ません。


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