<MYSTIC CONNECTION>

2006・7・25

 「MYSTIC CONNECTION」は、第2回スクウェア・エニックスマンガ大賞で準大賞を受賞した作品で、ガンガン増刊パワードの2004年冬季号に掲載されました。作者は赤人義一で、この作品が実質的なデビュー作にあたります。この赤人さん、この読み切り掲載ののちに、パワードとガンガン本誌で計3回ほど「屍姫」という作品の読み切りを掲載し、それが好評を得てガンガンでの連載を獲得、今では「屍姫」はガンガンの人気連載のひとつとなっています。

 現在、赤人さんの残している作品は、この「MYSTIC CONNECTION」を除いては、「屍姫」の読み切りと連載のみであり、「唯一、『屍姫』以外で発表されている作品」という意味で、この「MYSTIC CONNECTION」の存在はかなり重要です。内容的にも、のちの「屍姫」に続くと思われる要素がかなり色濃く見られ、その点でも非常に興味深い一作となっています。掲載された当時のパワードでも、ほかの新人読み切り作品の中でも何か光るものが感じられ、のちに彼が成功して連載を持つようになったのも頷ける内容でした。


・西洋的オカルト伝奇ストーリー。
 この「MYSTIC CONNECTION」も、のちの「屍姫」同様に、魔術や心霊的な要素が強い伝奇オカルトものと言える作品です。しかし、「屍姫」と大いに異なるのは、このマンガが西洋(具体的にはアメリカ)を舞台にしていることでしょう。
 舞台は1920年代のアメリカ。主人公は、かつてその霊能力に目をつけられ、とある邪悪な魔術教団の元で飼われていたアナザーという孤児の少年です。彼は、のちにロワという魔術師(大学教授にして呪医と呼ばれる存在)によって教団が退治されたときに救出され、今ではボストンの三流ゴシップ新聞の編集部で、下っ端の雑用係として働いています。

 このマンガの面白いのは、まずこの捻った設定にあります。このようなオカルト伝奇もので、しかも心霊や悪魔を退治する「退魔師もの」のマンガの場合、まず舞台は現代の日本に置くケースがかなり多いです。新人による作品ならば特にそうで、似たような設定のマンガは珍しいものではなく、むしろありきたりな部類に属します。最近では、そのような伝奇系の作品が、PCのノベルゲームを中心に、ライトノベルやマンガでも盛んに見られるため、そのような作品から影響を受けてしまった新人もかなりいると思われます。
 この作者の赤人さんも、明らかにそのような作品の影響を受けた点も見られるのですが、あえて現代の日本に舞台を置かず、1920年代のアメリカに置いたというあたりに、従来の作品とは一味違った工夫が感じられます。もちろん、オカルト伝奇ものではこのような設定もさほど斬新ではなく、定番の範疇ではあると思いますが(既存の作品ならば「クロノクルセイド」や「ヘルシング」あたりか)、それでも同系の新人作品の中でも一風変わったマンガに感じられたことは間違いないところで、掲載時のパワードでもまずこのあたりが光っていました。
 主人公が場末の新聞社で働いていたり、魔術師がオカルト系の大学教授だったりするあたりも、定番の範囲内とは言え細部まできっちりと設定されている点に好感が持てます。


・よく練られたストーリー。
 そして、そんな設定以上に、肝心のストーリーにもかなりの工夫が感じられ、よく練られたものになっています。
 前述のように、主人公のアナザーは、普段は場末の三流新聞社で雑用として働きながらも、強力な霊能力者で魔術師としての一面を持ち、かつて自分を救ったロワからの依頼を受けて、再び動き出したかつての教団の野望を阻止するために立ち上がることになります。

 これだけならば典型的な「退魔師もの」のストーリーに思えますが、必ずしもそれだけではありません。実は、主人公のアナザーには、かつて自分と共に教団に捕まっていた孤児である「ネア」という少女がおり、その少女とのつながりがストーリーの中で大きなウエイトを占めています。そのネア、かつて教団より救出された際に、教団時代の忌まわしき記憶を封印された上に、自分とは別の保護者のもとに引き取られ、離れ離れになっていました。作中では、まずこのあたりの過酷な時代の心理の描写が見られ、主人公たちの掘り下げにかなりの努力が感じられ、深みのある話になっています。そんな彼女が、今回の事件で再び教団の手に落ちてしまいます。

 そして、今回はアナザーの活躍で、非道な教団の手から再度救われることになるのですが、それで必ずしも完全なハッピーエンドとはならず、記憶の封印は解かれずに再度別れるというエンディングを迎えるあたり、一抹の寂しさを感じる物語になっている点が大変によい。単なるオカルト要素やアクション要素だけではなく、二重に深い物語になっている点が光っていました。



・女の子(もしくはお姉さん)と銃。
 さて、このマンガのもうひとつの、そして最大の売りは、やはり魔術や心霊といった伝奇オカルト要素と、それに連なるアクションシーンです。中でも、クライマックスでの召喚された巨大な悪魔とのアクションシーンが、このマンガでの最大の見所と言えます。

 しかし、このマンガのアクションでは、主人公の相棒で新聞社の仕事仲間(上司)である姉妹による、銃を使ったアクションが非常に特徴的です。この、女性と銃という組み合わせは、のちの「屍姫」ではメインとなる要素であり、のちの作品に連なる要素が、すでにデビュー作であるこのマンガではっきりと見られます。これは、作者の趣味が色濃く反映されていることは間違いないと思われますが、それだけでなく、某同人ゲームの影響もかなり出ているようにも見受けられます。これは、現代の日本を舞台にした「屍姫」ではさらに顕著になるのですが、実はこの要素もデビュー作の段階から見られるというのは面白いところです。

 肝心のガンアクションの内容ですが、圧倒的な強さの敵に対して、無数の弾を浴びせてひたすら追い詰めていくというスタイルが特徴的で、しかもこれもまた「屍姫」に繋がっていく要素です。このあたりの趣味も、この作者は一貫していますね。


・アクション自体の完成度はいまひとつ。
 しかし、作品の中で重要な要素であるオカルトアクションですが、まだまだこのデビュー作では、その完成度はいまひとつです。はっきりいって、全体を通して絵的にまだまだ拙い点は否めないところであり、中でもアクションシーンではまだまだ雑で見づらい部分が多数見られ、決していいとは言えません。
 実は、後発の「屍姫」の読み切り作品においても、まだまだアクションシーンには拙い部分が多く見られるのですが、それでも一作ごとに顕著な進歩が見られ、次第にうまくなっている様子がはっきりと見てとれ、これには大いに好感が持てます。しかし、この「MYSTIC CONNECTION」は、読み切り版「屍姫」よりもさらに前、作者の実質的なデビュー作ということで、技術的には最も拙い時代の絵柄なのです。これから先の読み切りでかなりの進歩が見られる、その第一歩としては中々興味深いものですが、この作品単体で考えるならまだまだ、といったところでしょうか。

 ただ、絵自体は拙いものの、アクションシーンでの構図や駆け引きの描写については、かなりの面白さが感じられ、こちらはかなり評価できます。特に、悪魔による黒魔術の連続使用シーンや、それに対して手榴弾や銃の乱射攻撃で対抗するシーン、アナザーの手による霊能力の使用シーンなどには、この作品独特の設定も絡めてうまく構成されており、絵的に拙い中にも面白さが感じられるものとなっています。


・「ロイヤル・ストレート・フラッシュ」はいまいち(笑)。
 ただ、そんなアクションシーンの中で、ひとつだけどうしても解せない点として、アナザーの必殺技があります。なんでも、トランプに霊力を封じ込めることによって能力が発現するというシステムらしく、しかもドローカードの「役」によって威力が増減するらしく、その中でも最高の役が「ロイヤル・ストレート・フラッシュ」という、なんともベタというか、あまりにも少年マンガ的な必殺技に、思わずあきれてしまいました。

 このマンガ、基本的に各種細かい設定がよく作られた「マニア向け」のマンガだと思うのですが、どうもこの必殺技のところだけ、いきなり低年齢向けの少年マンガ的要素が入り込んでいるというか、そのあたりであまりにも場違いな印象を受けてしまいました。マンガ賞への投稿作ということで、分かりやすい少年マンガ的な要素も盛り込もう、と考えたのかもしれませんが、正直言って蛇足でした。このために、せっかくうまく考えられた魔術や霊能力の設定が、この箇所だけひどく安っぽいものに感じられてしまいました。これは投稿作ならではのちょっとした疑問点でしょうね。


・のちの「屍姫」につながる興味深い一作。
 このように、アクションシーンでの作画面を中心に、まだまだ拙い部分も目立つものの、それ以上によく考えられた設定とストーリーにはかなりの力があり、これがマンガ大賞で準大賞というのも納得のいく作品だと思います。設定の細かさでは、このまま連載してもいいほど作りこまれていましたし、西洋を舞台とした伝奇オカルトものとして、かなり面白くなりそうな可能性もあったと思います。
 しかし、作者の赤人さんは、のちにあの「屍姫」の読み切りを執筆し始め、こちらの方で人気を得て、ついに「屍姫」で連載化を獲得してしまいました。しかも、この「屍姫」には、 「MYSTIC CONNECTION」から直接繋がっているであろう、共通する要素が多数見られる点で大変に興味深いです。洋の東西は違えど、魔術や霊能力が飛び交う伝奇アクションと言う点では完全に一致した方向性を持っていますし、邪悪な集団(教団)が魔術を使って悪事を働こうとする点、少年少女がその犠牲となる点なども共通しています。女性が銃を撃ちまくるというアクションシーンの特徴もそのままです。「屍姫」につながる直接の原型となったことは間違いないでしょう。

 このように、この「MYSTIC CONNECTION」、のちの「屍姫」につながる作者のデビュー第一作にして、もうひとつのオカルト伝奇アクションという点で、注目に値する一作です。個人的には、このような西洋(アメリカ)を舞台にした伝奇アクションというのも、これはこれで見てみたかったと思いますし、この「MYSTIC CONNECTION」の方が連載化したらどんな人気を得ていたか、それを想像するのも面白いですね。



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