<終わりゆく世界で、終わらない旅を。>

2012・7・28

 「終わりゆく世界で、終わらない旅を。」は、ガンガンJOKERで掲載された読み切りで、2011年4月号で掲載されたのち、好評を博して続編となる読み切りが同年11月号にも掲載されました。どちらも非常によい出来で、このまま連載にしてもよいと思ったのですが、残念ながらその後の掲載は途絶えています。

 作者は黒(クロ)で、このJOKERからの新人ではないかと思います。JOKERでは、他にも新人の読み切りをコンスタントに掲載していて、中にはそこから連載へとつながる作品も珍しくないのですが、これは残念ながら読み切りにとどまっています。

 その内容ですが、戦争で人間が滅んでしまった未来世界を舞台に、主人公の少年と従者の天使が、街から街へと旅を続けていく物語となっています。静けさに満ちた穏やかな世界で、しかし切なくも悲しいストーリーが展開され、ラストは感極まるものとなっています。主人公の少年は、実は人間ではなく、「心を持たない」とまで言われる存在ですが、そんな彼が人間らしくふるまおうとする姿にも胸を打たれます。

 また、極めてくせのない、いわゆる「中性的」な絵柄となっていることも特徴的で、さらには物語の世界が、遠き未来を舞台にして天使や人外の存在も登場する、いわゆるファンタジーとなっていることも合わせて、かつてのエニックス時代のマンガを彷彿とさせます。JOKERには、時折このような昔の作風を残すような読み切りが見られ、かすかにかつての雑誌の姿が残っているように感じました。


・数は少なめだが、良作に恵まれたJOKERの読み切り作品。
 最近のスクエニは、新人の読み切りの掲載場所を、主にウェブ上のガンガンONLINEに据えているようで、紙媒体で休刊してしまったかつての新人読み切り雑誌「フレッシュガンガン」のオンライン版を中心に、そちらの方で数多くの読み切りが掲載されるようになりました。一方で、それ以外の雑誌での読み切りもコンスタントに続いており、ガンガンやGファンタジーでは、巻末にまとめて競作企画のような形で新人の作品が載っており(ガンガンは4コママンガ)、それ以外でも各雑誌で毎回数本程度の読み切りがよく載っています。

 そんな中で、このJOKERは、他の雑誌に比べると読み切りの本数は少なめなのですが、しかし1本1本の読み切りの質は高いように思われます。中には、ここから連載化されるマンガも少なくありません。

 まず、「J1グランプリ」という連載権をかけての読み切り競作企画が何度か開かれ、そこから「カミヨメ」(鍵空とみやき)、「かしづき娘と若燕」(高透レイコ)、「繰繰れ!コックリさん」(遠藤ミドリ)などの作品が連載化されました。それ以外でも、「一週間フレンズ。」(葉月抹茶)「ゾンビッチはビッチに含まれますか?」(柊裕一)など、読み切りから人気連載になった作品は少なくありません。

 連載化まではされなくても、これはと思える良作の読み切りは、過去にいくつも見られました。例えば、創刊号に掲載された「あん☆りみてっど」(山口ミコト)は、ダークなサイコサスペンス調の怪作で、のちの作者の連載につながっています。「真っ白に輝く原稿」(谷川ニコ・あいえ実)は、ダメすぎるマンガ家と厳しすぎる編集とのどぎつい掛け合いを描いた楽しいコメディ。「fantasma221B」(宮ちひろ)は、現代の英国を舞台にシャーロック・ホームズの娘と助手のワトソンが活躍する痛快アクションもので骨太なストーリーが楽しめる力作でした。

 また、最近では、「JOKER PROJECT STARDOM」と銘打って、期待の新人の読み切りをコンスタントに載せる方針を採っているようです。ここでの読み切りは粒が揃っていて、以前よりさらに質が上がっているようです。


・穏やかな作風ながら、切ないも悲しいファンタジー。
 さて、この「終わりゆく世界で、終わらない旅を。」ですが、前述のようにファンタジーな世界観となっているところが大きな魅力です。それも、いわゆる「剣と魔法の異世界ファンタジー」ではなく、この世界の未来という設定で、しかし天使や人外の存在が登場するような、「日常と少し近い世界で、しかしちょっとしたファンタジー要素もある」ところが、ひとつの大きな特徴と言えるでしょう。

 物語の主人公は、タオという少年。アーサーという小さな人形のような天使とともに、滅んだ世界を街から街へと旅を続けています。タオは、人間ではなく、少しばかり人間世界の知識が不足していて、行く先々でアーサーにその知識を教わりながらも、人のいないこの世界で旅を続けているのです。
 そんな彼らは、ある街でエマという女性に出会います。彼女は、人の誰もいなくなったこの街で、しかし誰か人を待ち続けてカフェと宿屋をやっていたのです。彼女は、久しぶりの来訪者のタオを大いに歓迎し、カフェでもてなしたあとここにしばらく泊まってほしいと懇願します。彼女は、タオを人間だと思っているのですが、タオもそれに合わせて会話を重ね、クッキーとコーヒーを人間らしくいただき、普段は使わない暖かなベッドの中で寝て、時に彼女の仕事を手伝います。この「人間と人外との暖かな交流」が、まずこの物語のひとつの見所となっています。

 しかし、そんな彼女との交流は、タオのほうから別れを告げることで終わりを迎えることになります。必死に引きとめようとするエマでしたが、彼女には秘密がありました。なぜ、彼女は、人がまったくいないこの街で、ただひとりカフェを続けているのか。そんなエマの秘密が明かされると同時に、旅を続けるタオの真の使命まで明かされ、タオが彼女を助ける形で、物語は終局を迎えることになります。最後の終わりはひどく切なく悲しいものですが、しかしどこかに救いがあるような、そんな感極まる素晴らしいエピソードとなっています。使命をひとつ果たした彼は、また次の街へと旅を続けていくことで物語は終わり、その後ろ姿に、穏やかでしかし物悲しい余韻を感じるエンディングとなっています。


・このシンプルで中性的な絵柄は、まさにエニックスならではのもの。
 こんな風に、本気で感動できる物語となっているこの作品ですが、それを描く作画についても、見るべきものがあります。これは、決してよく描き込まれた絵柄ではなく、むしろシンプルな描線の絵柄なのですが、しかしそこに独特の魅力を感じるのです。それは、かつての90年代後半のエニックスマンガの最大の特徴であった、中性的な絵柄に他なりません。

 これは、キャラクターの外見が中性的というだけではありません。確かに、この物語の主人公のタオは、少年でありながらひょっとすると女の子にも見えるかわいらしい顔立ちをしています。これはこれで非常に魅力的なキャラクターなのですが、それも含めて、このマンガ全体に「男女問わず抵抗なく受け入れられる雰囲気」が強く感じられるのです。骨太で時に強面だったり肉感的だったりする男性読者に好まれる作画、耽美的で主に女性に好まれる作画、そのいずれとも違うもので、どちらかと言えば少女マンガに近いとも言えますが、しかしそれよりもより男性にも受け入れやすく、男女ともに親しまれる絵柄。そのような絵柄を、このマンガはあまりによく再現していたのです。

 今のスクエニにも、このようなマンガはいくつか残ってはいますが、しかし以前よりはぐっと少数派になりました。ただ、このJOKERでは、そのような雰囲気の連載や読み切りが、他の雑誌より多めに見られるような気がします。連載では、あの「妖狐×僕SS」(藤原ここあ)が、かつてのエニックス時代からの作風をそのまま引き継ぐ連載になっていますし、最近では「カミヨメ」「TARI TARI」の鍵空とみやきの作画が、まさにそのような絵柄を体現しています。そのような作品からつながる流れとして、この「終わりゆく世界で、終わらない旅を。」のような雰囲気の読み切りが受け入れられる誌面が、まだこのJOKERには残っているのかもしれません。


・今の時代の商業誌では貴重。これは続きを描いてほしかった。
 しかし、今の時代では、このような作品、それもファンタジー世界を舞台にした作品は貴重だと思います。90年代の頃は主流だったファンタジー作品が、このところ商業のマンガやアニメでは大きく数を減らし、同じファンタジーでも、この世界により近い「伝奇」ものや日常ものが主流となりました。これはスクエニですら例外ではありませんが、ただ一部ではそのようなファンタジー作品を推していこうという動きは残っているようです。
 その中でも、この「終わりゆく世界で、終わらない旅を。」は、そのスクエニにわずかに残るファンタジーの中でも、さらに少数派の作品ではないかと思われます。いわゆるバトルファンタジーとか、剣と魔法の世界ではない、穏やかな世界での切ないストーリーを描くこのような物語は、スクエニですらごく少数となっています。

 むしろ、このような作品は、同人の世界、それも創作同人の方で数多く見られるのかもしれません。前述の鍵空とみやきさんも、まさにこの創作同人で活動している作家ですし、その絵柄はまさに同人誌の時そのままとなっています。ただ、同人での作品は、絵柄だけでなく、商業よりもずっとこのようなファンタジー色が強いものです。JOKERでの「カミヨメ」は恋愛・ラブコメ色が強い話でしたし、「TARI TARI」はアニメの先行コミカライズと、より商業向けの作品になっていたように感じます。それに対して、同人では、この「終わりゆく世界で、終わらない旅を。」のような、穏やかでしかし切ない雰囲気に満ちたファンタジー作品が本当に多いのです。

 ただ、これまでも、JOKERの前身であるWINGでは、このような読み切りがたまに載ってきたようです。特にWINGでは、こういった雰囲気の作品が、ひとつのカラーとなっていたように思います。この作品も、そこからの流れで、わずかに今のJOKERに残った貴重な読み切りではないでしょうか。続編となる読み切りが1回掲載されただけで、その後の登場は途絶えてしまいましたが、これは是非ともさらなる続編を描いてほしかったと思っています。


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