<人形王>

2012・11・24

 「人形王」は、Gファンタジー2012年12月号に掲載された読み切りで、50ページ以上の大型読み切りとなっています。「特別幻想読み切り」と銘打たれており、壮大なファンタジー巨編の序章といった物語となっていて、このまま連載となってもいいような作品だと思いました。比較的読み切りの多い同誌ですが、この作品は最近の中でも特に力が入っていたように思います。

 作者ははましん。以前は主にガンガンWINGで活動していた作家で、主にファンタジー作品をよく手がけていました。いくつかの読み切りが掲載されたのち、2007年より「ネクロマンシア」という連載を2年ほど行いました。しかし、その後WINGは休刊となり、しばらくの間スクエニでの活動は途絶えてしまいました。しかし、のちに新創刊されたガンガンONLINEで1年ほど新しい連載を行い、そして次にこのGファンタジーで久々の読み切り掲載となったようです。

 この作者の作品は、いわゆる「王道ファンタジー」が多いようで、最近の商業誌では少数派となった、中世風のファンタジー世界での力強い冒険・バトルストーリーをよく描いていました。この「人形王」もまさにそれに該当する作品で、人間にとって凶悪な敵となる「人形」が存在する世界で、人形と戦って生きる「人形狩り(ドールハンター)」と呼ばれる青年の姿を描いています。これまでの作品以上に重く暗い設定で、謎をはらむストーリーもよく練られており、極めて重厚な物語となっています。

 個人的には、これまでのはましんさんの作品の中で、これが最も読み応えがあって面白いと思いました。かつ、作画もかつての作品よりレベルの高い安定したものとなっており、その点でもさらに評価できます。最近はスクエニでの掲載がが途絶えがちになっている作者ですが、ここでGファンタジーで連載を復活させてほしいと思ってしまいました。


・WINGで読み切り多数の後「ネクロマンシア」連載、ONLINEで「はなみちおとめ」を連載。
 はましんさんの作品が最初にWINGに掲載されたのは、2005年の7月号。「サナとルイン」という読み切りで、ユニコーンと心を通わせようとする少女の物語となっていて、作者の優しさが伝わるような気持ちのいいファンタジー作品となっていました。作画もこの当時から綺麗でよく描き込まれていて、その点でも感心したものです。今でもこの読み切りはよく覚えていて、この作者に注目する大きなきっかけとなりました。
 その後、2006年の5月号に「NIGHT★KNIGHT」、同年11月号にも「ネクロマンシア」と、同誌で定期的に読み切りが載るようになります。これらは、より王道バトルファンタジーの要素が強い一編となっていて、特に「ネクロマンシア」は、その後の初連載作品と同じタイトルを持つ、プロトタイプ的な作品となっています。

 そして、2007年3月号から、待望の初連載となる「ネクロマンシア」が始まります。これは、ネクロマンサー(死霊使い)のお姫様が主人公で、彼女が従者エイデルとともに悪い死霊使いたちを退治していくという物語となっていました。最初の読み切り「サナとルイン」などと比較しても、さらに王道バトルファンタジーの印象が強くなったように感じられ、中々の力作ではあったと思いますが、しかし定番過ぎて今ひとつ抜きんでたところもなかったような気がします。連載期間は2年と、この時期のWINGにしては比較的長い連載となり(休刊間際の末期のWINGは短期連載が相次いでいました)、コミックスも5巻まで出ますが、人気や評価は今ひとつだったように感じました。

 その後、WINGの休刊号となる2009年5月号に「ミライドロイド」という読み切りを残して、WINGでの活動は幕を閉じます。この作品、今までとは打って変わってコメディ調の作品となっていて、個人的にはこれはかなり意外な印象でした。そして、翌2010年11月から、ウェブ雑誌のONLINEに舞台を移して「花みちおとめ」の連載を開始。こちらは、華道の家元の息子・勇二が、学園の女の子たちを、華道のセンスを生かしたファッションでプロデュースするという明るい学園コメディとなっていて、これまでのファンタジーものとは大きく印象の異なる一作となっていました。連載期間は1年と比較的短いものでしたが、明るい楽しさを追求したで作風で、決して悪い連載ではなかったと思います。

 しかし、この「花みちおとめ」の連載終了後は、もう次回作の掲載は途絶え、もうスクエニでの活動は止まったのかと思っていました。しかし、ここに来て、今までまったく掲載のなかったGファンタジーにおいて、再び王道ファンタジー的な作品を掲載することになったようです。個人的には、やはりこの作者のファンタジーが今一度読みたいと思っていただけに、この復帰はうれしいものがありました。


・主人公が孤児の娘を守ろうとする姿には心を打たれる。
 さて、この「人形王」ですが、人間に敵対する凶悪な存在である「人形」たちによって、人間たちが日々脅かされる世界が舞台となっています。人形たちは、それ自身が強力な戦闘能力を持って人間を傷つけ殺すだけでなく、その血もすべてを腐らせる恐ろしい毒であり、人が浴びればみな死に至る病を引き起こして、その血の雨が降った地はすべてを見捨てなければならない。そんな絶望的な世界の中で、主人公の青年・レプリカは、その人形たちを退治して生業を立てる「人形狩り」として日々を過ごしています。
 そのレプリカには、かつて孤児として出会い、今では娘として大切に育てている「雪姫」という小さな少女がいました。彼は、自分の昔のことを何も覚えてはおらず、当てもなく彷徨った末に人形狩りとして暮らすようになったのですが、ある日孤児として拾った雪姫の存在に救われ、今では何よりも大切な娘として、ふたりでささやかながら幸せな暮らしを送っていたのです。

 しかし、その雪姫は、ある日ひどい病に襲われてしまいます。その病気─血毒症─は、人形の血が引き起こすとも言われる死の病。もう死が近いと言われた娘の元に、スリープアイと名乗る奇妙な青年がやってきます。その青年は、「エリクサー」と呼ばれる不思議な薬を取り出し、これならば人形の血の毒を浄化して、娘の病気を治せるともちかけるのですが・・・。

 このように、絶望的とも言える重い世界設定の中で、孤独に生きる主人公が、孤児の娘と暮らすことにわずかな幸せを得る。こうした設定は、ひとつの定番とも言えるかもしれませんが、しかしそれでもその主人公と娘の姿には心を打たれます。主人公のつらい境遇をじっくりと描いていることと、力強い作画で凶悪な敵(人形)との厳しい戦闘・主人公の勇姿をよく描いていることが、その大きな理由でしょう。王道ながらしっかりと読める質の高いファンタジー作品になっていると思います。


・主人公の出自にかかわる物語の核心もよく描けている。
 さらにスリープアイは、そのエリクサーに加えて、レプリカに奇妙な機械の腕(義手)を手渡します。これは対人形用の強力な武器で、しかも元々はレプリカの物であったと。戸惑う彼を前に、「君はいずれ人形と戦う人間たちの王となる」と告げ、去っていこうとします。
 その後、彼に渡されたエリクサーという薬に、娘の病気の治療の望みをつないだレプリカは、雪姫にそれを飲ませますが、しかし彼女の容態は急変。血を吐き続けてそのまま死んでしまいます。嘆き悲しんだレプリカは、スリープアイの元へ駆けつけ、「俺を騙したな」と怒り狂い、剣で叩き斬ろうとします。

 しかし、彼は平然として、レプリカが身に着けた義手を見て、「それは元々は君の腕だ」と告げます。そして、戸惑う彼を前に、おもむろに自分とレプリカの過去、その正体について語り始めることになるのです・・・。スリープアイは、人形たちを率いる「人形王」、そしてレプリカは彼を守る最強の騎士でした。

 なぜ、人形側の最強の騎士だったレプリカが、今では記憶を失って人形を狩る側に回っているのか。そして人形王たるスリープアイは、なぜ配下の人形に人を襲わせ続けているのか。その目的は。そのあたりのストーリーの謎が一気に明かされるくだりに、非常に面白いものがありました。主人公と人形王、その双方の思惑に説得力があり、納得のいく展開で終わったと思います。


・作者のこれまでの作品の中で一番面白かった。このまま連載化してもいい。
 最後には、死んだと思われていた雪姫が、実は生きていて病気も治り、のちに成長して結婚、よき伴侶と結ばれてレプリカの下から離れていくという、一応のハッピーエンドになります。が、その後のレプリカは、スリープアイと立場を変えて対決することになり、これから再び2人の戦いが始まるというところで幕を閉じます。最後に明るい希望が生まれつつも、これから先さらに主人公を新たな試練が待ち受けるという、この後の続きを彷彿とさせるエンディングだったと思います。

 このように、ひとつの物語としてきっちりまとまった良作で、これまでの作者の全作品の中でも、これが一番面白いのではないかと思いました。WINGの連載だった「ネクロマンシア」は、作者唯一のファンタジー連載でしたが、正直なところ今ひとつだと感じましたし、さらにはONLINEでの連載「花みちおとめ」も、明るいコメディとして読める連載でしたが、反面やや物足りないところもありました。しかし、この「人形王」は、ひどくシリアスで重い設定・ストーリーながら、最も引き込まれる作品になっていたと思います。はましんさんのマンガで、ここまでシリアス度の強い作品を見たのはこれが初めてで、個人的には一番最初の読み切り「サナとルイン」に匹敵するほど気に入りました。

 さらには、作画レベルも以前よりさらに向上しているのも気に入りました。「ネクロマンシア」は、その点でも今ひとつで、背景や効果などの描き込みは相当なものがあったものの、造形や描線がやや雑に感じられるところがありました。むしろ、これも一番最初の読み切りである「サナとルイン」の方がよかったくらいでした。それが、今回の「人形王」は、背景描写もアクションシーンもキャラクターの造形もまったく申し分ない一作になっていたと思います。

 もう、この読み切りをそのまま連載化してもいいでしょう。設定もストーリーもキャラクターもすべて完成されている感がありますし、このままでも申し分ない。あるいは、この作品でなくともいいので、はましんさんのファンタジー連載をまた読んでみたいですね。WINGは残念ながら休刊してしまいましたが、今ならGファンタジーで連載というのも面白いと思いますね。


「読み切り作品」にもどります
トップにもどります