<ぼくらのポストマン>

2006・1・15

 「ぼくらのポストマン」は、第9回エニックス21世紀マンガ大賞で入選を受賞した読み切り作品で、ギャグマンガの投稿受賞作の中では最も面白かったマンガのひとつです。作者は神田晶。
 掲載は少年ガンガン1999年8月号。この当時のガンガンは、掲載される読み切り作品のレベルが非常に高く、そのラインナップは非常に充実していました。この「ぼくらのポストマン」も、そのラインナップの一角を飾るまぎれもない秀作なのですが、しかしこれと同じ号のガンガンで、あの「STRAY DOG」(荒川弘)が掲載され、それがあまりにも素晴らしい読み切りだったため、この「ポストマン」の方の存在が霞んでしまった感がありました。しかし、実際にはこちらの読み切りも十分すぎる良作であり、当時のエニックスに集まる新人作家のレベルの高さを実感することが出来ました。

・「郵便番号は7ケタで」
 このマンガは、「ポストマン」というタイトルどおり、郵便局の配達員をネタにしたギャグマンガなのですが、しかしギャグマンガとしては珍しい濃い絵柄が特徴的です。実際、この絵柄は必ずしもギャグマンガのイメージではなく、むしろ普通のストーリーマンガでも通用する絵柄です。描線が太く塗りも濃い絵柄なので、むしろ青年誌向きなのではないかという印象もありました。今のジャンプあたりに見られるような、子供向けのギャグマンガとはかなり印象が違います。
 しかし、この絵柄であえてギャグをやるということが、実はひどく面白かったのです。濃い絵柄でギャグネタを繰り広げることで見た目とのギャップが生まれ、そこにアンバランスな魅力が出てきたのです。考えてみれば、あのマガジンの「魁!クロマティ高校」でも、濃い絵柄で脱力系のギャグを繰り広げるというギャップが大いに受け、大ヒットを記録しています。「ぼくらのポストマン」の絵柄も、まさにそれと同じ効果を生んでおり、見た目と内容のギャップから生まれる面白さと、そして「他のギャグマンガとは異なる濃いイメージ」というオリジナリティを得ることに成功していたのです。


・「これからも『ゆうちょ』をよろしく」
 このように、濃い絵柄が実に特徴的な本作ですが、では、肝心のギャグの出来はどうでしょうか。もちろん、こちらもよく出来ていて、これが素直に明るく笑える健康的なマンガに仕上がっています。今のギャグマンガにありがちな、汚れ系の気分の悪いネタではなく、キャラクターがいじられたりいじめられたりするタイプのネタでもない。最後まで明るく楽しく読める点が高く評価できる一作です。

 このマンガでは、型破りな郵便局員・本田千里(26)の笑える個性が最大のポイントです。彼の破天荒な行為に振り回される善良な一高校生と、同じく彼に叩きのめされる不良の二人組との掛け合いがギャグの中心となります。カツアゲをするような不良も出てきますが、彼らも徹底的な悪人としては描かれておらず、むしろ情けないやられ役としてのイメージで描かれ、笑いに一役買う存在となっています。
 とにかく過激な郵便局員・本田千里(26)の行動が最高に面白い。カツアゲされた高校生を冷たくあしらったと思いきや、彼が郵貯の利用者というだけで助けに回り、目を付けた不良の元にバイクをぶっ飛ばし、ろくに相手がカツアゲしたとも分からないのに公務員のカンだけで犯人と決め付け、プロレス技で不良どもを叩きのめす。はっきりいって半分はストレス解消のためにやっているとしか思えません。というか、「オレ達みたいな外務員(くばりや)はな・・・あまりにも配る手紙が多いからストレスたまってんだよ 暴れられる時は暴れたいからなァ」というセリフがまさにそれを示しています。

・「はいって安心 ゆうちょのぱるる」
 そして、このマンガで最高に面白いのが、公務員をネタにしたギャグの数々です。
 単なる郵便局員である本田千里(26)が、やたら破天荒で強いというのがこのマンガの肝なわけですが、単に強いだけでなく、なぜか公務員(郵便局員)であることに異様なまでの誇りを抱いており、ことあるごとに郵便局員や郵便局の商品を強調しようとするその姿勢が最高に笑えるのです。
 先ほどの「公務員のカン」もそうなんですが、その手のネタが作中に大量に散りばめられています。その最たるものが、「郵政省の意地にかけて・・・・・・あのクソガキを成敗する・・・!!!」という謎のセリフでしょう。背後に背負う郵便局のマスコットの勇姿(?)が最高に笑えます。何が郵政省の意地なのかはよく分かりませんが、とにかくその勢いで不良にネックブリーカードロップをかけ、「逃げられると思ってんのか コラ」の脅し文句と共に公務員の逆片エビ固めで止めを刺す。「テメェの家に毎日簡易保険の勧誘に行ってやろう」という決めゼリフも爽快(?)な、郵便局員の勇姿を堪能できます。

・「たまにはゆうパックもつかえよー!」
 このように、「最強(最凶)の公務員」という強力なキャラクターを中心に爆笑ギャグを見せてくれた本作ですが、前述のように、これと同じ号にあの「STRAY DOG」が掲載されたせいで、どうしても存在が脇に追いやられてしまい、あまり注目されることはありませんでした。
 しかし、このマンガは、実は本当に面白いものでした。元々わたしはギャグマンガが好きですし、個人的な好みとしては、「STRAY DOG」よりもこっちの方が面白かったとすら思ってしまいました。元々ガンガンはギャグマンガが面白い雑誌でしたし、この作品の登場によって、また新たな有力ギャグ作家が登場したと思って喜んだ記憶があります。

 しかし、このマンガでマンガ賞入選を獲得した神田さんは、のちにガンガン誌上で、オリジナルの「パンツァークライン」、ゲーム原作マンガの「スターオーシャン3」を連載しますが、これはどちらもギャグマンガではなく、ストーリーマンガだったのが意外であり、かつ残念でもありました。確かに両者とも作者の持ち味のギャグがかなり入ってはいましたが、基本がストーリーマンガであったことは否定できず、今ひとつ当初の期待とは外れていたのが実に残念でした。投稿作でこれだけのギャグを見せてくれたのだから、やはり純粋なギャグマンガで連載してほしかったと思いますし、あるいは今からでも遅くはないから作者の連載ギャグマンガを一度見てみたいものであります。
 しかし、この神田さんの読み切りが載ったのは99年。この当時のガンガンは独自路線を走っていて、このような個性的な読み切りが載る余地は大いにありました。しかし、その後ガンガンは路線を変更し、メジャーな少年マンガ・スクエニゲームマンガ路線を取るようになってしまい、神田さんも「パンツァークライン」「スターオーシャン3」でその路線に組み込まれてしまった感があります。もしガンガンがあのままで行っていたら、神田さんももっと個性を発揮して成功していたのではないでしょうか。そう考えると残念でなりません。


・「ふみカードもたまには使ってくれよっ!!」
 以上のように、この読み切りは大変に面白かったにもかかわらず、「STRAY DOG」と同じ誌面で掲載された不運でいまひとつ注目されず、しかも作者がのちにストーリーマンガの連載を始めてしまったことで、せっかくのギャグマンガの秀作が忘れ去られてしまった感があります。最近になってガンガンを読み始め、神田さんの連載作品に先に触れた人ならば、彼が最初にこのようなギャグ読み切りを描いていたこと自体知らないかもしれません。
 しかし、このマンガは偉大です。圧倒的に濃い絵柄で公務員ギャグを繰り広げるというアンバランスでナンセンスな魅力。このマンガで描かれる最強(最凶)の公務員の姿は深く印象に残り、その熱き公務員の生きざまは我々の心に深く刻み込まれました。郵便局の利用者には助けを惜しまず、ストレス解消に不良にプロレス技をお見舞いし、「郵便番号は7ケタで」の決めゼリフでポーズを取る。急ぎの配達のためには歩道をバイクで爆走する熱心な勤務態度も見逃せません(←交通違反)。まさに熱き公務員の魂を見た!(笑)

 この、郵便局利用者すべての味方・最強の公務員「ぼくらのポストマン」の勇姿を見る限り、郵政民営化には反対せざるを得ません。


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