<ぴゅありてぃ>

2008・5・30

 「ぴゅありてぃ」は、ガンガンWINGで2006年9月号に掲載された読み切りです。好評を得たのか、のちの2007年1月号にもう一度続編の読み切りが掲載されます。作者は新人の桃山ひなせで、これが最初の雑誌掲載となりました。

 内容的には、WINGやスクエニでは比較的珍しい百合的な要素が見られる萌え系ラブコメで、その点で個人的に非常に鮮烈な印象を残しました(笑)。もっとも、基本的には男性も登場する三角関係ラブコメだったため、他の百合作品ほど直接的な描写は少なかったのですが、それにしてもこのような設定は相当に印象深いものでした。

 そのため、早い時期に続編の読み切りがもう一度掲載された時は非常に嬉しかったもので、このまま連載化もありかと思って期待していました。しかし残念ながら、その後は連載が始まることなく、作者の次回作も一度スクエニノベルのコミック化作品が掲載されただけで、それ以後は読み切りまで長らく途絶えてしまいました。

 ところが、2008年になって、桃山ひなせさんは、あの「ひぐらしのなく頃に」の「皆殺し編」のコミック化担当を任されることになり、しかもGファンタジーでの連載が決まってしまいました。これは、作者のひぐらしコミックへの採用が嬉しかった反面、WINGで期待していた連載が他雑誌に移ってしまったこと、そして何より作者のオリジナル作品がしばらくの間連載されなくなったことを意味しており、その点で心中複雑でもあります。中でも、この「ぴゅありてぃ」は、最近のWINGの読み切りの中ではかなり優秀な部類に入るもので、その後が途絶えてしまったことが悔やまれる作品となりました。ここでは、作者の処女作として、この記念すべき初読み切りを扱ってみようかと思います。


・吸血鬼+百合というありがちだが素晴らしい設定。
 このマンガの主人公の酒希マリアは、ヴァンパイアのハーフの娘なのですが、ハーフのゆえにほとんどの人間の血に酔ってしまいます。しかも男性の血は濃すぎてだめで、女性でも化粧をしたりタバコを吸うような人の血だと悪酔いしてしまいます。そんな中で、友達の稲田ヒメコだけは、健康的で純情な性格のためか極上の味がするといって、常に獲物として狙っています。

 このような、ヴァンパイアと百合を絡めたような設定は、よく考えられるようなものだとは思いますが、それでもWINGでこの読み切りを見たときにはひどく新鮮で、「おお。WINGでこんな百合マンガが読めるとは!」と思って狂喜乱舞してしまいました(笑)。もっとも、実際の描写としては、直接的に血を吸いまくるような描写はまったくなく、怪我をした血をそっと舐める程度のものなので、このあたりはさすがにWING的というか、あまりに露骨な描写までは避けているのかもしれません。

 ついでに言えば、タイトル画面の「女の子同士だからね」という煽り文と、ふたりの女の子が抱き合うイラストも素晴らしいもので、このタイトル画面だけ見れば、完全に百合マンガとしか思えません。後述するように、実際の内容はそこまで踏み込んだものではないのが残念で、どうせならこの設定のまま行くところまで行ってしまえばいいと考えてしまいました。


・三角関係のラブコメに終始してしまったところが残念。
 ただ、このような設定があるとはいえ、実際のストーリーは、男性キャラクターも絡めた三角関係のラブコメが主体で、割とドタバタ要素の強い賑やかな作品になっています。

 もうひとりのメインキャラクターである伴創護は、所かまわず銃をぶっぱなすモンスターハンターで、正体を隠して生きているマリアは気が気ではありません。しかも、ヒメコがその伴を好きになってしまってしまいます。ヒメコと伴がくっつけば血を吸いにくくなるため、マリアはふたりがくっつくことを断固阻止しようとしますが、そうするまでもなくヒメコは伴のために作ったケーキを派手にぶちまけて自爆(笑)。しかし、伴がそれをみてヒメコをつめたくあしらうのを見てマリアは激怒。激しくしかりつけたマリアを見て、伴はマリアの豪快な強さに惚れてしまい、天敵として恐れるマリアにはさらにやっかいなことになってしまいます。

 二度目の読み切りでは、恋敵となってしまったマリアに対しても、それでもなおも友達のために頑張ろうとするヒメコの優しさが描かれた話になっていて、ドタバタの中にも優しさの感じられる爽やかなストーリーになっていました。2回の読み切り共に、男女3人の関係を巡るラブコメ話としてよく描けていて、新人の読み切りにして卒なく読める優れた作品になっていたように思います。当時のWINGの読み切りの中でも、かなり好印象だったマンガであり、なるほど再度読み切りが掲載された理由も分かるというものです。

 しかし、個人的には、最初にあそこまで百合的な設定と描写を打ち出してしまったのだから、当然ながらそれを突き進むべきだったのではないかと考えます(まて)。というか、ひょっとするとこのマンガには男性キャラクターはいらなかったのではないでしょうか(笑)。このマンガの伴というキャラクターは、決して悪いキャラクターではないものの、猪突猛進で後先無く行動するところがあり、それで他のキャラクターを引っ掻き回す、いわば賑やかしに終始している感が強く(二度目の読み切りの最後では中々の心意気を見せますが)、見ていてややうっとうしさを感じることが多かったのです。それならば、当初の設定どおり、むしろ百合描写に命をかけた方が良かったのではないか(笑)。そう思えるのです。

 このあたりで単純なラブコメになってしまったのは、やはりWINGという雑誌の方向性も関係しているのかもしれません。さすがにWINGでは、そこまでマニアックな趣味に走ることは出来なかったのではないか。もしそのような理由でこういった内容に甘んじていたのだとすれば、是非ともその壁を突き破ってほしかったところです。


・桃山ひなせさんの絵は実に良い。
 そしてもうひとつ、桃山さんの絵が非常に良いことも、百合描写に全力を尽くしてほしかった大きな理由です。
 この桃山さんの絵は、丁寧に整った綺麗な絵柄で、そしてとにかくやわらかい描線が最大の魅力です。とにかくやわらかいキャラクターのラインがなんとも言えません。これは非常に萌えるものがあり、まさにWING的な作画であるとも言えます。この作画があれば、当然ながら百合描写も光るものがあり、そのまま百合姫Sなどに掲載されてもおかしくはありません。

 その上で、アクションシーンなどの動きのある箇所も卒なく描けており、マンガの絵として完成されていました。同じWING作家では、河内和泉さんにちょっと雰囲気が近いところがあるかもしれません。もっとも、河内さんほどのレベルにはまだ達していませんが、それでも新人の作画としては十分なものがあり、この点でもWINGのほかの新人作家の中で光っていました。このまま連載してもまったく問題ない作画レベルだったと言えます。

 もっとも、この「ぴゅありてぃ」の段階では、まだそれほど凝った作画ではなく、まだまだ背景描写などで弱い点も見られましたが、これが後の作品ではさらにし歩が見られます。のちのWING2007年5月号にて掲載されたスクエニ小説のコミック化作品「emeth〜人形遣いの島〜」では、キャラクターの魅力ある作画はそのままに、より雰囲気ある画面作りが出来ていて、非常に好感が持てました。この作画ならばそのままその作品をコミック化しても面白い、いやむしろ彼女にノベルの挿絵イラストを担当してほしかったとまで思ってしまいました。のちに、今度は「ひぐらしのなく頃に 皆殺し編」の担当作家に任命されたのも、この作画の良さを買われてのことに間違いないでしょう。


・これはスクエニでは貴重な百合マンガ。是非とも連載化してほしかった・・・。
 しかし、「ひぐらし」の担当作家に抜擢されたことは大きな成果ですが、できれば作者オリジナルの連載、それもこの「ぴゅありてぃ」の連載化を是非とも実現してほしかったところです。それも、是非ともあの素晴らしい百合的な要素を大いに強化した形で連載化すべきだと思いました。それは、WINGにとっては非常に大きく貴重な戦力になったはずなのです。

 そもそも、近年のWINGに特徴的な中性的な萌えマンガ、いわゆる「ゆる萌え」マンガは、百合要素と相性がいいはずなのです。これまでのマンガでも、「まほらば」や「がんばらなくっチャ!」「瀬戸の花嫁」「東京☆イノセント」などに、一部ではあるもののそのような要素が見られました(見られます)。他出版社の作品、例えば芳文社の萌え4コマでは、どういうわけか百合要素の強い作品がかなり多く見られます。女の子中心のキャラクター構成、かつ日常描写中心のストーリーが、百合と相性が良いのではないかと考えていますが、これはWINGの「ゆる萌え」連載の多くにも言えています。ならば、ここで一発、本格的な百合作品を1本投入してもいいのではないか(笑)。わたしは、本気でこれを考えています。
 折りしも最近では、一迅社の「百合姫」が相変わらずコンスタントな人気を誇り、「男性向け少女マンガ誌」なるものも相次いで創刊されていますし、このような流れに合わせることも決して悪いことではないでしょう。

 また、そのような要素は抜きにしても、この桃山さんの実力は確かなものがあり、ここ最近のWING新人の中では最も有望な作家だと考えています。ならば、出来るだけ早い時期に連載を持たせるべきでした。そうでなくとも、ここ最近のWINGは、ひどく連載ラインナップが貧弱になっており、今後の誌面が危惧されていますし、一刻も早く実力派作家の連載をひとつ確保すべきでした。
 しかし今、「ひぐらし」のコミック化連載がGファンタジーで行われることになり、それはそれで桃山さんにとってはひどく喜ばしいことではありますが、WINGにとっては、ひどく貴重な作家がひとり離れてしまうことになってしまいました。これは、雑誌にとっては結構な痛手で、少々残念なことのように思えるのです。今後、「ひぐらし」の連載終了後に、今度こそオリジナル連載をWINGで手がけてほしいものです。


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