<ROLL>

2007・10・6

「ROLL」は、第10回スクウェア・エニックスマンガ大賞で「特別大賞」を受賞した作品で、少年ガンガン2007年10月号に掲載されました。作者は新人の彩崎廉で、かつてジャンプの方でも新人として読み切りを掲載されたことがあるようです。

 このところのスクウェア・エニックスマンガ大賞は、少年マンガ部門での上位賞の入賞が目立ち、大賞や特別大賞、準大賞などのランクの高い賞を、毎回のごとく何らかの作品が獲得するようになりました。しかし、それらの作品の質は決してよいとは言えず、極めて平凡な作品ばかりで、毎回毎回「なぜこの作品が大賞なのか?」といった疑念を持たざるを得ませんでした。それを裏付けるかのように、これらの受賞作家たちが、その後のガンガンで連載デビューできたケースはほとんどなく、成功者はほとんど生まれない状態が続いています。

 そして、この「ROLL」に至って、ついにそんな傾向は来るところまで来てしまったようです。この作品、平凡であるばかりでなく、ひどく問題のある完成度の作品で、到底「特別大賞」を受賞するような作品とは思えませんでした。とりわけストーリーに関しては壊滅的な出来栄えで、どう見積もってもこれがそんなランクの高い賞を受賞することは考えられませんでした。このような作品が高ランクの賞を受賞するところを見ると、ガンガン編集部のマンガ制作の能力には、明らかな疑問を感じざるを得ません。今のガンガンも決して良い連載は多くありませんが、これでは今後の誌面にも期待できないのではないか・・・。そう思わせるには十分とも言える特別大賞受賞作でした。


・絵は確かに綺麗かもしれないが・・・。
 この「ROLL」という作品の第一印象としては、まず絵柄が非常に凝っていて、同じ新人作品の中では群を抜いて繊細な描き込みが挙げられます。特別大賞の受賞には、まずこの絵のうまさ、綺麗さに対する評価が大きいようにも思われます。過去の受賞作でも、内容は平凡でありながら、絵の方で受賞したと思われるものが見られたため、この作品もそれに該当すると言えるかもしれません。

 少年マンガ部門での受賞とはいえ、耽美的で女性読者に喜ばれるような絵柄で、このマンガならばファンタジー部門での受賞、Gファンタジーでの掲載の方が合っているような作風です。しかし、ジャンプの方でもこの絵で受賞しているところを見ると、今はこういった絵でも少年マンガとして通用するのかもしれません。キャラクターの造形の細かさや、新人作品にしてはひどく描き込まれた背景、すさまじく凝ったエフェクトなど、確かに昨今のガンガン系新人の中では一歩抜けた画力レベルを持っているように思います。

 しかし、反面、キャラクターの身体のバランスが明らかにおかしい箇所が散見されたり、アクションマンガであるにもかかわらず、いまひとつ肝心のアクションが描けておらず、単に派手なエフェクトの多用に留まっている点なども見られます。一見すればおおっと思わせるような作画ではありますが、細部を見ればまだまだこれからと言った作品で、これだけで連載を獲得し、読者の評価を得るのは(現時点では)厳しいような気がします。とはいえ、最近のガンガンの少年マンガが、どれも似たような絵柄で、しかも仕上がりが汚い作品ばかりの中では、これはまだそれらとは一線を画するものがありますし、そういった点を評価したということは理解できます。


・完全に崩壊したストーリー。
 しかし、作画は評価できるとしても、肝心の内容、それもストーリーがまったくもっていただけません。はっきりいって、この崩壊ぶりは尋常ではありません。まともな話が成立していないと言い切ってもよいでしょう。

 大まかなあらすじだけならば、現代に生き残った忍者の若者たちが、忍法帳なる物を巡って激しいバトルを繰り広げるという、そういった内容なのですが、肝心のストーリー展開がめちゃくちゃで、なんの説明もないままで新しい設定が次々と登場するというとんでもない内容となっており、ほとんどの読者にとってついていけるものではありません。単に作者の頭の中で話が展開しているだけのように思えます。あるいは、このマンガがページ数の限られた読み切りのために、無理にストーリーを詰め込んだためにこうなったようにも見えますが、いずれにせよ作者の構成力に大いに疑問符が付く内容となっています。


 まず、マンガが始まって3ページ目、戦闘アクションで始まる冒頭のシーンで、いきなり敵役の男が「あのお方が昔言っていた男って・・・」などというセリフを吐きます。まだ主人公の人となりもほとんど説明されていない序盤の序盤で、いきなり「あのお方」などと言われても訳が分かりません。この時点で読者を完全に置いてきぼりにしています。一体「あのお方」とは何者なのでしょうか。

 その後も、「蛇鬼丸様」「服部半蔵の封印」「忍法帳」「紅雪刀」などの伏線に満ちた設定が、なんの説明もないままで矢継ぎ早に登場するだけ登場し、読者をさらに混乱の極地に陥れます。しかも、それらについてキャラクターたちが思わせぶりでかっこよさそうなセリフを吐きまくるのですが、それがそもそも何のことだか読者にはまったく分からないので、すべてが完全に空回りしてしまっています。伏線から判明する謎も突拍子もないものばかりで、ここでもなんの説明もないままでストーリーはどんどん大掛かりなものになっていきます。

 具体的には、主人公の雪村紅は「内閣情報局直轄公安部隊」なる組織に所属しているようですが、すぐに400年前からタイムスリップしてきた忍者の一族であることが判明し、しかも「忍法帳」なるアイテムまで登場、雪村がそれを護る一族らしいのですが、なんとその後あっさりその忍法帳が偽物であることが判明し、しかも本物の忍法帳は仇敵である蛇鬼丸が持っていることが判明、しかもそれが地下鉄半蔵門線の地下空間にあり、しかも雪村一族の血によって封印が解けるなどという設定まで登場し、しかもその忍法帳には不死の秘密が隠されていて、最後にはその能力で蛇鬼丸は神と化すのです。

 このあたりのことは、すべて説明もなくいきなり登場するだけ登場するため、まずほとんどの読者には、まともな説明なし・伏線もほとんどなしで突き進むこの異様な展開は理解できないでしょう。しかも、キャラクターたちがみな「知っていて当然」と言わんばかりの思わせぶりなセリフを吐きまくる。もちろん、キャラクターや作者の頭の中では知っていて当然なのかもしれませんが、読者にはそんなことはまったく分かりません。もはや、思わせぶりなセリフだけが完全に空回った、ほとんどギャグに近いマンガと化しています。

 はっきりいって、冒頭の主人公の「内閣情報局直轄公安部隊」なる設定は、その後の展開の前には完全に無意味なものとなっています。公安部隊の仲間としてヒロインがひとりいますが、彼女の存在意義も薄く、主人公のサポート役に徹するだけで、ストーリーにはまるで関わってきません。単に「女の子のヒロインを形だけでも出しておきたかった」としか思えないような扱いだと感じます。

 そして最後には、「永遠なんて永遠にない」「一族の絆だけは斬る事が出来ない」など、今まで一言も言わなかったテーマを突然しゃべりだし、読者を戸惑わせつつ終了します。最後の最後までストーリーが形を成していなかったと言えるでしょう。はっきりいって、これが「特別大賞」受賞作とは到底思えませんし、いくら画力を評価しても、ここまで内容が伴っていない作品を受賞させるとは、ガンガン編集部の評価はあまりにも疑問です。


・それにしても、なぜこんな設定の作品ばかりなのか。
 そしてもうひとつ、ここ最近のガンガンの新人少年マンガの特徴として、とにかく「退魔バトル・伝奇バトル」ものがやたら多いという点が挙げられます。現代の日本や、あるいは和風のファンタジー世界で、主人公が「退魔師」のような役柄で、対立する妖怪を退治する、といったストーリーばかりなのです。もっとも、このマンガの場合、主人公は忍者で、対立する仇敵との闘いがメインなので、「退魔師」とは異なる設定ですが、しかしベースとなる作品の雰囲気・方向性は非常に近いものがあります。結局のところ、「伝奇ものバトル」という点では共通していますし、似たイメージの作品であることには変わりありません。そういえば、このマンガのように、忍者が主人公の作品もやたら目立ちます。

 このような新人作品の傾向は、昨今似たような和風伝奇世界を舞台にした少年マンガが頻繁に見られることや、またはコンピュータゲームでそのような伝奇ものストーリーが人気であることから影響を受けたのかもしれません。しかし、ここまで似たような作品しか登場しないとなると考え物です。このような作品を描く新人しか、今のガンガンには来ないのでしょうか。ここ最近のガンガンは、極端にメジャー少年誌志向の誌面作りを行っており、少年マンガをひどく重視しています。その結果として、集まってくる新人もそのような人が中心になるのではないか? 結局のところ、その雑誌の誌面に合う新人しか、雑誌には集まってこないのでしょう。

 あるいは、ガンガンの編集者がこのような少年マンガを好み、意識的にこのような作品を載せている可能性もあります。このところ、ガンガンカスタムやフレッシュガンガンでもこのような新人読み切りが目立ちますし、そのような作品を新人に求めているのかもしれません。しかし、これもまた作品の可能性を大幅に絞るだけで、決していい方針とは思えません。もっと幅広い作品、幅広い個性を持つ新人を集めるべきではないでしょうか。


・これは女性マニア読者を意識しているのか。
 そしてもうひとつ、この「ROLL」について感じることは、「今のガンガンは、意識的に女性人気の得られそうな作品を求めているのではないか」ということです。このマンガは、あまりにも女性向け、耽美的な要素の強い絵柄で、極端にバトルに偏重した作風も含めて、いわゆるマニア系の女性読者(腐女子)に人気を得そうな作風です。実は、今のガンガンには、このような方向性の作品が少しずつ見られ始めているのです。

 あの「鋼の錬金術師」がアニメ化でブレイクし、ガンガンの部数が一気に増大した時期がありましたが、増えた読者のほとんどは(マニア系の)女性読者でした。実際、この「鋼の錬金術師」の女性マニア人気はすさまじいもので、この人気を受けて、以後のガンガンがこの手の女性読者を意識するようになった感は否定できません。
 具体的には、やはり「鋼の錬金術師」の女性人気はいまだ健在で、読者のかなりの部分を占めています。そして、「ソウルイーター」「女王騎士物語」「マテリアル・パズル」などの定番少年マンガ連載も、いずれも女性に高い人気を有しているようで、まず雑誌の中核となる作品において、マニア系女性読者の存在にかなり依存しています。かつての人気連載の続編「PAPUWA」も、相変わらず女性読者に高い人気があります。
 加えて、ここ最近になって始まった新連載も、どういうわけかその手の女性読者に人気を集めているマンガが多い。スポーツもののギャグマンガ「はじめての甲子園」は、かわいい男性キャラクターの女性受けがよく、明らかに腐女子に人気であることが確認されています。そして、あの「ブレイド三国志」も、支持しているのはもっぱらマニア系女性読者。このマンガが本連載化を達成できたのも、女性のアンケート支持があったからではないかと推測できるところがあります。

 このような動きを見ると、今回のこの「ROLL」が耽美的で女性に受けそうな作風であるのも、意図的にガンガン編集部がそのような作品を選んだ可能性は否定できません。というか、多かれ少なかれ、そのような読者を意識していることは間違いないでしょうし、今後このような作品がさらに積極的に掲載されることも考えられます。


・これが本当に特別大賞受賞作品なのか。
 しかし、いくら少年ガンガンがこのような作品を求めているとはいえ、ここまで明らかに完成度の低い作品が、よりによって特別大賞を受賞していいはずがありません。これは、どう考えてもありえない決定で、編集部の選定にはあまりにも大きな疑問があります。

 冒頭で述べたとおり、ここ最近の「スクウェア・エニックスマンガ大賞」は、明らかに平凡で受賞レベルとは思えない少年マンガ作品が、極めて高いランクの賞を受賞することが、毎回のように当たり前になっています。具体的には、「鬼組」(外海良基)、「No Face, But」(柚木タロウ)、「天上レストラン」(宍戸道子)、「鬼斬り十夜」(天羽銀)、「オリーブとデイジー」(丸智之)などが挙げられます。これらの作品の中には、期待できる要素が垣間見られる作品もいくつかありますが、それにしても大賞や特別大賞を受賞するべき作品とは思えませんでした。大賞は全受賞ランクの中でも最高位、特別大賞は大賞よりも少し劣ると見られるランク付けですが、実際には大賞とほぼ同格に近い扱いをされています。そんな賞に、こういった平凡な作品を当てる必要はないでしょう。これが、入選や佳作、あるいは編集部特別賞のような扱いなら分かります。まだ完成度は高くないが、どこかに期待できる部分がある・・・そういう作品ならば、このランクが妥当です。しかし、実際には、明らかに平凡でさほど完成度の高くない少年マンガ作品が、決まって大賞や特別大賞を独占しているケースが多いのです。

 そして、この「ROLL」の場合、内容的にはもはや平凡以下の作品で、ストーリーは完全に破綻したレベルの作品です。いくら画力が高いと言っても、これが特別大賞を受賞していいはずがありません。ここに来て、ついにガンガン編集部の受賞作選定への疑問は、来るところまで来てしまったようです。

 実際、このマンガは、あまりにも極端な作品であり、作画の綺麗さに加えて、美形キャラクターが思わせぶりなセリフ回しをしまくるようなケレン味の部分にばかり力が入っているようです。その一方で、肝心のストーリーは明らかに受賞レベルではありません。編集部の選定理由はまさに謎ですが、もし本当にこの作品を評価しての選定だとするならば、ガンガン編集部のマンガ編集能力はあまりにも問題です。単に画力だけを評価してのことならば、まだ救いがありますが、もしこの作品のストーリーも含めて「面白い」と思って評価したのならば、ガンガン編集者の能力不足は明らかです。これでは、今後もガンガンの少年マンガには期待できないのが正直なところでしょう。


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