<サナとルイン>

2007・11・11

 「サナとルイン」は、ガンガンWINGで2005年7月号に掲載された読み切りで、最近のこの雑誌ではやや珍しい、異世界もののファンタジー作品となっています。作者ははましんで、以前はイラストレーターとしての活動が主な作家で、このマンガが商業誌初掲載作品となりました。また、この掲載号では、本誌とは別に、「ガンガンWING4コマエディション」という別冊の付録があり、そちらでもこの作品の4コママンガが掲載されました。

 読み切りながら50ページ近い長さがあり、作画レベルも全編を通して良好で、一個のマンガ作品として十分な完成度がありました。ストーリーもよく練られており、新人の初掲載作品でありながら、実に読める作品となっていたように思います。また、別冊付録の方に掲載された4コマヴァージョンの方も、卒のない面白さがありました。総じてよく描けた作品で、新人の初掲載にして十分すぎる印象を受けました。ガンガンWINGのほかの新人作品と比べても、明らかに頭ひとつ上回っていたように感じました。

 そして、この作品が編集部や読者にも好評だったのか、はましんさんは、のちのWINGでも読み切りを何度か掲載することになります。具体的には、2006年5月号に「NIGHT★KNIGHT」、同11月号に「ネクロマンシア」という読み切りを掲載、そしてこの「ネクロマンシア」の方が、特に好評を得たのかのちに連載化することになります。

 しかし、個人的には、これらの読み切りよりも、一番最初に掲載された「サナとルイン」の方が、絶対に面白いと感じていたので、この決定は少々不満でした。連載化した後の「ネクロマンシア」が、いまひとつの出来に終始しており、雑誌の中で微妙な位置に存在しているのを見ても、この「サナとルイン」の方を是非連載化してほしかった、と強く感じるようになりました。この記事では、この作者随一の秀作だと思われる、この「サナとルイン」を徹底的に採り上げます。


・独特の設定・世界観が秀逸。
 このマンガは、まず何よりも、独創的なファンタジー世界の設定に惹かれます。元々は、作者のウェブサイトで長年温めていた(後述)設定の一部を、読み切りとしてコミック化したらしく、付け焼刃ではない深い設定を感じることが出来ます。

 タイトルの「サナ」は、主人公の少女の名前で、神獣士・魔獣士の卵として、学校の育成クラスで修業を行っていました。そして、いよいよパートナーとなる神獣(ユニコーン)と契約を結ぶために、ユニコーンの棲む森へとやってきます。
 ここで面白いのは、神獣・魔獣に刻まれた「隠し名」という魔法陣の存在ですね。この隠し名を得ればその獣を自分の力とすることが出来ますが、一筋縄ではいきません。サナは、ユニコーンの隠し名を得るべく、毎日のように近くの街から森に通って、日が暮れるまでユニコーンと追いかけっこをすることになります。
 このような特殊な設定は、いかにも作者がこだわりぬいて考えたものだと思えるもので、ファンタジー世界に対する作者の思い入れを実感することができます。はましんさんは、このような異世界ファンタジーにひどく愛着を持っているようで、考えに考えた個性的な設定には見るべきものがあります。

 それは、この世界のビジュアルデザインにもよく表れています。凝ったデザインの建物、賑やかな街角の描写、鎧や衣装のデザイン、モンスターや幻獣の個性的なフォルム、そして「隠し名」である、魔法陣の繊細なデザイン・・・画面の隅々まで、至るところで作者の愛着を感じるビジュアルデザインを見ることができます。激しいバトルシーンも登場しますが、全体的には優しいイメージを随所に感じる世界設定で、穏やかで心地よい世界観となっているのも魅力的です。

 そして、これだけ細部まで描き込んだ絵柄でありながら、すっきりとした読みやすい作画となっているのも好印象です。作者ののちの読み切りでは、どういうわけか今ひとつ雑に感じられるビジュアルで、読みづらく感じられることが多くなってしまったため、この「サナとルイン」の作画センスの良さが一層光ります。出来れば、このような作画をのちまで貫いてほしかったものです。


・自らの目的のために、あくまでユニコーンの力を求めるストーリーが素晴らしい。
 そして、そういった設定やビジュアルだけでなく、肝心のストーリーも非常によく出来ていました。
 日々ユニコーンの隠し名を求めて奔走するサナですが、中々ユニコーンは心を開いてくれず、あと一歩のところで逃げられてしまいます。しかし、それでも少しずつ関係がコミュニケーションは取れていると実感し、日々諦めずに森に通い続けます。ここまでサナがユニコーンにこだわるのには、どうしても譲れない目的があったのです。

 このマンガの素晴らしいのは、主人公がユニコーンの力を求めるために、決して実力を行使するのではなく、相手が心を開くまでこちらも優しい心で接しようとする姿勢ですね。これが、このマンガに、いいようのない優しい雰囲気を与えています。剣と魔法のファンタジー世界の物語で、力強いバトルシーンもあるのですが、作品全体の雰囲気はとにかく穏やかで優しい。これは、主人公の持つおおらかで優しい人格が、最大の理由となっていることは間違いありません。

 主人公だけではありません。サナに付き合うユニコーン(ルイン)も、あるいは街に住む人々も、あるいは森に棲む動物までも、みな優しい性格が全面に出た者たちばかり。そのため、どこまでも優しい雰囲気のファンタジー作品となっています。綺麗な背景描写、特にユニコーンが棲む森の自然描写の美しさも、それに一役買っています。

 のちの読み切りでも、このような雰囲気の片鱗は見られますが、それ以上にバトルファンタジーとしての戦闘描写、悪人との対決の方が強く出てしまっており、いかにもこの居心地のいい雰囲気が薄れてしまったのが残念なところです。この「サナとルイン」の場合、ごく一部に街を襲うモンスターの描写こそありますが、それ以外には基本的に悪人と言える者がいないのが、最大の特長だったのです。


・4コママンガも良く描けていた。
 そして、本編とは別の冊子に収録された、4コママンガの方も卒なくよく出来ていました。
 本編の最後で契約を結んだ、サナとルインが旅を始めた後の話で、本編のアフターストーリーのような形となっていました。そして、これはこれで4コママンガとして十分な面白さがあったのです。
 基本的にはすべてコメディ調の4コマで、ほのぼのとしたネタの中にストーリー性もあり、最後まで読むことできっちりひとつのストーリーが完結するということで、その点でも読めました。このまま4コママンガで活動を続けても即やっていけるのではないかというほど、うまくまとまっていた。本編よりもこちらの4コマバージョンの方を評価する読者もいたようです。

 本編では見られない、魔法でちんまりとした外見となったユニコーンの可愛さも見るべき点です。絵的にも4コマに合わせて微妙にデフォルメされた絵柄がうまく合っていて、ビジュアル的なレベルでも卒がありません。この冊子に収録された作品が、全体的にあまりレベルが高くなく、特にゲスト作家のマンガが明らかにレベルの低いものが多かった中で、この4コマは、絵的にも内容的にもかなり光るものだったと思います。


・ウェブサイトでの創作活動の成果の一端。
 そして、この「サナとルイン」は、実はこの読み切りだけの作品ではなく、作者が長年温め、自らのウェブサイトで展開していたオリジナル創作の一端でもあります。細部までこだわりぬいた設定やビジュアルや、1本筋の通った読み応えのあるストーリーなども、前々からじっくりと練られた創作の成果であると考えれば、大いに納得できます。

 しかも、この「サナとルイン」の物語は、作者のオリジナル創作のあくまで一部であり、同一の世界観の中で、異なるキャラクター、異なる主人公たちによる物語も存在するようです。まだ大きな形にはなっていないようですが、ウェブサイトに掲載された断片的な設定・イラスト・ショートストーリーなどを見るだけでも、その作りこまれた魅力と作者の愛着が伝わってきます。この「サナとルイン」の物語も十分に面白いのですが、それと同時に、もうひとりの主人公(こちらが本当はメインらしい)であるアスティスとパートナーの幻獣・ストゥの物語、そして菜々・ひがら・シェーナーの3人娘が幻獣と共に暮らす設定なども、非常に魅力的に映りました。個人的には、菜々やひがらたち女性キャラクターたちのかわいさと、「コモノ」と呼ばれるポ○モンみたいな幻獣たちのかわいさに惹かれました(4コマ版「サナとルイン」で見られたユニコーンの小さい姿は、その一端です)。

 もし、このはましんさんの作品が再び掲載されるならば、この「サナとルイン」の話に挿入される形で、あるい別のストーリーの形で、こちらのキャラクターたちの話も読んでみたいと思いました。この「サナとルイン」の出来が非常に気に入ったので、こちらの方の話も読み切りで読んでみたい、あるいは連載化してより大きな話にしてほしい、と強く願ったほどです。


・このマンガこそ、是非とも連載化すべきだった!
 しかし、その願いは今のところかなわなくなりました。前述のように、作者はその後も読み切りを何度か掲載しますが、それらはいずれもこの「サナとルイン」とは関係のない作品となっていました。そして、その作品のひとつが連載化され、現在(2008年2月現在)も連載の真っ最中です。この状態では、まず当分の間は、この「サナとルイン」の続編や、関連する創作活動の作品は見ることができないでしょう。

 そして、その連載である「ネクロマンシア」が、現時点では今ひとつの出来であり、「サナとルイン」に比べれば明らかに面白さで劣るように感じられるのも、実に残念なところです。なぜ最初の読み切りであるこれを素直に連載化しなかったのか。本編とセットで4コママンガまで掲載され、そのどちらもが良作という幸運に恵まれているのだから、そのまま連載化してもよさそうなものでした。読み切り本編のラストも、ついにサナとルインがパートナーとなり、これから旅を続けていくというところで終わっており、そのまま連載に入っていけるような終わり方でした。マンガの完成度も申し分なく、そのまま連載として行けるような気がしたんですが・・・。
 あるいは、ウェブサイトでの関連創作を連載させてもよかった。こちらの方も非常に魅力的に映り、「サナとルイン」同様に、作者が長い時間をかけてじっくりと練られた創作ということからも、地に足のついた良作が期待できたと思います。

 しかし、実際に登場した読み切りは、いずれもそれとは関係のない設定のものであり、連載化した「ネクロマンシア」も、やはり直接の関係はなさそうです。これらの読み切りおよび連載が、どれもすべて同じ世界観の元で作られているところを見ると、新たにこちらの方の創作で活動を始めたのだとも推察できますが、その完成度が今ひとつの状態で推移しているのは、やはり少々残念に思います。

 やはり、この「サナとルイン」こそ、是非とも連載化すべきだった! 今となっては一昔前の作品となってしまいましたが、この作品の完成度はいまだに揺るぎがありません。WINGの数ある読み切りの中でも屈指の作品ではなかったかと思っています。掲載時期を考えても、これを早期に連載化していれば、そのまま2006年の「1年間連続新連載」時の新作のひとつとなり、作者の今の連載以上にWINGにとって貴重な戦力となったのではないか。そう思われてなりません。


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