<屍姫(読み切り版)>

2006・7・29

 「屍姫」は、現在ガンガンで連載されている人気マンガですが、その前身となる読み切り版が、過去に3度ほど掲載されています。最初の1回はガンガンパワードでの掲載で、これは、作者のデビュー作となる読み切り「MYSTIC CONNECTION」のしばらく後に掲載されており、おそらくデビュー作の評判が良かったために、その次回作として掲載されたものと思われます。
 そして、この1回目の読み切りも評判が良かったのか、今度は2回目の読み切りがガンガン本誌の方で掲載され、そしてしばらくして3度目の読み切りも掲載されました。そして、3度目の読み切りの後、ついにガンガンで連載が始まります。その後の経緯については、もはや説明するまでもないでしょう。

 この読み切りシリーズは、「屍姫」というベースとなる設定こそ共通しているものの、あとは個々の作品ですべて設定が異なっており、主人公もすべて異なります。ストーリー的にも直接のつながりはなく、すべて単体で読めるシリーズ作品として、中々に貴重なものとなっています。ちなみに、最後の3回目の読み切りの設定が、その後の連載版とほぼ同じであり、これが連載へと直接つながりのある唯一の読み切りとなっています。


・美少女+ホラー+ガンアクション。
 「屍姫」はオカルトホラー+アクションもの、といったイメージの作品ですが、随所に独特の特徴が見られます。
 まず、このマンガは、屍(ゾンビのような存在)を退治する退魔ものなのですが、主人公である少女もまた屍であり、「屍姫」と呼ばれて密教系の宗派に使役される存在であるという点が、非常に特徴的です。最近では、どういうわけか、このような「人外となった主人公が、同族である化け物退治を強制される」マンガがかなり頻繁に見られるのですが、この「屍姫」はその最たるものです。

 そして、その「屍姫」がいずれも15〜17歳程度の少女という設定であり、彼女らがなぜかみなセーラー服を着て銃で屍たちとバトルアクションを繰り広げる、という「美少女ガンアクション」とでもいうべき娯楽要素が、作品の大きなウエイトを占めています。作者の赤人義一は、デビュー作である「MYSTIC CONNECTION」でも似たようなアクションを繰り広げていましたし、これは作者自身の趣味も多分に入っていると思われます。また、このあたりの美少女・オカルト・ガンアクション等の要素には、某同人ゲームの影響も顕著に見られるようです。

 さらには、主人公がすでに人ではなく、むしろ死の領域に属する屍であるという設定から、そこに「死」や「人としての生きかた」をテーマとする重いストーリーが見られるのも、また特徴的です。主人公を人外の存在に置くことで、あえてそこから人間というものの存在を見つめる、というテーマが生まれるのです。かならずしもホラーやアクションだけの娯楽作品ではなく、そこから一歩進んだ深いテーマやストーリーが見られることが、この作品の価値を一歩押し上げています。


・「屍姫」の基本設定。
 前述のように、この「屍姫」の読み切り版は、個々の作品ですべて主人公等の基本設定は異なりますが、唯一「屍姫」であるという点だけは共通しています。この、シリーズの基本設定となる「屍姫」とは、

  • 事件や事故・病気などで未練を残して死んだ人は、「屍」となって人に害を為す存在となる。
  • 「屍姫」は、14〜17歳程度の少女の屍であり、密教系の寺院(読み切り版では「太師系密教寺院」、連載版では「太師系真言密教『光言宗』」と改名。基本的には同一?)と契約を結び、同族である屍を退治する使役についている。
  • 規定数の数の屍を殺せば、晴れて屍の立場から解放され、成仏できる(読み切り版では100体。連載版では108体に変更)。
  • 契約した段階で、寺院側から契約僧というパートナーが付き、屍姫のサポート役として共に屍退治を行う。
  • 途中で退場(屍退治の中止)は出来ず、途中で殺されても文句は言わない(言えない)。
 このように、読み切り版の第1作からかなり詳細な基本設定が定まっており、続編ごとに多少の変更こそあれ、ほぼ一貫してその設定を保っているところがポイントです。つまり、この「屍姫」というマンガは、当初は「屍姫」という基本設定をベースにした読み切り連作シリーズとして始まったのです。
 しかし、それが最終的に連載マンガへと昇格され、単一の設定での連続ストーリーものとなったわけですが、この読み切りシリーズのように、作品ごとに主人公が変わっていく連作形式も、それはそれで味があって決して悪いものではありませんでした。特に、読み切りの第1作目と2作目は、連載版とはストーリーの方向性もかなり異なっており、その1作ごとの変遷を辿るのも面白い試みであると言えます。


・作品別紹介。
 では、ここからは、3作ある読み切り作品を個別に紹介してしていきます。


・「屍姫」第1作。
 読み切り第1作となるこの作品は、ガンガンパワード2004年春季号に掲載されました。その前号である2004年冬季号では、作者のデビュー作である「MYSTIC CONNECTION」が掲載されており、その読み切りの好評を受けて掲載が決まったものと思われます。
 最初の読み切りだけあって、後発の作品に比べると内容はシンプルです。凶悪犯の死刑囚で、刑死後「屍」として復活し、残虐な殺人行為を再び行うようになった屍とのバトルを描いています。屍姫や契約僧、契約の内容等の基本設定もほぼすべてこの第1作で固められており、のちのシリーズの基本部分はすべてこの段階で出来上がっています。

 主人公の名は、遠岡アキラ。のちの連載の主人公に比べると、屍姫としての経験が長く、かなり落ち着いている感がある良心派のキャラクターです。そして、彼女のパートナーである契約僧の名は貞比呂(苗字は出てきません)。彼は、主人公のアキラとは正反対の、飄々としてくだけた性格で、その不真面目ぶりを日々アキラに突っ込まれる役柄になっています。このように、主人公の屍姫の方が真面目な良心派で、パートナーの契約僧がくだけた性格という設定は、のちのシリーズにも受け継がれます。

 そして、この読みきりの最大の見所は、屍同士の凄惨なバトル描写であり、これものちの作品にそのまま受け継がれます。バトル冒頭の、首をばっさり切られても平然とそのまま起き上がって闘いを始める姿には、一気に引き込まれるものがあります。このような、屍(死体)ならではの、あり得ない身体能力を駆使した凄惨なバトルこそが、この「屍姫」アクションシーンの最大の魅力なのです。
 そして、この読み切りの特徴として、「屍姫の圧倒的な強さ」がストレートに表現されている点が挙げられます。屍姫としての経験が3年と長いアキラは、凄惨な闘いにも慣れており、手足を千切られつつも平然と相手に銃を打ち込み続け、圧倒的な迫力で敵を制圧します。ほとんど契約僧の力も借りず、完全にひとりだけで凶悪な相手を倒してしまいます。

 ただ、この読み切りでは、まだまだ画力でおぼつかないところが多いのが欠点です。アクションシーンも中心に、作画が雑で見づらいと感じられる部分がかなり散見されます。これでも、デビュー作である「MYSTIC CONNECTION」よりは上達しているのですが、それでもまだまだ発展途上といったところでしょう。


・「屍姫」第2作。
 1作目の読み切りがかなり好評だったのか、今度は2作目の読みきりが、ガンガン本誌に場を移して掲載されます。掲載号は少年ガンガン2004年9月号。
 この第2作目の「屍姫」は、かなりの異色作です。他の読み切りや連載版と比べると、設定やストーリーが大幅に異なっており、この作品だけがやや異彩を放っています。
 主人公である屍姫の名は山神異月(イツキ)。契約僧の名は、送儀嵩征(そうぎたかまさ)ですが、実はこのふたりの設定が、他のシリーズとは全く異なります。まず、送儀嵩征についてですが、彼は屍姫を使役する宗派の一員ではあるものの、まだ学校に通う少年であり、屍姫については何も知りませんでした。そんな時に、転校生として屍姫のイツキが現れ、勘違いから契約僧にされてしまうのです。つまり、彼は契約僧というよりは、契約僧「候補」といったところでしょうか。そんな彼は、イツキから屍姫についていろいろ教わりながら、やがて襲い掛かってきた屍とイツキとの闘いを目の当たりにし、恐怖を感じつつも契約僧として屍姫を守るという使命に目覚めていくというストーリーとなっています。
 そして、実はこの話は、この嵩征の方が主人公である可能性がかなり高いのです。主に嵩征視点で話が進み、ストーリー自体も「嵩征の成長」が主軸となっている感があります。この読み切りは、その点でまず異色です。

 そして、屍姫であるイツキの方も、契約を済ませたばかりで実戦の経験がなく、屍との闘いでも大苦戦します。そして、嵩征の援護を受けて、ふたりで協力してついに凶悪な屍を倒すことに成功します。こうして、「屍姫と契約僧とで協力して敵に当たる」という要素が、のちのシリーズでは定番になります。
 他のシリーズよりもギャグが多めなのも特徴です。もともと、軽妙なコメディやギャグのシーンがコンスタントに入ってくる作風ですが、この回では、主人公と屍姫が同年代の少年少女ということで、ふたりの間での掛け合いにかなりの面白さが見られます。
 そして、「屍姫」関連の細かい設定でも、色々と異なる箇所が見られます。例えば、この読みきりでは、「途中で屍姫が任務に失敗したら、契約僧も共に死んでしまう」という設定だったのですが、これはのちのシリーズではなくなっています。

 ただ、この作品は、それ以外でもあまりにも異色な特徴があります。なんといっても、この読み切りは、あの「○姫」(もしくは「F○te/stay night」、もしくは「空の○界」)の影響を露骨に受けていると推測できます。実は、シリーズを通して、このような影響は端々に見られてはいるのですが、この第2作が最も影響が激しい。冒頭のハーゲンダッツから始まり、イツキからの呼び出しの手紙の描写、そして、そもそもこの嵩征とイツキの関係というのは、まさに○貴とシ○ル先輩の関係なのではないのかとか、色々とどこかで見たような設定やシーンが頻繁に登場します。確実に何らかの影響を受けていると思われます。


・「屍姫」第3作。
 読み切り第2作が、ガンガン本誌でも好評を得たらしく、さらなる読み切り第3作もガンガン本誌で掲載されます。掲載号は少年ガンガン2005年1月号。この4ヶ月後についに連載化されたところを見ると、この読み切りが連載への直接の契機となったと考えられます。
 内容的にも連載版に直接つながっています。主人公の屍姫が星村眞姫那(マキナ)、契約僧が田神景世ですが、これは連載版と共通しています。ストーリーや各種設定も連載版とほぼ同じ。連載版の直接のベースになったことは間違いないでしょう。

 他の読み切り2作との関係で見ると、基本的な方向性は第1作に近く、「屍姫+契約僧」というオーソドックスなキャラクター構成で、屍姫がほぼひとりだけで敵を倒してしまうあたりも、ほぼ1作目と同じです。1作目の継承・発展版と考えても差し支えないでしょう(その点でも、やはり2作目の異色さが際立ちます)。
 また、3作目のみの特徴として、倒すべき屍の存在に、都市伝説(怪談)を絡めている点があります。この読みきりでは、「カオハギ」という、真夜中の交差点に現れて女性の顔の皮をはいで殺してしまう化け物の噂が、屍との邂逅点となっています。このような「都市伝説を絡めた物語」も、連載版にそのまま受け継がれており、この点でも連載版との関係は非常に近い。連載版のプロトタイプとも言えます。

 そして、今作では、絵のレベルが前2作に比較して格段に上昇しています。絵がすっきりしてかなり見やすくなっており、同時に黒いベタの部分が効果的に使われるようになり、絵に重厚感が出るようになりました。アクションシーンも明らかに上達しています。もっとも、これでもまだ既存のマンガに比べれば劣る部分が多いことも明白で、まだまだ新人の作品の域を出ていないとは思いますが、それでも読み切りを重ねることで確実な上達が見られることは、やはり評価できるポイントでしょう。


・そして連載へ。
 こうして、読み切り版で確実な実績を挙げた「屍姫」は、満を持して少年ガンガン2005年5月号から連載を開始します。この連載もいきなり好調なスタートダッシュを切りますが、これにも3回に渡る読み切り掲載による経験が活きていることは間違いないでしょう。

 前述のように、基本的な設定は第3回目の読み切りから踏襲されていますが、それだけではなく、他の2作から引き継いだと思われる要素も積極的に見られます。
 実は、連載版では、景世の弟分であり、マキナと同年代の少年である花神旺里(オーリ)の視点で、主にストーリーが進められており、実際的な主人公はこの旺里(オーリ)である可能性が高いのです。そして、このオーリが屍姫のマキナと邂逅し、その生き様を見ることで自らも成長していき、やがては兄貴分の景世からマキナとの契約を譲渡されるという展開につながります。このあたりの要素は、読み切り版では異色だった第2作目から採り入れられたものと考えられ、このあたりの読み切りからの内容を積極的に活かす構成には好感が持てます。

 そして、それだけでなく、直接的に読み切り第1作・第2作から導入された設定も出てきました。1作目の契約僧である貞比呂の名前も登場していますし(景世の同僚という設定)、最新号のガンガンでは、ついに第2作目の主役二人組であるイツキと嵩征が登場しました。これから先も、読み切り版の設定も統合していくような展開が見られるかもしれません。今の連載版にとっても、3作にわたる読み切り版の存在は欠かせないものとなっているようです。


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