<@やまだひねもす悩み相談所/みずいろ家族>

2006・2・8

 「@やまだひねもす悩み相談所」(あっとまーくやまだひねもすなやみそうだんじょ)と「みずいろ家族」は、共にガンガンWINGに掲載されたギャグマンガの読み切り作品です。作者は敷誠一

 敷誠一さんは、元々は「第4回スクウェア・エニックスマンガ大賞」において奨励賞を受賞した方で、以後新人作家の読み切り掲載雑誌である「ガンガンパワード」において、数回の読み切りを掲載してきました。ところが、その後ガンガンWINGに掲載場所を移し、上記の2作品を掲載するに至りました。WINGでの初掲載作品である「@やまだひねもす悩み相談所」が、中々の好評を呼んだようで、その好評に答えて(?)しばらくして別の読み切りである「みずいろ家族」の掲載がなされました。「@やまだひねもす悩み相談所」の掲載号が2005年10月号、「みずいろ家族」の掲載が2006年2月号になります。


・意外な掲載誌移転。
 上記の通り、このマンガの作者である敷誠一は、ガンガンパワードからガンガンWINGに読み切りの掲載場所を移したわけですが、このような例は今のスクウェア・エニックスでは珍しいものです。そもそも、ガンガンパワードは、少年ガンガンの増刊であり、そこでの新人が掲載場所を移すとすれば、それは主に本誌であるガンガンになるのが普通です。パワードよりはるかにメジャーな雑誌であるガンガンでの掲載に「昇格」し、そのままガンガンで連載を獲得するというのが、新人としての成功の道であると言えます。
 あるいは、ガンガンパワードのみで掲載を続け、そのまま連載に昇格になるケースもあります。いずれにせよ、ガンガンパワードは本誌であるガンガンと最も繋がりの強い雑誌であり、そこでの新人が、他のスクウェア・エニックス雑誌であるWINGやGファンタジーに移転するのは珍しいケースなのです。(ちなみに、WINGやGファンタジーの方の新人は、それぞれの雑誌の編集部が独立して育成しており、雑誌ごとにその読み切りを掲載しています。)
 なぜ、この敷誠一さんがWINGの方へ移転させられたのか、最初はその理由がよく分かりませんでしたが、実際に掲載されたこのふたつの読み切りを読んで、「ああなるほどな」と思う節もありました。実は、この人の読み切りはかなり面白い作品だと思うのですが、今のガンガンでは掲載がやや難しいタイプの作品なのでしょう。ガンガンでは掲載が難しい作品を、WINGの編集部の方が「拾った」と考えれば分かりやすいですね。


・かなりひねくれたギャグマンガ。
 このマンガは、とにかくかなりひねくれた笑いを提供してくれるギャグマンガです。
 敷誠一作品は、奨励賞を受賞してデビュー作となった「はと塾」からしてかなり個性が目立つ作品で、主人公の常識人である女の子が、周りの家族や知り合いたちの異常な行動に振り回され、ツッコミを入れまくるという内容のギャグマンガで、出てくるキャラクターたちの暴走ぶりがやたらと目立つ怪作でした。
 彼の作品の特徴として、家族や友人、知り合いなど、主人公とごく近い関係にある人たちがみな異常な性格であり、彼らによって普通人の主人公がやたらといじられまくるという展開で、そんな異常な世界に放り込まれた主人公がツッコミの叫びを繰り返すという点が挙げられます。その「ごく近い日常での異常なキャラクター」の描写が非常に面白いのです。このような「主人公が周りの異常なキャラクターにツッコミを入れまくる」タイプの作品としては、「ハレグゥ」や「清村くんと杉小路くんと」などもかなり近いものがあるのですが、この敷誠一作品はその手の作品の最たるものであり、その異常なキャラクターの描写にもの凄い力が入っています。

 今回紹介するWINGの読み切り2作品の中では、後発の「みずいろ家族」の方が、まさにこの敷誠一作品の典型的な存在であり、主人公である空河葵(15)が、自分の父親と、彼の再婚で自分の家族となった母と妹の異常な行動に徹底的に振り回されるというもので、奨励賞受賞作である「はと塾」の設定を彷彿とさせる内容になっています。この異常な家族のバカバカしい行動こそが、この作品の最高に笑えるポイントであると言えるでしょう。

 そしてもうひとつ、主人公の女の子のツッコミのリアクションもやたらと面白いのもポイントです。ここでは、ツッコミ役が善良な女の子という点が大きなところで、かわいい普通の女の子がやたら激しくツッコミを入れるあたりに妙なギャップがあり、そのギャップがまた楽しいのです。「ハレグゥ」のハレや、「清村くんと杉小路くんと」の清村のツッコミもそれはそれで面白いのですが、この敷誠一作品では、それらとは一味違う妙なノリがあります。

 一方で、先発の読み切りである「@やまだひねもす悩み相談所」は、「周りの異常な人物に女の子がツッコミを入れる」という基本構造は同じなのですが、この作品ではツッコミ役の女の子までがかなりの異常なキャラクターで、周りのキャラクターたちも合わせてことごとく異常な人物のオンパレードとなっています(笑)。
 具体的には、女子高でなぜか悩み相談所をやろうとする変態保健女医の山田が、助手の小林まなみ(ネコミミ)と共に、変態的な依頼者たちの悩みに答えていくというものです。この中では、助手の小林まなみ(ネコミミ)こそがこの作品のツッコミ役なのですが、彼女が普通のキャラクターではなく、なぜかやたらと暴力的で、悩み相談所の所長である変態保健女医・山田に対して容赦なく平手打ちや自前のハンマー(ミョルニルハンマー☆)で暴力的なツッコミをするさまがあまりにも面白いのです。この、所長と助手の笑える掛け合いこそがこの作品最大の笑いのポイントです。

 そして、この相談所に依頼してくる女子校の生徒たちもまたことごとく変人で、彼女たちとの掛け合いもこれがまた面白い。多数の個性的なキャラクターたちが多くの笑いを提供する、実に密度の濃いギャグマンガになっています。実際、このマンガの過激なキャラとツッコミによる笑いはかなりのハイレベルであり、個人的には、この「@やまだひねもす悩み相談所」が、現時点の敷誠一作品の中でも最も面白かったと思っています。


・萌えをネタにしたギャグの数々。
 それともうひとつ、敷誠一作品の特徴として、萌えをネタにしたギャグの存在が挙げられます。
 絵自体が萌え系と言って言えなくもない微妙な絵なのですが、それに加えて、萌えをわざと逆手に取ったギャグを意図的に取り入れているため、なんとも言えない微妙なノリの作品になっています。そして、このネタがまたもやバカバカしさに満ちていて、これまた最高に笑えるのです。ある意味では、これが敷誠一作品の真価かもしれません。

 しかし、実はこれこそが、このマンガがガンガンではなく、WINGの方に掲載場所を移転した最大の理由であると思われるのです。今のガンガンは、よりメジャーな一般向けの誌面を目指しているため、このようなマニアックなネタの作品は載せられないと判断したのでしょう。このようなマニアックな作品は、そのままガンガンパワードで掲載され続けるのが通例ですが、この作品に関しては、WINGの編集者が、むしろ自分の誌面に合っていると判断して、パワードから引っ張ってきたのだと思われます。今のWINGならば、萌え系の作品が誌面の中心であり、こちらの方が誌面のイメージに合っている分、読者にも受け入れられやすく、活躍しやすいという配慮があったのだと思われます。


・微妙なセンスを感じる絵柄。
 そして、敷誠一作品では、その独特の絵柄も大きなポイントです。
 一見して萌え系なのかそうでないのかよく分からないような、微妙に濃い絵柄が目を引きます。
 そもそも、投稿デビュー作であった「はと塾」からして、なんとも言いようのない微妙なセンスのマンガだな、と、妙な感心をして読んだ記憶があるのですが、その絵柄のイメージは読みきりの掲載を重ねても全く変わらず、敷誠一作品のひとつの売り(笑)になっています。
(*これは「はと塾」からの画像です。)
 もっとも、実際にはまだまだ未完成なところも多く、拙い部分も散見される絵のレベルなのですが、それでも確固とした絵の力を感じる点は大いに評価したいところです。まだ新人にして未完成ながらも、既に作者自身のセンス・個性を感じる絵柄を確立しているのです。この点は非常に大きい。実は、最近載ったガンガン本誌の読み切りギャグマンガでは、あまりにも絵が下手すぎるマンガが目立ち、加えて、読者投稿による4コマ作品のページである「2Pギャグ」でも、あまりにもレベルの低い、下手としか言いようのない絵が非常に多い状態です。それに対して、この敷誠一作品の絵には、新人ながらかなりの力が感じられるのです。

 さらには、まだ未完成で拙い部分もあるとはいえ、投稿デビュー作だった「はと塾」の頃に比べれば、これら「@やまだひねもす悩み相談所」「みずいろ家族」等の最近の読み切りは、明らかに絵のレベルが上がっており、作者の成長が目に見えて感じられる点も評価できるところです。


・これがなぜガンガンで掲載されないのか。
 以上のように、この敷誠一による読み切りのギャグマンガは、微妙なノリながら実は優れた作品に仕上がっており、最近のスクエニ系のギャグマンガの新人の中でも、かなり優秀な存在であると言えるでしょう。

 しかし、前述のように、このマンガはガンガンパワードで何回も読み切りを重ねたにもかかわらず、ガンガン本誌には掲載されず、最終的にはWINGの方で拾われてそちらに活躍の場を移してしまいました。確かに、ガンガンで掲載するにはマニアックで微妙なマンガなのかもしれませんが、それにしてもこれだけ力のあるギャグ作家をガンガンで採用しないのも不満です。
 実は、作者の投稿受賞作である「はと塾」がパワードに掲載された際、そのすぐ前であの「地獄ゆき」のマンガ(「くわまん」)が掲載されていたのです。そして、地獄ゆきはその掲載のすぐ後でガンガンで読み切りを2回も続けて掲載され、以後断続的ながら計5回もガンガンで読み切りを掲載されました。しかし、この地獄ゆきの作品、到底ガンガンに載るようなレベルの作品とは思えないひどいものであり、そんな作品をガンガンに載せた編集部の判断は大いに疑問でした。それに対して、その地獄ゆきのとなりで掲載され、明らかに地獄作品よりも面白いと思える敷誠一作品の方は、ガンガンに呼ばれて掲載されることは1回もありませんでした。明らかに面白い方の作品を無視して、明らかにひどすぎる方の作品を載せるとは一体どういう了見なのか。理解できません。

 受賞作の選定の段階でも疑問です。この敷誠一の「はと塾」、確かにマンガ大賞受賞作ではあるのですが、その賞のクラスは「奨励賞」であり、入選や佳作よりもさらに下の扱いなのです。まあ、確かに受賞作の段階では絵を中心にまだまだ拙い部分も多く、奨励賞クラスの作品だと考えてもさほど違和感はありませんでした。しかし、これよりも明らかにつまらないと思える「堀田和哉」の作品が、のちのマンガ大賞で入選を取っているとなるとこれは大問題です。この堀田和哉の作品、地獄ゆき作品に勝るとも劣らないほどひどい出来栄えであり、そんな作者の作品が入選というのはあまりにも異常です。ついでに言えば、のちのマンガ大賞で準大賞を受賞し、先ごろガンガンで連載を獲得した「火村正紀」の作品も、果たして準大賞クラスでしかも連載を獲得できるレベルにあるのかは多いに疑問です。

 このように、今のガンガン編集部のギャグマンガの評価は多いに疑問であり、そのために敷誠一さんの作品が正当に評価されず、不遇のうちにガンガンでの掲載権を得られなかったと推測できるのです。確かに敷作品にはマニアックで微妙なノリもあるのですが、しかし決してガンガンで掲載できないような偏った作品とは到底思えず、十分掲載できる範囲のまともな完成度の作品になっていると思うのです。少なくとも、「敷誠一の作品と、地獄ゆき・堀田和哉の作品と、どちらがまともか?」と訊かれれば、それはもう答えるまでもないでしょう。

 実際のところ、地獄ゆき・堀田和哉の代わりに、敷誠一をガンガンでの読み切りで採用していれば、あそこまでガンガンが絶望的な誌面になることは無かったのではないでしょうか。そして、最終的には、彼の作品はWINGの方で採用され、WINGのラインナップの充実に貢献する存在となってしまい、ガンガンはまたしても良質の作家を逃してしまったと言えるのです。


「読み切り作品」にもどります
トップにもどります