<その島のお話。>

2006・8・19

・ちょっとみじかくて、かわいいお話。
 「その島のお話」は、ガンガンWING2004年5月号に掲載された読み切り作品です。作者は、のちに同WINGで「ちょこっとヒメ」の連載を開始するカザマアヤミ。彼女は、この読み切り掲載の少し前に、自身のマンガ賞受賞作品でデビュー作となる「かさぶたさん」という読み切り作品を掲載しており、これが読み切り2作目に当たります。

 彼女の作品は、かわいらしい絵柄とキャラクターの細やかな心情描写が魅力ですが、今作でもその要素は健在です。しかし、前作が現代の日本が舞台だったのに対し、今作は一転して架空の島を舞台にしたファンタジー作品となっています。しかも、その内容にはかなりシュールなところも見られ、独特の雰囲気とテンポを持つ「ちょっと不思議なファンタジー」といったイメージの作品となっています。

 そして、この作品は、わずか18ページしかない短編なのですが、それでもその柔らかで優しい作風は健在で、読後に心地よい余韻を残します。ページ数が少ない小品という感は否めませんが、それでも幾多の大作系読み切り作品と比べても決してひけをとらず、数あるガンガン系雑誌の読み切り作品の中でも、特に心に残る一作となっています。


・ほんわかした世界観。
 まず、このマンガのいいところは、どこまでもほのぼのとしたファンタジー世界ですね。
 冒頭で、主人公の女の子(花生)が、笑顔で島の中を走っていくタイトルページがあるんですが(↑)、ここからしてとても雰囲気がよいですね。このような癒し系ファンタジーの特徴をよく捉えています。とにかく居心地がよい。
 この当時から、WINGの連載マンガには、このような「まったりとした居心地のいい癒し系」のイメージを全面に出したものが多く見られるようになり、某WINGの専門家などは、この手のマンガを指して「ゆる萌え」と命名したのですが、これもまさに「ゆる萌え」をそのまま体現したかのような作風で、まさにこれ以上ないほどWINGの読み切りらしい一作でした。そのせいか、このマンガはWINGの読者の間でもすこぶる評判がよく、これで作者の「カザマアヤミ」という名もよく覚えられ、一部に熱心なファンを生み出します。


・「ケーキを飛ばす」というシュールかつコメディタッチなストーリー。
 そして、肝心のストーリーなのですが、主人公の女の子である花生(かおう)が、なぜか学校を休んでまで「ケーキを空に飛ばす」という不思議な行動を始めてしまい、それに島のみんなが賑やかに協力していくというもので、シュールかつ賑やかなコメディ調のお話となっています。

 主人公もかなり変な女の子ですが、周りを固めるキャラクターたちも、どこか一風変わった妙な感性を持った個性的なキャラクターばかり。
 ケーキを飛ばそうと準備をする花生の元に、最初にやってきたのが、猫のひろちゃん(山田くん)とザビエル先生です。ケーキ好きの猫のひろちゃんは、「ケーキを飛ばす」という常識外れの行為にあきれ、そんなことをせずに自分で食べようとしますが、一方でザビエル先生の方は、不思議系の感性を持った先生で、「ケーキを飛ばす」という言葉から妙なイメージの妄想を広げ、勝手にその妄想に惹かれてケーキ飛ばしに協力しようとします。

 次にやってきたのが、ユッカとリカという小さな女の子の姉妹。ユッカの方は割りと常識的で、ケーキ飛ばしという得体の知れない行為にあきれてしまいますが、リカの方はまたぼんやり不思議系の女の子で、なぜかケーキ飛ばしを面白そうと言って協力します。

 しかし、ケーキに風船をたくさん付けて飛ばそうとしても飛ばず、そこでユッカとリカの姉妹は、お父さんであるジャック先生の助けを得ようとして呼び出します。これがまたかわいい女の子大好きのハイテンションな先生で、しかしケーキを飛ばすために気球作りという名案(?)を出し、ついにケーキを飛ばすことに成功します。しかし・・・。
花生 ひろちゃんとザビエル先生 ユッカとリカ ジャック先生


・最後の最後でちょっとした感動が・・・。
 しかし、一度は見事に空を飛んだケーキですが、思わぬ邪魔が入ってしまい、最後の最後で結局失敗に終わり、落ちてきたケーキをみんなで食べておひらきになります。
 そして、最後に食べ残ったケーキの真ん中のところを、花生はあるところに持って行きます。実は、花生がケーキを飛ばそうとしたのには、彼女だけが思う事情があったのです。そのことが物語の最後でしんみりと語られ、ちょっとした感動と余韻を残して物語は終了します。このあたり、中盤までコメディタッチで賑やかに進んできて、最後でちょっと落ち着いた描写で締める終わり方で、短編ながらも心地よい読後感が残り、心に残る一作となっています。


・このかわいらしい絵柄は本当に素晴らしい。
 このように、賑やかで楽しいコメディと、しんみりと余韻を残す終わり方で、短編ながらも十分に読ませる本作ですが、もうひとつだけ素晴らしい長所があります。それは、出てくるキャラクターがめちゃくちゃかわいいこと。
 特に、女の子のかわいさは尋常ではありません。前作である読み切り「かさぶたさん」では、日常の描写と細やかな心情描写がむしろ中心の物語で、キャラクターの描写がシンプルだったことが理由なのか、さほど強く萌えを意識しなかったのですが、この「その島のお話。」の方は全く別。これはもう本気で萌えました。これは反則です。カザマさんの描く女の子がこんなにかわいいとは。前作の線の少ないシンプルな絵とやや趣きが異なり、眼や髪の描写(塗り)に力が入っているのが萌える要因でしょうか?(笑)

 そもそも、わたしがエニックスのマンガを好んで読む理由はふたつあります。ひとつには、堤抄子や筒井哲也、荒川弘の作品のような、真に深い内容のある完成度の高い作品を読みたいから。そしてもうひとつが、こういうマンガを読みたいからに他なりません(笑)。こういうゆるやかな雰囲気とかわいい絵柄で和ませる居心地のいい作品、かつては天野こずえさんや浅野りんさんや夜麻みゆきさん、桜野みねねさん、藤野もやむさん、あたりが描いていたようなマンガが読みたいからこそ、当時からは誌面が様変わりしたガンガン系作品を未だに読んでいるわけです。今では幸いにもガンガンWINGがなんとかこのようなイメージの作品を継承し、また多くの新人作家が生まれていますが、カザマアヤミさんもそれに該当する頼もしい作家であることは間違いありません。

 そして、この萌えに感動したわたしは、このカザマアヤミの連載を心待ちにするようになります。この読み切り掲載当時のWINGは、かつてのブレイド騒動から完全に立ち直ると共に、昔とは誌面の方向性が一変しており、「まほらば」や「dear」「天正やおよろず」のような「まったり萌え系」(前述の「ゆる萌え」系)のマンガが中心の雑誌へと集約されていったのですが、このカザマさんの読み切りもまた、その方向性を存分に体現したものであり、「これはWINGで連載を持てば絶対に人気が出る!」と本気で考えていました。そして、これはものの見事に現実となるのです。


・カザマさんのマンガの中でも屈指の一作。
 しかし、そんな期待に反して、その後かなり長い間カザマさんの次回作が掲載されることはありませんでした。しかし、一年以上経った2005年7月号で、「ガンガンWING4コマエディション」という、4コママンガのみを集めた付録冊子が付き、その中で「365日猫!」という4コマが掲載されます。そして、この作品を母体として、ついに2005年12月号から「ちょこっとヒメ」という4コママンガの連載を開始。これが大きな人気を呼び、今ではガンガンWINGを支える人気作品の一角となっていることは言うまでもありません。

 この4コママンガも、カザマさん独特の萌えと癒しに満ちた作品で、これはこれで非常によいと思うのですが、ただ、個人的な希望としては、読み切り作品のようなストーリーマンガで連載してほしかったと思う気持ちも強いのです。彼女の作品は、その独特の世界観やストーリーにも抜きがたい魅力があり、それを存分に堪能するには、やはり4コマでないストーリーものの方がふさわしかったのではないか。「ちょこっとヒメ」の場合、その内容がコメディと萌えに傾いた感があり、それはそれで悪くはないけれども、今ひとつ惜しいなという気もするのです。

 その点では、この「その島のお話。」こそが、カザマさんの魅力をより深く味わえる屈指の名作と言えると思います。ほのぼのした独創的な世界観、賑やかで楽しいコメディ、しんみりした余韻の残るストーリー、そしてかわいすぎる絵柄の素晴らしい萌えと(笑)、どれひとつとっても良質なこの作品、わずか18ページの小品で、雑誌の片隅にひっそりと掲載された読み切りでありながら、実は大変な良作であったと言えそうです。


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