<あん☆りみてっど>

2009・11・25

 「あん☆りみてっど」は、ガンガンJOKERの創刊号である2009年5月号に掲載された読み切りで、この新雑誌JOKERにおける読み切り第一号となりました。創刊号では、連載作品が全部で11作品とさほど多くなく、その上で読み切り作品もこのひとつだけと、決して規模が大きい雑誌ではなかったので、この読み切り作品は中々目立つ存在だったかというとそうでもなく、創刊当初から休刊された雑誌から移籍してきた人気連載や人気作家の新作が大きな看板となっており、ほとんどの読者はそちら目当てに雑誌を手に取ったと思われるので、この読み切りにあえて注目した読者も多くなかったと思います。しかし、そんな風にあまり注目されなかったであろうこのマンガ、実際に読んでみるとかなりの良作だったのです。

 作者は山口ミコト。フレッシュガンガンやONLINEでの掲載を経て、このJOKERでも読み切りを手がけることになった新人作家であり、新雑誌の創刊号でいきなり中々の結果を残すことになりました。そして、この読み切りの出来が編集部にも認められたのか、半年後の11月号から「死神様に最期のお願いを」という新連載を開始。JOKERから輩出された有望な新人のひとりとなりました。

 さて、このJOKERという雑誌、休刊したWINGとパワードの後を継ぐ目的で創刊された経緯がありますが、これら休刊した雑誌が、いずれも積極的に読み切りを掲載してきたのに対して、これがJOKERになると、対照的に読み切りが非常に少なくなりました。この創刊号ではこの「あん☆りみてっど」ひとつが掲載されましたが、その後3カ月の間ひとつも掲載されず、4カ月後の9月号以降になって、ようやく毎号1つか2つ程度掲載されるようにはなりましたが、相変わらず低調なことには変わりありません。読み切りの数だけでなく、内容もあまりぱっとしないように見受けられます。どうやら、読み切りの掲載は他の雑誌に譲り、有力な人気連載に絞った誌面作りを行う方針のようです。

 そんな中で、唯一かなりの結果を出したこの「あん☆りみてっど」、冒頭の始まり方だけ見ると、極めてありがちな萌えマンガにしか見えないのですが、読み進めるたびに次第に恐ろしい本性を現していき、最後には陰惨な結末まで迎えるという、とある小説(映画)作品を彷彿とさせるようなミステリーホラーとなっています。


・始まりはどう見ても頭の悪い萌えマンガにしか見えないのだが・・・。
 このマンガの主人公は、18歳にして売れっ子マンガ家として毎月の連載を抱えているマンガ家・神田空一(かんだそらいち)。物語は、彼の元に「日本アシスタントクラブ(N・A・C)」なる組織からメイドのアシスタントが派遣されてくるところから始まります。
 連載の休載が続き、原稿が中々進まずにいらついていた神田は、気晴らしにネットを始め、ふとした思い付きでネットでアシスタントを探そうと試み、この日本アシスタントクラブのホームページを見つけます。そこでは、アシスタントの技術だけでなく、性別や性格、体形や服装まで選べるという至れり尽くせりのサービスを提供しているようで、興味を抱いた神田は、面白半分に 「アシスタント技術は最高級のSS」「性別は女」「性格はやさしい16歳」「身長145センチ未満貧乳ロリっ子」「服装はメイド服」などとフォームに記入して送信します。すると、まさにその条件に見合った貧乳メイド服のロリっ娘(名前・猪木庵)が、本当に来てしまうのです。

 しかも、神田が美少女フィギュアが並ぶオタク全開の部屋を見せても、それに引くどころか逆に異様に詳しい知識を見せ、しかもフィギュアの趣味まで同じというところを見せます。さらには、神田が連載しているマンガ「カルドル」についてもやたら詳しく語り、「先生のマンガの大ファンなんです」とにっこりと笑って告げ、この笑顔で神田は完全に落ちてしまいます(笑)。さらには、「漫画以外のアシスタント」と称して、甲斐甲斐しく料理を作ってふるまい、肩揉みやひざまくらで耳掃除まで至れり尽くせりのサービスを行います。

 ここまでの展開を見ると、「オタクのマンガ家の自宅に萌えメイドのアシスタントがやってきてサービスしまくり」という、どう見ても頭の悪い(褒め言葉)萌えマンガとしか思えません(笑)。絵柄も新人ながら整っていてキャラクターも柔らかい筆致でかわいらしく描けており、見た目的にもいかにも萌えマンガらしい絵柄となっています。その上で、タイトル画面での「あん☆りみてっど」というポップなタイトルロゴ、そして「作画・ネームにつまったらお助けスーパーアシスタントが魔法の一振りを見せてあげる☆」などという煽り文と萌えポーズを取るメイドの絵を見ても、「これは本当にもうどうしようもない(褒め言葉)萌えマンガだな」と思わずにはいられませんでした。

 しかし、そんなバカバカしい(褒め言葉)萌えマンガの展開を見せるのは中盤まで。中盤で庵が「私の基本方針は『漫画を描くのに最適な環境にすることですから』と空恐ろしい目付きで語り始めてから、次第に様子がおかしくなってきます。


・中盤以降このマンガは本性を表し、恐ろしい展開に突入する!
 そして、『漫画を描くのに最適な環境にすることですから』と庵が言い放った後、次第にこのメイドの本性が露になっていきます。まず、神田が寝ている間に、机に足かせをつけ、神田の足をつなぎとめてしまいます。その上で「私 マンガを描かないマンガ家は 死ねばいいと思ってるんです」と言い放ち、神田のフィギュアをハンマーでぶち壊し、強引にマンガを描くことを強要します。神田は、その豹変した庵の様子に恐れつつ、しぶしぶマンガを描くことにします。神田は、普段編集者とはメールとFAXでしか連絡を取っておらず、それ以外にも日常連絡を取る知り合いもおらず、誰も来ないこの家でこのおかしなメイドとふたりきりであることに、次第に恐怖を感じ始めます。

 その後、とりあえずマンガさえ描いていれば問題なく優しく接してくれる庵を見て、少しほっとして安堵の息を吐く神田ですが、しかしその時家に新たなメイドアシスタントがやってきます。そのメイドは、自分は「日本アシスタントクラブ(N・A・C)」から来たメイドであるといい、「もう既に来ている」と神田が告げても、「条件に該当するのはわたしだけですが・・・」と告げます。
 これを聞いてじゃあ今のメイドは何者なんだと恐怖に陥る神田ですが、そのメイドは玄関で何者かに襲われて見えなくなってしまい、代わりに庵が家に入ってきます。庵が本物のアシスタントを襲ったのだと推測した神田は、恐怖におびえつつも庵に詰め寄りますが、庵は動ぜず、しかも食事に入れられていた睡眠薬で眠らされてしまいます。

 目が覚めたとき、神田は独房のような何もない部屋でベッドに寝かされていました。しかも逃げられないように両足を折られ、ベッドの上から動けないようになっていたのです。部屋にあった本やグッズ、パソコンや電話も与えられず、ただひたすらマンガを描くことを強要されてしまうのです。神田は、命をとられることに怯えつつ、ひたすらマンガを描かされ続けることになりました。

 そうして三カ月が過ぎたある日、神田は、自分の原稿に庵が手を加えていることを発見します。一部のカットを庵が描いたのを発見して、良く似ているとその時は褒めたのですが、後でそれを考えて何か違和感を覚え、いろいろと熟考した末に、それを確かめるために最近の連載が載っている雑誌を見せてもらい、ついに庵がなぜ今のような凶行に出たのかを突き止めます。最初は、自分のファンで連載が進まないことに怒ってそんな凶行に出たのだと思っていたのですが、実は真の理由はそうではなかった・・・。


・今のマンガシーンに対する風刺・皮肉のようなものが見られるのも面白い。
 そして、その理由が正しいのか確かめようとした神田は、ある日「もうこの『カルドル』の連載は次で最終回にする」と庵に告げます。庵は、それを聞いてちょっと驚いたようですが、その場は笑って引き下がります。
 その日の夜、庵は、神田のベッドに忍び寄り、ハンマーで思いっきり殴りつけて神田を殺そうとします。しかし、神田の姿はベッドになく、逃げたと思った庵はあわてて探しますが、そこでベッドの下に潜んでいた神田が急襲、庵を床にねじ伏せて形勢逆転を宣言します。神田は、自分の足を金尺で作ったのこぎりで切断し、ベッドから逃れてこの機を窺っていたのです。
 神田が推測した凶行の理由・・・それは、「自分のマンガを奪う」ことでした。庵は、「わたし、先生の漫画のファンなんです」と何度も言っていました。その上で、神田が最近の自分の連載を確認したところ、ほとんどの原稿を庵が描くようになっていったことを突き止め、「自分の『カルドル』を奪おうとした、そのために最終回にするという発言に焦り、俺を亡き者にして代わりに自分が描こうとしたのだ」と問い詰めます。

 それを聞いた庵は、完全に開き直って自分の主張を始めます。「『カルドル』は自分が描いた方が面白い」と言い放ち、「昔から好きでいっぱい描いてた」「同人誌を出したらファンの人に『原作よりおもしろい』と言われた」「ネットでも評判で、休載続きでやる気のない作者より君が描いた方がいいって書き込みがいっぱいあった」「同人誌を20冊出して三千部売った」「ホームページは毎日更新して1日300ヒットする」「絵だって完璧に描ける」と自分の『カルドル』創作に対する打ち込みの素晴らしさを徹底的に主張。そして最後には・・・実はグルだったもうひとりのメイドが神田をハンマーでぐしゃっと一閃、その後暗転して神田の独白が続いた後、エンディングに続きます。

 そして、このクライマックスとエンディングのシーンにおいて、今のマンガシーンに対する風刺や皮肉らしきものが見られるのが面白いところです。まず、庵の主張なのですが、一見してすごい入れ込みように見えて、実はそう大したことはない、一種の思いあがりに満ちた自信であることに気づきます。同人誌を出しての評判のよさ、ネット上の書き込みだけで、作者より上回ったと考えるのは早計ですし、同人誌を20冊で三千部というとすごいように聞こえるけれども、1冊ごとの売れ行きは150冊。これは決して悪いものではありませんが、大手サークルと言えるほどの人気ではありません。ホームページが1日300ヒットというのも、そんなに大したことはない。その程度で思いあがってしまう未熟な作者の姿を、ここで大いに描き出しているのです。

 その後に続くエンディングも面白い。最近「マンガ家の乗っ取り」なる物騒なものが流行っているという噂に対して、普段メールとFAXでしか連絡しない神田先生を調べてみようと言う編集者に対して、もうひとりの編集者が、「最近俺達プロの目から見るとマンガつまんないけど、売れてるし締め切りも守るようになったし別にいい」と言ってしまうのです。多少つまらなくなってもそのまま売れ続ければ問題ないという、マンガ連載で本当によく見られる光景。このシーンは、それに対する絶妙な風刺になっています。最後に、机の上の『カルドル』200万部突破の告知がむなしく映ります。


・これはガンガンJOKER版の「ミザリー」だ!
 以上のように、この「あん☆りみてっど」、くだけたタイトルロゴと絵柄、煽り文から始まるオープニングと、その後の頭の悪い萌えマンガ的展開から一転、マンガ家の描くマンガに対する熱狂的なファンの凶行でマンガ家が陰惨な目に遭い、悲惨な最期を迎えるという、異様な展開のミステリーホラーになっています。特に、マンガ家が孤立した家の中に閉じ込められる展開、ベッドの上で足を折られるという設定などは、あの映画化もされたスティーブン・キングの名作ホラー小説「ミザリー」を彷彿とさせるもので、まさにガンガンJOKER版の「ミザリー」と言えるような内容になっています。

 それでいて、このマンガ独自の要素も多分に見られ、前半のバカバカしいオタク的萌えマンガからのギャップや、作者が本当に足を叩き折られて最後には悲惨な最期を迎える(助からない)というよりダークな展開、そして今のマンガシーン、特に同人活動や商業雑誌での連載に対する風刺や皮肉のような描写など、どれも非常に面白いものとなっています。徐々に恐怖が拡大していくストーリーの展開も申し分なく、さらには新人ながら極めて安定した作画レベルも十分に合格であり、良く出来た読み切りになっていたと思います。他の「ひぐらし」を始めとする移籍人気連載や、小島あきらを始めとする人気作家の新作に大きく注目が集まったガンガンJOKERの創刊号ですが、その影に隠れてこのような読み切りの良作があったことを、ここに記しておきたいと思います。

 その後の山口ミコトさんは、前述の通りJOKER11月号から「死神様に最期のお願いを」という連載を始めましたが、こちらもまたグロ描写ありの美少女+ミステリーホラーといった感の作品となっており、このような作風が好みなのかもしれません。こちらの方はよりシリアス色の強い話になっており、推理色も強く、本格的な連載として期待できるものになっていると思います。

 その一方で、この「あん☆りみてっど」の前半で見られた、垢抜けた萌えマンガもまた見てみたいような気がします。この安定して丁寧に描かれた萌え絵柄は、それはそれで非常に魅力的なものがあり、加えてコメディの描写も面白かったですし、そういった明るいマンガを描いても読めるのではないでしょうか。いずれにせよ、今後の活躍を期待したい楽しみな新人が、JOKERからまた1人出てきたと思います。


「読み切り作品」にもどります
トップにもどります