<世界のわわわ>

2007・9・24

 「世界のわわわ」とは、かつてガンガンWING2005年7月号の付録冊子だった「ガンガンWING4コマエディション」に収録された4コマ作品で、それが好評を受け(?)、のちのガンガンWING2006年4月号に読み切りとして掲載された作品です。作者は電撃系やきらら系で活躍しているあらきかなお

 この「ガンガンWING4コマエディション」、当時のWING連載作家のほとんどと、WINGが発掘中だった新人作家、そして他雑誌や他出版社からのゲスト作家と、合計で47名もの作家陣で構成された4コマ・ショートストーリー集で、雑誌の付録としてはかなり大掛かりなものでした。ページ数も200ページを超えており、雑誌にもうひとつの付録が付いていると言ってもいい状態でした。
 しかし、掲載各作品の出来については、どれもページ数が極端に少なく、内容的にも芳しくないものが多く、今ひとつ読み応えのある作品は多くありませんでした。唯一、当時は新人作家だったカザマアヤミさんの「ちょこっとヒメ」が人気を獲得、のちに連載化されたのが数少ない収穫でしょうか。しかし、実は、この「ちょこっとヒメ」に加えてあとひとつだけ、好評を受けたのかしばらくのちに本誌で読み切りが掲載された作品があったのです。それがこの「世界のわわわ」です。

 作者が、他出版社からのゲスト作家だったあらきかなおだけあって、WINGの連載作品とは少々方向性の異なるところがあり、なによりも端々で微妙なエロネタが散見されることが最大の特徴でした。しかし、絵柄そのものは非常にコミカルでかわいらしいもので、それが好評を受けて、再度読み切りを掲載された大きな理由となったことは想像に固くありません。4コマエディションに掲載された方は、ページ数も少ない小規模な4コマ作品でしたが、のちの本誌の読み切りの方は、ある程度まとまったページ数のあるショートストーリーとなっており(と言っても12ページですが)、中々読める作品になっていたように思えます。個人的には、かわいらしい絵柄がWINGに合っており、実は面白い世界観を持つこの作品を、是非連載化してほしかったと思いました。


・あらきかなおというマンガ家。
 さて、このあらきかなおという作家は、元は成年マンガ家です。名前に反して女性作家であり、夫も同じく成年マンガ家であるあらきあきら。
 元が成年マンガ家で一般向けマンガを描くようになった作家の場合、一般向けでもエロが目立つケースがかなり多いのですが、彼女も例外ではなく、特にエロ描写やエロネタが目立つ作家となっています。かつて電撃帝王に掲載された「守ってさんかくHEART」なる読み切りなどは、学校で女の子がパンツの脱がし合いをするというとんでもないストーリーで、いくら電撃系とはいえよくこんなマンガを掲載したものです。また、かつてコミック化を担当した「フタコイオルタナティブ」でも、原作にはないようなエロい描写が多く、「イカの触手に囚われヌルヌルにまみれた半裸の白金姉妹」などは、非常に印象深いシーンであると言えます(笑)。

 また、とにかく女の子がやたら(性的に)いじられるマンガが多いのも特徴です。中でも、きらら系4コマである「魔法のじゅもん」というマンガの凄まじさは突出しており、主人公の女の子がいじわるな親友に(特に性的に)いじられまくるネタの数々は、同系の4コマの中でも、特にアクの強いものがあります。

 そしてもうひとつ、あらきかなおと言えば、何と言っても百合ですね。女の子同士がくっつきまくる話が非常に多い。また、女装美少年が出てくることが多いのも特徴です。一般誌初連載作品である「夢みたいな星みたいな」という作品からして、完全な百合マンガであり、前述の「魔法のじゅもん」も百合、その後は「乙女はお姉さまに恋してる」のコミック化も担当しています。これは、原作がPS2にも移植されたゲームということで、あらきかなお作品の中では、比較的エロや過激ないじりは控えめであり、また内容的にもよく描けており、初心者にもおすすめできる作品となっています。


・スクエニのWINGだけあって、エロはひどく抑えられているが・・・。
 しかし、この「世界のわわわ」の場合、掲載誌がWINGということもあって、エロ要素はひどく抑えられています。スクエニ系雑誌では、男女問わず読める中性的な作風を基本としており、実際に女性読者が多いこともあって、エロ描写は出来るだけ控えることが基本の方針となっています。それでも、ここ最近は、ガンガンやヤングガンガンで露骨にエロ描写を追求した作品が目立つようになってしまいましたが、このWINGに関しては、まだかつてのスクエニ(エニックス)の雰囲気・方向性が残っており、そんなエロを強く抑える方針が、ゲスト作家であるあらきかなおにも適用され、この作家としては非常に不本意な(?)作風となっています。

 しかし、そこはあらきかなおだけあって、どんなに抑えてもエロを完全に抑えきることは出来なかったようです。とにかく端々で微妙にエロを感じさせるネタが散見され、やはりWING掲載作品の中では、少々異質なものを持ってしまいました。
 実は、わたし自身、この「世界のわわわ」で初めてこの作者を知ったのですが、なにか微妙にエロを感じるその作風を見て、「実はこの人はエロマンガ家ではないのか」と推測してしまったのですが、あとで調べてみてその推測は間違っていなかったと知りました(笑)。ただ、この作品に関しては、実際にはエロ以外にも、独特の世界観やコミカルでかわいい絵柄など、読ませる点も多かったことも事実で、それが好評を受け、再度読み切りを掲載されるまでになったのだと思われます。


・幻想的で魅力的なファンタジー設定だが・・・。
 このマンガの舞台は、地球から少し離れた、月に近いところにあるという星。昼も夜もまっくらな世界で、太陽が見えないかわりに一日中月が街を照らすという、なんとも幻想的でロマンティックなファンタジー世界となっています。しかも、ここに住んでいるのはみな半妖怪のような人々で、人間がここに住んでいると身体が変化していって人間でなくなってしまう、という独特の設定を持っています。この独特の世界観や幻想的な雰囲気は実に素晴らしいものがあり、マンガの冒頭はとても綺麗な始まり方をするのですが、肝心の内容はいつものあらきかなおでしかありません(笑)。

 主人公は、地球からここに引っ越してきたという冠いばら(かんむりいばら)という女の子ですが、転校して早々に友達になった公ちゃんという女の子は、実は女装美少年であり、中途半端に男を見せる変態的な趣味でいじられまくります。しかも、正体は吸血鬼で、4コマ版ではあっさりと血を吸われてしまいます。その上、他の人間外キャラにもいじられ、読み切り版ではついに自分にまで身体の変化が訪れ、耳やら尻尾やらが生えたりまた人間に戻ったりを繰り返し、泣きそうになって終わるというオチになっています。

 そして、前述のように、端々でいばらの身体を巡ってエロっぽいネタが散見されます。ここでも、公ちゃんという女装美少年が、主人公のいばらをいじって楽しむという、他のあらきかなお作品では定番とも言える関係が見られます。このあたりはもうあらきかなおの趣味が露骨に出まくっており、WINGという誌面上でエロは極力押さえられてはいるものの、それでもなおエロ的な描写には事欠きません。これが他の出版社の雑誌だったら、果たしてどうなっていたのでしょうか(笑)。


・しかし、この絵柄は非常に魅力的。
 ただ、そんなエロ描写とは対照的に、この作者の描く絵柄は、コミカルでとてつもなくかわいらしいものです。WINGの方向性・読者の好みにも合っており、好評を博して再度読み切りを掲載されたのも分かるというものです。
 とにかく絵がかわいい。これは本当に素晴らしい。作者の初期の頃の絵柄は、かなりくせが強くバランスの悪いところもあったのですが、この作品は比較的後発のものだけあって、バランスも取れた良い絵となっています。エロ描写とは好対照のかわいらしさがあり、一見した見た目だけならばエロ(に満ちた)マンガとは思えません。これこそが、この作者の最大の魅力だと思われます。

 実は、このマンガは、見た目の雰囲気だけならば決してアクの強い作品ではないのです。幻想的な雰囲気の設定と世界観と、コミカルな人外キャラクターによるコメディということで、ライト感覚のファンタジー作品としてかなり面白い。これならば、このマンガを読み切りから連載に昇格させてもよさそうな感じでした。当時のWINGは、「1年間連続新連載」が開始されたばかりの過渡期であり、毎号のように新連載が始まるという状態でしたが、肝心の成功作は多くなく、すぐに終わってしまう短期連載も数多く見られました。ならば、このマンガも試しに連載してみる価値は大いにあったはずです。しかし、実際には、再度の読み切りが掲載されただけで、その後は二度と再登場はなく、これは随分と惜しい作品を逃したと思いました。


・まさかのコミックス収録。しかしこの後に続く掲載がなくなったことは残念。
 このように、WINGの読み切りとしては小品で、最初の4コマが6ページ12本、次のショート読み切りが12ページと、たったそれだけで終わってしまった作品ではあるのですが、今でも確かに印象に残っている作品であり、連載化しても面白かった、というか、是非連載を見てみたかったと思いました。なにげに幻想的なファンタジー設定と、とてつもなく萌えるこの絵柄は、まさにWINGにはふさわしいマンガとも言えますし、当時の新連載の多くが失敗に終わったことを考えても、「このマンガを連載しておけばひょっとしたら・・・」と思うことがしばしあります。

 そして、なによりも、「あのあらきかなおがWINGで連載したらどうなったか」という点に非常に興味があります。WINGらしい自制の効いたファンタジー作品となったのか、それとも作者が編集者の抑制をぶち破ってエロ全開のマンガになったのか(笑)、そのあたりが実に興味深い。実は、WINGにはこのような微妙にエロいマンガは結構あり、当時はあの「がんばらなくっチャ!」というエロと萌えに満ちたマンガも連載されていました。この「世界のわわわ」も、「がんばらなくっチャ!」に妙に近い雰囲気があり、しばらくして終わってしまったこのマンガを継ぐにふさわしいものがあったように感じます。

 しかし、そんなねじれた希望とは裏腹に、「世界のわわわ」のそれ以上の掲載はなく、ほとんどの読者から完全に忘れられてしまいました。わたし自身も、もうこのマンガが採り上げられることはないだろうと思っていたのですが、なんと、掲載から一年半以上が経過した2007年9月、作者の芳文社での連載マンガ「魔法のじゅもん」の2巻に収録されることになりました。これは予想外の決定であり、個人的には非常に嬉しく思う反面、「ああ、これで完全に、このマンガの続編が掲載される可能性はなくなったな」と、一抹の寂しさをも感じてしまったのです。あの幻想的な世界観はとりわけ魅力的だったので、その雰囲気を活かす方向で連載化できれば、かなりいい作品になったかもしれません。他社でもいいので、今から連載化しようという試みはないものでしょうか・・・。


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