<座敷童子ちゃんDreamin'>

2006・4・5

 「座敷童子ちゃんDreamin'(はぁと)」は、ガンガン増刊パワード2005年冬季号に掲載された読み切りです。作者は、のちにGファンタジーで4コママンガ「うたた日和」の連載も手がける水谷ゆたか。俳優の水谷豊とは関係ありません(笑)。


・優しくやわらかい描線。
 水谷ゆたかさんは、元々はイラストレーターとして活躍されていた方で、この読み切りがマンガ家としてのデビュー作となります。しかし、これがマンガ家としての初商業作品でありながら、絵的にも内容的にも既に書き慣れた感があり、安定した実力を発揮しています。

 しかし、この作者の絵は、マンガ作品としてはかなり独特です。なんていうか、描線がシャープな部分がまったくなく、常にふわふわでやわらかいイメージに満ちています。しかし、それでいてこのマンガの絵は白と黒(ベタ)のコントラストがはっきりとしており、しかも黒ベタの部分がこれまたしっとりとやわらかいイメージで塗られており、描線のやわらかさと相まって、どこまでも優しい雰囲気に満ちた印象の絵となっています。
 そして、この描線によって描き出される中性的で優しい絵柄こそが、水谷さんの最大の持ち味と言えます。そして、これは同時にエニックス作品を象徴するかのようなタイプの絵柄でもあります。その点で、このマンガはまさにエニックス系雑誌に掲載されるべくしてされた作品だったと言えるでしょう。


・ハートフルな萌えマンガ。
 そして、内容的にもエニックス系マンガの特徴をよく備えており、のんびりまったりとしたハートフルなストーリーとなっています。いや、このマンガに関しては、一本のはっきりとしたストーリーラインはなく、ちょっとした心温まるエピソードを描いた短編となっており、これはまさに「ゆる萌え」という言葉をそのまま体現したかのような内容です。

 肝心の作品内容ですが、これはまあ、なんというか座敷童子の女の子同居もの(謎)ですね。かわいい座敷童子の女の子がドジを踏みながら御主人様(同居人)を幸せにすべく奮闘するという話で、まあストーリー自体はそんなに大したものではありません(おい)。
 しかし、この座敷童子の女の子(鈴音)の姿は本当に癒されます。座敷童子と言っても恐ろしい雰囲気は微塵もなく、黒髪ショートと黒目と着物姿でわたわたしながら御主人様のために奮闘する姿がとてもかわいらしいのです。これこそがまさにエニックス的な萌えのあるべき姿(?)でしょう。

 最近のエニックス(スクエニ)では、主要雑誌であるガンガンの路線変更以来、かつてとは一部の誌面の雰囲気が大きく変わった感があり、ガンガン連載の「ながされて藍蘭島」「これが私の御主人様」「円盤皇女ワるきゅーレ」のようなラブコメに代表される、男性向けのエロ・お色気を前面に出したものも登場するようになってしまいました。そして、青年誌のヤングガンガンが創刊され、そこでさらに(青年誌的な)エロ全開のマンガが多数加わり、しかもガンガンの増刊パワードからは、その青年誌のエロをもはるかに超えるようなエロに満ちた「みかにハラスメント」という大問題作も出てくるなど、かつてとは大きく様相を変えてしまいました。
 これらのエロ・お色気が前面に出たタイプのマンガは、普通の(エニックス以外の)少年誌や青年誌では一般的とも言えますが、本来のエニックスは、女性でも抵抗なく読める、中性的な雰囲気で萌えさせるタイプのマンガが主流だったのです。それが、今ではガンガンWING(とGファンタジーの一部)に残っているのみとなってしまいましたが、そんな中でこの水谷ゆたかさんの読み切り作品は、かつてのエニックスを彷彿とさせる中性的なゆる萌えマンガ(ゆるゆるな雰囲気とかわいい絵柄と女の子で和ませるマンガ)であり、このようなイメージの作品が新作の読み切りで読めるのは(しかもガンガンWING以外で読めるのは)中々に貴重であると言えます。

 そもそも、わたしがエニックスのマンガを好んで読む理由はふたつあります。ひとつには、堤抄子や筒井哲也、荒川弘の作品のような、真に深い内容のある完成度の高い作品を読みたいから。そしてもうひとつが、こういうマンガを読みたいからに他なりません(笑)。こういうゆるやかな雰囲気とかわいい絵柄で和ませる居心地のいい作品、かつては天野こずえさんや浅野りんさんや夜麻みゆきさん、桜野みねねさん、藤野もやむさん、あたりが描いていたようなマンガが読みたいからこそ、当時からは誌面が様変わりしたガンガン系作品を未だに読んでいるわけです。今では幸いにもガンガンWINGあたりがなんとかこのようなイメージの作品を継承し、また多くの新人作家が生まれていますが、掲載誌は違えど水谷ゆたかさんもそれに該当する頼もしい作家であることは間違いありません。


 ちなみに、この「座敷童子ちゃんDreamin'♥」が掲載された次のページでは、あの大問題作「みかにハラスメント」が掲載されており、のちにこの異常作が予想外の大ヒットを飛ばしてしまうわけですが、その一方で、そのひとつ前に載っていたこの良質なマンガがまったく注目されなかったのは、あまりにも理不尽な気がします。


・妙な個性を持つキャラクター。
 しかし、水谷ゆたかさんの作品は、単にゆるく和ませるだけのものではありません。彼女の作品は、かわいい絵でありながら登場人物がかなりの変わった個性を持ち、そのちょっと変人とも言える妙な個性がまた面白いのです。
 この「座敷童子ちゃん〜」も例外ではなく、座敷童子のいる部屋に住むことになった青年が、なぜかすごいホラーマニアで、部屋に座敷童子がいるのにまったく無視してホラービデオを何時間も平然と見続けるなど、明らかな変人であり(笑)、そんな彼と座敷童子ちゃんとの掛け合いが妙にずれていて面白いのです。このような、ちょっと(かなり)感性がずれた感のある妙なキャラクターこそが、水谷ゆたかのもうひとつの持ち味と言えます。

 ちなみに、このホラービデオ好きの青年(道生)は、おそらくはのちの水谷作品である「うたた日和」に登場する、極度の甘いもの好き兄ちゃん・知水の元型になったと思われるところがあり、デビュー作からしてのちの作品を彷彿とさせる要素がすでに存在していたことが窺えます。


・水谷作品では最も絵に落ち着いた雰囲気のあるデビュー作。
 そして、この「座敷童子ちゃん〜」の特徴として、のちの水谷作品と比べて、絵にしっとりとした落ち着きがあることがいい雰囲気を出しています。
 のちの水谷作品では、ゆるくやわらかい絵柄はまさにそのままですが、より淡い感じのライト感覚な絵柄となっています。これはこれで別にいいのですが、このデビュー作では、より黒いベタの部分が映えるコントラストのある絵になっており、その黒が活きて落ち着いた感のある雰囲気を作り出しています。なんていうか、「やはり黒髪はいいですな」(謎)と感じさせてくれる一品です。

 ただ、このようなゆるく落ち着いた感のある作品は、今ではガンガンの方向性とはかなり異なるため、これがガンガンパワードに掲載された時には、「とりあえずこのような読み切りが載ってよかったが、これ以上作者の連載は期待できないだろうな」などと思っていました。ところが、これがどういうわけかGファンタジーの方で連載が決まってしまい、そちらでの連載作品(「うたた日和」)もかなりの好評を博しました。ガンガンパワードは、ガンガンの増刊扱いで、主にガンガン本誌とつながりがある雑誌であり、そこでの新人がガンガンWINGやGファンタジーの方で採用されることはあまりないのです。が、水谷さんは運良くGファンタジーで拾われたわけで、これは実に稀有な幸いだったと言えるでしょう。


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