<”葵”ヒカルが地球にいたころ・・・・・・>

2012・7・6・

 「”葵”ヒカルが地球にいたころ・・・・・・」は、ガンガンONLINEで2011年10月から始まった連載で、同名のライトノベルのコミック化作品となっています。原作は、ファミ通文庫からシリーズものとして刊行されており、現在4巻まで出ているようです。
 タイトルのうち「ヒカルが地球にいたころ・・・・・・」が、シリーズに共通するタイトル名で、それに各編ごとの漢字によるタイトルが頭に付く形となっています。この”葵”は、シリーズ第1巻にあたる作品で、以下第2巻が”夕顔”、第3巻が”若紫”、第4巻が”朧月夜”となっています(さらに、第5巻”末摘花”が8月に発売予定)。

 この各巻ごとのタイトルからも分かるとおり、原作であるライトノベルは、あの源氏物語を大きな題材としており、ここからの登場人物をモデルとした人物が多数登場します。タイトルの「ヒカル」も、もちろん「源氏物語」の主人公・光源氏をモデルとしたキャラクターで、元の人物を髣髴とさせる女好きの優男となっています。

 作者は、原作のライトノベルの作者が野村美月、原作の挿絵が竹岡美穂、作画がCHuN、さらに構成に山崎風愛の名前が挙がっています。野村美月と竹岡美穂は、あの”文学少女”シリーズの作者としてすでに著名で、その"文学少女”シリーズも現在スクエニでコミック化されており、こちらはガンガンJOKERで連載されています(こちらの作画は高坂りとが担当)。今回のコミカライズも、この”文学少女”からのつながりでしょうか。さすがにこの両名の手がける作品だけあって、作品から受ける雰囲気・文学を題材にしたストーリーなど、”文学少女”と共通する要素も多く、かつ非常によく出来た一作になっているようです。また、人間の負の部分をひどく強調し非常に暗い物語となることも多かった”文学少女”シリーズと比べて、こちらはやや明るくコメディ色も強い内容で、とっつきやすくなっている点も見逃せません。

 このコミック版は、CHuNによる作画が非常によく出来ていて、竹岡美穂による原作の挿絵の雰囲気を、極めて忠実に再現しています。さらには、山崎風愛によるストーリー構成も卒なくよくこなれていて、原作の楽しいコメディ、とりわけキャラクターの掛け合いがよく描けていると思います。


・作画担当・CHuNのスクエニでの前2作品について。
 さて、原作の野村美月&竹岡美穂は、”文学少女”で知っている人も多いと思いますが、作画を担当している「CHuN」に関しては、さほど知らない人の方が多いかと思います。このCHuNさんは、台湾の作家であり、日本でマンガ家デビューを目指してスクエニに採用されたようです。過去のスクエニ雑誌で2作ほど既に掲載しており、しかしいずれも短期の掲載で終わっていました。

 最初に登場したのは、今では休刊したガンガンWINGで、2008年7月号に「魔王様の勇者討伐記」という読み切りが掲載されました。タイトルから類推されるとおり、魔王や勇者がファンタジーものなのですが、勇者が女の子で、魔王の男の子が彼女にラッキースケベを繰り返して変態扱いされるというコメディになっていて(笑)、いわゆるお色気・エロコメ的な作風となっていました。これは中々の評判だったようで、WINGの休刊号となる2009年4月号に続編が掲載され、さらにガンガンONLINEに掲載場所を移して今一度掲載され、この3話でまとめてコミックスが発売されています。

 その後、今度は新創刊したガンガンJOKERで、2010年4月号から「皇帝の花嫁」という作品の連載が始まります。この作品、帝国に滅ぼされた国の王女が、帝国の皇帝を倒すため彼が打ち出す数々の難問に挑むというもので、推理・対決ゲームものの要素を持つ、かなりの意欲作となっていました。出てくるゲームの内容も面白く、とても興味深く読んでいたのですが、どういうわけかたったの4カ月で打ち切りとなってしまうのです。これはあまりにも残念な結末でした。

 これが極端な短期間で終わってしまい、その後しばらくの間再登場もなかったため、もうスクエニでの登場はないのかなとまで思っていたのですが、しかし1年以上経った2011年10月になって、ようやくこの「”葵”ヒカルが地球にいたころ・・・・・・」の作画担当として復帰。コミカライズの仕事は意外ではあったものの、しかし有望な作家だと思っていただけに、この復帰は非常にうれしいものがありました。

 なお、このCHuNさんは、同人活動もして日本のイベントにも出ているらしく、そのサークル名(「Friendly Sky」)が、作者名に併記されています。ウェブサイトもあるようなので、興味のある人は一度見てみてはどうでしょうか。


・主人公たち男同士のコメディが意外に楽しい!
 さて、この作品、コミックスや原作小説の表紙が、ヒロインとなっている女の子の姿が描かれていることもあり、まずヒロインの姿が目に付くと思いますが、実際に読んでみると、主人公である高校生男子と、それに取り憑く”幽霊”の男の子との掛け合いが、まず最初に描かれ、これが非常に楽しいコメディとなっています。
 この物語の主人公は、赤城是光(あかぎこれみつ)という名の高校生。彼は、顔立ちが凶悪なことと喧嘩っぱやいことが災いして、周囲の生徒に不良として恐れられていて、それを非常に気にしています。そんな彼は、高校に入学間もないある日、帝門ヒカルという顔立ちのいい少年に声をかけられます。ヒカルは、何か是光に頼みごとがあったようですが、しかしまもなく不慮の事故で死んでしまい、その頼みごとの中身は永遠に謎となってしまいます。

 しかし、その後、自宅で風呂に入っている是光の下に、ヒカルが幽霊となって現れ、自分が生前やり残したことを代わりにやって、心残りを晴らして成仏させてほしいと言ってきます。是光は、なんとも迷惑だと思って追い返そうとしますが、しかしヒカルの幽霊はくっついたまま離れることなく、しぶしぶ彼の願いをかなえるために奔走することになります。ヒカルの願いは、かつての婚約者だった早乙女葵にプレゼントを渡すこと。ヒカルは、生前は女の子に気軽に甘い言葉をかけるプレイボーイとして知られ、女の子にばかり慕われ”皇子様”とまで呼ばれていたのです。しかし、逆に是光は不良として恐れられ女の子にも避けられる状態。ヒカルの願いをかなえる試みは、ひどく難航することになります。

 この是光も、源氏物語の登場人物をモデルにしたキャラクターなのですが(源氏物語では光源氏の家来である藤原惟光)、その容姿や性格はアレンジされ原作とは大きく異なっているようです。しかし、彼とヒカルとの関係性、とりわけヒカルの女癖の悪さに是光が何度も苦労させられるあたりが、まさに源氏物語の光源氏と惟光の関係そのままで、それが思わず笑ってしまうコメディとなっているのです。

 とりわけ面白かったのが、女の子に気に入られるようなにっこり笑顔やハードボイルドな真剣な顔を、是光が風呂場で練習するシーン。ヒカルならさわやか笑顔で簡単に出来るところを、普段から強面でろくに笑ったこともない是光では、いくら笑顔を作ろうとしても凶悪な顔にしかならない。そのあたりのこっけいな努力が大爆笑できるシーンとなっています。その後、葵の元に行ってその凶悪な顔を見せつけ、案の定恐れられて警備員まで呼ばれるくだりも爆笑です。

 そんな風に、まさにデコボココンビそのままのコメディ展開が楽しい是光とヒカルですが、その後次第に友情が育まれていくシーンでは、ぐっと感動するものもあります。不良と勘違いされ周囲に恐れられ、友達がまったくいない是光と、女の子ばかりに慕われ男の友達がひとりもいなかったヒカルは、どちらも今まで一人ぼっちで寂しい思いをしていて、そこで互いの境遇の共通点を知ることで、ぐっと親しくなっていくのです。これはとてもいいシーンだと思いました。


・個性的なヒロインとの関係、そしてヒカルの秘めた謎にも注目。
 もちろん、是光とヒカルに接するヒロイン達も、非常に個性的で魅力的なものとなっています。彼女達のキャラクター性は、作者の前作である”文学少女”のキャラクターを彷彿とさせるところもあり、さすがに同作者の作品だなと思ってしまいました。”文学少女”でも、主人公の井上心葉くんが、周囲を取り巻くヒロインに何度も苦労させられていましたが、この物語の是光もやはりいろいろと苦労させられることになります。

 最初に接することになるのは、この物語のタイトルともなっている葵(早乙女葵)。美術部員の彼女は、生前のヒカルの婚約者だったようですが、ひどい男嫌いのようで、婚約者のヒカルも大いに嫌っていたようです。そのため、是光がヒカルのプレゼントを持っていっても、激しく拒絶して取り付く島もありません。黒髪ロングで非常に涼やかな外見をして、美術部でも熱心に絵に取り組みながら、その極端な言動がとても印象的なキャラクターとなっています。

 是光のクラスメイトで隣の席に座る式部帆夏(しきぶほのか)も面白い存在です。是光を恐れない強気でしっかりした言動の女の子で、その行動から男女共に慕われているようですが、実は密かに「ぱ〜ぷる姫」などというハンドルネームでしょうもないケータイ小説を書いていたことが判明。普段は強面の言動でならしている女子が、実はギャル語に満ちたケータイ恋愛小説を描いていたという、そのあまりのギャップがとても面白いキャラクターとなっています。

 そんな風に、個性的なヒロインたちと是光&ヒカルの関係が楽しい本作ですが、幽霊であるヒカルが秘めている謎と、それが解かれていくであろうストーリーも見逃せません。生前のヒカルは、是光に合ったとき、なにかしら頼みごとをしました。しかし、幽霊になった今、その頼みごとの内容が思い出せないというのです。普段は女の子にばかり囲まれていたヒカルが、あえて男子生徒である是光に頼もうとした願いはなんだったのか。そのあたりがこの物語の鍵となっているようで、注目しつつ読みたいところです。


・今回のCHuNの作画は素晴らしい。
 さらには、CHuNによる作画が、極めて忠実に原作の絵柄・雰囲気を再現しているのもポイントで、原作イラストの竹岡美穂の絵に極めて近いものを感じます。キャラクターの造詣やカラーイラストの淡い彩色がほぼそのままで、本当にこれは驚きました。

 ”文学少女”のコミカライズの、高坂りとの作画も素晴らしいものがあり、こちらも原作の雰囲気を極めてよく再現しているということで、すでに高い評価を獲得しています。しかし、こちらの方は、高坂さん独自の絵柄や演出がかなり残っていました(それはそれで魅力ではあるのですが)。それに対して、この”葵”のCHuNの作画は、絵柄も含めてまさに竹岡美穂の描くイラストそのままの世界ではないかと思います。この作画の人選は大きな成功だったと見てよいでしょう。

 過去のCHuN作品の絵と比較しても、こちらの方により魅力を感じます。竹岡美穂の中性的な絵柄の再現を試みたためか、過去の作品(特に1作目の「魔王様の勇者討伐記」)のような、お色気的な要素がほぼ払拭され、とても涼やかで爽やかな雰囲気になっていると思います。また、是光やヒカルなど男の子がよく描けているのもポイント。優男のヒカルあたり、女の子顔負けのかわいさでよく描いています(笑)。


・”文学少女”に続いて良質のコミカライズ。とっつきやすくおすすめの一作。
 以上のように、この「”葵”ヒカルが地球にいたころ・・・・・・」、原作の楽しいコメディや個性的なキャラクターをよく再現し、作画もまさに原作のイメージどおりとなっていて、非常によく出来た良質のコミカライズになっていると思います。”文学少女”のコミカライズも大変な良作だったと思いますが、こちらの方はそれをもさらに上回る優れたコミック化だと思います。連載作品が多いガンガンONLINEゆえに、今ひとつ注目度が低くなっているのが惜しいと思えるほどの一作になっています。

 個人的には、作画担当のCHuNさんが、ここまで完全な作画の仕事をやってくれたことが、意外でもありうれしくもありました。以前にスクエニで描いた2作のコミックは、どちらもコミックス1巻というかなり短いもので終わっていて、最初の一作はお色気全開のコメディで私的な好みには合わず、次の一作は逆に非常に興味深く読んでいたものの、しかしあっさりと打ち切られて完全に失望してしまっていました。それゆえに、今回こうしてライトノベルのコミカライズという仕事で出てきたことは意外で、正直どうなのかなと不安にも思っていたのですが、それは杞憂に終わりました。原作の竹岡美穂さんの中性的な絵柄を完璧に再現し、女の子だけでなく男の子もよく描けていて、お色気的な要素がほとんど見られなかったのが、なによりも好印象でした。

 さらには、この”葵”の方が、”文学少女”シリーズよりもとっつきやすいのもいい点だと思います。登場人物の暗い情念を執拗に描き、毎回非常に暗い物語となりがちな”文学少女”に比べて、こちらは時にシビアな雰囲気こそあれ、基本的には明るく笑って読めるコメディになっている。野村美月・竹岡美穂原作作品を未読ならば、まずこちらのコミカライズから読んでみるのもありだと思います。さらには、あの「源氏物語」が題材ということで、そちらを知っている人ならより楽しめますし、逆に知らなくてもまったく問題なく読めます。あるいは、これを契機に源氏物語に興味を持ってみるのも悪くないのではないでしょうか。


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